キャラメイクと貰えなかったプレゼント
「やぁ、はじめまして。悪いけれど君の名前を教えてほしいんだ」
真っ白な空間で、どこか馬鹿にしたような声が聞こえた。
なるほど、これがキャラメイクというやつなのか。いきなり名前を聞かれるとは思わなかった。
さて、どうしようかな?
ん~。
…………ツキト、で。
本名の長月智から、適当な名前を作った。
ネットで注文してから2週間後、俺の手元にはフルダイブVRができる機材が届いていた。
ちょうど『Blessing of Lilia』のサービス開始日の前日である。
俺は時間になると、胸を高鳴らせながらVR用のヘッドギアを装着し、キャラメイクを始めた。
キャラメイクができるのがサービス開始の6時間前からで、PLがRPに没頭する為の気遣いらしい。
そんなに時間が必要なのか疑問だったが、俺もその気遣いに習い、早めにキャラメイクを開始した。
そして気がつくと、真っ白な空間に投げ出されよく分からない質問に答えていたという訳である。
ホントに意識とか感覚も電脳世界に入っているのね、これ。
「オーケー、言い名前だ。じゃあ君の性別は?」
「男だよ」
「じゃあ種族は?」
そこで目の前にウィンドウが表示された。
そこには二つの項目しかない。
『人間種』と『魔物種』だけだ。
嫌に少ないと思いながら『人間種』の欄に手を伸ばすと、隠されていた項目が現れる。
『人間種 文明の中で生きる種族です、武器や防具を多く装備する事ができます』
『・ヒューマン
・ハイヒューマン
・獣人
・魔族
・ドワーフ
・エルフ
・アマゾネス』
思ったより多かった。……取り敢えず一つ一つ確認していこうかな?
最初の項目のヒューマンはバランスが良く、他と比べると尖ったところは無い種族で、安定型というやつなのだろう。
ハイヒューマンと魔族は後衛で、獣人とドワーフは近接といったステータスのようだ、が。
この中ではエルフとアマゾネスがかなり高スペックである。
ステータスが他の種族と比べるとかなり差が開いており、ぶっ壊れも良いところだ。
何でエルフの筋力がドワーフと一緒なんだよ! とも、思ったがそもそもエルフは戦士も魔法使いもできる万能種族みたいな話を聞いたことがあるな……。
なんで無駄にリスペクト要素持ってくるんだ。
アマゾネスは戦闘特化の癖に魔力関係はヒューマンと同じときた。
流石戦闘民族だわ、きっとキンニクモリモリに違いない。おそらく制作者の寵愛を受けているのだろう。贔屓ですよ、贔屓。
きっとログインすればエルフで溢れ帰っているのだろう。もしかしたら筋肉もりもりのアマゾネスが支配する、筋肉の世界かも知れないが。
……駄目だ、人間種はありきたり過ぎる、ここは個性が出るであろう魔物種だ。
人間種で7つなら同じぐらいだろう。その中で一番面白いやつを選んでやる。
そう思いながら魔物種の項目に触れた。そして、後悔した。
『魔物種は己の才能と肉体を武器とする種族です。人間種よりも強靭な肉体と、魔法に対する耐性を持ち、レベルを上げることで大きく成長しますが、武器と防具を装備できない場合があります』
そのメッセージと共に画面が種族名で埋め尽くされた。
……なんじゃこりゃ。
犬や猫、牛、馬等の普通の動物は一通り揃っている。
他にもドラゴン、ゴブリン等のファンタジーで良く見る生物。地球外生命体やロボのようなイロモノもあった。
最後にあったのは、ニャック、こねこ、黒い悪魔……。
うん、ワケわからん。
こういう時は訳のわからないものから見ていくに限る。もしかしたら特別な種族かも知れないしね。
俺は強そうだと思った、黒い悪魔の項目を開く。
『ゴキブリです、彼らは地上最速の生物でありますが非力な生物です。彼らの容姿は見たものに不安を植え込み、精神を破滅へと追い込むため、古来より「黒い悪魔」と言われ恐れられて来ました』
無いな。
最速でもゴキブリは無いわ。何で制作者はこんな種族をいれたんだよ……。
そして説明が無駄に凝ってやがる。
次だ、次、こねこ。
『生後2ヶ月です』
以上。
ステータスも全て最低だ。
具体的にはヒューマンの5分の1。
わかった、これ縛り専用の種族だ。
誰も選ばないだろ、他のプレイヤーの格好の的じゃねーか。多分この種族のPLを目にする事は無いだろうな。
次、ニャックとか言うよく分からないやつ。
『ニャックはリセニングの原生生物です。二足歩行をする猫のような存在で、人と同じ装備をつけることができます。彼らは天運のフェルシーを信仰していますが、彼女を打ち倒そうと目論む者達もいます』
あ、そう言えばパッケージにそんな3頭身のケモノが居たわ。説明通りの猫のモンスターって感じだった。
一応このゲームのマスコットキャラなのかな?
