いざ戦場へ
地獄よりかはましな光景だったと思う。
「撃て! 撃て! 逃げるな! こちらに近付けさせるな!」
「リーダー! あの触手の化物、銃が効いてません! 勝てませんよ! 俺は降伏します!」
「ええい! 戦闘機をもって来い! 少しでも抵抗しt」
はい、スパー。
俺は喚いていた敵の指揮官らしき人物に切りかかり、その首を刈り取った。それを見ていたサイボーグ君は咄嗟に銃を構える。
しかし、タイミング良く伸びてきたタビノスケの触手により、ぶちゅっと潰されてしまった。南無三。
「ライブの邪魔してんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! ブチコロスゾォォォォォォォォォ!」
タビノスケは例の如く『憤怒』の能力でステータスを強化している。大きさも20メートル程にまで巨大化しており、触手も戦場の隅々にまで行き届いていた。……相変わらずだなぁ。
元気に敵や味方を潰し回るタビノスケを眺めていると、俺に向かって銃弾が飛んでくる。
あちらのレベルが低いせいなのか、銃弾の速度はあくびが出るほどに遅い。……チップの射撃を見たら、コイツら腰抜かすんじゃね?
「ばっ……バカな!? 銃弾を避けただt」
それはもう聞き飽きてるから。
俺に攻撃してきた歩兵君に一気に接近し、大鎌を振り回す。
横薙ぎに振るった大鎌は、装備品ごと歩兵君の胴体を両断した。
「か……囲め! 『死神』を討ち取れば俺達の名も上がる! 化物は放っておくんだ!」
気がつけば、俺の周りは敵だらけになっていた。
少し敵陣に突っ込みすぎたかな? ……まぁいいや、めんどくせぇ。そっちがその気なら俺も好きに暴れてやるよ。
俺はニヤリと笑い、包囲している兵士達の顔を見つめていった。全員がまるでこの世の終わりみたいな顔をしている。……ちょっと~タビノスケ元気すぎるよ~、みんなドン引きしてんじゃんか~。
「う、撃てぇ!」
号令とほぼ同時に兵士達の小銃が火を吹く。
それを見て、俺は『フェルシーの天運』を発動した。
自分の運を操作してどんな攻撃も当たらなくなるフェルシーの神技は、戦場において多大な効果を発揮する。
現に、目の前から飛んできた銃弾は、俺から逃げるように後方へと飛んでいってしまった。
「な、なぜ当たらない……」
がしゃり、と音がした。
見ると、兵士の一人が銃を地面に落としてしまっている。その表情は真っ青だ。
そして、だっと逃げ出してしまう。……逃げるのを追いかけたくなるのは、しょうがないよなぁ?
俺は高笑いをしながら敵陣へと突っ込んだ。銃弾が雨のように俺に向かってくるが、一発もかすりすらしない。
近場にいる兵士を切り殺しながら俺はどんどん奥へと進んでいく。逃げ出した兵士君は思っていたよりも足が速く、中々追い付くことができない。
あハハハハハハハハハハハ!! 待て待て待てぇ! 一緒に遊ぼうぜぇ!
俺の邪魔をしようと飛び出してくるPL達は全員切り殺した。というか、立ち向かってくる奴よりも逃げていく奴等の方が多い。
遊んでくれよ~、頼むよ~。
「ツキト! みーちゃんから撤退命令きたよ!」
と、敵を追い回していたら、翼を生やしたケルティが俺を迎えに来た。……もう準備いいの?
「うん、敵陣の奥にミラアのマーカー設置できたって。ほら、捕まって?」
ケルティは俺に向かって手を伸ばしてくる。
その手を掴むと、ケルティは翼を大きく羽ばたかせ、空高く浮上した。
下を見ると、敵陣営が慌てている様子が見えた。
どうやら、タビノスケの狂気散布で味方同士殺しあっているらしい。悲鳴や銃声が聞こえてくる。……もうこっちから手を出さなくても、死ぬんじゃないの?
「まぁ、勝利は確定だろうけれど……。みーちゃんが最初くらいは真面目に殲滅させたいって言ってたから。……と、発動したね」
敵陣地に多数の魔方陣が出現した。
『グレーシーの追約』で魔法の範囲を拡大したのだろう。もう逃げる場所なんて無いのではと思うほど、陣地が魔方陣で埋め尽くされている。
そして、魔方陣が一斉に反応し、そこから魔力の嵐が出現した。
絶叫も銃声も、ついでにタビノスケも一緒に、次々とPL達は力の本流にへと巻き込まれていった。
嵐が収まったあと、敵陣地にあったものは全て破壊されており、生き残った者は居ないようだった。
そこに巻き上がった残骸やPL達のミンチが土砂降りのように降り注ぎ、あっという間に血の海が出来上がる。
俺とケルティは黙ってその一連の流れを見ていた。いや、圧倒的な力にただ眺めていることしかできなかった。
まぁ、いろいろと思うことはあったのだが、とりあえず……。
地獄よりかはましな光景だったと思うよ?
