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クラン会議~幼女奪還作戦inビギニスート~

※今回少し長めの文章がありますが、読み飛ばしてもらっても問題ありません

 いつに間にか、パスファ様はクランから消えてしまっていた。

 目を離した瞬間いなくなっていたので、時間を止めて出ていったのだろう。


 ……ところで、女神様に勝てるレベルって、どのぐらいなんですかねぇ?


「パスファは速さがカンストしてるからね……。しかも時間停止もしてくるし……。最低でもこっちも速さをカンストさせないと勝負にならないよ?」


 ちなみに、カンストって……?


「2万だね」


 ウォワー……。

 俺の400倍とか……。


 女神様に逆らってはいけない……、セクハラは……死ぬ覚悟で……。




 俺達はクランの会議室に集合した

 クランの各代表者が顔を出しており、これからパスファ様からのクエストについて話し合う予定だ。


 後、サンゾーさんはヒビキトラップから立ち直れておらず、不在である。


「クラン内部には『紳士隊』に加入しているPLはいないみたいだ。メレーナにも確認してもらってるけど……」


 チップが能力を起動し、ウィンドウと向き合っている。

 

 元『紳士隊』メンバーのメレーナから、スパイがいないか確認した方がいい、という話があったからだ。


 ちなみに、メレーナは『プレゼント』の効果で犯罪者になっているが、『偽変』というレアな魔法をゼスプからもらい、身分を偽って普通に生活している。


 ……俺も一時期お世話になった魔法なのは秘密だ。


「……しかし、本当にスパイなんているのか? メレーナの事を信用できない訳じゃ無いが……」


「大丈夫、あの娘は悪い娘じゃないわ。ちょっと人付き合いが苦手なだけ……。信用してあげて」


 ゼスプは難しそうな顔をしながらドラゴムさんにもたれ掛かって、モフモフを堪能している。

 コイツ、最近己の欲望を隠さなくなってきたな……いい兆候だ。頃合いを見てそのセクハラを糾弾してやる。


「よっとぅ! やっと着いたぁ! メレーナ、ただいま戻ったよぉ!」


 俺がゼスプを羨ましく見ていると、メレーナがテレポートで部屋に入ってきた。


 だからお前らは急に現れる、な……!?


 部屋の黒板の前に飛んでいった妖精の姿に、視線が集まる。

 目立つ場所ということもあるが、問題はその姿だ。メレーナは全身血塗れで、身体から赤黒い液体が滴っている。


 怪我をしたという感じではない。

 明らかに何人か殺ってきました、という雰囲気が漂ってくる。


「このメレーナ、『ペットショップ』の為にスパイを始末してきましたぁ。誉めてくれていいよぉ?」


 思った通りだった。


「本当にスパイなんていたのかい!?」


 先輩が驚いた顔でメレーナを見つめている。チップの能力では、それらしき人物はいなかったはずだが……。


「勿論さぁ、子猫さま。これでも、あっちのクランに所属していたときには顔がきいてたからねぇ? 見覚えのあるやつに声かけたら、すぐだったよ……ちょろい仕事さぁ」


「アタシの『プレゼント』ではそんな奴は確認できなかったぞ? 死んだPLもいなかったはず……」


 チップは不満そうな顔をしている。

 対してメレーナは楽しそうに笑った。


「あはは! チップ、チップ、チップちゃーん! アンタの能力も敵に漏れてんの。当然アッチのロリコン共も、対策してくるでしょうが。次はちゃんと自分の目も使う事だねぇ」


「う……そうだな。横着だった、かな……?」


 そうか、チップの能力はバレてしまっていたか……。

 ん……? ちょっと待てよ……。


 メレーナ、ちょっといいか?


「あん? どしたのツッキー? あ、盗んだ心臓欲しいの? 高く売れるよぉ?」


 いらんわ!


 ……『紳士隊』の奴等はPLの『プレゼント』を調べてるんだろ?

 どの程度把握されているんだ? お前なら知ってるのでは?


「今から話すところだったんだよ。……正直言うとねぇ、アンタら少しのほほんとし過ぎ。あいつら、このクランの殆どの『プレゼント』を把握してる。まともにやりあうと痛い目見るよ?」


 メレーナの言葉で部屋の中が騒がしくなる。

 まぁ無理もない。

 情報統制はしっかりと行われているものだと、思っていたからこそだろう。

 掲示板で話題になったケルティの能力でさえ、変身能力、としか広まらなかった。武具の効果について知っているのは、クランメンバーのみのはずだった。


 スパイ活動の賜物って奴か? おっかねーな、バレてないのはどんくらいだよ?


「ん? そこまではわからないけど、生産職は殆どバレて無いはずだねぇ。アイツらが目をつけてたのは戦闘職のPLだけだったから。あと、子猫さまの能力も知られていないはずさぁ」


 なるほど、じゃあ攻め入るなら先輩は確定か。で、先輩が行くから俺もついていくことは確定だとして……。


「ツキト、お前も離れたら『ペットショップ』はどうするんだ? 主に暴走するクランメンバーの相手は?」


 えー? 大丈夫っしょ?

