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『浮気者』と子猫と女神様

・最後まで読んでいただきありがとうございました。少しでもこの物語を記憶に残していただければ幸いです。

※追記 続編の投稿を始めました。よろしくお願いいたします。

 女神様達によくわからん殺しをされまくり、俺への粛清は終了した。……いや、酔っ払ったカルリラ様の動きヤバかったわ。


 正に手も足も出ないとは、あの事だろう。

 気が付けば地面にばら蒔かれてんだもん。クランメンバー相手には無双できたんだけどなぁ……。


 それと、俺のパーティーメンバーに加わったという『女神リリア』なのだが、やはりと言うか、『聖母のリリア』の本気モードだったらしく……。


 ステータスオールカンストという化物だった。


 スキルレベルはカンストしていないが、それでも破格の強さである。どう考えても現状のPLには手の余る事は明白だった。


 なので、リリア様にはクランの酒場においてウェイトレスとして働いてもらうことになった。クランにおける最強の安全装置の出来上がりである。


 せっかくの女神様をそんな扱いで良いのか疑問の声もあったが、そこは……ほら……、人の目が無いとロリコン達がなにするかわからないし……。


 それに本人も、楽しそうに仕事をしているので大丈夫そうだ。うん。



 うん……大丈夫そうだったのだが……俺個人には、新しい問題が発生していたのでそれどころではなかった。



 それはリリア様が登場する直前に言おうとしていた、先輩の『お願い』なのだが、これがなんとも……。


 何時もなら二つ返事で、良いですよと返すのだが……流石に戸惑った。

 まぁ結局首を縦に振ったので、俺は遠く離れた町の駅のベンチに座っているわけなのだが……。


 あ、言うのを忘れていたが、今は『Blessing of Lilia』にログインしていない。バリバリの現実世界である。

 久々の遠出と、人々の雑踏に疲れているところだ。



 そういう事で、先輩からのお願いは『リアルの方で会うことはできないか?』という事だった。



 ……流石にビビったね。

 普段はイチャイチャしていても、ゲームだからの一言で自分を誤魔化すこともできたし、小っ恥ずかしい言葉も言うことができたが、現実となれば話は変わってくる。


 そもそも、先輩は本当にあんな美少女なのか? リアルもあんな感じだったら、その辺のアイドルなんてカスだぞ?

 実はネカマに騙されていただけでは無いのか?


 連絡先もメールしか教えてもらって無いしなー……。返信も遅いし……。


 でも、本当にあの見た目だったら最高なんだよなー……。


 ああ、そうだな……。悪い方向に考えるのは止めよう!


 仮にネカマだったとして、とんでもねーオッサンが来たとしても、そんときには昼間っから酒が飲める場所に連れ込んでやろう。


 会社の先輩に教え込まれた飲みュニケーションを披露してやるぜ……!


 むしろ、そっちの方が気が楽なのでは? 酒飲みながらエロい話に花を咲かせれば、大概面白いしな。


 つまり、どんな結果が待っていようとも、俺の勝利に変わりは無いということだ……!


 ククク……さぁ……来い。

 俺の覚悟は決まっているぞ……!


 そんな事を考えながら、俺は人目も気にせずに顔に笑みを浮かべた。

 ……が、気がついたら俺の目の前には、部活帰りと思われるキャップを被ったジャージ少女が立っていた。背中には大きめのリュックを背負っている。おおっと。


 俺は咄嗟にその少女の前から移動し、ベンチの端に寄った。


 客観的に見たら、俺は女生徒を前にしてほくそ笑んでいた変出者である。完全に事案だ。何とかして無関係であることを貫き通さなければ……。


 しかし、悲しいかな。


 その少女は何も言わずに俺が座っているベンチに座ってきた。……他にも空いてるベンチあるじゃん~。なんでわざわざ俺の近くに座るの~? 逃がしてくれる気はないの~?


 と、ふざけてしまいたいのだが、実際まずい。このままでは俺の人生は『この人、痴漢です』エンドになってしまう。


 ゲームだったらクソゲーじゃねーかでお茶を濁すのだが、今回に限ってはリアルなので真面目に終わる。


 クソっ、早く……、早く来て下さい、先輩……!

 このままでは警察のご厄介になってしまいます!


 俺は助けを求めて周囲を見渡す。


 しかしながら、辺りには先輩と思われる影は見当たらない。


 先輩はヒビキの奴が提供した写真でこちらの素顔を把握しているので、俺の顔はわかっている筈だ。

 だから俺の事を見ればこっちに来てくれる……のわぁ!?


