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ケルティちゃんのウェポンサポートショップ(失敗)

 ぱきょん、と軽快な音が部屋に響いた。


 あまり聞き慣れない音だったので、何が起きたのか理解に時間がかかってしまったが、なんて事はない。


 俺の愛用していた大鎌を、ケルティが壊した音だ。


「あ、ごっめん、やっちゃった。……てへ?」


 刃の部分が砕け落ち、柄の部分のみになった大鎌を手に持ち、ケルティが愛想笑いをしている。

 こつりと、自分の頭を可愛く小突き、ウィンクする彼女に俺は……。


 俺は……。


 あぅあぁ…………。

 ……う、うあああああああああああ!!!


 何もする事ができず、ただただ、叫ぶしかなかった。





 事の発端は数分前。

 俺は先輩に呼ばれ、ケルティの管理する修行部屋に訪れた。


 そこは道場の様な造りになっており、サンドバッグや様々な武器が用意されている。

 この場所は各人が自由に使っていいことになっており、いつも誰かが修行に勤しんでいる、人気の施設だ。


 部屋の隅にはケルティの拠点である和室があり、そこにお邪魔させてもらった。


 俺が部屋に入ると、畳張りの部屋で先輩とケルティがお茶を飲みながら談笑をしているところだった。声をかけようか迷っていたが、先輩がこちらに気付き、やぁ、と気さくに挨拶をしてくれる。

 それに対し、俺は軽く頭を下げた。


「わざわざ来てもらってごめんね。少し試したい事があってさ」


 いえいえ、構いませんよ。

 むしろ、女性の部屋にずけずけと上がり込んでも良いものか、戸惑っているくらいです。


「あーいいのいいの。私は気にしないし、少なからず、ツキトの事は男として見てないから。そっちも気にしないでよ……」


 そう言うと、ずずっとケルティはお茶をすすった。


 この女子(おなご)は……。男は皆ケダモノだということを知らんのか?

 俺とお前の関係性を疑る奴まで居るというのに。

 ……まぁ、何したらあのタイミングで、刺される程の恨みを持たれるのか? って感じらしいが。


「っと、そんな事言うために呼んだんじゃなかった。実はツキトを呼んだの私なのだよ。ごめんごめん」


 ……ケルティ、大丈夫かい?


 君が女の子以外に興味を持つなんて……、きっと具合が悪いのだろう? わかるよ? 今日は大事をとって早めに休みなさい。

 このゲーム、やっている時は身体は休んでいるけれど、精神は磨耗していくからね?

 君を大事に思っている人の事を考えなきゃいけないよ……? わかったかい?


 俺はレズエルフを気づかい、優しく言葉をかけた。


「ちょっ! ツキトの中で私の評価どうなってるのさ!? 私はね、ツキトの武器が貧弱過ぎるのが気になってたの! それ初期武器でしょ!? もっと強いの使いなさい!」


 げ。


 こいつ鍛冶士組の奴等と同じ様な事言ってやがる。

 これだから、武器の性能に取り付かれた前作PLは……。


 いいか? 俺は強い武器を使いたいんじゃなくて、使いやすい武器で戦いたいんだ。

 いろんな敵を共に倒してきた相棒を易々と手放すわけないだろ? ねー、さっちゃん?


 俺は大鎌を抱きしめ頬ずりをした。

 ホント、お前がいなかったらどうなって居たことか……。


「さっちゃん!? 武器に名前付けてたの、ツキトくん!? そんなだからヤバイ奴呼ばわりされるんだよ!? きみぃ!」


 ははは、先輩、コレについては何も言わせませんぜ?


 こいつはゼスプを殺し、チップを両断、数多の生意気なクランメンバーをあの世に送り届け、サブクエストの強敵、《ウルグガルド》の首を落とした相棒ですよ?


 そんな名器を手放す愚か者が何処にいるのです?


