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番外編 アイドルに必要なのは夢でござるよ……

※活動報告に記載しましたが、今回は番外編となっております。ご了承ください。

「報酬が無いのはどうかと思うの」


 …………と、申しますと?


 俺はりんりんに呼び出されて、先輩と一緒にクランの応接室に来ていた。


 ソファーに座っている俺の対面には、りんりんが頬を膨らませてプンスコしている。プンスコ。


「ビギニスートの時もそうだったけど、この間の演習にも、りんりんに対してお給料が出ていないんだよ! どういう事なの!?」


 りんりんは『アイドル』という職業についており、歌や楽器を使って生計を立てるRPをやっている、小人のPLである。


 そんな彼女に俺は、ビギニスートでの野外ライブを要請したり、演習に参加するようにお願いしたりしていたのだ。


「いくらクランのお願いでも報酬が無いのは納得いかないよ!」


 えぇ~、ライブをする許可を出しただけいいじゃないですか~? ライブをやるとNPCに被害がいくのわかってる~?


 りんりんの『プレゼント』には周囲のPLとNPCを引き付ける能力がある。一度かかった事があるが、自然と足がそちらに向かってしまうような感じだ。


 そして、りんりんのライブにはほぼ確実に親衛隊長のタビノスケが現れる。


 なので、人を集める能力と、狂気を拡散させる能力が合わさり、集団トリップが引き起こされてしまうのだ。


 隣同士が殺し会う姿は中々に壮観ではあるが、そんなことを街中で毎度毎度やられてしまうと、こちらの後処理が大変なので、りんりんにはライブ禁止令が言い渡されていた。


「それはタビタビのせいなの! りんりん悪くないもん!」


 そう言って、りんりんはプイッとそっぽを向いてしまった。……いちいち可愛い仕草をしてくるな。やはりネカマか。


 と、思っていると、肩の上で黙って話を聞いていた先輩が口を開いた。


「りんりんちゃん。報酬って言っても、きみがライブをすれば勝手にお金が貯まっていくだろう? PLやNPCの数に比例してお金貰ってるよね?」


 え? そうなの?


 りんりんは先輩の話を聞いてばつの悪そうな顔をしている。どうやら、報酬はちゃんと出ていたらしい。


「PLが演奏している音楽とか、歌っている音楽を一定時間聞いていると、勝手に所持金が移動するんだよね。まぁ移動するって言っても、大した金額じゃ無いけど」


 へぇ……じゃあ俺達は知らないうちに報酬を渡していたんですね。じゃあ解決って事で。はい、解散解散っと。


 そう言い残し、席を立とうとするとりんりんが俺の足にしがみついてきた。大分必死らしい。


「待って!? た、確かにお金は貰っていたけど……りんりんが本当に欲しいのは、お金じゃないの! 人気……尊敬の眼差し……信仰心……そういうのがもっともっと欲しいの!」


 なにやらヤバイことを言い出した。……すまん、今ので関わる気が失せたわ。頼むから離れてくれ、マジで。


 俺はりんりんを振りほどこうとして足を動かすが、中々離れてくれない。

 そういえば、りんりんは真面目に修行に顔を出すPLだった。それなりに鍛えているらしい。


「話を聞いてくれないと、街中で勝手にライブするよ……? 最近はタビタビも強くなっているから、被害が出る前にライブを中止するのも難しいかもね……」


 しかもこちらを脅してきやがった。


「ツキトくん、話だけでも聞いてあげなよ。忙しい訳じゃないし。……というか、聞いてあげないと大変な事になる気がする」


 え~……、まぁ先輩がそう言うのなら……。


 俺はしょうがなく、ソファーに戻った。りんりんも俺の足から離れ、元の位置にへと戻る。……で? 俺達にどうしろと?


「さすがツキトっちは話がわかるね! それで、りんりんのお願いなんだけど……」


 りんりんの視線が俺を外れて、肩に居る先輩へと移った。

 どうやら、本当に用事があったのは俺ではなく、先輩の方だったらしい。


「みーちゃんを使わせてほし……ひゃうん!?」


 どういう意味だ、説明してみろ。もしもおかしな事を考えていたら……わかっているな?