 完全に失念していた。


 この状態で少女の事を意識から外したのは不味かった。いつの間にか彼女は俺との距離を詰めており、その間は30センチも無い。

 しかもジッと俺の顔を除き混むようにこちらを見ている。きっとどうやって刑務所にぶちこむかの算段を立てているのだろう。……そして彼女の口が開かれる。


 オワタ。


「……きみさ、個人情報を守ろうって意識は無いの? 本当にキャラクリと殆ど変わらないじゃん」


 そう言いながらキャップを取った彼女の顔は、控えめにも初めましてとは言えないものだった……というか、良くそんな事言えますね?  ただのブーメランですよ?



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「できれば気付いて欲しかったんだけどなぁ。僕の見た目も、あんまり変わっていなんだから」


 俺と先輩は駅の中にある喫茶店に移動していた。入る際の店員さんの目線がヤバイものを見る目をしていたので、人目の付かない席に案内してもらった。


「けど……良い顔見れたから僕としては満足かな? どうだい? リアルで会ってみた感想は?」


 先輩はふふん、と、ちょっと得意そうな顔をしている。……ええ。大変驚きましたよ。


 一体どこのjcかな、……と。


「せめてjkにしてくれないかな!? って、そっか、これ中学のジャージだった……。仕方がないだろ、これ以外の服っていったらそれこそ中学の時の制服しかないし」


 ……?


 あれ、先輩何歳でしたっけ? 俺の記憶が正しければ18歳にはなっていますよね?


「ん? 一応ギリギリ19歳だよ? ……ああ、安心してよ、通報されてもちゃんと説明してあげるから。捕まってもらっても困るしねー」


 どうやらちゃんと合法らしい。


 けれども、それはそれで問題だ。……いや、俺がロリコンだからとかそういう話ではなく。というか、そもそも俺はロリコンではない。


「……どうしたの? もっと気楽に話しなよ。ツキトくんって僕よりも歳上なんだからさ、本当は僕が敬語を使わなくちゃいけないんだし」


 そうは言われましても……一度決まった話し方って中々直せないものじゃないですか。ゲームでは一緒に好き勝手やってますけど、実質これが初対面みたいなものですし。


 俺が笑いながらそういうと、先輩の身体がビクンと震えた。そして、少しその表情が曇る。


「そ、そうだよね。確かにゲームと現実じゃ違うもんね……」


 そんな様子を見ていて、俺は少し嫌な予感がした。


 少し踏み込んだ話をしてみたいのだが、踏み込んだ瞬間、地雷に接触するのではないかという感じがしてならない。


 ……ところで先輩。今日俺と会いたかったっていうのは、何か理由があるんですか? このまま町に繰り出しても、一向に構いませんけれど?


 ……とりあえず、当初の目的を果すことにした。

 ただ会ってみたかったというのならそれでよし。何も問題はない。それはそれで良い。


 しかし……、更に曇ってしまったその表情から、何かしらの問題があることは明らかだった。


「理由……理由ね……、やっぱり気になるよね……あはは……」


 先輩は困った様な顔をして笑うが、どう見ても無理をしている。


「う、ん。……実はねお願いしたいことがあったんだ。聞いてくれるかな?」


 ……どうぞ、何でも言って見てください。


 俺は先輩の目を真っ直ぐに見つめる。

 しかし、目の前の彼女は申し訳なさそうな顔をしてうつむいてしまった。そして……。


「……あのね、僕の事を……きみの家に居候させてくれないかな……」


 震える声でそう言った。



 俺は先輩の隣に座り、落ち着かせながら、ゆっくりと、何故そんな事を頼んだのかという経緯を聞いた。


 先輩の家庭は少し複雑な事情があるらしい。


 先輩が中学生になる前に、母親が亡くなってしまったそうだ。

 そのせいで、父親は大変なショックを受けてしまい……その……。


 少し、おかしくなってしまったという。


 ジャージの裾を捲って見せられたのは、どう考えても他人に付けられたとしか思えない━━痛々しい痣だった。


「昔はね、とても優しいお父さんだったんだよ? けれど……お母さんが死んじゃってからは僕の事を娘じゃなくて……その……なにか違う様な物を見るような目で、見るようになったんだ……」


