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【喧嘩は禁止】お昼のクラン【ナンパは可】

 クラン『魔女への鉄槌』と『ペットショップ』統合本部のロビーはかなり広い作りになっている。


 雰囲気作り、という意味もあり、ロビーはファンタジーのギルドをイメージした物になっていて、受付の他にも酒場があったり武具屋や魔法店、道具屋も常設してある。


 特に酒場は繁盛しているようで、用意されたテーブルは、昼だと言うのに殆どが埋まっており、非常に賑やかだ。


 そんな騒がしい連中に混じり、俺とチップも席に付いている。


「あむ……、んん~、ほいひい……、ほいひいよぅ……」


 チップは俺が用意したステーキを満足げに頬張っている。

 おう、良く噛んで食べろよ。

 急いで食べると『窒息』のバッドステータスが付いて死ぬらしいからな。


「うん、わかった。……それにしてもおいひい」


 めっちゃ笑顔のチップを見ると、苦労して作ったかいがあったというものだ。


 しかし……一応食べてる途中に気絶していた時の説明もしたのだが、コイツちゃんと聞いていたよな?

 不安になってきた。


「んぐんぐ、……ふぅ、御馳走様でした。……で、その糞野郎どもをいつ殺しに行くんだ?」


 よかった、一応聞いていたみたいだ。


 ま、焦んなよ。

 流石にクラン……もといギルドを一つ潰すのは俺達二人じゃ荷が重い。

 先輩に勧められて、助っ人を呼んである。

 それも飛びっきりにアレな奴を。


「へぇ……。って、ギルド? クランとは違うのか?」


 そっちを気にするのか……。

 PLが創立、運営しているのがクランと呼ばれるもので、NPCが運営しているのがギルドと呼ばれるものだそうだ。

 まぁ違いはあんまりないかな。


「NPCねぇ。なんでNPCがドラゴムのねーさんを食いたがってるんだ? この世界のNPCは皆まともだと思ったけど。……ところでデザートある?」


 あるけど、甘味は魔術師用の食料なんだよ。魔法を使わないお前には不要……と言いたいがサービスだ。

 このミカンパフェをくれてやる。


 俺は賞味期限ギリギリのクリームがたっぷりのったパフェをアイテムボックスから取り出してチップの前に置いた。


 本当はゼプスへの差し入れにしようと思ったが、あの野郎まだログインしていない様子だ。


 このまま腐らせるよりも美味しく食べてくれる奴に食ってもらった方がいい。


「わっ! パフェだぁ! これ食べていいの!?」


 ええよええよ。

 ちゃんと話を聞いてくれてたからね。


「サンキュー! ……で、なんでねーさんを?」


 なんでかねぇ?

 純粋に美味しそうに見えたんじゃね?

 ドラゴムさん、プニっとしてるから……。


「それはしょうがないな。外はモフモフ、中はプニプニ、抱きついた時の感触は病み付きだしな。……ところでさ、メレーナには連絡した? 妖精もあまり見かけない珍しい種族だろ?」


 そう言えば確かに。

 メレーナは妖精というPLでは珍しい種族だ。今はまだ俺の畑にいるはずだが、何も知らずに街に来てしまうかもしれない。


 あまり広めると混乱を招くだろうが、意味も無く被害を出すのは、ただの間抜けだろう。


 メレーナにもそれとなく注意しておこうか。


「そうだな。んじゃ、チャットで知らせてあげろよ。アタシ、メレーナの連絡先知らないんだよな」


 ほいほい、了解。


 俺はウィンドウを出すとチャット機能を起動させる。

 チャットはパーティーやクラン、フレンド登録をしているPLに向けてメッセージを送れる機能だ。


 ちなみに、クランチャットで騒ぎすぎると、熱くなりすぎてリアルファイトが始まる事が多く、用件が無い限り控えるよう先輩からお達しが出ている。アレ面白かったんだけどなぁ……。


 乱闘騒ぎを思いだしながら、俺はフレンドチャットを使いメレーナにメッセージを送った。


『ツキト お疲れ様! さっきクランで聞いたんだけど、街の方が少し物騒ならしいから、気を付けてね。後、用事が無かったら畑仕事は上がっていいよ』


 ……送信、と。まぁ、来るな、とは言えないし、こんなものだろう。


「お? 送った? メレーナはなんて……って、すまん。いきなり話が変わるけどいいか?」


 ん、どうした?