 俺は瞬時に大鎌を取り出し、刃をりんりんの首筋に当てた。少し引けばコロリと首が落ちるだろう。というか殺す。今殺す。


「ハイ、ツキトくん。やりすぎです。納めて納めて……。それで、僕は何をすればいいの?」


 はーい。


 先輩に怒られたので、俺は大人しく大鎌をしまった。


「うぅ……おっかないよツキトっち……」


 おっかなくない。それより先輩の質問に答えろよ。早くしないと本当にその首刈り取るぞ。


 俺はりんりんを睨み付けた。


「ひ、酷い……。えっと……、お願いって言うのは、みーちゃんにもライブに出てほしいと思って……」


 りんりんは怯えながらではあるが、中々に面白い提案をしてきた。……ふむ、続けたまえ。


「え? あ、はい。……実は、テコ入れで新メンバーを探していたの。そんな時、魔王軍PVを見たら可愛い娘がいて、見つけたー! って思ったら……」


 先輩の美少女モードだったと……。


「そうなの! だから、みーちゃんが良かったらでいいんだけど、一緒にアイドルをしてほしいなと……」


 つまり、りんりんは先輩をアイドル活動に誘いに来たらしい。


 ……。


 ……アイドル衣装……激しい踊り……パンチラ……。


 先輩、これはイメージ向上の為にぜひ参加するべきではないでしょうか? 俺はいいと思います。というか、やってくださいお願いします。


「きみ、何か変な事考えていたよね? ……まぁ、別に断る理由は無いんだけどさぁ……」


 先輩はそう言って俺の肩から降りた。


 そして、美少女モードに姿を変えると、俺の腿の上に乗ってくる。


 俺は椅子になった。幸せ。


「わぁ! やっぱり可愛いよ! これだったらてっぺん目指せ……? み、みーちゃん、その左手の奴どうしたの……?」


 りんりんが驚いた顔をして、先輩の指にはまった『祝福の指輪』を指差す。


「これ、ツキトくんからもらった指輪なんだけど……。アイドルがこんなのしてたら不味いだろ? 僕としては面白い話だと思うんだけど……諦めてくれると嬉しいな。しかもこれ、外せないし」


 既婚者アイドルか……最初から寝取られているアイドルとか斬新すぎて、ファンの心を折にいってるな。面白いけど人気はでなそうだわ。


「そんなー……折角のダイヤの原石が……。これじゃあ最初からメンバー探しだよ……」


 ガックリと肩を落とし、りんりんは溜め息をついた。……ふふふ、すまんな。


「というか、僕じゃなくてもアイドルなれそうな人達いっぱい居ると思うんだけど? なんだったら、僕がみんなに声をかけてあげようか?」


 先輩の申し出は確実なものだった。一声かければ確実に希望者は集まるだろう。

 しかし、りんりんは静かに首を横に振る。


「できればこっそりとやりたいの。新メンバー発表! って感じでサプライズしたいし。……あーあ、可愛くて、やる気があって、人気が出そうな都合のいい娘、どこかにいないかなぁ……」


 そうだなぁ……。


 ヒビキに一体作ってもらえばいいんじゃね?


 俺が提案すると、ぎょっとした顔で先輩とりんりんがこちらを見てきた。


「つ、ツキトくん。弟を売りに出すのはどうかと……」


「え……どういう事なの……?」


 いや、アイツの人形って基本NPC扱いなんですよね。

 中身もNPCの時なら普通に可愛い感じですし。服も着替えさせたら好きな見た目に変えれるんですよ。……というか、先輩も服作って貰っているじゃないですか。


「え!? みーちゃんの服ってあの変態人形が作ってるの!? 何か変な事されなかった!?」


 ……弟よ。あまりおかしな事をするのは止めろと言っているだろうに。信用は大事なんだぞ……?


 俺は悲しくなった。


「別に? それに、これって見た目だけ変わってるだけのアイテムって事になってるし。作ってあった服を買っただけだよ?」


 まぁ、ヒビキは女性に対しておかしな事はしませんからね。あんなのでも紳士ですから。

 という訳で……わかったか、りんりん? あまりヒビキの悪評を広めるのはやめてくれよ?


