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クラン『ペットショップ』

 クラン『魔女への鉄槌』に加入して数週間後……。

 嬉しい事に『Blessing of Lilia』のPLは発売日から右肩上がりに増えていった。

 やはり、最初の街が崩壊したというインパクトは大きかったらしく、恐いものみたさというゲーマーや、クソゲーハンターが興味本意で購入しているようだ。

 まともなPLが少ないのは変わらずである。


 そして、初心者殺しとして危惧されていた、ビギニスートの『聖母のリリア』だが、『神殿崩壊』を引き起こそうとする狂信者から、彼女を守るためにクランが設立されていた。

 その名も『紳士隊』。

 正真正銘のロリコン集団だ。

 yes、ロリータ! no、タッチ! を信条の元に集まった精鋭達である。

 しかも、奴等は初心者に対してサアリドに行くよう誘導したり、このゲームでの生き抜き方を教育しているらしい。

 全員が統率された行動をする騎士集団である。

 ついでにリリア信者になるように勧誘もしているので、そのまま『紳士隊』に加入……するPLは少ない。

 紳士であれ、ロリコンはロリコンだ。

 万人が認めてくれる訳ではない。


 そのお陰もありサアリドを拠点としていたクランは多くのPLを取得し、その規模を拡げているらしい。

 その中でも、クラン『魔女への鉄槌』と、先輩が作ったクラン『ペットショップ』は特にPLを集めていた。

 大きな理由としては、メンバーの顔ぶれが個性的で、誰でも、どんな種族、職業でも入ることができたのが大きく、様々な人材をクランメンバーとして迎えていたからだろう。

 特に生産ができるPLは『ペットショップ』に集まり、一気に勢力を拡大。

 これは他のクランが戦闘職や前作の廃人を優先して集めようとした結果でもある。

 つまり欲を出してメンバー集めに失敗したのだ。

 メンバーが揃ったところで、二つのクランが協力し、『魔女への鉄槌』がクエストで資材をかき集め、『ペットショップ』で商品に加工、サアリドの各店でこれらを換金し、莫大な資金をかき集めた。


 その後、『ペットショップ』メンバー各員は莫大な資金を元手に、それぞれのRPを開始。

 鍛冶士、医者、料理人、狂信者、音楽家、ダンサー、ギャンブラー等々……、様々な職業のPLがクラン本部に店を構え、日々大盛況だ。

 サアリドのみならず、この世界でもトップクラスの商業クランとなった。

 そして、そんな『ペットショップ』の初期メンバーであり、ナンバー2である俺は……。


 ひたすら農作業に打ち込んでいたのだった。


━━━━━━


 俺はここまで日記に書き留めると、小さな掘っ立て小屋から外へと出る。

 サアリド郊外に作った俺の畑はそんなに大きくは無いが、作物自体は異常に大きく育ち、朝露で美しく輝いている様に見えた。

 俺は大鎌を構え、目の前にあった、人と同じ位の大きさまで育っている白菜を、根本から切り落とす。

 地面に転がったそれを持ち上げ、アイテムボックスへと格納した。


 白菜があった場所には、小さな芽が地面から顔を出している。

 『栽培』スキルが高ければ、いちいち種を撒く事なく、続けて作物を育てることができるのだ。

 しかも作物は少し水をやる位で、特に手をかけることも無くすくすくと育ってくれた。収穫した後は調理して売り出し、資金へと変えている。

 NPCは、元の食材の大きさと料理のグレードを判断して買い取ってくれるので、売れるときにはクエストをクリアするよりも遥かに良い金額になる事もある。

 楽な商売だ。わざわざクエストをクリアしてはした金を稼いでいるPLが馬鹿に見える。フフフ……。


「あ! つっきーくん、つっきーくん。今ログインしてきたの?」


 その声に反応し振り向くと、遠くから体長30センチ程の妖精が、りんぷんを散らしながらこちらに飛んで来るのが見えた。

 明るい赤い髪で、ぱっちりとした目が印象的な彼女は、種族が妖精のPLだ。

 メレーナという名前で、『ペットショップ』の農業部門の一員である。

 彼女はまともなPLなので、ゼスプや犬にやるような雑な扱いはしないようにしていない。


 ああ、少し前からログインしていたけど、日記を書いてたんだ。


 と、言いながら俺は笑顔を作って見せた。


 最近は、いつどのような事が起きたのかを忘れないように日記をつけるようにしている。

 その日の収穫量や、収入も書いていたのでちょっとした帳簿も兼ねているのだ。


「あー、最近流行ってるよね! 私もやった方がいい?」


 無理強いはしないけど、やっていればその内役にたつんじゃない? ところで、作物の成長具合はどう?


