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『アーマーズ』

 『アーマーズ』と呼ばれるロボットの見た目は、ロボと言ってもかなりシュタイリッシュな見た目をしていた。


 俺はロボットと言ったが、それを有識者が聞いたら『ロボじゃねぇ! アーマーだ!』とか怒られそうな見た目である。


 その見た目通り、彼らは俊敏な動きでこちらの陣地に接近してきた。


 予想外の敵の出現により、俺達の陣地は━━━━。


「ひゃっほー! りんりんー! かわいいよー! ひゅー!」


「R・I・N! R・I・N! りんりん! ひゃー!」


「音楽で平和を届けるりんりんは最高だよぉー! もっとおパンツ見せてぇ!」


 いつも通りであった。……タビノスケェ! なんとかしろぉ!? もう始まってんだよ!


 俺は親衛隊長のタビノスケを呼んだが、返事は帰ってこない。できれば隊長からの鶴の一声で何とかしてほしいのだが……。


「にゃああああああああああああああああああああああああ!!!」


 期待は叶わず、猫?の一声が飛んできた。タビノスケが発動した『ギフト』の能力による、巨大化及び発狂である。


 異常に肥大化した触手の塊が、ギョロリと巨大な目玉を露出した。そして、身体中に口のような器官を生成し、戦場全域に届くほどの叫びをあげる。


「ロリロボッ娘はどこじゃああああああああああああああああああ!!! 触手らせろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 性癖全開、パーフェクトタビノスケ爆誕だ。


 必然的に生まれてしまった悲しき生物は、触手らせろという謎の言葉と共に『アーマーズ』へ突撃して行った。……お前らぁ! タビノスケを支援しろ! 無駄死にだけは絶対にさせるな!


 俺は味方に呼び掛けた後、『グレーシーの追約』を発動させ、敵陣に大量の魔方陣を出現させた。


 発動! 『ライトニング・ストーム』!


 魔法の発動と共に、魔方陣から電撃が回転しながら巻き上がっていった。機械に魔法が効く事は実証済みであるし、範囲魔法なら他のPLも狙うことができる。しかも、電撃属性なら足止めも可能だ。


 進軍が止まっている内に対策を……。


『悪くない……。が、その程度では止まれんなぁ!』


 キーレスさんの声が聞こえると、電撃の渦から『アーマーズ』が飛び出してきた。見る限り損傷している機体はない。


「っく……、ボサッとしているな! 無反動をぶちこめ! 地の利は我々にある! 少しでも弱らせるのだ!」


 犬派組のチャイム君が大声で指示をだす。

 すると、陣地から愛好会メンバー達がロケットランチャーを肩に担いで飛び出した。


 しかし、敵の『アーマーズ』達も巨大な銃を構える。……不味い! ビルドー!


『ビルドー ( ̄▽ ̄)b』


 チャットが返って来るとほぼ同時に、ビルドーが巨体を揺らし、ロケットランチャー部隊の前に出た。そして、両腕の大盾を地面に突き刺し固定する。


 それとほぼ同時にお互いの射撃が始まる。


 空間を打ち震わせ、ロケット弾が一斉に発射された。数十発の弾頭が敵に向かって飛んで行く。

 『アーマーズ』はそれを撃ち落とそうと、こちらの陣地に向けマシンガンを撃ちまくる。


 ロケット弾は何発か落とされてしまったが、敵に多少の被害を与える。それに対して、マシンガンの銃弾は全てビルドーに誘導され、全弾が命中してしまった。


 ……そう、ビルドーの『プレゼント』のデメリットがこれだ。


 話す事ができないという事と、能力を使いターゲットを引き受けている間は、敵の攻撃が外れない、自己犠牲の能力である。


『成る程……。全員、進軍停止。目標、ロックゴーレム。射撃用意……撃て!』


 おそらく、その特性に気づかれたのだろう。敵の一斉射撃が始まった。


 大盾が銃弾を弾く音と衝撃が陣地に響く。人体に当たれば、全身を吹き飛ばすような大きい銃弾が、地面に散らばっていった。


 ビルドーも目に見えるように消耗していく。


「『ブレッシング・ヒール』!」


 だが、ゼスプの支援により体制を持ち直した。……攻撃分のMPは残しておけよ? お前は最終兵器なんだからな?