 母親が死んでからは、家の家事は先輩の仕事になった。

 早朝に起きて、朝食の用意をし、父親を見送り、学校に行って、父親が帰ってくる前に買い物を済まし夕飯の準備をする。

 父親が帰ってきたのなら、風呂か夕食のどちらを先に取るのかを確認し、機嫌を損なわない様に立ち振舞う。少しでも機嫌を損ねてしまったら……。


「痛かったし、辛かったよ。何で母さんみたいにできないんだ、って凄い声で怒鳴るんだ。いくら謝っても許してくれなくて、叩くとあっちがハッとして謝ってくるんだよね。……僕もおかしくなりそうだった」


 そんな生活を続けていくうちに、学校には行かなくなってしまった。父親からも、高校には行かずに家事をするように言われたらしい。


 けれども、そんな生活を続けていくうちに、多少の変化はあったそうだ。


 中学を卒業してからは、家事をする変わりに給料としてお金を貰える様になり、ある程度の欲しい物は買えるようになった。しかし、ミスをすれば手は出るのは変わらない。


「……よく考えたら、この時点で家族として成り立っていないんだよね。こんなの父親と娘の関係じゃないもん。……でも、少しずつ、会話も戻ってきてさ、昔みたいな優しいお父さんに戻ってくれるかもって……思ってたんだ」


 それから暫くは、中学に比べたらマシな生活が送れたらしい。

 貰ったお金でパソコンを買ってゲームをやってみたり、お金を稼いでみたり。


 家事の方も、馴れてきてミスをすることも少なくなっていったようで、自分の時間も作れる様になり、それなりに平和な日常を過ごしていたそうだ。……自分がおかしな環境に置かれていることも気付かないで。


 そして、その狂った世界の終わりは唐突に訪れた。


 彼女が1ヶ月前に言われたのは「新しい嫁と暮らすことになった。お前は邪魔だから、同棲が始まる前に出ていけ。時間と金はやる」という事だった。


 その時に、先輩は気付いてしまった。


 父親がまともになってきたように見えたのは、自分が頑張ったからじゃない。


 新しい拠り所ができたからだったのだ。


 1ヶ月前……、ちょうど先輩とゴタゴタした辺りだ。そう言えば、あの時の先輩はゲームにログインしてもずっと部屋に引きこもっていて、特定の誰かにしか会っていなかった気がする。


「あの時さ、きみにまで捨てられたら、きっと本当に僕はおかしくなっていたよ。だから、僕に手を差しのべてくれて、本当に……本当に嬉しかった」


 そこからは、何とかして一人でも生きていこうとしたらしい。

 何もしないで落ち込むのではなく、今の自分を守るために、ゲームの中で慕ってくれる仲間のために、頑張ろうと決めたのだ。


 ……けれども、話はそう簡単にはいかなかった。


 仕事を探しても、まともな物は見つからず。すむ場所を探しても、まるで相手にしてもらえない。

 落ち込んで家に帰ると、早く帰って来ていた父親から叱咤される。


 そんな中でも、先輩は諦めなかった。


「僕一人じゃ、1ヶ月って時間じゃどうしようもなかった。……けど、もう少し時間があればさ、何とかできる気がするんだよ。もうちょっと、社会の常識を勉強して、仕事を選ばなきゃ……、その為には……居場所が、欲しいん……です」