 2日位離れても、サアリドの街が消滅する訳じゃないだろうし。むしろ、先輩が街を離れる事によって消滅の原因が一つ減るってもんだよ。


「ツキトくん? それバカにしてるのかな?」


 どっちかというと褒めてますよ?


「じゃあいいや。それじゃあ他の面子も今決めちゃおうか?」


「みー先輩!? やたら素直ではないですか!? って、それよりも! クエストの攻略ならば『魔女への鉄槌』の仕事でしょう! という事で、オレとドラゴムが行きます!」


 あ! ゼスプ、お前そういうまともな理由を持ち出すのはズルいだろ!


 俺が遊びに行けなくなる!


「あー、ゼスプちゃーん? アンタさ、私の言ってた話、聞・い・て・たぁ? 戦闘職メインの『魔女への鉄槌』はほぼ絶滅だよ。アンタもドラゴムも対策が終わってるっての」


「なぁ!? クソ……また居残りか……」


「はい、よし……よし……」


 そう言うと、ゼスプはドラゴムさんの毛皮の中に引きこもる。……いいなぁ。


 どうやら、純粋に遊びに行きたかった様だ。まぁ、クランメンバーに魔法教えたり、自分を鍛えるので忙しいからね。たまには息抜きもしたいだろう。


「ま、私もツッキーが行くべきだと思うねぇ。アンタの能力は知っていても防ぎようが無いから。アンタをヤるなら私ぐらい長丁場でやるくらいじゃないと、攻略できないだろうし?」


 ……お前ってさ、前のクランではどの地位にいたの? なんか、スゲー有能な人材を捕まえた気がするんですけど……。


「今更かい? まぁアイツら私がいないと、アーティファクト狩りもできないからね。いいきみさ。今頃、こき使ってた事を後悔しているだろうねぇ……」


 そういいながらメレーナはニタリと笑う。


 コイツの『プレゼント』、『いたずらティターニア』は、アーティファクトの場所を確認する能力と、盗めると判断した物を手元に移動させる能力を持っている。


 つまり、相手の臓器等もアイテムとして見ることができるのなら、心臓だろうが脳ミソだろうが、関係なく盗める。実際に見ると中々えぐい。


 ……見た目は可愛い妖精なんだけどなぁ。

 

 ん? そういえば、隣の席のケルティが静かだ。

 寝落ちかな?

 目の前に絶好の獲物がいるのに。


 ケルティ? お前は行きたくなかったのか? うまく行けば、リリア様に会えるが……。


「今SS撮ってるから。集中させて」


 真剣な眼をしておる……流石プロだ。

 意図も容易く俺の想像を越えてくる。


 と、ここでロックゴーレムのビルドーからチャットが飛んできた。

 ゼスプも反応したので、両クランのチャットでメッセージを飛ばしたらしい。


 皆がビルドーに目を向けた。


 『プレゼント』のデメリットで言葉が使えないビルドーは、こうやってメッセージを送って会話をする。


 前作PLではあるが、常識人だ。


『ビルドー 各人の能力を把握されているのは我々にとって厳しい状態である。そして、彼らの行いは皆の尊厳を犯すに等しい行為であり、糾弾すべきだ。しかしながら、自分達が優位に立っていると思い込んでいるこの状態こそ、彼らの慢心の種であり、弱点だと私は進言する。そして皆はこれをクエストと考え、発言をしているがそれは間違いだという事を明言しよう。これは戦争である。我らが両クランは、奴らに宣戦布告をされたのだ。これを見逃すのは愚かであり、我らがクランに泥を塗る行いである。もしも、私の話に思うところがあるのならば、先ずは敵の陣地を調べあげる斥候を送り、戦力と現状を把握すべきだ。情報が揃ったのなら、陽動と突入を持って速やかに目標を奪取。この際、ドラゴム殿のドラゴンブレス、みー殿やゼスプ殿の大魔法は住民が巻き込まれるので使うことを控えるよう願いたい。以上の事より、隠密行動を主体にし、リリア殿を救出する方法が良いだろう。リリア殿の安全を確保できた後の敵に対する対応は、私の決めるところに非ず。だからこそ……』


「「長いわ!!!」」


 先輩とゼスプが叫んだ。


 ……話が長いのが欠点なんだよなぁ。

 というか今まで黙っていたのこれ打ち込んでたのか……。


「ビルドー! 頼むから簡単にまとめくれ! 見ろ! ケルティが一言もしゃべっていないぞ!?」


 いや、ケルティはメレーナのSSを撮っているだけなのだが……言わないでおこう。


 まぁまぁ、ゼスプ。ビルドーも真面目だから、言いたいことが沢山あったんだろ?

 口下手なのさ、察してやれよ。


 ……ん? またチャット?


『ビルドー 向かわせる人員に役割を振り、連携をとって有利に立ち回ろう! 潜入するのが良いと思うから、それにあったPLを選ぶといいよ!』


 ……おい。


 ビルドーを見ると、親指を立てていた。


 コイツ……茶目っ気を出してきたな!?


