メイドのスカートにはロマンがつまっている
『・壊れた武器
何かしらの理由で壊れてしまった武器。最早在りし日の栄光は失われ、廃棄の時を静かに待つ。』
ケルティが壊した俺の大鎌だった物を鑑定したところ、別のアイテムに変わっていた。
「残念だけど、もうゴミだね」
肩の上に乗った先輩が言うには、こうなったら武器としてはもう使えないそうだ。
ゲーム当初から使っていた物なので手放すのは惜しいが、この状態では戦う事すら難しい。
後で畑に埋めて供養してあげよう……。ああ、さっちゃん……。
新しい武器を求め、俺と先輩はクランの鍛冶工房に足を運んだ。
クランの鍛冶士の中でも、随一の実力を持つ、ドワーフのサンゾーさんを訪ねる為だ。
尚、サンゾーさんは先輩と同じように、前作『リリアの祝福』をやり尽くした元廃人である。
つまりはヤバイ奴だ。
工房からは鍛冶のスキルを上げるために集まったPLが、槌を振るう音が聞こえてくる。
中を除き混むと、金床や炉のような、鍛冶に必要な物が置いてあり、顔に熱い空気が触れた。
髭もじゃのメタボなドワーフが部屋のすみに座り込み、水を飲んでいる。
間違いない、サンゾーさんだ。
俺達は彼に近づき、挨拶をしてから、事の経緯を説明した。
「……だから、いい武器を使えと言ったのに。壊れてからここに来ても、どうしようもないじゃろうが」
渋い声でサンゾーさんからお叱りを受ける。
サンゾーさんの『プレゼント』は『星屑叩き』という名前の、鍛冶用の大槌だ。
能力としては、武具の能力を違う武器にへと移し変えたり、武具を鍛え直して性能を上げたりすることができる。
ケルティの能力と違い、即時に能力を付与することはできないが、武器が壊れることもなく、確実、安心だ。
鉱石等を使い、武器を作ることもできるので、サンゾーさんは武器屋も兼任している。
俺も武器の強化をしてやると言われていたのだが、メレーナに荒らされた畑の修繕や、家の建て直し等で忙しく、どうしても後回しにしていたのだ。
「ケルティの奴もじゃ。もっと装備を丁寧に扱えと言ったのに。先駆者の話を聞けんのか、お主らは……」
すいません……。
ちなみに、サンゾーさんとケルティは仲が悪い。
ケルティが無茶な要求をし続けて、サンゾーさんがキレた結果、ガチバトルに発展した事が原因だそうだ。
しかも、その際のゴタゴタで、運良くできた最高傑作を持ってかれたとか……。
「まぁまぁ。ツキトくんも言うことを聞かなかった事は反省してるからさ。手間かも知れないけど、武器を用意してくれないかい?」
先輩は前足を合わせ、お願いポーズをとる。たまに見せる、こねこムーヴだ。
かわいい。
「むぅ……。みー、悪いがな、ワシにも都合ってもんがあるのじゃ。武器の生産予約が埋まっていてのう……。今から作るとなると、数日かかるぞ? それで良いか?」
数日か……。
実はあの大鎌、畑仕事にも使う農具としても使用していた。
できればすぐにでも、使える物が欲しい。
収穫に害獣駆除、侵入者の首刈りと、使用用途は多いのだ。
性能が悪くてもいいので、何かありませんかね?
試作品でもいいんですけど?
そう言うとサンゾーさんの目付きが変わった。目の色を変え、ギロリと俺を睨み付ける。
……あ、これ地雷踏みましたわ。
「お前は……職人に向かって半端な仕事をしろちゅうのか……?」
ドワーフの髭が顔に当たるのでは無いかと思うほどに、サンゾーさんの顔が俺に近づく。
ぎょっとしてしまい、俺は咄嗟に口を開いた。
い……いやいや! 違うんですよ!? 俺もできればすぐに鎌が欲しいので、出来上がるまでの代用品をですね!?
「言い訳をするでないわぁ!」
ごめんなさい!?
ゴツン! と頭に大槌が振り下ろされた。
全力では無いのだろうけど、痛いものは痛い。
「舐めとんのかお主は!? ワシらだってプライドを持って仕事をしておる! 中途半端な物なんて置いておくわけないじゃろうが! 全部NPCの店に売り飛ばしたわ!」
そこはちゃっかりしてるんですね!?