「わかっているさ。……そんな事より、このままじゃビルドーの盾の方が持たない。オレはビルドーの回復に専念する。その間に攻撃してくれ。みーさんは?」


「……ツキトくんの変態行為のせいでしばらくは無理……。だるい……」


 やべぇやり過ぎた。


「ツキト……ちゃんと優しくもふらなきゃ駄目だろ。強引にもふもふしたら、みーさんの身体の負担になるんだからな?」


 ゼスプはやれやれと言う感じに俺の肩に腕を回してきた。言っている事はよく分かるのだが、四六時中ドラゴムさんに引っ付いているお前が言うの?って感じだ。納得いかねぇ……。


 俺はそんなイライラを込めてゼスプを引き剥がす。


 ええい、離れろ。俺も反省してるっつの。それより、こうなったら逐次戦力を投入していかないと、あっという間に押しきられる。


 それに、タビノスケが何体か相手にしているが、あれじゃあ多勢に無勢だ。俺は先輩と一緒に支援に行く。


「農場長! お待ち下さい!」


 俺が前線に出ようとすると、それをチャイム君が呼び止めた。振り替えって彼の顔をみるが、何故か眠たそうな目をしている。


「俺に考えが……ふぁ~……あります! 貴方のような戦力が……前に……出る、のは……まだ早いぃ。われ……われにぃ……おまか、せぇ……すぴー……ぴー」


 てか寝た。……おぉい! 比較的まともなお前が寝てどうする! 俺を置いていくなぁ!


 俺は地面に横になったチャイム君の肩を掴んでガンガンと揺さぶる。しかしながら、全く起きる気配がない。


 え、ゼスプ、これどうなってんの? チャイム君こんな奴じゃないでしょ? 魔法で起こして!?


「ん? 今ビルドーの回復で忙しいからちょっと待って。……って、チャイムのそれ、寝てる訳じゃ無いよ。タビノスケ見てみな」


 は? タビノスケ? なんで?


 俺はゼスプに言われた通りに、前線で戦っているタビノスケに目を向けた。今は親衛隊の面子と共に『アーマーズ』やそれを守る歩兵達と戦っている。


 タビノスケは巨大化した触手で数隊の機体を足止めしていたが、急にピタリと動きを止めた。


 そして、伸ばしていた触手を本体部に戻し、激しく脈動した。……何あれ!? 5割増しでキモい!?


 俺がドン引きしていると、タビノスケの形状が変化する。その様子になにかを感じ取ったのか、キーレスさんが叫んだ。


『う、撃ち方中止! そこのエイリアンに狙いを……!? ターゲットが変えれないだと……? くっ……! 目標同じ! 撃ち方始め!』


 号令により、射撃目標を変えようとしたが、ビルドーの能力によりタビノスケの変化を止めることはできなかったようだ。


 相手が手こずっている内に、更に激しく触手が蠢き、人型へと姿が変化していく。その腕部分にはブレードが付いた触手が何本も垂れ下がっていた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! きたでござるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! にゃあああああああああ!」


 タビノスケが叫ぶと、大気がビリビリと震えた。


 ござる口調が戻ってきたと言うことは、『憤怒』のデメリットの狂化が無くなったのかもしれない。しかし、その大きさは変わっていないので、ステータスは上昇した状態なのだろう。……何があったの?