 ここの畑はクランメンバーには自由に解放されており、ある程度大きさの自分の畑をそれぞれ持っていた。

 しかし、彼女の『栽培』スキルまだ低いので、さっきのような大きな物には育たない。


「あんまりかなぁ。幾つかは収穫できたけど、お金にはならなそう。枯れちゃっているのも結構あったし……」


 作物を枯らしてしまった場合、また種からの育成となってしまう。

 けれども種については、クエストでかき集めた大量の備蓄がある。

 問題は、商品にならない作物をどう処理するかなのだが、それについては『料理』スキルの練習用とカルリラ様への捧げ物として使われるので、実質無駄は無い。


 じゃあ、備蓄の種を使って、もう一度育て直しておいて。後、共用の畑の作物は収穫していいから。

 クズ野菜は俺が料理で捧げ物に使えるようにするから、残しておいてね。


「うん! ……あれ? つっきー今日何か用事でもあるの? それぐらいならいつも自分でやるよね?」


 ああ、今日は犬と一緒に総本部に顔出しがあるんだよね。と、いうわけで……。

 おーい、チップー。散歩行くぞー。


 俺は掘っ立て小屋の隣にある小屋に向かって声をかけた。

 すると、


「だから犬じゃねーって言ってんだろ!? コラぁ!?」


 中から元気な駄犬が飛び出して来たではないか。


 理性を取り戻したチップは、自分で料理をしたいという事で『ペットショップ』に加入していた。

 材料はいくらでも調達できるので、満足するまで練習して構わないのだが……。

 この犬の不器用さは群を抜いていて、スキルでも、手作業でもまともな物を作れた試しが無い。

 故にいつも俺の調理でだらしないメシ顔を披露していた。……駄目犬のRPかな?


「今行くところだったんだよ! 大体顔出しなら一人でも行けるんだから放っておけ!」


 ずいぶんと機嫌が悪いな。何かあったか?


「つっきーくん、流石に犬扱いすれば誰だって怒るよ……。獣人って言っても見た目はほとんど人と変わらないし……」


 メレーナは呆れた様な顔で俺を見ると、チップの肩に腰かけた。


 おっ、二対一ってやつですか?

 それじゃあ、そこのワンコ、一つ質問があるのだが良いだろうか?


「……呼び方変えてもおんなじだからな」


 まぁそんなにかっかしなさんな。

 ……小屋の中の共用の冷蔵庫あるだろ?


「……あるけど、それがどうしたんだよ……」


 このゲームには食料のアイテムを保管できる冷蔵庫がある。

 別に珍しいアイテムでは無いが、スペースをとるのでここには一つしか置いていない。

 ログアウトするときにはそこに各人の食料を腐らせないようにしまっておくのだが……。


 俺がつくった肉料理をつまみ食いしたけだものがいるようでな。

 先輩への差し入れだったステーキが無くなっていたんだよなぁ……。


「……ふーん、で? さっさと行くぞ、待たせてるんだからよ」


 チップは俺から目を逸らすと畑から出ていこうとする。


 おい。

 目を合わせろ、目を。


「な、なんだよ。別にアタシが食べたって証拠は無いんだろ? お前の料理は確かに旨いけど、そこまでして食いたいとは思わねぇって……」


 良いことを教えてやろう。

 食いかけの食料を鑑定するとだな、誰が食べているかが表示されるんだよ。

 そしてこちらが食いかけのステーキなんだが……。


 俺がアイテムボックスから食いかけのステーキが乗った皿を取り出す。

 正確には付け合わせの人参と、残り一口の肉片が乗った皿だが。


「なっ!? 何で持ってるんだ! ちゃんと部屋まで持っていったのに!? お前、私の部屋に勝手に入ったなぁ!?」


 簡単に自白したな……。

 しかも、しれっと俺が不法侵入した話にすり替えようとしやがった。


「つっきー、女の子の部屋に勝手に入るのはどうかと思うよ……」


 メレーナが軽蔑の眼差しを向けているが、俺にはそんな趣味はない。というか、チップが勝手に男の子の部屋に入るのはいいのか。


「あ。……違うからな? アタシは食べて無いから……前にもらったお肉の皿の話だから」


 おう、空の皿はもう貰っている。

 勘違いしないでくれよ?

