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『魔王』と愉快な仲間達

 『Blessing of Lilia』。


 PL達はキャラメイク時に行われる性格診断により、問題を起こす可能性があるものは『ビギニスート』へ、真人間だと判断された場合は『バインセンジ』へと、それぞれスタート地点を割り振られるという。


 つまり、頭のネジが飛んでいる奴がプレイすることを前提に作られている、スタート時点でおかしいゲームである。


 そんな、最初の街が消滅されたり、隕石によって滅びたり、PLによって支配されたりする、こんなゲームの最新イベント、『人魔対戦~勇者の剣と王の錫杖~』。


 そのイベントが開始される前日、人間史上主義国家ザガードの各街において、巨大なウィンドウが出現した。


 そこに映し出されたのは、様々な種族のPL達。


 中央には、王座が置かれ、そこに黒い子猫がちょこんと座っていた。可愛い。


 その右隣にはフードによって顔を隠した大鎌を携えている男性が立っており、ニヤリと歪んだ口元が不穏な空気を出している。


 左には大きな魔術書を小脇に抱えた魔族が立ち、鋭い目付きでこちらを睨んでいる。その後ろには大きなドラゴンが丸まっており、寝息を立てていた。


 他にも、マフラーを巻いた厚着の女の獣人、大剣を背負った銀髪銀眼のエルフの少女、楽しそうに飛び回る赤髪の妖精。


 大鎚を肩に担いだ腹の出ているドワーフ、異様な存在感を誇るロックゴーレム。


 マリオネットの如く糸に繋がれたツインテールのメイド人形、そして、その糸を伸ばしている、短い金髪が特徴的なアマゾネスの幼女。


 二本の短刀を腰に付けたコボルト、巨大な触手を蠢かすこの世界の物とは思えない宇宙外生命体。


 在住しているPL殆どが人間種族であるザガードの者達にとって、その光景はとても奇妙なものであった。


 街中に不意に現れたそれは、嫌でも目を引く物であり、誰もが足を止めてその動画に目を向ける。


 ウィンドウが現れてまもなく、中央の子猫の口が開いた。


『……やぁ。ザガードのPL諸君。僕の事を知っている人達はどの位いるのかな? まぁ、知らなくてもいいのだけれどもね。……僕が聞きたいことは一つ。君達のクランを破壊したあのプレゼントは、気に入ってくれただろうか?』


 その可愛いらしい子猫の言葉に、PL達は驚き、声をあげる。


「え……あのテロって『魔女への鉄槌』ってクランの仕業だって聞いたけど……」


「あのこねこって……確か『魔王』だっけか? え、なに? あの噂って本当なの?」


「一介のPLと運営が手を組むわけないじゃん……。いや確信は無いけど……」


 ざわめきが大きくなっていき、ウィンドウの前には先程よりも多くのPL達が集まって来る。

 そんな彼等をNPCは不思議そうな顔をして見ていた。……彼等はPLのウィンドウが視認できないらしい。


『僕達はとても臆病でね。君達の保有する兵器は恐ろしい物だったから、破壊させてもらったよ。……それで、どうかな? 戦争への準備は順調かい?』


 ククッとこねこは笑った。

 明らかにウィンドウの前の彼等を挑発するような笑い方だった。


『あれで君達が諦めてくれれば、和平への道もあったのだけれどもね。まさか……ネズミを送り込んで来るとは思ってもいなかったよ。……見せてあげて』


 その言葉に、大鎌の男はコクリと頷き、画面外へと歩いていく。


 それをカメラが追っていくと、そこには両足を切断されたOLのようなPLが拘束具に吊るされていた。


 両腕を鎖で拘束され、服装は血で汚れていてボロボロであり、片目は潰れてしまっている。


 その姿を見て、聴衆は絶句してしまった。


『彼女は……え~と『シリウス』? とかいうクランに頼まれて、僕達の情報を流していたそうでね。多大な損失をもたらした裏切り者だよ。……情報を聞き出すのには骨が折れた』


