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嫉妬の《アミレイド》

 俺達が転送されたのはアミレイドの戦場、その上空だった。……ああ、また落ちるのね。

 って、いつぞやの記憶に囚われている場合ではない。


「捕まって!」


 どうしようかと考えていると、ドラゴムさんが手を伸ばしてきた。俺は咄嗟に手を伸ばし、その毛皮に抱きつく。……危ないところだった。もふぅ……。


「いや、そこは腕に捕まろうよ!? ……もふぅ」


 先輩に怒られた。が、すぐ隣でそう言われても説得力に欠ける。


 いやいや、先輩も抱きついてるじゃないですか。みんな考える事は一緒なんですよ。どうせ背中にはチップが……。


「いるよ! なんでわかるんだよ!? ……そんなことよりも下……」


「そんなことで済まされても困るのだけど……」


 困っているドラゴムさんから地上を見ると、思わず叫びそうになるような光景が広がっていた。


 骨がうじゃうじゃと蠢きひしめき合っている。そして、それを道を作るように押し止めながら、クランメンバー達が戦っていた。


「あそこに立っているやつ見えるか!? 確認できた名前は嫉妬の《アミレイド》……間違いない、邪神だ!」


 道の先には、王冠を被った男性が立っている。あれがこの国に巣食っていた邪神なのだろう。……先輩!


「うん! ドラゴム! 僕とツキトくんであの王様みたいなのを倒しに行くよ! 少し高度を下げて!」


「わかったわ!」


 ドラゴムさんはゆっくりと地面に近づく。俺達はタイミングを見計らい、地面へ着地した。


 そして、まっすぐに、敵を見据える。


「ツキトくん、肩に乗せて!」


 先輩がこねこに戻って俺の肩に乗ってきた。これで出撃準備は完了である。

 俺はクランメンバーが作ってくれた道を駆け出した。


「そのまま聞いて。走りながらでいいから、もう一度神技を使えるように捧げ物をした方がいい。……『密約』は使えそう?」


 クロークとの戦いで神技を使ってしまったが、今からアイテムボックスの中にある物を捧げれば、また発動することはできる。


 しかし……。


 すいません、『密約』は無理です。けれど『契約』ならいけそうですね。先輩は使えますか?


「うん。……だから、まずは僕の魔法で削れるだけ削ってみる。『追約』も使うよ。出し惜しみはしない」


 わかりました。止めは任せて…………!?


 俺は今、走りながら捧げ物を女神様達に送っている。徐々に《アミレイド》との距離が詰まるにつれ、その顔がハッキリと見えてきた。


 …………イケメンだ。


 青年と少年の間。刹那の美しさを感じた。

 常日頃から、お前イケメンだよな死ねよ、と思っているヒビキよりも、綺麗な顔をしている。


 つまり、この世すべての男の敵だ。


 ……待てよ?


 コイツ、『嫉妬』の邪神って言ってたよな?

 つまりは、カルリラ様が一目惚れして、手酷く裏切られた相手のはずだ。その時と見た目が違っているかも知れないが、あの見た目ならそんな事もできるだろう。


 しかも、名前からしてアイツ、この国の王様でしょ?

 え? 顔が良くて、金があって、権力もあるって? ……ふざけんなよ、クソが!


 何か? 俺への当て付けか? きっと毎日幸せな事でしょうねぇ! そんだけイケメンならモテモテでしょうねぇ!


 けれど、俺にはめっちゃ美少女の先輩がいるもんねー! あんだけ甘えてくる可愛い子なんて滅多に存在しねぇよ! 俺の方が格上だし!


「なんか、やたらカッコいいね……。見た目に騙されないよう気をt」


 殺す。


 先輩がカッコいいだって?

 俺そんなことで言われた事無いんだけど? なんなのコイツ? 女が惚れる要素しかないの?


 カルリラ様のハートを射止めたうえで、先輩のおメガネにもかなう存在?


 もう殺すしかない。


 なんなんだ? 今までの俺を否定するかのようなこの存在は。

 やっぱ顔か? 顔なのか? 人は見た目が十割なのか?