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「いやぁ、中々爽快だったね。混乱している敵陣地に、魔法を撃ち込むのは結構スッキリしたよ!」
今日の戦争が終了して、俺達はクランへと戻って来ていた。
初戦の勝利を祝って酒場で打ち上げ中だ。……後、先輩は子猫の姿で葡萄ジュースをぺろぺろしている。やはり、美少女モードは恥ずかしいらしい。
……俺としては少し不完全燃焼なんですよねぇ。なんか途中からみんな逃げ出しちゃいましたし。もっとノリノリで足掻いてくれればいいのに……。
「いやいや……ツキト殿、うっすらと覚えているでござるが、相当恐怖を煽るような戦い方だったでござるよ? そもそも、戦場における大鎌とは、恐怖の対象だったような……」
同席しているタビノスケが何か言っているが、全く理解できない。俺は普通に戦っていただけである。……というか、お前の方がよっぽどおっかないわ。なんであんなに巨大化したがるの?
「別に好きでやってる訳では無いのでござるが……。強くなるには理性を捨てるしか無いのでござる……。あと、あれやるとすっげースッキリするのでござるよ……」
タビノスケがガバッと大口を開けて、そこに酒を流し込んだ。ストレス溜まってんだなぁ……。
そういえば、ワカバの奴はどこに行ったんですかね? 戦場にも居なかったみたいですけど……。
「ああ、ワカバくんなら『紳士隊』として参加しているよ。お陰で一気に3つの陣地を奪取できた。これなら順調に侵略できそうだね」
今回のイベントは互いの国の陣地を奪い合う戦いだ。
1日に一回敵の陣地と戦う事ができ、勝てばその陣地を奪うことができる。
しかし敵の陣地の数も結構なもので、素直に一個ずつ潰していくと、多方面から敵に攻められる危険性がある。
なので俺達はこの間の演習と同じ人員を各クランに割り振り、同時に進行していくことにしたのだが……、まさか『紳士隊』を復活させて参加してくるとは思わなかった。
「これで敵に囲まれて戦うって危険性が少なくなったね。ワカバくん曰く、戦場の兵士NPCを操れば数人で制圧できる、ってさ。ちなみにヒビキくんとメレーナもそっちに行ってるね」
……完全に特殊部隊ですね。
ワカバはNPCを強制支配できるし、ヒビキとメレーナはPLに対して即死技を撃てるからな……、本当に数名で殲滅できそうである。
足りない人員もヒビキが補うだろうし、特に問題は無さそうだな。
「出だしが順調でホッとしたよ。みんなも連携が取れていたみたいだしね。……うっかりタビくんを殺しちゃったけど」
そういえば巻き込んでましたね……。その辺どうなの? 気にしてる?
俺が質問すると、タビノスケは触手を振って否定する。
「いやいや、気にしていないでござるよ。あの状態になると周りが見えなくなるゆえ、巻き込まれたのは拙者の落ち度でござる。……実のところ、拙者も味方を潰しているので……」
それじゃあ文句も言えんわなー。
しかし、一応演習の効果はあったようで、味方同士で殺し合い、自滅するということはほとんどなかったらしい。
まぁ、タビノスケに関しては敵を殺した数が他の奴等に比べても段違いだから、今のスタイルでも大丈夫だろう。……見ていて面白いし。
「気にしていないならよかったよ。タビくんにはこれからも大暴れしてもらうからね。ライブのついでによろしく頼むよ」
「了解でござるよ。任せてほしいでござる」
そう言ってタビノスケは2杯目の酒を口の中に流し込んだ。……大丈夫? ペース速くない?
「ツキトくんもよろしくね? いつ強敵が出てくるかわからないから。……その時は一緒に戦おうね?」
もちろんですよ。
まぁ、そんな強敵がすぐに出てくるとも思えませんけど……。
と、俺も酒を飲もうとした。
その時である。
クランのロビー入り口から、武装したサイボーグ集団が雪崩込んできた。……何事?
その様子に、酒を飲んで盛り上がっていたメンバー達は驚き、目を点にしている。
サイボーグ軍団は統制された動きで隊列を組み直し、横一列にずらっと並ぶ。そこから軍帽を被ったPLが一歩前に出る。
「お楽しみのところ失礼する! 我々は『魔王』に用件がありここまで来た! こちらの話を聞くのならば何もしない!」
敵国ザガードのトップクラン『シリウス』の指揮官さんだ。彼の目は爛々と輝き怒りに燃えているように見える。
まさか直接乗り込んでくるとは……。
俺はそう驚きながら、ジョッキの中身を一気に飲み干すのだった。……あ、飲みます?
・特殊部隊
聞こえは良いけれど、蓋を開ければただのトラウマメーカーズである。『アリス』と『ティターニア』に挟まれて、彼女は正気を保っていられるだろうか……。
・飲みます?
飲んでいいの?