 大鎌の男は吊るされた女の頬を叩き、彼女を叩き起こす。呻き声にを漏らしながら目を開く彼女は怯えた表情を見せた。


『お……お願いします……許して……ください。なんでもします……貴方の奴隷になって、一生尽くしますから……ウグッ!?』


 命乞いをしていた彼女の首を大鎌の男はつかんだ。彼女の顔はみるみる紅潮していき、苦しそうに歪んでいく。


『やめなさい』


 子猫の声がすると、男は首から手を離した。吊るさた女はゲホっゲホっと咳をして、懸命に酸素を取り込もうとする。


『さて、彼女の様なネズミを送り込んできた以上、もう和平への道は閉ざされてしまった。こちらにもメンツってものがあるからね』


 いまだに映像は変わらず、拘束された彼女の様子が映されている。あまりの恐怖にガタガタと震えているようだ。


『そうそう、僕は優しいからね。彼女は許してあげようと思うんだ。無駄な苦痛を与えるのは好きじゃない。……さ、楽にしてあげて?』


 その言葉に男は静かに頷き、その大鎌を構える。その様子に、次に起きる出来事が用意に想像できた。


『……! い、や。いや! やめて! もう痛くしないで! いやぁぁああああああああああああ!!!』


 ウィンドウから絶叫が響く。


 しかし、男は躊躇う事無くその大鎌を振るい、彼女の身体を袈裟斬りに切り裂いてしまった。


 その身体がミンチに変わるまで、彼女の悲痛な叫び声は消えることはなかった。


 その様子をPL達は青ざめながら眺めている。


『うん。これでいいね』


 カメラは再び子猫達を映し出し、大鎌の男も当初の配置に戻った。


『……僕達は全力を持ってこの戦争に臨んでいこうと考えている。その証拠に、君達には僕の本当の姿を見せてあげよう』


 そう言うと、映像が光に包まれ、ウィンドウが真っ白に染まる。


 徐々に光が収まっていくと、そこに子猫の姿は無くなっており……。


 代わりに一人の少女が玉座に座っていた。


 少女は黒いドレスを着ており、顔を仮面で隠している。そして、口元は不敵に笑っていた。可愛い。


『この姿を公にするのは初めてだ。だから、記念として、ちょっとした挨拶をしようと思う。快く受け取ってくれると嬉しいな』


 少女はカメラに向かって手を伸ばした。

 すると、その手を中心にして魔方陣が展開すると共に━━━。




 街の上空に巨大な魔方陣が現れた。




 PL達はそれに気づくが、ポカンとした顔で何もせず、ただ見上げているだけである。


『いくよ? 『メテオ・フォール』』


 魔法の発動と共に、魔方陣から隕石が現れる。


 PL達が動いたのはそれからだった。


 隕石が街降り注ぎ、至るところで絶叫が上がる。PL達も逃げようと足掻くが、必中の魔法を避けることができる訳も無く……。


 次々とミンチになって死んでいった。


 やがて隕石が降りやむと、そこに残っていたものは街の残骸と数多の血溜まりだけだ。

 生き残った者は、NPCも含めてどこにも見当たらない。


『どうだったかな? 僕達を敵に回したのだから、これくらいの攻撃なら過半数のPLは生き残っているだろうね。君達と戦場で会うのがとても楽しみだよ』


 何も無くなった荒野で、ウィンドウが寂しく放送を流し続ける。


『それじゃあ、僕の言いたい事はこれでおしまいだ……っと、そう言えば自己紹介がまだだったね』


 少女は椅子から立ち上がると、カメラを真っ正面に見据えた。楽しそうに笑っているのが、仮面の上からでもわかる。



『覚えておくといい……僕が『魔王』だ』



 ぶつり。という音と共に映像が終了する。


 それを最後まで見ることができたものは、誰も居なかった━━━━。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 はい、という訳で、魔王軍RPをしてみた訳なのですが。


