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傲慢の……

 戦争は最終局面となり、俺達のクランは無事にザガード陣地の最奥までたどり着いた。


 前面には王城が建っており、それを守るようにして、敵兵士達が陣形を作っている。もう少しで戦いが始まるのだろう。


 そんな中、俺は戦場に転送された瞬間に確保されてしまった。羽交い締めにされているらしく、もがいても身動きができない。


 あまりにも早い展開に、俺は追い付けそうになかった。……あ、なんかめっちゃもふもふしてる。これドラゴムさんだ! やったぁ! 新鮮なもふもふだぞぉ! ドラゴムさぁーん!


「ツキト君、暴れちゃ駄目よ?」


 ……はい。


 全てを諦めた俺を先輩が見上げている。一緒に飛ばされたようだ。


「ツキトくんさぁ……また何かしたの? 女神様達からは何も聞いていないから、相当上手くやったね?」


 誤解ですよー。俺は先輩に言えないような事はなにもしてないんですよー……。

 ところで先輩もどうですか? 一緒にもふもふしましょうよ。


 と、先輩をもふの道に引きずり込もうとすると、俺達の前にチップとケルティがニヤつきながら現れた。……どうしたの?


「いやぁ? なんかツキトとみー先輩。ずっと部屋に居たみたいだけどなにしてたのかなぁ? って思ってな。よかったらアタシ達に教えてくれよぉ?」


 チップは楽しそうにそう言うと、俺の右胸をつつき始めた。……あ! お前能力で位置を確認してたな!? プライバシー位守れよ!


「なに言ってんのさぁ? アナタの甲斐性が無いからでしょう? 自分の家に持ち帰れば良かったのに。そんなんだからみーちゃんが私のところに相談しに来るんだよ? えいえい」


 ケルティも面白そうに俺の左胸をつつき始める。……ええい! やめろぉ! それに何の意味がある!?


 俺は二人に抗議をするが、やめる素振りも見せず、一切表情を変えずにツンツンとつついてくる。なんか怖くなってきた。


「あのね、ツキト君。私はもう貴方達の関係をとやかく言うつもりは無いの。……けどね、大事な用事がある直前までそういう事をしているのは、どうかと思うのよねぇ……? イチャつき過ぎじゃない?」


 ドラゴムさんの腕に力が入る。……え、もしかして、俺このままツンツンされて死んじゃう感じ? 微妙にHPが減っていってるし……ちょ、それは嫌だ! そんなダサい死に方は勘弁だぞ!

 助けてください、先輩! 俺達の無実を証明して!


 しかし、先輩も俺の腹をツンツンし始めた。


「僕の服脱がそうとしてたくせに、なに恥ずかしがってるのさ。結果的にはマッサージだったけど」


 俺のHPの減りが著しく加速した。


「え? みー先輩、結局何もされなかったんですか? 2時間ずーっと同じ座標に居たからこっちとしては、凄いドキドキしてたんですけど」


「年齢設定を変えてなかったんだぁ。じゃあずっとツキトとマッサージしてたの? 絶対イヤらしい触りかたされたでしょ?」


「そーなんだよね、すっごいエッチな触りかただった。こっちが気を許すとツキトくんはすーぐに調子に乗るんだから。危ないから、僕がちゃんと監視してなくちゃ……」


 3名は楽しそうに話しているが、その間にも俺のHPはガンガン減っていく。そろそろ2割を切りそうだ。ヤバい。


 あぁ……、誰か……、誰か助けて! よってたかってこの人達が暴力を振るうんです! しかも楽しそうに笑って………。お願いだから助けてぇ~!


 俺が助けを求めると、周りの奴等は目を逸らした。


「いや~、陣地作んないとな~」


「忙しい、忙しい……。あとどのぐらいで戦争始まっかね?」


「あー、何も見てない、聞こえないー」


 コイツら……、後で晒し首にしてやる……。


 俺がシカトする奴等に殺気を送っていると、クランメンバーを掻き分けて、一人の男が現れた。ゼスプである。


「みーさん。『ペットショップ』、『魔女への鉄槌』及び『紳士隊』全員合流しました。攻撃の準備も……って、何してるんだよ? 今度はなにしたんだ、ツキト?」


 やったぁ! もふ魔族だぁ~!


 助けてくれ! 今おもちゃにされていたんだよ! このままじゃ死ぬ! ツン死する!


 俺はタイミング良く現れたゼスプに命乞いをした。きっと真面目な話をすれば少しは耳を貸してくれるだろう。


 しかし、ゼスプは露骨に嫌そうな顔をしてこちらを見ている。


「えー……。まぁ、一旦手を止めてくれないと、話ができないから止めるけどさ……」


 そんなゼスプの慈悲のお陰で、俺は晴れて解放された。……畜生、マジで何がしたかったんだよコイツら……。


「で、ゼスプ。何かあったの? 今日はあのお城を攻め落とせば終わりだろ? キーレス達も今日でクリアできるって言っていたから、何も問題は無いだろ?」


 こねこの姿に戻った先輩は、俺の肩に登りながらゼスプに質問する。


「はい、確かに問題は無いのですが、今日に関しましては、少しいつもと違った仕様になっていまして……」


 何がだよ? いつも通り、ウィンドウさんに戦場に飛ばされたじゃねぇか。そんな変わったところなんて……あれ?