「捨てるのは勿体無いからのぉ! いい値段で売れたわい!」
「半端な職人根性だなぁ……」
先輩がそう呟くと、サンゾーさんはガハハと荒っぽく笑った。
「ゲームじゃからな! ……と、まぁそれはさておき、悪いがワシにはできんなぁ。手の空いている奴が居るからソイツでも構わんか?」
もちろんですとも、……ところで俺殴られる必要ありました?
「ん? 謝罪より言い訳が出てきたからイラッとしたのじゃよ。先ずはごめんなさいじゃろうが」
アンタは俺の上司かなにかですか!?
まぁ、その通りなんですけどね……、すいません。
「うむ、人間素直が一番じゃよ。それで、鍛冶士の紹介じゃったな……。おーい! ヒビキよ! こっちゃ来てくれ!」
……げ、よりにもよってヒビキかよ。
サンゾーさんが声をかけると、部屋の奥から、ツインテールのメイドが歩いてくる。
かわいい、というより美人と言った顔立ちをしている。日本美人の目、と言えばいいのだろうか?
スタイルも良い、背が高くスラッとしている。が、乳が控えめなあたり無駄な拘りを感じざるをえない。
そんなヒビキの姿は10人中7人位が美人と思うものとなっている。俺の評価基準の話である。
「どうしましたか? サンゾーさん……あ」
気づかれたか……。
……よう、ヒビキ。相変わらず何処にでもいるな。
「ええ、ボクはそういうキャラですから」
そう言うヒビキの声は、見た目に反して低めの声だった。いうならば、少年の声のようだ。
「ヒビキよ、ツキトの奴が武器を作って欲しいそうじゃ。頼めるかのぅ? ほっほっほ……」
サンゾーさんを見ると、にっやにっやしながら、鼻の下を伸ばしている。
……この人、こういうのが趣味なのか。
そんなスケベ丸出しの、サンゾーさんの質問に、ヒビキは笑顔を作り答える。
「はい、了解しました。……それじゃあよろしくお願いします」
「ハイ、わかりました。あ、一時間もあれば出来上がると思いますので」
ヒビキは、何処からともなく現れた、もう1人のメイドと言葉を交わす。
その容姿はヒビキとほとんど同じだ。
簡単に説明すると、いつの間にかヒビキが二人に増えている。
「……わかっていても驚くね、この光景」
そうですね、先輩。
新しく現れたヒビキは槌を受けとると、部屋の奥へと戻って行った。
こういう『プレゼント』らしいが、初めて見る人は、大抵度肝抜かれる能力である。
「作り終わったらボクに持って来てもらうので、何処かで時間を潰しておいてください」
そう言うと、ヒビキはにこりと笑顔を作る。
言いたい事はいろいろあるのだが、変に突っ込んでもめんどくさい事になりそうだ。
今日のところはお暇させてもらいましょ。
おう、頼んだ。んじゃ。
俺がヒビキに対し素っ気ない感じで返事をすると、サンゾーさんが口を開いた。
「おい、ツキト。ヒビキに対してなんじゃその態度は? これからお前の武器を作ってくれるのじゃから、もっと感謝せんか!」
あー、いいんですよ。コイツにはこんな感じで。なぁ、ヒビキ?
しかし、ヒビキは両手で顔を覆ってしまった。
「そんな事、ありません……。ボクが頑張ってツキトさんの武器を作ろうとしているのに……くすん……ツキトさんは酷い……くすんくすん」
うぇ……泣き真似をするな! あと、その話し方もやめてくれ! 寒気がするわ!