 先輩は目に溜めた涙を溢しながら、俺の顔を見上げる。


「お願い……します。居場所をください。変わりに僕の事を好きにして構いません。……お願いします」


 ここまで、俺は黙って話を聞いていた。


 いろんな感情が飛び出しそうになっていた。


 クソみたいな父親に対する怒りで思いっきり叫びたかった。

 話をする先輩が辛そうで、その手を握ってあげたかった。

 なんで、もっと早くに頼ってくれなかったのかと言いたかった。俺の事を頼ってくれて嬉しいと言いたかった。


 それでも俺は、それを全部我慢して、一言……。




 よく……頑張りましたね。




 そう言った。


 先輩は最初何を言われたのかわからないという顔をしていた。

 少しすると、その顔は涙でくしゃくしゃになっていった。


 俺はそんな彼女を優しく抱き寄せて、頭を撫でてあげた。……もう一人で頑張らなくていいんですよ。俺が居ますから……。


 先輩は俺の腕の中で、嗚咽を漏らしながらコクリと頷いた。


 守りたい。


 そう思った。


 好きにして良いというのなら、俺はそうしたい。

 前に進みたいと言うのなら、俺も一緒に進んであげたい。道に迷ってしまったら、一緒に迷ってあげたい。


 先輩が欲しかった優しさを、俺はあげたいんだ。


 気がついたら俺の目からも涙が溢れていた。……ちょうど良い、この体制なら、この姿を見られることもない。


 俺は先輩が落ち着くまで、彼女を抱き締めて……。











「も、もしもし……警察ですか……? 中学生と援交しようとしている不審者が……ええ……はい……」


 異常なく喫茶店の店員さんに通報された。


 ……え? そういう空気じゃなかったじゃん。ちょっと、まっt





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 あ、危なかった……。


 先輩の説得が無かったら今頃どうなっていたか。

 まさか『もしもし警察ですか?』エンドという物が存在するとは……。人生とは侮れないものである。


「あははははは! 悪いけど、面白過ぎるよツキトくん! まさか本当に説明する羽目になるなんて!」


 俺の隣で先輩は楽しそうに笑っている。その目の端にはしっかりと涙の後が残っていた。


 さっきの事を思い返すと恥ずかしい気もするが、この笑顔を引き出せたのなら、そのくらいは安いものだろう。


「ホント、ツキトくんに会えてよかったよ。……それで、これから僕はどうしたらいいかな? 正直言うと自棄になってたからこの先の事、何も考えてなかったんだよね」


 大胆な行動をするのはリアルでも変わらないんだな……。


 そうですねぇ、とりあえず先輩には俺のアパートに来てもらうとして……、役所に行って手続きしなきゃいけないですね。印鑑とか身分証明書とか持ってます?


「一応。……でも今日お休みだからお役所開いてないよね。そうなると……」


 来週あたり、また来るしか無いですね。

 そういうわけで、今日のところは我が家に行きますか。それとも、一度服でも買いに行きますか? 流石にジャージは……。


 そう言うと、先輩の顔が一気に赤くなった。やっぱり思うところはあるようで、恥ずかしそうに体をすぼめている。


「そ、それはわかるんだけど、僕そんなにお金持ってなくて……。貰ったお金もちょっとだし、無駄遣いはできないよ……」


 むっ。


 どうやら……自分の今の立場がわかっていないらしい。


 いいですか、先輩。今の貴女はワガママを言える立場には無いんですよ?

 大人しく可愛い服を買って貰って、好きなものを食べて、満足して我が家に来てもらいますからね?

 それで一緒に『Blessing of Lilia』にログインして遊んでもらいます。

 明日からも俺のお金で好き勝手やってもらいますから。覚悟してください。……わかったら行きますよ?


「なにそれ? 拾った子猫を拷問にかけるってやつかな? ……それじゃあ、きみの好きにしてよ。何でも言うことが聞くからさ」


 先輩は笑ってそう言うと、俺の手を握った。


 きっとまだ不安はあるのだろうけれど、それでも信じてくれたことが本当に嬉しかった。


「だから、これからも……よろしくね」


 新しい生活が、始まる。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 これは、俺と彼女のお話。



「そう言えばさ、第1部が終わったけど、ツキトくんはこれからやりたいことはないの? これからの目標みたいなの」


 ……え? ああ、ゲームの方の話ですか。

 一応やりたい事はあると言えばあるんですけど……、聞いても怒りません?


「ものによります」


 それじゃあ、怒られる覚悟で言いますが……。


 リリア様が仲間になったじゃないですか。それで調べてみたんですけど、女神様って条件を満たせば仲間にできるそうなんですよね。……信者なら。


「あー、なるほど。うん、大体何が言いたいか、わかったよ。でも一応最後まで聞いてやる」


 あ、はい。

 で、なんかリリア様だけを仲間にしておくと、他の女神様達から白い目で見られそうで嫌なので……。


 いっそのこと女神様全員を仲間にしちゃおうかなぁ……、なんて。


 ……。


 ……す、すいませんでした。先程の発言は撤回しますのでその冷めた目はやめてください。……え? 何ですか? 屈めばいいんですか? んぅ……!?


 先輩の言うとおりに身を屈めると、顔を両手で捕まれて、そのままキスをされた。

 離れた後に見た彼女の顔は、ニンマリと楽しげに笑っていた。


「この浮気者め……でもゲームの中だけなら特別に許してあげる。けど……現実では、僕だけだから、ね?」


 りょ……了解しました……。




 ━━そして、『浮気者』と子猫と女神様達が最強へと至る物語……。





「大好きだよ、ツキトくん」




『浮気者』の俺。女神達の祝福を受け、子猫と共に最強になる 完

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