『パラサイト・アリス』~遊びに行く少女人形~前編
※今回の本編はヒビキ視点となります。ご了承ください。
~PL ヒビキ~
『紳士隊』はワカバさんのクランだ。
実質解散状態ではあったが、何かに使えるかもしれないと残してあったらしい。
今回の戦争に参加する際に、声をかけてもらい、ボクもこのクランとして使ってもらうことになった。
他のメンバーは、メレーナさん、シーデーさん、アークさん、シバルさんの、計6名となった。
たったこれだけの人数で、陣地戦に勝てるのだろうか?
そう不安に思っていたのだが、最初の一回戦目で、その考えは吹き飛んだ。
ワカバさんは戦場に配置されているNPC全員を『紅糸』により強制支配し、いきなり敵陣を引っ掻き回す。
その混乱に乗じてシーデーさんとアークさんが敵陣侵入、トラップを仕掛けたり、爆弾で直接敵を排除。
メレーナさんは単身で突っ込み目についた人間から、生モツや脳ミソを抜き取って殺しまくっていた。
シバルさんは戦闘には向かない神父の様な格好をしているくせに、戦車を殴り飛ばしていた。しかも、敵を殲滅できる能力を持っていたので、一番活躍していたかもしれない。
そして、足りない戦力はボクの『パラサイト・アリス』でカバー……と、少ない人数でありながら、破竹の勢いで『紳士隊』は陣地を占領していった。
そして、最後には『ペットショップ』及び『魔女への鉄槌』と同じタイミングで、最終局面に突入することができたのだった。
「あぁ……、誰か……、誰か助けて! よってたかってこの人達が暴力を振るうんです! しかも楽しそうに笑って………。お願いだから助けてぇ~!」
そして、また兄貴が何かしたようだ。いい加減、自分の行いを省みて欲しいものである。
「はっはっは! ツキト君は相変わらずですなぁ! 遂にリリア様の信者にもなれたと聞いていますし、楽しそうで何より!」
ボクの隣でシバルさんが高笑いをした。……ええ、本当に楽しそうです。なんか死にそうになっていますけどね。
「ふふふ、一生懸命生きている証拠ですな!」
そんな感じに、シバルさんと話していると、急に通信が入った。
各街に配置している、プチ人形達である。……どうしたんだい?
『ますたー、ますたー! 緊急事態です! サアリドが……、アミレイド全域が占拠されてしまいました!』
……え? 誰に占拠されたの? キーレスさん達、ザガードのクランも戦争をしてるはずだろう?
『機械ではありません! ……骨です! 骸骨が街を襲っているんです! 助けてくださぁい! クランも襲われてまぁす! ますたー!』
クランも……!? まずい、残機の格納庫が……。
そこでボクは咄嗟に『紳士隊』のクランチャットを起動させ文章を打ち込んだ。
『クランが襲われた、守りに行く』
ただそれだけ打ち込み、ボクはクランに帰還した。
けれどクランに着いたら『紳士隊』の皆さんが集合していた。……あれ? どうしたんです? ダメじゃないですか、戦争に参加しなくちゃ。
「いや、お前なに言ってんだよ!? あれは一緒に行くぞって意味じゃねーの!? おれ達のクランでもあるんだからな!」
ワカバさんに怒られた。
ボクはプチに呼ばれて来ただけですので。それにここを占拠されたら、自由に残機召喚できなくなるんですよ。ボクにとってクランは生命線なんです。
なので、ボク一人でなんとかしようと思っていたのですが……。
「いや、アンタねぇ……。そういう一人で突っ走るところ、兄貴に似てどうすんだい? アンタの場合、ストッパーがいないからたちが悪いよ……」
すいません、メレーナさん。兄貴にはボクの方からよく言っておきますので。全く、周りに迷惑かけんなって感じですよね。
「逆やで!? ヒビキはんが怒られる側やからね!? しれっとツキトはんを生け贄にすんのやめーや!」
シーデーの肩の上のアークさんが突っ込みを入れてきた。そんな狐さんをなだめるように、シーデーは尻尾をナデナデしている。
「アーくん、そんな怒鳴っちゃダメだよ? ……それよりも、クランが襲われているってわりには静かだよね? ちょっと偵察して来ようか?」
そういえば、襲われていると言っていた割にはクランのロビーは静かだ。受付嬢として雇っているNPCも通常通り働いている。……もしかしたら、外で何か起きているのかもしれないですね。シーデーさん、言った通り偵察をお願いします。
「うん! アーくんと一緒に行ってくるよ!」
そう言うと、シーデーさんの姿が消えた。どうやらアークさんとのコンビが板についてきた様である。
「こういう時にチップがいれば便利なんだけどねぇ……。ヒビキ、アンタの偵察人形どもの目からは何か見えないかい? 視界も共有できるんだろ?」
メレーナさんがボクの肩に乗って、顔を足でグリグリと踏みにじった。新しい趣味に目覚めそうになるが、グッとこらえる。……わかりました、一瞬無防備になるんで、守ってくださいね?