「チャイムが『怠惰』の『ギフト』を使ったんだ。自身の全てのステータスを、誰か一人に貸すことができる。……あんな変化をするとは知らなかったけどね」


 そう言われると、『怠惰』の邪神が同じような事をしていたような気がする。自分の行動を封印して、自らの子供を強化していた。


 成る程、これが『怠惰』の切り札か。


「触手プレイでござるぅ! 鉄屑どもがぁ! ふんにゃああ!!」


 若干狂気が残っているタビノスケが、触手で『アーマーズ』を一機絡めとった。四肢を拘束され、みちみちと締め上げている。


 必死に抵抗しているらしく、囚われた機体はもがくが振りほどく事ができないようである。

 その足掻きが癪に障ったらしい。タビノスケは拘束した機体を武器の様に振り回し、他の『アーマーズ』を破壊していった。


「ロリロボ娘を出すでござるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 破壊された機体からはパイロットが抜け出し、タビノスケを目の前にしてガタガタと震えていた。狂気と恐怖によって動けないのだろう。


 異様な光景だ。


 ちらりとタビノスケの正面が見えたが、胴体に血走った大きな一つ目と、歯茎がむき出しになった歯が並んでいる。味方だと思っていても背筋に寒気が走るような姿だ。


 そんな化物がロボットと戦い、人間をプチプチと潰していく。……って、完全に俺達の方が悪役じゃねーか。アイツ絶対侵略にやって来た宇宙人だよ。


 と、俺が驚いていると、金属質な物が弾ける音がした。


 どうやら、遂にビルドーの大盾が突破されたらしい。砕け散った盾がビルドーの周りに散乱している。


『ビルドー よもやこれまで……後は頼みましたぞ?』


 クランチャットにより、ビルドーからの遺言が飛んできた。……すまないな。ゆっくり休んで……ん? HPは問題ないよな?


「ああ、たった今、回復したばかり……」


 俺とゼスプが不思議に思っていると、地が割れんばかりの轟音が起きた。

 耳を押さえながら驚いていると、目の前に山が出来上がっていく。いや、違う。



 ビルドーが雄叫びと共に━━━━巨大化した。



 ……お前の『ギフト』も『憤怒』だったのかよ!?


 ビルドーはタビノスケと同じくらいに大きくなると、敵陣地に向かって走り出す。見た目からは想像できない速さだった。


「GAaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 そして、叫びながら近場にいた『アーマーズ』を岩の拳で殴り付ける。

 その圧倒的な質量の前に、機体はひしゃげ、パイロットごと押し潰されてしまい、爆発してしまった。


 ビルドーはそのまま『アーマーズ』を殴り続けている。……何て事だ、ピンチになったら巨大化して反撃するとか、完全に日曜朝の悪役である。


『まさか『アーマーズ』を破壊するとは! ならば……!』


 キーレスさんの言葉と同時に空に戦闘機が数十機程現れた。……いや、普通の戦闘機よりデカイ気がする。


 ……爆撃機か!


『巻き込んでも構わん! 爆殺しろ!』


 しかも相討ち覚悟ときたか……。


 俺達の戦法で、一番問題なのは上空からの攻撃だ。


 いくら強固な陣地を作っても、その防御は目の前からの攻撃しか防ぐことができない。

 しかもあの数だ、ケルティやチップが落としていっても、被害が出るのは目に見えている。


 というか、さすがトップクランだ。全て破壊したつもりだったのに、まだこれだけの爆撃機を保有しているとは……完全に想定外な光景だった。


 しかも、これが全てでは無いと言うのだから驚きである。



 まぁ……。



 全部落とすんですけどね?