 やり過ぎでしたね……。


 俺は先輩と一緒に今回のおふざけの結果を確認していた。


 ちなみに、ザガードの首都に潜り込んで動画を撮ってもらったのはヒビキである。隕石が降り注ぐ中、『リリアの祝福』を使ってビデオ撮影をしてもらったのだ。


 お陰でどうなったのかが確認できたのだが……。


「まさか、誰も生き残っていないとはね……。どうしようか? ふふっ」


 肩の上の先輩が楽しそうに笑った。……いや~、どうしましょうね?


 今回の動画は、先輩がザガードに攻撃して、魔王宣言したら面白いんじゃね? という俺の提案により作成された。


 どうやらザガードでは、『魔王』と呼ばれるPLが運営と癒着しており、好き放題ゲームを荒らしている、という噂が流れているらしい。


 元を辿れば、バインセンジ襲撃の際、俺がクローク君に魔王軍であることを、RPで名乗ったのが始まりだったらしいが……。


 まぁ、それは置いておこう。


 俺はそんな噂を利用し、魔王RPをしてイベントを盛り上げようとした。……ちなみに、みんなノリノリだったので、俺だけの責任じゃないぞ。ホントに。


 そして、当初はシーデーの力を借りて、ザガードの何も無いところで大爆発でも起こそう、と思っていたのだが……。


 ミラアの能力を使えば、マーカーからマーカーへと魔法を使う事ができるらしく、先輩の実力を直接見せる事になった。

 魔方陣も『グレーシーの追約』でバインセンジ以外の街に展開させたので、ほとんどのPLが先輩の魔法の餌食になってしまった。


 後、ミラアの配役については自分自身で割り振ったものであり、俺達は関与していない。あの演出も自分で考えて、自分で演じていた。……やっぱすげぇよ、アイツ。


「あの動画、ネットにも上げたらしいけど、めっちゃ荒れているらしいよ? ……あと、なんか僕にファンができた。まおうたま~、だって。ちょっと恥ずかしいね……」


 良かったですねぇ。……そういえば、なんでバインセンジだけ魔法を落とさなかったんですが? なんか、今は魔王お気に入りの街として恐れられているそうですよ?


「だって、フェルシーともうカジノ壊さないって約束したもん。この間約束したのに、すぐ反故にするのもどうかと思うからね」


 あー、そんな約束してましたね。


「ま、僕は約束を守るから。……君もそうだろ?」


 そう言って先輩は、俺の頬に身体を擦り付けて来る。それに対して、俺は優しく頭を撫でてあげた。


 勿論ですとも。

 どんな時だって俺が先輩を守って見せます。


 俺はウィンドウを表示した。


 そこに映し出されたの時刻は、23時59分だった。もう少しで日付が変わる。


「ありがとう……ツキトくん。それじゃあ、楽しんでいこうか!」


 俺が静かに頷くと、丁度ウィンドウに『戦場に移動します』というメッセージが表示される。


 はやる気持ちを抑えきれず、俺は大鎌を構えるのだった。



 戦争が、始まる。

・今日のフェルシー


「え、この街が冒険者に狙われているって? ……まぁいいんじゃニャイカナ? それも自由だニャ。思う存分暴れるといいのニャ。ミャアには関係無いのニャ。……は? 魔王との関与が疑われている? 討伐目標はアンタ? …………え? ミャアが目的ニャの? ちなみに、バインセンジの冒険者や住民は……。今回はミャアの味方!? ニャックも!? マジで!? この間復活させてくれたお礼? ……しょ、しょうがない奴等なのニャ~! よっしゃお前ら! ミャアに着いてくるのニャ! みんなまとめて、やってやるニャ~!! ニャッハー!」


 フェルねぇちゃんの戦いも始まる……!

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