目を閉じて、配置しているプチと視界を同期する。
すると、驚くような光景が映った。
クランの屋上に配置した人形が見ていた光景は、街中を闊歩するスケルトンの群れだった。街のNPCはバリケードを作り、その進行を抑えているらしい。
だが、スケルトンの数が多すぎる。
数えるのもバカらしくなるほどの多さだ。数百体はいるのではないかと思うほど、街中に骸骨が蠢いている。これでは、バリケードなど無意味だろう。
他の街にもこれが出現しているらしく、違う人形と同期しても、同じような光景が映っていた。……これは。
「おい! どうだった? 何が見えた!?」
ワカバさんの声を聞いて、ボクは同期を終了し、確認できた光景を説明した。
説明している間にシーデーさんも偵察を終え、帰ってくる。
「見てきたけど……生きている生物に無差別に襲いかかっているみたい。建物にも入ってきているけど、うちのクランのNPCは強いから、すぐには占拠されないと思う……」
つまり、時間の問題ということなのだろう。何かしらの対処をしなければ、スケルトン達にこの街は蹂躙されてしまう。
何故こんな事態になってしまったのか。
考えるまでもない。
こちらの国にいる邪神の仕業だ。
クラン『シリウス』を筆頭に、ザガードのPLが戦っているはずだ。
ならば、ボク達は兄貴達に合流するべきか……?
「なんだ、お前達も死んだのか?」
気がつけばミラアさんがいた。何の気配も無く現れたので、ワカバさんが驚いて叫んだ。……これでネカマロリコンじゃなかったら、素直に可愛いと思えたんだけどなぁ。
しかし、そのあとすぐにクランロビーがPLで溢れ返り、ボクもぎょっとした。
「これは……まさか全員がやられたのですかな? ……いや、ツキト君やゼスプ君達は戻って来ていない様ですが……いったいどうしたと言うのです?」
まぁ、兄貴ならうまくやるだろう。
悪運が強いにもかかわらず、ドツボにハマるのがアイツだ。無駄に生き残って、苦しい目にあっているに違いない。
しかし、何故こんなに被害がでてしまったのかは気になる。
「ふむ……その反応を見ると、『紳士隊』は先行して戻ってきていたのか。私達は『メテオ・フォール』で死んでしまってな……」
ボク達は戻ってきたクランメンバーとお互いに情報交換をした。
開幕に『メテオ・フォール』を使われたという話は驚いたが、生き残っている人員を聞いて、全員がほぼ同じ事を感じていた。
負ける要素無いのでは? ……と。
「どうにでもなるっしょ。むしろ敵の方が可愛そうだわー」
「なんつっても、みー様がいるしなぁ……」
「可愛いし、強いってチートだよね……。なんで『死神』なんかに騙されちゃったんだろう……」
「あっち残ってるの、クランの初期メンばっかだし……勝ったな。よし宴会の準備しよーぜ。焼きそば屋に予約とってくるわ」
「あ、じゃあ俺、余興の準備してくるから……あ、りんりーん! ライブやってよー!」
そんな感じで、クランメンバーの方々は早くも勝利ムードである。
まぁ、基本自由が売りの集団だし、これも悪くはないのだが……。
ボクはまだ遊び足りねーんだよ。
はい! お前らちゅーもーく!