 陣地の後方から一つの影が飛び上がった。


 それは大きな翼をはためかせ、大空へと舞い上がる。


「私の出番ね! 待っていたわよ!」


 ドラゴムさんだ。毛皮からはチップとケルティが顔を覗かせている。


「ドラゴムの姉さん! やっちゃってください!」


「ドラゴムさんもふもふ~。アンズちゃんよりもふいかも~」


 ……うちの対空部隊はいろいろと問題があるな……。


 だが、実力はお墨付きの3名である。

 しかも、ドラゴムさんは毛皮に誰かを格納していると、ステータスが大幅に強化されるのだ。


 ドラゴムさんの毛皮が純白に輝く。


 そして、開かれた大きな口には徐々にエネルギーが溜まっていき……。



 爆撃機に向かって、それは放たれた。



 レーザーブレスは天空を切り裂くように横薙ぎに放たれ、爆撃機を撃墜していく。あまりにも威力が強すぎて、当たった機体から光の粒子になって消えていった。

 運良くブレスに当たらなかった爆撃機も、チップの射撃により、どんどん落とされていく。


 あっという間に、爆撃機は全て消えてしまった。


『成る程、ここまでか……』


 キーレスさんの声が聞こえた。


 最終兵器と宣言した『アーマーズ』も徐々に数を減らしていき、自滅覚悟の攻撃も防いだ。


 こんな状態ならば、諦めの言葉くらい漏れるのは当然だろう。


 ……だから、俺は。



 なぜそんなにも、キーレスさんが楽しそうなのか理解できなかった。



『ここまで強いか! 『魔王軍』! それなら私が出るしかないではないか! ははははは!』


 その声に『アーマーズ』が反応する。……なんかめっちゃ慌てているな。


『ダメです! 貴方は出ないでください! イメージ壊れるんで!』


『ワタシ達で食い止めますから! なんとかするからやめて! リーダー!』


『強いのはわかってるでありますから! というか、アンタ暴れたいだけでありますなぁ!?』


 残っている『アーマーズ』がタビノスケとビルドーの攻撃を避けながらキーレスさんの参戦を拒否している……が。


『黙れ……! こんな楽しそうな光景を見せられてじっとしていられるか……! キーレス……出るぞ!!』


 その声と共に、戦場の中央部分の地面が割け、なにかが飛び出してきた。

 しかもそれは、他の『アーマーズ』とは比べ物にならない速さで動き━━。



 ビルドーを一撃で打ち砕いた。



「ビルドー殿……! き、貴様ぁ……!」


 タビノスケは全ての触手をそれに向けて伸ばすが、一本たりとも触れることができない。

 その隙を付かれて、タビノスケは『アーマーズ』によって吹き飛ばされた。


『ははははははは! いい! いいね! 血潮が燃えるようだ! これが戦場か! これが『魔王軍』か! 楽しくなってきたなぁ! おい!』


 おそらく、今現れたキーレスさんが乗っている機体が、最高の機体なのだろう。明らかに、速さも力も段違いだ。



 ……段違いなんだけどさぁ。



 明らかに、逆さにした赤いバケツなんだよなぁ……。



 キーレスさんの機体は、逆さの赤いバケツにちゃっちぃロボットアームが付いている感じだ。がしょーん、がしょーんと、これまた安い音が出ている。


『さぁ! 来るといい! 『魔王』ちゃんに『死神』君! 存分に遊ぼうではないか……!』


 そんな、楽しそうに動き回るポンコツロボからご指名が入った。……先輩、具合はどうですか? 行けそうです?


「まぁ……いけそう……って! なにあの面白いの!? 今からあれと戦うの? ……よっしゃ! 頑張ろうぜ!」


 タイミング良く先輩も復帰したようだ。


 さて……、前線が崩壊したのだ。そろそろ俺達が出てもいい頃合いだろう。……ゼスプ、邪魔すんなよ?


「お、本当に出るんだ? ……そうだね、キーレスだったかも楽しそうにしているし、行ってきなよ。オレは支援に徹する」


 ゼスプは笑いながらそう言った。


 了解。

 そんじゃまぁ、俺達もキーレスさんを見習って……。



 楽しんでいきましょうか!

・『アーマーズ』

 サイボーグ専用の人型決戦兵器の『プレゼント』。自身のステータスや、搭載する兵器によって強さが変わる、戦闘補助を目的としたアーマー。魔法耐性も大きく上がるので、普通の兵器とは一線を画す性能を誇る。使用者のMPと所持金を消費して作成できるので、いくらでも量産可能。指揮官機体は全ての機体から情報が送られ、戦場においても強い。しかし、『アーマーズ』の所有者が機体に乗ると、見た目が残念になるのがデメリット。……がしょーん、がしょーん。

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