 そう言うと、ケルティが待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。


「そう! それ! ツキトはケルティちゃんの能力を忘れちゃったのかなぁ?」


 ああん?

 アホか、散々付き合っているし、その能力で俺のローブを無駄使いしたのはお前だろ? 忘れるわけねーよ。

 

 ケルティの『プレゼント』は、装備にメリットとデメリットを付与する能力だ。

 名前は『モルブス・エーテル』と言うらしい。

 あまりに強すぎる能力を付与すると、装備品が自分と同化したり、壊れるデメリットがある。


 ……ん?

 待てよ? もしかして……。


「おお? 気づいたかなー? それこそ、私の新しいビジネス! 名付けて『アナタの初期装備、最強にしませんか?』だぁぁぁぁ!」


 びしぃ! と、ケルティが人差し指を立てて、俺を指差した。


 ……語呂が悪い、やり直し。


「厳しい!? でも、意味はわかるっしょ? 私はアナタの武器を見かねて、強くしようとしてるの!」


 なるほど『プレゼント』を売り物にして、他人の武器をカスタマイズする仕事を考えたのか。

 すでに、どんな能力か拡まっているケルティだからこそできる、大胆な考えと言えるだろう。


 確かに自分の理想の能力を、デメリットがあるとしても、自由に付与できるのはロマンがある。


 つまり、ケルティの頼みというのは仕事を始める前に、俺のさっちゃんで試させて欲しい、と言うことか。


 ……ん?

 もしかしなくても、モルモットだよな?


「そんな訳で……さっさとその鎌をよこせ! お前を無敵にしてやるんだよ!」


 や、やめろぉ!


 ケルティは俺のさっちゃんを無理矢理奪い取り、刃に手を当てた。


「んー! 生半可な強化じゃ駄目だね! ツキトは武器に頼らなくとも強いんだから、もっと強くならなくちゃ! 私の全力を込めてあげるよ!」


 そう言って、ケルティは『プレゼント』を発動させる。


 大鎌に光が……、いや、力が集まって行く。


 まさか、首を刈るしか能の無いさっちゃんに、新しい能力が……?


 それなら願っても無い。

 どうにかして強化できないかと、思っていたところだ。


 正直、何かしらの性能が付いてる武器を使っているPLは、羨ましいと思っていた。

 それが『プレゼント』だったら尚更である。


 そしてケルティの能力は、それを叶える事ができる。


 必ず付与しなければならないデメリットも、自分が使わないスキルレベルを下げるようにすれば、何も問題は無い。


 しかも、ケルティ曰く全力を込めるらしい。

 彼女の本気モードは、ステータスが数倍にはね上がっているという。これは期待せざるを……。


 ……あれ?


 あまりにも付与する能力が強いと、武器が壊れるんだよな? 全力で込めるって言ったよね、君?


 あ、ケルティちゃん、ストップ、ストッ……。



 ぱきょん。



 今までに聞いたことの無いような、絶望の音が響き渡る。


 大鎌の刃の部位が床に突き刺さった。


 先輩は目を丸くして口を半開きにして、ケルティは謝罪の言葉を述べながら、可愛いポーズをしている。


 俺は叫んだ。

 今まで一緒に首を落としてきた相棒を想い、ただ叫ぶ。


 走馬灯の如く、獲物の首を飛ばしてゆく情景が、瞼の裏を通り過ぎていった。


 ああ、去らば友よ……。


 カルリラ様によろしく……。




『あ、武器は生き物じゃないので、私の管轄外です。諦めて新しいのを買いましょう? 買うまではお供え物も大丈夫ですから……。あと、違う武器に浮気するのは駄目ですよ? 農民的に』


 泣き叫ぶ俺に、カルリラ様から神託が降りてきた。

 どうやら、さっちゃんはもうダメらしい。

 

 こうして、俺の新しい武器探しが始まった。

・今日の解説はお休みします

        ~by 人気の女神様~

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