若干、不穏な一文もあるけど。
あー……なんか魔物種も駄目だわ。
なんと言うかイロモノが多すぎる。こちとら初心者だぞ。畜生め。オススメ位教えやがれ。
散々悩んだ結果、結局俺はヒューマンを選んだ。このステータスで初心者お断りって事は無いだろう、多分。
『・ヒューマン
安定した筋力と魔力をもった人形生物です。彼らは得意な事はありませんが、苦手な事もありません』
『HP 200
MP 100
生命力 100(HPに関係)
精神力 50(MPに関係)
筋力 50(攻撃力に関係)
耐久 50(防御力に関係)
魔力 50(魔法攻撃力に関係)
知力 50(魔法防御力に関係)
速さ 100(行動回数に関係)
感覚 50(命中率、遠隔攻撃力に関係)』
『・スキル
格闘
ナビゲート
鑑定』
これがヒューマンの基本ステータスだ。
可もなく不可もなく。初心者なんだからこれでいいんだよ。
あと、参考として、エルフは筋力100の魔力150だった。しゅごい。
そんな公式チートな種族を使おうとしても初心者はもて余すに決まってる。
「職業は何をしているのかな?」
種族のウィンドウが消えると、今度は職業の一覧が飛び出してきた。
『・戦士
・盗賊
・格闘家
・魔術師
・大剣士
・狂戦士
・芸人
・僧侶
・司祭
……………』
うむ、やはり多い。
ここまで来ると、サービス開始の6時間前からキャラメイクができるというのは運営のナイス判断だと言わざるを得ない。
ここまで自由だと何をすれば良いのかわからなくなるだろう。
しかし、俺はカルリラ様の信者になるためにこのゲームを買ったのだ、職業は農民一択……。
『・狂信者
・農家』
……狂信者かぁ。
いやいや、駄目だ。
イメージ的によろしくない。それに俺はカルリラ様とスローライフを送りたいのだから、農民がベストの答えなのだ。
あんな木陰に咲いた一本の花のような御方を、派手に祭り上げるのはなんか違う。
そうだ、こっそりと愛でるべきなのだ。
と、言うわけで俺は農家の欄に触れる。
『・農家
畑を耕し、作物を収穫して生活する職業です。彼らは農作物を害獣から守るためにある程度の戦う力があります。また、この職業には作物と家畜を高品質に育てることができるボーナスがあります』
おお、農家っぽい。
『ステータスボーナス
生命力+20
筋力 +10
感覚 +10』
職業にはステータスボーナスもあり、それぞれで上がる能力が違うそうだ。
見た感じ、死ににくくなったのかな?
『・スキル
鎌
栽培
料理
見切り
読書
商売』
スキルも良い感じだ、明らかに敵を殺して生きるのでは無く、自分で何かを作って生きていく感じのスタイルだ。
俺は迷い無く決定の項目に触れる。
この時点で俺は大分満足していたのだが、このゲームのキャラメイクはまだまだ終わらなかった。
この後性格診断と称され30分程質問をぶつけられた。
ついでに年齢確認と共に、アダルトモードとノーマルモードの選択をした。なんかアダルトだとRー18な演出ががっつり増えるそうだ。それと、このゲームの対象区分はZ、18歳以上のみである。仕方ないよね。
まぁ、そういう目的じゃ無いし普通にノーマルモードにする。エロ規制モードだ。……いや、エロモードも気にはなるんだけどね。
最後の質問は容姿についてだった。質問と言っても、内容は自分のアバターであるPCの容姿を変更する作業だ。
なお、デフォルトのアバターは自分自身の容姿をしていた。
……おいおい、これってあんまりイケメンにしすぎてもアレな奴だし、まんまでも個人情報的に不味い奴じゃねーか……。
待てよ? どうせ一人称なんだから別に容姿なんて気にしなくてもいいのか。見た目でステータスが変わるわけでもないし。
そういう理由で、俺は自分の見た目をのちょろっと改編し決定の項目を選ぶ。
まぁ、最悪特定されても大丈夫だろ。
決定を押した後、例の馬鹿にした様な声が聞こえてきた。
「これから旅立つのに装備が無いのは不便だろう? ……これでどうかな?」
その言葉と同時に、俺の作ったキャラに武器と防具が装着された。
と言っても、小さな草刈り鎌にぼろのブーツとマントだけだが。
ううん……、インナーは最初からはいてるとは言えこれは無いわ。
俺はいいえの項目を選んだ。
「これはどうかな?」
するとまた装備が変わった。今度は大鎌と手袋だ。
……なるほど、理解した。
これは引き直せる装備ガチャだ。
つまりは余分な時間で一番良い装備を引き当てろと言うことだな?
やってやろうじゃねーか。ガチャ大好き。
俺はサービス開始5分まで粘り、大鎌、マント、革鎧、籠手、ブーツを手に入れた。
軽装備の戦士、といった格好だ。
ふふふ……、疲れた。
この装備で満足し、俺は決定を選択した。
すると今まで聞いてきた声が聞こえてくる。
「最後に」
まだあるのかい。
「君のためにプレゼントを用意したんだ。けれども、いまここで渡すのは風情がない。君だけの、君が使うにふさわしい物だからね。いきなり強大な力を貰ってもしょうがないだろう?」
いや、風情とかいいから。
俺は雑魚相手に無双気味でゲームを進めるのが好きなんだ。寄越せ。でも、ボスには苦戦する位のをよろしくね。
「もしもそれが欲しいのなら、プレゼント、と僕に伝えてくれないかな? ……それじゃあ元気で」
聴いちゃいねぇ!
と、叫んだところで意識が一瞬途切れる。
次に目を覚ましたら俺は石畳の上で寝転んでいた。狭い路地にいるらしく、建物の間から日の光が差し込んでいる。
体を見ると先程貰った装備がついていた。
俺は説明書の内容を思い出しながら、目の前にウィンドウが表示する。そして現在時刻を確認した。
0時きっかり。
『Blessing of Lilia』が世に解き放たれた瞬間であった。
捕捉事項が合った場合、後書きに書いていこうと思いますので、興味のある方は目を通していただけると幸いです。