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誰にでも我慢の限界ってあると思うんですよ……誰にも、ね byツキト

 宴会が終了すると、キーレスさん達は帰っていった。


 帰るときには『帰還』のスクロールを使用していたが、こちらに来るときには戦闘機に乗ってきたらしい。空からダイブしたそうだ。


 なので、他のクランから目撃されていたらしく、今度は何をやらかしたのかと苦情がきたが、金を握らせて見なかった事にしてもらった。……流石にこのタイミングで他のクランに喧嘩は売らないよ?


 という感じに、他のクランに『シリウス』との話が漏れると厄介な事になるという事がわかったので、以後のやり取りはミラアを通して行う事になった。


 向こうの国と自由に行き来できるのは彼女位なものなので、苦渋の決断である。拷問する手間が増えるが、そこはケルティにお任せする……って感じでいいか?


「ケルティか……彼女は優しすぎてな。いや、満足できないという訳では無いのだが、もっと激しくして欲しいという思いが出てしまう……できれば私にだけ……って、私は何を言っているんだ。らしくもない。……もしかして、これは……恋……なのだろうか?」


 いや、それは恋じゃなくて変だと思うぞ。お前にそんな素敵な物が実装されていると思えない。


「いや、ツキトくん。その言い方はどうかと思うんだけど? あ、変っていうのは僕も同意だけどさ」


 戦争二日目。


 『シリウス』との交渉を終え、先輩の部屋に報告に来た変態に、俺とこねこの姿をした先輩は事実を突きつけた。


 ……とりあえず、先に拷問の要求をするんじゃねぇよ。お前に拷問するとケルティが怒るんだ。頼むから俺に関わらないでくれ。


 そう言うとミラアはほんのり頬を染め、少し驚いた顔をした。


「ケルティが? ……わかった。それなら先に交渉の結果を伝えるとしよう」


 何か知らんが納得してくれた。ケルティ様々である。


「『シリウス』に赴き、戦う日時とこちらの要求を伝えて来た。……まぁ、結果としては日時だけは了承してくれた、というところだな」


「……全力を出してくれる、っていう条件は?」


 先輩は眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をする。


 ちなみに、先輩からの要求は二つ。

 一つはすぐにでもクラン戦を行い、お互いの実力を確認したいということ。

 もう一つは、お互いに全力で戦うというものだった。


「無理だと言われたな。保有している兵器の数が少なく、全てを出すことはできないそうだ。どうせ、魔法で壊すだろう? ……とな」


 ……確かに、こんな戦争の序盤で残った数少ない兵器を使いきる事はできないだろう。

 邪神との戦いも考えれば尚更である。


「ん~……。どうせなら、少しは手加減するべきだったかな。まさか、こういう関係になるなんて考えてもいなかったよ」


 どうやら兵器の破壊は先輩の発案だったらしい……いや、そんなん考えるのこの人くらいか。本当に容赦の無い猫科だなぁ……。


 でも先輩、どうやらあちらさんにも、奥の手があるみたいですよ? 俺達はキーレスさんの『プレゼント』もわかりませんし。


 もしかしたら、戦車や戦闘機はオマケみたいな物だったかもしれません。そう思うくらい、キーレスさんからは自信を感じました。


 俺が先輩に対して意見を言うと、ミラアはなにか考える様に手を顎に当ててうつむいた。


「そう言えば、やたら忙しそうにしていたな。何かを溶接するような音も聞こえていた。……ツキトの言う通り、何か切り札を用意しているだろう。油断しない方がいいぞ?」


 溶接する音か……。

 兵器の修理なのか、何かを作っていたのか……。どちらにせよ覚えておいた方がいいな。


 チップの使っている装備を見る限り、銃火器の種類は多い。小銃にショットガン、重機関銃、ロケットランチャー等々。


 俺だって手榴弾を使っているし、何が出てきても不思議では無いだろう。


「つまり、その切り札に期待して我慢しろって? ……仕方ないなぁ、それでいいよ。でも、こっちは全力でいく。それを伝えておいてよ」


 どうやら先輩も納得してくれたらしい。若干不満そうではあるが……。


「了解した。……そうだ、一つあちらから要求があったことを忘れていたよ」


 ほう?


