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自由のパスファ

「やぁこんにちは! 『浮気者』に『ロータス・キャット』! ああ『イヌワシ』もいるじゃないか! 今日も仲良しかな? 皆のパスファちゃんで~す!」


 血に染まったパスファ様が俺達に笑顔を向けてピースする。


 手遅れだった。


 俺と先輩、チップがクランロビーにテレポートした時には、そこは血の海と化していた。


 クソ……。

 あれほど女神にセクハラするのはやめろと言ったのに……。


 俺は残ったPLの残骸を回収しながら、涙を流し、いらない物を近くの売店に売り払った。


「模範的な行動だね! 流石はわたしの信者!」


 パスファ様も嬉しそうだ。

 合法ですよ、合法。



 と、まぁ、こんな感じにロビーを片付けた後、俺と先輩はパスファ様を案内して応接室へとやって来た。


 『自由のパスファ』。

 このゲームにおいて最もPLの信者が多いと言われている、旅と商売の守護女神だ。


 容姿については……順を追って説明しよう。


 先ずは大きな妖精をイメージして欲しい、大体160センチ位の。

 それが旅人のような服を来ていて、はち切れんばかりの、大きなお胸を備えている。

 腰には装飾が付いたレイピアを下げており、一見PLの様に見える装備だ。

 髪は薄緑色のセミロングで、パッチリとした目が活発な印象を与えさせる。


 ……まぁ、やっぱり可愛いよね。

 一緒にお酒飲みたい感じの娘だ、朝まで楽しめそう。


「おやぁ? 『浮気者』、そんな顔してると、またカルカルに刺されちゃうぞ~?」


 パスファ様がいたずらっぽい笑顔で俺を茶化した。

 カルカルとはカルリラ様の事だろうか? 意外に仲がいいんだな。


 俺はカルリラ様の友好関係を確認しつつ、口を開く。


 ははは、実はもう耳元に刃物を磨ぐ音が聞こえていましてね。一回やられたら、もう何回やられても同じです。何度でも刺されましょう。


「うん! それもまたよし! そういうところが気に入ったんだよ、パスファちゃんの信者はその位ブッ飛んでないとね!」


 パスファ様はケラケラと笑った。


 一応言っとくが、俺とパスファ様は初対面ではない。

 俺がパスファ様の信者になる際に一度顔を合わせている。


 そう、激レアイベントであるはずの『女神との邂逅』だ。


 その際に、俺はパスファ様から『浮気者の指環』の本当のデメリットを教えてもらった。

 それが……。


「にしても、まさかキキョウも落とせたとは思わなかったよ。やるね『浮気者』。……どう? この調子で残りの3柱も口説きに行ったら?」


 これである。


 普通のPLは信仰を変えるのなら女神像の前で祈るだけでいい。

 しかし、俺は違う。

 俺が新しく信仰をする場合、必ず『女神との邂逅』が発生し女神の元へと跳ばされる。

 そこで女神に気に入られなければ、信仰することすら許されない。

 それが『浮気者の指環』の隠されたデメリットだった。


 ちなみに、キキョウ様は胃袋を懐柔した。チップみたいだった。


「パスファ様、申し訳ありません。僕達に用事があるのですよね? できれば要件を伺っても?」


 先輩がそう言うと、パスファ様はテーブルの上の先輩に目を落とす。


「『ロータス・キャット』、君は存外に真面目だな。しかし、話が逸れたことには違いないか。う~ん……」


 そう言うとパスファ様は何かを考えるように、顎に手を当てた。


 ……先輩、もしかしてパスファ様と面識あったんです? 『ロータス・キャット』って何ですか?


「あー……、それね……。実は黙ってたけど、僕も『プレゼント』を貰ってたんだ。『ロータス・キャット』は能力の名前だよ。秘密にしててごめんね?」


 先輩は申し訳無さそうに俺を見上げたが……。


 いや、皆知ってますからね?


 それが我々クランメンバーの総意であった。

 中にはどんな能力なのか検証するものまで現れたらしく、日々議論をしているらしい。といっても、先輩が能力を公の場で使ったのは俺と戦った時位なのでほぼ手掛かりがないそうだ。

 

 一応は『近接攻撃、魔法を回避する、または攻撃が当たったと認識を歪める』能力というところまでは議論が落ち着いたらしい。そうじゃないと、あの現象は説明できない。

 そんな訳で……。

 

 貰って無いなんて絶対あり得ない、って皆言ってますよ?


「またまたぁ~。で、僕は『プレゼント』を貰った時にパスファ様と出会ったのさ。何でも僕が初めての……、あれ? なんだっけ?」


 先輩は思い出そうと、短い足を組んで頭を捻る。珍しい、先輩がこのゲームで悩む事があるとは。

 


「ああ、『開封者』だよ。『ロータス・キャット』。君が初めて、この世界においてプレゼントを開封したんだ。それのお祝いにと、このパスファが君の元に訪れたのさ」


 そんな先輩を見てパスファ様が口を開く。


 『開封者』?


「そう、わたしが君達冒険者に用意した、プレゼントの真の性能を引き出している者の事だよ。まだ数える位しかいないけれどね~」


 パスファ様はニンマリと笑っていた。


 まさか、『プレゼント』は強化することができるのですか?


「ん? ちょっと違うかな? 殆どの冒険者は貰った物の梱包を剥がさないで使ってるのさ。ちゃーんと梱包を剥がして使ってる冒険者は数える位しか居ない」


 ……?