これからの行動について話があるから、よく聞けこの野郎共。聞かねー奴は孕ませてやるからな。
ボクが酒場のテーブルの上に立ち、メンバー全員に向かって叫ぶと、一瞬で空気が凍った。ワカバさんは土下座していた。
あー……お前らの言うとおり、ザガードの邪神は兄貴達がぶっ殺すから問題ない。これは確定事項だ。
けれども、まだアミレイドの邪神は生き残っている。『シリウス』が戦っているが、街中には既にスケルトンが溢れかえっている。役に立たない奴等だ。……言いたいことはわかるだろ?
アイツらなんかに任せてられるか。
邪神の首はボク達が取る。……殺しに行くぞ。
ボクの宣言をクランメンバー達はポカーンと口を開いて聞いていた。
まぁ、来ないのならそれでいい。これはボクのワガママだ。勝手に一人でぶっ殺しに行く。
それに、味方を気にせずに好き勝手暴れるのも楽しそうではある。
そんな事を考えながら、ボクは自然とニヤリと口元を歪めていた。
……さて、善は急げだ。
聞いた話では王城に邪神がいるそうじゃないか。それなら今から殴り込みに行ってやるよ。ふふふ……。
「待ちな。……私もついていってやるよ。アンタだけにいい顔をさせるつもりは無いねぇ」
一人で行こうとすると、メレーナさんに止められた。……いいんですか? 別にクランで待ってても……。
「はぁ? 私が行くって言ったら行くんだよ! おら! なにしてんだいワカバ! アンタも行くんだよ! 『紳士隊』は強制参加だ!」
「……! はっ! 直ちに!」
土下座をしていたワカバさんはガバッと立ち上がり、敬礼をした。何故かワカバさんはメレーナさんに弱い。
「あ、もちろん私も行くよー? アーくんも行くよね?」
「せやね、ここで待ってても暇やし」
「右に同じ……ですな!」
どうやら本当に『紳士隊』は全員参加してくれるようだ。ありがたい。
「あ、じゃあ俺も……」
「てめぇ、抜け駆けか!? ひ、ヒビキ! 俺も行くよ! 仲間だしな!」
「行かないわけ無いじゃん! ……これで苗床にするのは許してくれるんですよね……?」
「バカっ……! 思っていても言うんじゃねぇよ……!」
そして、何故かはわからないが他のメンバー達も付いてきてくれるらしい。……あれ? 皆さん顔色が悪いですけど……大丈夫です?
「お前……あんな顔をされたら、誰だって断れないに決まっているだろう……。ツキトとそっくりな顔をしていたぞ……」
そう言ってミラアさんがボクの肩を叩いた。若干顔がひきつっている。
え? そんな凶悪な顔していました? ……まぁ兄弟ですので。
でも、ボクは常識人なのでおかしな事はしませんよ? イェイ。
「……何を言っているのか私にはわからないな。まぁいい、どうする? 既にキーレスにマーカーを付けている。今すぐにでも現地に飛ぶことができるぞ? 今すぐに行くか?」
さすがミラアさんだ、仕事が早い。
もちろん今すぐ…………いや、ちょっと待ってください。いいことを思い付きました。どうせなら一気に攻め混みましょう。
「……何をする気だ?」
ああ、別におかしな事をする訳じゃありません。ちょっと……。
ボクの中に入ってもらうだけです。
そう言って笑顔を作ると、全員に引かれてしまった。……なんで?
・スケルトン
コイツらはちょっと特別製。通常のスケルトンよりも邪神の加護が付いているので、かなり強くなっている。そしていくらでも増える。