 これは俺の食べかけだ。

 証拠に鑑定してもいいし、食べかけの食料は他のPLは食べることができないんだよ。

 試しにメレーナ、食べようとしてみて。


「え? う、うん」


 メレーナはチップの肩から、付け合わせの人参に向かって飛び立つが……。


「あ、ほんと。触れない」


 飛んだまま触れようとしているようだが、その手は人参に触れることがなく、何かに遮られているように見える。


 ま、こう言うことだ。

 全部食べなきゃステータスは上がんない様になっているらしいからな、お残し厳禁ってやつだ。


 俺は皿に乗っている肉片を摘まみ、口の中に放りいれた。


 と、言うことで駄犬が誰かはっきりしたな。


「……」


 チップ?


「……いや、その。アタシのかなって思って……」


 チップはげんなりとして、腰から生えている尻尾がだらんと下に垂れている。

 一応罪悪感というものはあるようだ。

 まぁ、それで許されるわけでは無いが。


「えーと……、チップちゃんも反省しているみたいだし、つっきーも許してあげて……。って、つっきー……それ……」


 俺はアイテムボックスから、『紐』と『首輪』を取り出していた。

 それを見てメレーナは若干引いているような顔をしている。


 聞き分けの無い犬にはさ躾が必要だよな? ……なぁチップ、どう思う?


 俺がそう言って微笑むと、チップ恐怖の感情が顔に張り付け震えだした。


「……うそ。え? それで何をする気だ……? もしかして、アタシにつける気、……なのか?」


 ……大丈夫だって。

 『リリア』では便利アイテムだったらしいし、何も恥ずかしい事はねーよ。

 けど試しに使ってみないといざってとき不安だろ? 俺は不安だ。

 だから、これの使用感を確かめる事ができたら、この件についてはチャラにしてやるよ。

 ……それとも、拒否権があると思っているのか?


「うっ……、悪かったってば。お金は出すからさ、許してくれよ……」


 駄目だな。

 第一、ステーキは今のところNPCのショップじゃ出てこない上位物だから金で買えねーよ。

 しかも確実に作れるのは今のところ俺ぐらいなもんだしな。

 弁償は無理だと思うが? くくく……。


 俺が厳しい現実を伝えると、チップは諦めたのか、


「うう……。きょ、今日だけだよな……?」


 妥協点を提示しながら承諾した。


 ああ、本部から戻って来たら外してやるよ、それで許してもらえるんだから安いもんだろ?

 なぁ?


「わかった……、今日だけなら……」


 少し恥ずかしそうに頬を染めるチップに、俺はとある感情が芽生えてしまった。


 嗜虐心である。

 普段強気な女が崩れる姿は中々どうして、心の中に黒いヘドロのようななにかを沸き上がらせる。


 そうだ。

 良いことを思い付いたぞ。

 お前、自分でつけろよ。

 そうしたら、首輪をつけてる間の食事は俺が全部用意してやるよ。


「! ……そんな事でアタシが納得する訳無いだろ」


 もちろん、お前はこれをつけてもいいし、つけなくてもいい。

 ほら、手に握らせてやる。

 あ、自分でつけないのなら俺がつけるからな?

 それならメシは用意しないが。


「えっ……。い、いやだ……。でも、苦しいのも嫌いだし……。大体、アタシは犬じゃ……」


 別にきつく絞めろとも言わない、お前が、自分自身の手で、望んで着ければそれでいい。

 明日からは着けるのも、外して置くのもお前の自由だ。お前が自分で着けるのならの話だけどな。

 な、簡単だろ?


「う、うう……、わかっ……た。自分で、やる……」


 震える手で首輪をつける彼女の顔は、屈辱にまみれながらも、少しの悦びが混ざっているように見える。

 それは俺の腐った欲望を満たしてくれるには充分なものだった。

 やっぱり、犬はこうじゃなくちゃな。

 はははははははは!!!







「ナニコレ?」


 おっと。メレーナちゃん、ここは冷静になっちゃいけないところよ。

 ちょっとしたジョークって奴だって。当たり前でしょ?

・人と同じくらいの大きさ~

 この世界の植物はよく育つ。育ち過ぎて収穫できないことも。そうなると冒険者向けの収穫依頼クエストが発令される。


・妖精

 体長は10センチから150センチ程。100以上はビックフェアリーと呼ばれている。けれども、大きさを魔法でごまかしている事が殆どなのであり、本当のところはわからない。魔法と窃盗が得意。


・日記

 工作スキルで作ることのできる一番簡単な書物。時間をかければかける分だけスキルを鍛える事ができる。

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