 チップはいきなり顔を強張らせた。目線は俺の後方へと向けられている。


「お前が言っていた助っ人の事なんだけどさ……」


 ……ああ、助っ人ね。

 飛びっきりのヤバイ奴でかなりの実力者だよ。うん、実力は、あるよ。


「まさかあそこで女の子を口説いている奴じゃないよな?」


 冷ややかな目をしながらチップが俺の後ろを指差す。

 まさかと思いながら振り向くと、そこには二人の女性が居た。


 一人は猫の獣人で、もう一人は見覚えがある。


 長い銀髪のポニーテールが印象的な、美しい銀眼の女エルフ、訓練班長ケルティである。


「……じゃあ、リアルの旦那さんとは全然何ですか?」


「そうなの……、忙しいからって全然構ってくれなくて……。私も美味しいご飯やお弁当を作ってるのに……。んぐ……んぐ……ぷはぁ……」


 酒を飲んでいる猫っ娘の悩みを聞いているようだが、ケルティの目は完全にハンターの眼をしている。

 獲物を狙う、獣の眼光を宿している。


「それは無いなー。構ってくれてもいいのにね。寂しいでしょ?」


「うん……、だからここに来てるの……。ここに居れば寂しく無いから……。家に一人っきりって結構くるんだよね」


「そっか。……そうだ、じゃあ私が慰めてあげようか?」


「ええ~? なにそれ……んぎゅ!?」


 ケルティは猫っ娘の唇に熱い接吻をかました。


 タワーを立てる暇など無い。

 問答無用のふっかいキッスである。

 濡れた肉が絡まり合う音が、ここまで聞こえてくる程、濃厚なやつだ。

 二人の唇が離れると、その間に光る線が延びていた。


「…………ぷはっ、どかな? ここならこんなことしても浮気じゃないし、現実じゃ絶対出来ない体験もしてあげれるけど……、どう?」


 猫っ娘は顔を真っ赤にしているが、その顔には嫌悪感の様なものは見られない。


「えっ!? ええ!? まって、心の準備が……」


「へぇ……、断らないんだぁ? よーするに嫌じゃない、って事でいいよねぇ……? いいものだよ、女同士っていうのも」


 ケルティは怪しげに笑いを浮かべ、その右手を猫っ娘の体に這わせようと伸ばす。


「ねぇ……、嫌じゃ無いなら、……いいよね?」


 ケルティの手は猫っ娘の体をねっとりと撫でまわし、猫っ娘はそれを拒否しない。

 一見すると渋々受け入れている様にも見えたが……、


「ごっ、ごめんなさい!」


 猫ッ娘は顔を真っ赤にして逃げ出してしまった。


「……あーあ」


 そう言ってため息をついたケルティは残念そうに立ち上がると、俺達のテーブルにやって来る。

 よう、お疲れさん。


「やー、失敗だよ。うまくいってれば一夜の夢でも見せてあげようと思ったのに……。あ、チップちゃんでも一向に構わないんだけど、どう?」


 ケルティはチップにウインクしながら投げキッスを飛ばす。

 予想通りと言えばそれまでなのだが、チップは舌打ちをして席を立った。


「アタシ帰るわ」


 待て、待て。

 大丈夫だから! ケルティなりのジョークだってば!

 本当に手を出す訳じゃないって!


「そうそう、無理やりとか可愛そうなのは嫌なんだよねー。やるんだったら、イチャイチャネチャネチャしたいのがケルティちゃん流ですぅ」


「恐怖しか感じねーよ! ツキト、お前はアタシの貞操がどーなってもいいのか!?」


 仕方ねーだろ!

 先輩曰く、前作プレイヤーを連れて行った方がいいって言って、唯一暇そうだったケルティに、先輩が声かけてくれたんだよ!


 大丈夫だ! ちゃんと変なことしないように見張っておくから!

 という訳で、あんまりおかしい真似はすんなよ! ケルティ!

 ……ケルティ?


 と、俺がケルティに振り返ると、ちょうどチップの食べていたパフェに、何かの粉薬をかけているところだった。


 ……え? ちょ、まって。俺の理解が追い付かない。


 ケルティはハッとした顔をすると、素早い動作で薬をローブに隠し、俺に向き直る。


「……濡れ衣だ!」


 ケルティは叫んだ。


 一切の罪悪感も後悔も見せず、ただ一言。


 穢れ無い、銀色の眼をして。


 そんな彼女を、連れて来てしまい深く後悔していると、後ろから深いため息が聞こえた。


 ごめんなさいね、チップちゃん…… 。




「それで? 犯人の目星は付いているんだっけか?」


 俺達は3人でサアリドの騒がしい街を進んでいた。

 辺りには露店があったり、裏路地から呼び込みをする娼婦の姿がある。


「ツキトの奴が心当たりがあるんだとさ。……あと、変な事したらまじで切れるからな」


 依然として、チップのケルティに対しての警戒心はバリバリであった。仕方ない、ここは比較的まともな俺が、この二人を制御しなければなるまい。

 