「……取り敢えず全部読んだけど……、他の人は意見ある? なんか頭がこんがらがってきた……なー……」


 先輩が頭を抱えている。


 仕方ない、ここは俺が発言するか。


 俺は手をあげて立ち上がる。


 先輩、順を追っていきましょう。ビルドーの意見に基づき、発言していきますので、各長は一つづつ処理してください。


 先ずは斥候任務をすることのできるPLを選別します。これは潜入となるので、一人が良いでしょう。また、チップ以外のPLを勧めます。対策のされた斥候なんて使い物になりません。


「能力がバレてるなら仕方ないか……。でも、斥候できるPLならアタシの管轄だしな。居るぞ、優秀なやつ」


 チップには心当たりがあるそうで、ウィンドウを操作する。

 おそらくチャットで呼び掛けているのだろう。


 突入は実力のある者……俺と先輩で良いでしょう。そして、それをサポートする人員を2名、俺達の相方としてつけます。バディ行動というやつです。


「……わかった。戦闘のサポートができて、相手を欺ける『プレゼント』のPLを用意する」


 ゼスプもウィンドウを操作し始めた。


 ……真面目にやるのはいいが、ドラゴムさんの毛皮の中でやんな。ドラゴムさんの迷惑だろうが。


「……わかったよ。ちぇ……」


 ゼスプはしぶしぶ毛皮から上半身を出した。


 まったく……。


 最後に陽動ですが……。これは『ペットショップ』の面白枠で騒ぎを起こしましょう。特に命令せずとも、好きにさせたら必ず問題を起こすはずです。……先輩?


「……へ? ……難しい事わかんないから、それでいいよー。人選もよろしく」


 了解しました。


 と、俺も人員を決め、会議室にくるようにチャットを送った。


 その後、メレーナから情報を提供してもらい、大体話がまとまってきたあたりで会議室の扉が開く。


「失礼します」


 開かれた扉を見ると、メイドが立っていた。

 ヒビキだ。手には大鎌を持っている。


 そういえば、コイツもチップの管轄に入っていたな。

 俺に大鎌を届ける途中でメッセージがきたのだろう。早い到着だ。


「ヒビキです。チップさんと、ゼスプさんに呼ばれたので参りました。ご用件はなんでしょうか?」


 ……まさかの被りかよ。


「よう! ヒビキ! 実はお前の能力を使って偵察を頼みたい、アタシの代わりに行ってくれないか?」


 チップがそう言うと、こくりとヒビキが頷いた。


「わかりました。出ましょう」


「待ってくれ! オレからも頼みたいこと、が……!」


 ゼスプが先を越されたせいか、焦ってヒビキに声をかけようとするが……。


「「なんでしょうか?」」


 あ、増えた。

 

 ヒビキは工房の時と同じように、いきなり自分と同じ容姿のメイドを出現させた。

 それを初めて見たらしく、ゼスプは驚き、黙ってしまった。

 他のPLも驚く者や、悲鳴をあげる者……様々だ。

 もちろんケルティは黙っている、SSを撮っているのだろうな。


 ……あー、ヒビキ。お前、自己紹介しろ。今のを説明しないと、次の話に移れない。皆、戸惑っている。


「む、しょうがないな。まぁ、そのうち言おうと思っていたし、いいか。……それでは」


「自己紹介をいたします」


 もう一体のメイドが口を開く。


「名前はヒビキ。職業は裁縫士です」


 3体目が現れた。


「種族はドール。今は球体の間接が見えないような服を来ているので、人と大差ない見た目かと」


「性別は無性となっています。中身は男です」


 4体、5体。まだ増えていく。


「そして、ボクの『プレゼント』は、体のパーツの一部分を人形に組み込むと」


「NPCとして自分の分身を作る事ができます」


「数の制限は特に有りません。強いて言うのなら、ボクの身体のパーツの数までが制限となります」


「デメリットは取得経験値が通常の20%しか、取得できなくなることです」


「よろしくお願いいたします」


 気がつけば、10体の同じ顔したメイドがズラリと並んでいた。


「……驚いた。 ヒビキって言ったねぇ、『プレゼント』の名前は? アンタの能力は聞き覚えが無い」


 メレーナがヒビキに問いかける。

 それに対して、穏やかな顔でヒビキは答えた。


「名前は『パラサイト・アリス』と申します。……それと」


 ちらりと、目線をこちらに送った。


 ん? どした?


「日頃より、兄、ツキトがお世話になっております」


 ………………おーい。


 部屋に居た全員が俺を見た。

 様々な表情が向けられるが、それに対して俺はなんと言えばいいのか、わからない。


 ああ……、違うのだ弟よ……。いつも通りでいいとは言ったが、個人情報はしっかりと守ってくれ……。


 お兄ちゃんを大事にしてください……。

・SS

 スクリーンショット。目の前の景色を画像として保存できる。PLを撮るときには一声かけるのがマナー。


・斥候

 簡単に言うと敵の陣地を偵察するための兵士。『魔女への鉄槌』では各種ダンジョンの魔物の生体を調べたり、マップの作成等の仕事をしている。既に隣国に数名送り出し、情報収集をしているもよう。……この部隊のリーダーが『イヌワシ』って、それ本気で言ってる?

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