 だが、それは俺が許さない。


 コイツが生きているからいけないんだ。こんな奴等がいるから俺達みたいな奴等は悲しい思いをする。


 だから殺さなければならない。


 俺は大鎌を構えた。ぜってぇ殺す。切り刻んで殺す。死んでも殺す。


 俺は間合いに入ったと感じた瞬間に、大鎌を振り下ろした。


  その首寄越せゴラァァァァァァァァァ!!


 掛け声と共に大鎌を振り下ろした。

 しかし、《アミレイド》はその手に持っていた杖で俺の攻撃を受け止めてしまう。


 舌打ちをしつつ一度距離を取る。

 どれ程の実力を持っているかわからない。今は様子を見るべきだと俺は感じた。


「まさか、私に刃を振り下ろす者がいるとは……思いもしなかった。何者だ? お前達は?」


 おっと。

 どうやらイベントが始まったらしい。この男の話を聞く気は全くと言って無いが、先輩が楽しそうなので、俺は口をつぐんだ。


「まさか……あの女の信者か? 私を誘惑し、殺したあの女の……」


 《アミレイド》はそう言いながら、杖を高くあげた。先端に付いてある宝石が輝くと、目の前に魔方陣があらわれる。


「ならば、死して会いに行くといい。そして、私が復活したことを伝えるのだ」


 その攻撃に俺が身構えた瞬間、俺を含めた周りの空間の時間が停止した。

 勿論、先輩の動きは止まっていない。


「『密約』発動! さぁ、やってくよ~!」


 肩の上で先輩がはしゃいでいる。

 そして、空一面に数えきれない程の魔方陣が展開された。

 上級魔法の様な大きい魔方陣では無く、小さい物がみっしりと浮かんでいる。


「数で攻めさせてもらうぜ? 『マジック・アロー』!」


 矢と呼ぶには大きすぎる先輩の魔法弾が《アミレイド》に向かって降り注いだ。あまりにも多い魔法弾でその姿は一瞬見えなくなってしまう。


 時間停止が切れ、俺が動けるようになっても、魔法が止む様子はない。……やりすぎでは?


「そんな事ないよ。魔法が止まらないってことはまだ生きてるって事だし。……さ、今度はツキトくんの番だよ?」


 ……了解です。


 俺は大鎌を構え直した。

 目の前は魔法によって砂が巻き上がっており、視界が悪く《アミレイド》の姿は見えない。つまりは、相手からも俺の事は見えていないはずだ。


 俺は『フェルシーの天運』を発動させた。

 そして、勘に任せて砂煙の中に突っ込む。


 『天運』は自分の運が良くなるスキルだ。何かをしようとすると、勝手に身体が動いたり、不自然に敵が攻撃を外すようになる。


 今なら例え目の前が見えなくとも、俺の攻撃は確実にあたるはずだ。……ここだ!


 俺は大鎌をおもいっきりぶん回した。


 すると、刃が何かに当たり鈍い音を響かせた。先程と同じような感触だ。防がれてしまったらしい。


 砂煙が晴れると、手に持った杖で涼しい顔をして刃を受け止めている《アミレイド》の姿があった。腹の立つ顔だ。


「なんだ、こんなものなのか?」


 そして、分かりやすい挑発をしてきた。……殺す!