 俺はミラアの言葉に眉をひそめた。

 先に頼んできたのは『シリウス』からにも関わらず、更に条件まで付けて来るとは。

 こちらとしては、丁寧に対応したつもりだったのだが、そうやってナメられたというのなら仕方ない。


 ……トラウマ祭りだ。


 今日のうちに、ヒビキを奴等の体内に寄生させ……。


「頼むから『ドールズ・メイド』を連れて来ないでくれとの事だ。キーレスの奴が深々と頭を下げていたぞ?」


 ……させようと思ったけど、やっぱりやめてあげよう。そう言えば、何人か被害者の方達がいるそうだし。


 あー……ミラア、悪いけれどあっちに行ったら、俺の代わりに謝っておいてくれない? 弟が申し訳ありませんでしたと……。


「ん? まぁ、構わないが……。それでは、私は失礼する」


 そう言ってミラアは消えてしまった。

 『帰還』の魔法だろう。彼女は能力のおかげでどこにでもお手軽に移動できる。……アイツ、ちゃんと『シリウス』に移動しましたかね?


「まぁ、明日までにちゃんとメッセージを届けてくれればいいしね。……ところで、ツキトくんは今日の戦いはどうだった? 後半は任せちゃったけど?」


 今日は戦争二日目である。


 昨日は先輩の魔法が猛威を振るったということもあり、魔法対策を危惧して、俺やケルティが前線で暴れる事になった。


 敵の攻撃に関してはタビノスケやりんりん親衛隊が盾になってくれたので、遠慮無しに突撃したのだ……が。


 あー、やっぱり戦車とか戦闘機は厄介ですねぇ。飛んでる戦闘機はケルティが処理できましたけど、戦車は一撃じゃ倒せませんでしたし。


 なんで、やっぱり魔法を使うべきですね。

 何種類か属性攻撃してみましたけど、電撃がいい感じでしたね。結構大きな隙ができていました。……多分中の操縦主が痺れたか何かしたと思うんですけど。


「あー、やっぱり機械に対しては魔法の方がいいんだ。ゼスプやドラゴムもそんな事言ってたしね。それじゃあ明日までにサンゾーに対策を用意してもらうよ」


 先輩は笑いながら、しれっと無理難題をサンゾーさんに押し付けてしまった。……あの人大丈夫かな? 戦争が始まるにあたって、あの人の仕事は倍増したからなぁ……。


 何でも、サンゾーさんが武器を鍛えると魔法効果が付く可能性があるらしく、魔法を使わない近接職がこぞって武器の強化をしてもらっているとか。


 あんまり無理して身体壊さないといいけど……。


「ところでツキトくん。きみ……この状況について思うところは?」


 気がつけば先輩は俺の肩の上に移動していた。例のカルリラ様式次元移動である。……この状況について、ですか。


 俺は少し考えて口を開く。


 ……どんどん攻略するしかないでしょう。まだ邪神の件も、想像の域を出ていませんから。

 なので、まだ悩まなくともいいと思います。とにかく今はイベントを楽しみましょう。


「いや……そういう話じゃなかったんだけど。うーん……ちょっと、前見ててもらっていい?」


 どうやら、俺は先輩に対して的外れな事を言ってしまったようだ。

 そして、視線を前にしろということは、これから俺に何かをする気のだろう。この距離である、逃げることは不可能だな。


 なんだろうなぁ、猫パンチかな? 魔法で消し飛ばすというのもあるかも。腹が減ったと言って、いきなり噛みつくというのも経験上あり得ない話ではない……。


 つまり、俺ができることは死ぬ覚悟だけ、ということになるな。……よしっ!


 俺は全てを諦め、静かに目を閉じた。




 ふにっ。




 ……んお?


 頬に当たった予想外の感触に、俺は驚いて目を開けた。……なんだ今の? なんか湿ってたな。


 知らない感触ではない。なんというか、懐かしい感触だった。

 ……あ、わかった。実家の犬の突撃を受けたときと似ているんだ。


 何故かうちの犬は鼻先で俺の顔をつつきたがる。というか鼻先で俺を殴ってくる。


 その感触と似ていた……ということは、今のは、先輩の鼻先が俺の頬に当たったのだろうか? 先輩は犬ではなく猫だが。


「……次、ツキトくんの番ね」


 先輩は俺の肩から飛び降りると、美少女モードへ変化した。……俺の番?