 つまり、俺達は弱体化した能力で満足しているって事ですかね。

 本来の性能を引き出して居ないっていう……。


「そういう事! ああ、開封してもデメリットは消えないからあしからず~」


 成る程……。

 つまり先輩は最初から俺達とは違う次元に居たわけだ。

 

 これは俺の想像だが、先輩は最初の願いで大量の魔法を習得し、自力の魔法で『プレゼント』を貰ったのだ。

 魔法を好きに習得できるゼスプによると、『希望』という魔法は特別で、その能力でも魔法書を創ることが出来なかったらしい。


 調べたところ、『希望』の能力は願いを叶える事ができる超レア呪文で、スクロールからしか習得できないそうだ。

 先輩はこれを狙って大量のスクロールを願ったに違いない。


 あれ?

 これって、願う、スクロールもらう、希望取得、願う……で無限ループできるじゃん。

 つまり先輩はその気になれば、いくらでも願いを叶える事ができるのでは? ……神か何かかな?


 そして、能力名が『ロータス・キャット』か。

 ……先輩の能力がなんとなくわかったぞ。

 だからといって、対策できるかと言われたら無理なんですけどね、ふふふ……。


 どう考えても、先輩やベーわ……。


「……それを踏まえた上で『ロータス・キャット』に依頼したいことがある。報酬は……情報だ。『プレゼント』の真髄について、このパスファ自ら教えてあげよう」


 真剣な顔でパスファ様はそう言った。

 先程とは全く違う様子に、思わず身構える。


 先輩も同じようで、何処と無く緊張したように口を開く。

 

「ええ、女神様からの依頼を断るような事は致しません。喜んで受けましょう」


 先輩、内容を聞いていないのにいいんですか? 嫌な予感がバリバリするんですが……。


 俺はそう言って先輩の顔を見るが……。

 ……あー、これ楽しんでる顔だわ。原作に無いイベントが嬉しいんですね。


「『浮気者』……君は相変わらず勘がいい。……とりあえず、先払いの報酬だ、これを見ても同じ事が言えるかい? もし、クエストを受けてくれるなら、好きに使ってくれて構わない」


 そう言うと、パスファ様は懐から見覚えのある杖を2本取り出し、先輩の前に置いた。

 

 先端に形容しがたい色彩の珠が付いた、このゲームを始めたPLが、一度は手にしている杖……『願望の杖』だ。


 喜んで受けましょう!


「決断早いなー……。それじゃあ二人ともクエストを受領してくれるんだね?」


 もちろん!

 正直、喉から手が出るほど欲しいですからね! それ!


 『願望の杖』を使えばカルリラ様をご招待できる……。先輩曰く、呼び出した女神様はその場所に留まるそうだし、ゆっくりと交流を……。


「それじゃあよろしく頼む。……君達にも少なからず因縁がある相手だ。手が出せないわたしの代わりを、頼んだよ……」


 パスファ様がそう言うと目の前にウィンドウが表示された。


『サブクエスト:祝福を取り戻せ』


 そして、その細部情報は……。


『クラン『紳士隊』より、『聖母のリリア』を救出せよ』


 ああ、成る程……。


 ビギニスートの消滅から始まって……幼女の聖水を押し付けられ……メレーナを送り込み畑を荒して……。


 ついに決着をつける時間が来たみたいだなぁ……ロリコン共ぉ……!!


 



「君、ロリコンとの縁が強すぎじゃない? 何したの?」


 ……そういう星の元に生まれて来たんですよ、きっと。

 身内にもいますし……。


「さすがにロリに手を出したらカルカルに嫌われるよ? 『浮気者』?」


 何故か俺もロリコン扱いされた。


『……次はリリア様ですか?』


 ち、違うんです、カルリラ様!

 そんな趣味は無いんです!


 クソっ……、絶対に……、絶対に許さんからな! 『紳士隊』めがぁ!!


 まだ見ぬ敵に、俺は怒りを込めて叫ぶのだった。

・刺されちゃうぞ~?

 実は刺されてた。再現VTR、どうぞ。


「ツキト様……私以外の女神も信仰したいとはどういうことですか?」


 カルリラは手を後ろに隠しながら、ゆっくりと椅子から立ち上がる。

 『浮気者』はそんな彼女に対し、臆すること無く両手を拡げた。

 まるで飛び込んできてほしいとでも言いたいかのように。


「カルリラ様、俺の一番は何時だって貴女です……。ですが今のままでは、守りたいものも守れないのです……。どうか、ご理解を……」


「私が……一番……? それでは……私が何をしても許してくれますか?」


「もちろんです……例えその手に持っているもので刺されても、俺は貴女を許しましょう……」


 カルリラはゆっくりとした動作で手に持っていた包丁を構える。両手で握られたそれの切っ先は、自然と『浮気者』の胸にへと狙いを定める。


 しかし、カルリラの手は震え、その内の心情がわかるようだ。

 その目に涙を溜めて、カルリラは問いかける。


「私は……貴方の事を他の信徒よりも、少しだけ特別に思っています……だから教えてください。……パスファの、パスファの何が良いのですか!?」


 カルリラの苦しそうな叫びに、『浮気者』が口を開く。

 その言葉には嘘偽りは無く、とても真っ直ぐな━━━━。


「おっぱいですかね?」


 欲望があった。


「この、浮気者ぉーーーーー!!」


「ご免なさいーーーー!?」


 包丁は深々と胸に突き刺さり、その身体を貫通、『浮気者』はミンチになって飛び散った。


 その後、カルリラに復活させてもらった『浮気者』はなんとか説得に成功、晴れてパスファちゃんの信者になった。


 あと、抱き締められていたときに、柔らかな感触を楽しんでいたのは言うまでもない。


 ……浮気者。


・開封者

 それぞれの『プレゼント』は一定の条件を満たすと真の効果を使う事ができる。そしてその状態になっているものを『開封者』と呼んでいる。

 細かい説明は後々……。

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