「あんまり信用できないんだけど……。というか、ツキトっち。もしかしてさ、アイドルできそうな娘に心辺りあったりする? 差し支え無ければ教えてほしーなぁ」


 え? 先輩以外でアイドルができそうな奴? そんな事言われてもなぁ……。


 それなりに可愛くてやる気があって、都合がいい奴かぁ……。頼めば絶対断らないというと……。


「ツキトくん……下心は……無いよね?」


 無いですよ?


 俺が真剣に悩んでいると、先輩がにっこりとこちらを見つめていた。殺意が漏れていたので俺は慌てて否定した。


 でも……いるぞ、そういう奴。多分アイツらなら喜んでやってくれるだろ。いい奴だし。


「え!? 誰々? できれば、りんりんよりも可愛くなくて、現時点で人気な娘がいいんだけど!?」


 ……お前、ちょくちょく裏の顔を見せてくるね? まぁいいけど。


 で、候補なんだけどよ……。



 ワカバとシーデーはどうよ?



「……ツキトくん。それ真面目に言ってる?」


 先輩は目をじとっとさせて呆れた顔をしていた。……俺は大マジですぜ? 実はシーデーってニッチな奴等に大人気なんですよ?


 パッとみは女ですし、性格はいいですし、何を頼んでも「頑張るよ!」って返事してくれて、仕事も熱心にしてくれますし。……ドジをするのが玉に傷なんですけどね?


「ドジっ子でりんりんやヒビキくんともキャラが被ってない……。いけるかもしれないね、ツキトっち。……ワカバのセールスポイントは?」


 どうやらりんりんには思うところがあったようだ。……よし!


 ワカバは、ヒビキ被害者の第一人者として、ロリコン共からかなり同情されているんだ。だから。それなりの人気はある。


 しかも、アイツはお前のファンだ。きっと言うことも聞いてくれるさ。……しかも、意外に真面目なんだよな。会議とかでは積極的に発言しているし。


「そうなの? 結構いいかもしれない……いや、いいね! ありがとう! ツキトっち! ちょっと3人に声かけて来るよ! じゃあね!」


 嬉そうな顔をして、りんりんは応接室を出ていってしまった。……さて、俺達も帰りましょうか。


「……ねぇ、ツキトくん。本当に良かったの?」


 何がですか? 俺は嘘をついたつもりはありませんよ? 今紹介した奴等は、きっとりんりんの役に立ってくれると思いますし、すぐに歌って踊れるアイドルになって……。



「全員男の子なんだけど……本当に?」



 …………。



 ヒビキ→ネカマ

 シーデー→男の娘

 ワカバ→ネカマ

 りんりん→ネカマ?



 …………あー。


 確かに、言われて見ればそうだ。

 けれども、他にりんりんの要求に当てはまるような奴なんていなかったし……。


 ……大丈夫じゃないですかね?




 数日後、クランのロビーにおいて、りんりんによるライブイベントが開催された。


 そこにはお揃いの衣装を着た4人のPLが、楽しそうに歌い踊る姿があった。


 リーダー、りんりん。


 衣装係兼務のドールアイドル、ヒビキ。


 演出係兼務の男の娘アイドル、シーデー。


 おれっ娘、ワカバ。


 その四名の無駄に精練された動きは、クランメンバーを熱狂の渦に包み込んだ。


 タビノスケも、いつも隠している眼球と口を露出して喜び、遊びに来ていたパスファ様とグレーシー様も大いに盛り上がっていた。



 ……。



 いや……。



 お前ら、本当にこれでよかったの!?



 そんな、心からのツッコミには、誰にも反応してくれず、俺はただただ酒を煽るのだった……。

・ライブ鑑賞中……

 あひゃひゃひゃひゃ! 何あれ? なにおかしな事やってんのさ!? え? 中身は全員男? ……君達も好きだねー。おらー、パンツ見せろー! けつふれー! ……おっ!? グレーシー、見た? 今チラ見えしたよ! え? 酔いすぎ? ……気のせいだって! おら! もっと飲めー! 『浮気者』も飲めー! あひゃひゃひゃひゃ……。

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