 この状況……部屋に俺と先輩しかいない。そして、ミラアは魔法で出ていってしまったので、鍵はもちろんかかっている。

 そして、さっきの先輩の行動を人で考えたのなら、頬っぺにちゅーである。……ちゅーである。


 つまり……。


「この前の……続きをしたいなって……」


 そういうことなのだろう。


 この前の、ヒビキに邪魔された事の続きをしたいと仰っている。


 先輩は俺に向き直って、顔を真っ赤にしながら目を閉じた。……あー、これはいけない。いけませんよ、ホント。


 俺はそんな先輩をお姫様抱っこの要領で抱え上げた。予想外の出来事に、先輩は目を白黒させている。


「え……? な、なんで?」


 先輩、そういう可愛いとこ見せるのは駄目ですよ。しかも、恥ずかしいからって、こねこの姿でキスをするとか……。少し、ずるいです。


「べ、別に恥ずかしかった訳じゃないし! きみがすぐに気づかないのが悪いというか、なんというか……あの……」


 先輩は呟きながら、俺の腕の中でもじもじしていた。……あーもう、あーもう!


 俺は勢いに任せて先輩をベッドに寝かせる。そして、慌てている先輩の両手首を掴み、そのまま押さえ付けた。


 すると、先輩の身体からスッと力が抜ける。


「そう……だよね。続き……だもんね……」


 そう言って先輩は艶っぽい顔をしている。……目、閉じていてください。


「はい……」


 俺の言うとおりに先輩は目を閉じた。


 素直に言うことを聞いてくれた事に戸惑いつつも、俺はそのまま先輩に……口付けをした。



 やった。



 やってやった。



 が、キスと言っても、お互いの唇が触れただけの軽いキスだった。


 俺にとってはこれが限界で、すぐに先輩から離れる。……へたれましたよ、はい。


「……ありがと。えっと……ドキドキ、したね……」


 けれど、先輩は嬉しそうに微笑んでいた。


 よかった、勢いに任せてしまったが、先輩を怖がらせたりはしなかったようだ。……こちらこそ、ありがとうございます。あ、と……好きですよ。先輩。


 勢いついでにそう言うと、先輩は恥ずかしそうに目をそらした。そして聞こえるか聞こえないかの声で呟く。



「あの……まだ……続きしたい、かな……?」



 覚悟を決めよう。


 ここに来て、理性さんが空気を読んでお散歩に行ってしまった。

 そして、こんにちわ、リビドーさん。


 というか、こんなん言われて我慢できる奴なんていねーよ。しかも、ベッドに押し倒されてんのにそんなことは言ってくれるなんて完全に合意じゃねーか。


 俺は年齢設定を大人向けにした。


 もう迷いなど無い。リビドーさんが背中を押してくれている。


 だから、ここまで来たら止まることなんてできない。できる訳がない。


 という事で……。




 やってやr




 と、気合いを入れようとしたら、いきなり身体から力が抜け、俺は先輩の上に倒れ込んだ。……あっれー? リビドーさんどうしたんですか?


 気が付くと視点が変わっていて、俺は背中から血を流している俺を見ていた。



 俺の背中には包丁が突き刺さっている。



『あ、すいませんね。見ていたらつい……こう……我慢できなくて……。何ですかねー? 嫉妬ですかねー? ……ふふふ』


 カルリラ様からの神託が降りてきた。

 声は笑っているが、少しも顔が笑っていないカルリラ様が見えた様な気がした。……ひえっ。


『勢いに任せては駄目ですよ? ちゃんと清いお付き合いから初めてくださいね? ……わかりましたか?』


 あ、はい……。


 返事をすると、俺の身体は弾け、ミンチになった。


 先輩は緊張しているのか、未だに俺が死んでいることに気付いておらず、ずっと目を閉じたままだ。……仕方ない。


 俺は大人しくログインし直し、先輩に頭を下げに行った。

 その後、カルリラ様に怒られない程度に、仲良くイチャイチャするのだった……。


・嫉妬

 なんやかんや言っていたけど、少し思うところはあった模様。カル姉も素直じゃ無いよねー。






・……見ていたんですね?

 げぇ!? なんでここに!? ……違うんだよ? 別に二人の邪魔をしようとした訳じゃなくてね? 仲良いなぁと思っていたらいきなりおっ始めたから、目を離すタイミングを失ってしまっただけなんだよ。カル姉の犯行を見てしまったのも全くの事故だったんだ。それに何をしたか忘れちゃったなー。何をしたんだっけ? ははははは……あ、はい。修行部屋行きですね。お手柔らかにお願いします……。

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