 俺は辺りを見渡しハッとした。

 人がかなり多い。俺達以外のクランのPL達もこの戦場に集まってきているようだ。

 たしか、一つの陣地に入れるクランの数は決まっていたはずじゃあ……。


「どうやら、戦争に参加しているクラン全てが集結しているらしいんだ。しかも、この場所は戦争専用マップじゃなく、通常マップだ。……もし死んでも、自力で復活することができるだろう」


 つまり、クランからこの場所に戻ろうと思えば戻れるって事か……。

 じゃあ、人が少なくなったら、強制的に全員クランに帰されるってルールはどうなった? あれはあのまま?


「そこまではわからない。けれど、自力で復帰できる以上、そうしなければ勝てない相手が現れても不思議じゃない。……おそらくレイド戦になるんだと思う」


 レイド戦か……。


「もしかして、その相手が邪神なのかしら? 長い戦いになりそうね……」


 ケルティとチップにもふもふされながら、ドラゴムさんは不安げに呟いた。


 邪神ですか……そうだ。チップ、お前の能力でこの戦場に邪神が紛れていないか確認できないか?

 名前に『嫉妬』か『傲慢』が入っているはずだから、一目でわかるだろ? ちょっと調べてみてくれよ。


「んー? ちょっとまってな……」


 チップは一度ドラゴムさんから離れウィンドウを操作する動作を見せる。すると、俺達全員の前に戦場の様子が映されたウィンドウが現れる。


 ……?


 チップ、仕事が早いのは良いけれど、いつもみたいに地図だしてくれよ。じゃないと敵の詳細が見れないだろ?


 そう言ってチップ見ると、驚いた顔をして首を横に振っている。


「ち、違う! これアタシの能力じゃない! あと、ウィンドウ出そうとしても反応しないんだ!」


 は? マジ?


 俺もウィンドウさんを呼び出してみるが、いつものメニュー画面が出ず、戦場を映している動画しか出てこない。


 どうしてこうなってしまったのか不思議に思っていると、ウィンドウの動画に写っている兵士達が道を作るように左右に移動した。


 そこには、口髭を蓄えた軍服をきた初老の男性と、勇者の『クローク』の姿があった。……イベントかな?

 まぁ、何かの演出だろうと判断した俺は、その動画を黙って見ることにした。


 初老の男性が口を開く。


『アミレイドの冒険者達よ……。よくぞ我が国の兵士達を蹴散らし、この儂の前まで姿を見せてくれた……』


 その顔は悲痛に染まり、何かを悲しんでいるように見える。おそらく、この人物がこの国の王なのだろう。


『儂の言葉を信じるかはお主達に任せるが……、これから伝えることは、全て事実である。……お主らは……騙されているのだ』


 騙されている……? 誰に?


『停戦の協定を先に破ったのは我が国ではない。お主達『アミレイド』の国王だ。奴から戦争の申し出があったのだ。故に我々『ザガード』も、その宣戦布告に応じたのだ。……しかし』


 ザガード王は重々しく頭を垂れた。そこから一つの水滴が落ちる。


『やはり、間違いであった……! お主達がここまで来れたということは、多くの町や村、人々が蹂躙された事に他ならない……! 長きに渡って維持されていた平和は失われてしまった……!』


 キッと涙に濡れた顔をあげると、ザ・ガード王は両手を広げ高らかに宣言する。


『この戦争は……我々の敗北だ! しかし、どうか慈悲を戴きたい! 我が首を捧げよう! 故に! 帝国民に救いを』


 ざくり。


 演説を続けるザガード王の首もとから、剣の切っ先が生えてきた。

 誰かが背中から王を刺し殺したのだ。……いや。


 誰か、などではない。


 あの場所でそんな事をできるのは一人しかいない。


 勇者の『クローク』。


 彼が無表情で王を刺し殺していた。


 王は力尽き、ゴトリと地面に横たわる。そして、ミンチにはならずに、灰になって風化していった。……深淵属性の武器なのか?

 勇者の武器が……?


『くだらない……。こんなものが王を名乗るなど、甚だおかしいと思わないかい? 女神の尖兵諸君?』


 この感じ……まさか……。


『王とは孤高にして頂点であらねばならない。ぼくはそう思っている。そして、その者に支える兵士は従順であるべきだ。……そうだろう?』


 クロークはスッと右腕を上げた。すると、後方の兵士達が直ぐ様銃を抜き、自らの頭に銃口を突き付け━━。


 引き金を引いた。


 そして、全員が真っ白な灰になって風に流されて行ってしまう。


『……素晴らしい。君達こそがぼくの誇りだ』


 そう言ってクロークは、にちゃっとした気味の悪い笑みを浮かべている。……そうか、やっぱりお前がそうなのか……!


『さて、自己紹介をしよう。冒険者諸君。ぼくの名前はクローク。勇者の『クローク』改め……』


 俺は動画から目を離し指示を出した。


 全員がウィンドウに気をとられ、何が起きるか予測していない。


 ビルドー! 属性防御を展開しろ! 全員、防御するんだ! 『祝福』が使える奴は使う準備を……!


『傲慢の《クローク》。お前達が言うところの━━邪神にあたる存在だ』


 そう言い終わると、ウィンドウは強制的に終了し……。



 空全体を埋め尽くす、巨大な魔方陣が現れるのだった。


・今回は助けにはいけない……。でも、きっと君達なら勝てるはず。

 頑張って。

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