「ちょっと!? ツキトくんどうしたの? きみ、仲のいい女の子以外にそんな話し方しないでしょ!?」
「そうです! こんなかわいいボクにそんな乱暴な言葉をかけるなんて……! あんまりです! こんなに頑張っているのに……」
っく……。
ヒビキの奴、悪乗りし始めやがった。
というか、先輩も俺の事をよく知っている……。
……ははは、仲はいいですよぅ? というか、下手したらこのゲームのPLで一番知ってる仲ですし。コイツ。
「……は? どういう事さ? いつの間にそんな交流を持っていたって言うんだい? ……僕は聞いてないよ!」
先輩が不機嫌そうな顔をした。
そういや言って無かったな。
その辺はいろいろとあるんで、説明は省きますが、コイツこんな話し方しないんですよ、俺には。
そう言うと、俯いて泣き真似をしていたヒビキが顔を上げた。
至極つまらなそうな顔をしている。
そうだ、それでいい。俺はお前に可愛いムーヴは求めてはいない。通常モードで生きてくれ。
「……はぁ、なに言ってんだか。少しふざけただけじゃないか? それよりもいいの? いつもの感じで?」
あ? いいよ、別に。
「了解……。まぁボクも、どういう話し方をすればいいのか考えていたし、こっちの方が気楽でいいや」
いいねぇ、いいねぇ。
その格好でそういう口調ってのが、違和感バリバリでいい感じだ。
「それはどうも」
ヒビキは長いスカートの橋を持ち上げ、いいとこ生まれのお嬢様のように頭を下げた。
だから、そういうのをやめなさいと。
「……なんか男の子みたいな口調だね」
先輩がそう言うと、サンゾーさんが反応した。
「だがそういうところもいいじゃろう……、強気の美人というのも……」
「リアルでは男ですので、それはそうでしょう? あ、性別は無性なので、ネカマではないですよ?」
……あーあ、言っちゃったよ。
というか、そういうのは隠してくのが面白いんじゃないか……。
そう、ヒビキはネカマであることを隠さない、無差別に心を挫くトラップだ。長いスカートの中の幻想を夢見た男達を、容赦すること無く切り捨ててしまうのがコイツだ。
「 」
それ見たことか、サンゾーさんが気絶してる。これはしばらくこのままだぞ?
お前はもう少し、人の気持ちを考えることを知りなさい。
「ボクが女だって、誰が言ったんだよ? 見た目で判断した方が悪いに決まっているだろう? 冤罪だね」
ヒビキは胸を張ってそう主張した。
それはそうなんだがな……。
「じゃあ、何でメイド服なんて来てるのさ……。もっと別の服を着て、男の子っぽくすればいいじゃんか……」
先輩は怪訝そうな顔をして、ヒビキを見つめる。……確かに怪しいところしか無いからな、コイツ。
「ああ、それには理由がありまして…………っ! 」
ヒビキは話の途中にも関わらず、何かに気づいたのか、大きく目を見開き、何も無い方向に顔を向ける。
どうした?
「……みーさん、大変です! クランのロビーに向かってください!」
ロビー?
確かに見つめていた方向はクランの玄関だったけれども、あそこにはいつも誰かがいるから問題は無いと思うが……。
「どうしたのさ? そんなに慌てて……」
その時、クランに警報が鳴り響いた。
けたたましい警報が、嫌でも異常が起きてしまった事を理解させる。
辺りが騒がしくなり、部屋の外からクランメンバーが走り回る音が聞こえてきた。
おお!? な、なんだ!?
「みー先輩!」
今度は急にチップが現れた。
お前らは揃いも揃っていきなり現れるな……。こっちも驚くから事前にチャットか何かで知らせてくれ。
「あ、ごめん……。って、そんな事はどうでもいいんだ! とにかく……みー先輩! 早く、ロビーに……」
チップは慌てて、俺の肩に乗っていた先輩を掴み、自分の肩にへと移す。
そして、俺の腕も掴んだ。
……ん?
「お前もだ! ツキト!」
あ? 俺?
なんなんだ? 何が起きて、そんな慌ててるんだよ?
落ち着いて振る舞う俺に、チップは見たこともない様な剣幕で吠えた。
「パスファだ! 『自由のパスファ』がロビーに来てるんだ! このままじゃ皆死んじまう!」
どうやら女神様の襲来のようだった。
女神様達に数回殺されている俺の勘が、録なことにならないことを告げ、逃げるよう訴えかける。
が。
『おーい、パスファちゃんが遊びに来たよー? 『浮気者』~? ロビーにいるから早く来ておくれよ~』
……指名が入ってしまった。
逃げられないのは魔王だけじゃなくて、女神からもみたいですよ?
・今日はクラン『魔女への鉄槌』と『ペットショップ』に来ていますが、男の人達の視線が鋭く困っているので、全員殺そうと思います。
~by 自由な女神様~