 今から行くのは自称『美食ギルド』って所で、偏食家の棲みかみたいな所だな。

 人食、共食い大好きみたいな奴等だ。


「ウゲェ……、なんでそんな奴等と交流があるんだお前。仕事位選べよ……」


 露店やってたら目を付けられてなー。

 ギルドに入って飯を作れとうるさいんだな、これが。


 まぁ飯位なら作ってやるって言ったら、人肉とか虫とか幽霊の肉とか、ゲテモノしかなくて参ったもんだよ。


 軽い感じで話してはいるが、実際本当に困っていた。

 なんせ農園まで俺の事を探しに来るぐらいだ。先輩に言われなくとも、そろそろ始末しようと思っていたところだったし。


「……ちょっと待った。今から美食ギルドのクエストやりにいくの?」


 ケルティが不思議そうな顔をしている。

 いや、クエストをやりにいくというか、潰しにいこうかと……。


「うん、だから、サブクエストの『同胞喰らいを喰らえ』でしょ? それ」


 ……おや?

 なにやら事情をよく知っている方が居たようだ。


「割りと有名なクエストだからねー。『リリア』にはNPCから直接受ける事のできるサブクエストが結構あって、美食ギルドのクエストもその一つだよ。みーちゃんもわかって私を寄越したんじゃないかな?」


 なるほど。忙しい自分の代わりって事か。


 それにしても……クエストかぁ。

 そう言えばクラン活動にかかりっきりで全然手を出して無かったな。


「あん? アタシ達はクエストなんて受けてないぞ?」


 リアリティを求めた結果だろう。

 実際だったら、クエストが始まる前に、先ず解決すべき問題が発生するだろうしな。


 ドラゴムさんが襲撃されたのも最近の話だし、美食ギルドが問題になるのもこれからなんじゃないか?


「そーかもねー、それじゃあクエストを受けれるかどうか確認してみようか? そんなに時間もかからないからさ」


 そう言うとケルティが先頭になり、俺達を案内してくれた。

 街の中央へ向かっていくと、少し開けた場所に大きな掲示板が立っている。

 そこには依頼書が多数貼ってあり、『モンスター討伐』『薬草の調達』『農作物の収穫の手伝い』等々、様々な内容のクエストがあったが……。


「なんか、やたら行方不明者の捜索依頼が多いな……、しかも亜人系のキャラが多い。これって……」


 なるほど、他の犠牲者は既に出ていると見ていいな。一体どのぐらい行方不明者が、アイツらの胃袋に入ったんだか……。


 しかし、これで問題自体は起きている、という事が予想できる。


 どうよケルティ、クエスト受けれそうかね?


「たぶんねー。ちょっとこの辺で待っててみようか? もしかしたら依頼者からこっちに来てくれるかも……」


「すいません……、冒険者の方ですか?」


 後ろから聞き覚えの無い声で話しかけられた。

 振り返ると、ボロボロの服を着た女性が立っていた。

 その服と対照的に、美しい金髪と少女のようなかわいらしい顔をしており、他のモブNPCとは雰囲気が違う。


「ええ、私達は冒険者です。なにかお困りですか?」


 グイッと、ケルティが俺を押し退けて彼女の前に出る。

 一瞬見えた顔は、キリッと、いい顔をしていた。コイツ本当に見境ねーな。


「夫を……、行方不明の夫を探して欲しいんです!」


 彼女はそう叫び、俺達に頭を下げた。

 それと同時に目の前にウィンドウが現れる。


『サブクエスト:同胞喰らいを喰らえ

 受注しますか?』


 俺は少し驚きながらも、女性に対し任せてほしいと一言声をかける。

 こうして、俺の初めてのクエストが始まるのだった。




『うむ、存分に腕をふるうといい。ところでご飯はまだかな?』


 なんで女神様は俺に格好つけさせてくれないんですかねぇ……。

・甘味

 フルーツで作ったスイーツは魔力を成長させる効果がある。ドライフルーツやパフェ、ケーキ等。


・女同士

 この世界では同性同士で事を致しても子供ができる。生命の神秘である。


・濡れ衣だ!

 何かを見咎められた時に叫んでみよう。善行値がガッツリ下がる。


 そう言えば、浮気者の気配がする……。

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