 俺は連続して大鎌での攻撃を繰り返した。


 しかし、攻撃は当たりはするのだが、全て杖で防がれてしまう。まるで俺がどう動くのか知っているかの様だ。金属と金属がぶつかり合う音が響く。


 しかしながら、これでいい。


 俺の攻撃が通用しなくとも、先輩の魔法は外れる事もなく、通用している。耐性が高いようで大ダメージとはいかないが、確かに相手を消耗させている様だった。


 『天運』の効果が切れてもその状況は変わらない。


 俺の攻撃を《アミレイド》が防ぎ、その隙をついて先輩が魔法で攻撃する。魔法を使おうとしたならば、俺がすかさず斬りかかる。

 地味だが堅実に、俺達は勝利に近付いている……と思っていた。


「……少しはできるようだな」


 俺が攻撃を繰り出そうとした瞬間、《アミレイド》が懐に潜り込んできた。……は? 速すぎ……。


 そして、杖を俺の腹に腹に向かって打ち込んできた。

 その衝撃で俺は後方へと飛ばされてしまう。


「どれ、相手をしてやろう。これから世界を殺し尽くすのに、邪魔をされても面倒だからな」


 ゲホゲホと咳き込みながら、俺は不敵な笑いを浮かべた《アミレイド》を睨み付ける。


 もしかしたら、コイツは俺達が思っている以上に強敵なのかもしれない。俺はさっきの動きに反応する事ができなかった。


「ツキトくん……今の見えた? 僕でも目で追うのが精一杯だったんだけど……」


 先輩ですら、これなのだから本当に不味い事になった。こんな状態で『カルリラの契約』を使っても勝てるとは思えない。


 こう考えているうちにも、《アミレイド》は俺達に迫ってきている。……戦うしかない。


 死んでもすぐに戻ってきて戦えばいい。

 不死身の冒険者達を舐めるなよ?


 俺は大きく踏み出して、大鎌を振るった。《アミレイド》は杖でその攻撃をいなすと、先程と同じように懐に潜り込もうとしてくる。


 何をやられるか予想が付けば避ける事はできない訳ではない。


 俺は身体を回転させ、刃を引き寄せながら、攻撃をギリギリで避けた。

 しかしながら、俺の苦し紛れの攻撃は当たることが無く、虚空を切り裂く。


 そして、その隙に《アミレイド》は態勢を建て直し、再び俺に接近してきた。……やっべ!?


「無様だな……!?」


 俺は咄嗟に両腕で身体を守ろうと身構えたが、《アミレイド》の頭めがけて何かが飛んできた。


 それは見事に直撃し、彼の攻撃の手が止まった。体制を崩されたせいで《アミレイド》はふらつき地面に倒れる。


 頭から地面に着地したそれは、全力で俺に向かって走ってきて、身体を駆け登り、当たり前の様に肩の上に乗った。


「やぁ、お困りみたいだったから助けに来たよ?」


 プチヒビキである。おそらく中身は本人だろう。


「え、ヒビキくん!? なんで君が……」


 先輩は慌てたように声を上げた。……ホントだよ。何しに来たんだよ?


「だから、助けに来たん……だよ……。今から……二人……を強化する……兄貴には僕が……みーさん……には……チャイムから……。よろし…………すぴー……」


 え。


 ヒビキ? おーい、弟~?


 返事はない。どうやら肩の上でお昼寝してしまったらしい。どうしようも無い奴である。


「……寝た!? ホントに何しに……! ツキトくん!」


 !!


 いつの間にか、俺のすぐ目の前に《アミレイド》が迫ってきていた。こちらに杖の先端を向けている。


「終わりだ」


 そんな短い呟きが聞こえると同時に、《アミレイド》は杖を突きだしてきた。


 しかし……。


「……なに?」


 俺はその杖をつかみ、《アミレイド》の動きを止めた。先程とは違う俺の動きに目の前の男は驚きを隠せないようであった。


「そのままだよ! 『マジック・レーザー』!」


 その隙を逃さずに先輩の魔法が彼を直撃した。まっすぐに襲いかかる魔力の奔流に耐えきれず、《アミレイド》は吹き飛ばされた。


 どうやら、先輩の強化も完了したらしい。


 ヒビキとチャイム君、『怠惰』の『ギフト』による強化だ。

 自らのステータスを他人に譲渡する能力。


 これ以上に心強い支援はない。


「まさか……、僕達ついに覚醒した……?」


 しかし、先輩は勘違いしていた。

 自分の力に驚いて、身体をぷるぷると震わせている。


 さて……。


 俺は吹き飛ばされた《アミレイド》に向かい大鎌を構えた。


 ここまでお膳立てされて、負けましたとは言えないだろう。

 何度でも死ねることは確かだが、それではここまで頑張ってくれた奴等に申し訳無い。


 悪いが……勝たせてもらうぞ。


 俺は『カルリラの契約』を発動させる。


 今までに無いほどにステータスは向上している。きっと先輩も同じだろう。


「よし……! 今なら勝てるよ! 行こう!」


 了解です! 先輩!


 俺は地面を蹴り、大鎌を振り上げる。



 いまだに笑みを浮かべている、嫉妬の邪神に向かって……。


・覚醒

 そんな便利な機能はない。毎日の努力がものをいう世界である。心強い味方がいるのも同じ話だ。

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