初VRMMOは下心と共に
それは、携帯に送られてきた友人からのメッセージが始まりだった。
『リリアの祝福、ってゲーム聞いたことあるか?』
俺、長月 智は現在21歳、社会人として一人暮らしを満喫中だ。
趣味は今も昔もゲームである。
休み中、クリアしたゲームのやり込みに興じていたところ、高校時代からのゲーム好きな友人からそんなメッセージが送られてきた。
リリアの祝福。
その題名に俺はピンと来ることもなく、友人に返信する。
『いや、しらね』
素っ気ないかも知れないが、こういう風に話題を振ってくるときは何も言わなくともあちらから話してくるので、まぁこんなものだ。
『なんか一昔前のフリーゲームらしいんだけど、今度フルダイブVRMMOになるんだってよ!』
フルダイブ。
意識までも電脳世界に行くことができるという最新の技術だ。
電脳世界では五感までもが精巧に再現され、正に異次元に生まれ変わった気分になるらしい。しかも体感時間は引き伸ばされ、ダイブしている間の体は休眠状態と来たもんだから、忙しい社会人にも大人気だ。
後、MMOは……あれだ。
ネットでいろんな人が集まってワイワイ楽しむ系のゲームだと思った。
なんか協力してプレイするらしい。俺はやったことが無いので、よくわからないがこの認識で合っているはずだ。
フルダイブVR用の機材だが、当然の如く既存のハードとは比べ物にならないほど高価で、なかなか手の出せない代物である。更に、俺はクリアしたゲームをやり込むタイプのゲーマーなので、そういう物に尚更興味は無かった。
しかし、真面目に働いてきたおかげで、ある程度自由に使える位の貯金はある。俺も最新技術が詰め込まれたゲームに手を出そうと思っていたところだ。
と、いうことで友人のその話は中々興味をそそる。
しかしながら、俺には気になることがあった。
『フルダイブはいいな。ところで、一昔前のフリーゲームでそんなの聞いたことないし、そんなリメイクされるような名作なのか?』
送信。
フルダイブの技術を使う程、前作は人気だったのだろう。しかしながら、そんなタイトルが話題になったという話は聞いたことがない。
いや、もしかしたら知らないうちにそのゲームに触れていたのだろうか?
俺は少ない知識を総動員して『リリアの祝福』なるゲームを思い出そうとするが、全く思い出せない。
しかし、フリーゲームというワードでふと思い出した事があった。
高校時代にどうしても金がなく、どうしようかと悩んでいたときに「絶対面白いから」と、とある2Dのフリーゲームを紹介されたことがあった。
だが、紹介してきた奴が俺と趣味が合わなかったのでそのゲームを調べたところ、
「チュートリアルがイラッとする」
「街から出たら死んだ」
「一度はゴミ箱にぶちこまれる系RPG」
「ご主人様と慕って来る犬耳娘が増殖した」
……等々、あの高校時代の俺には理解が追い付かない評価が出てきた覚えが、あるような無いような。
頭を抱えていると携帯がなった。
『いや、普通の2Dゲーで個人で作れるようなゲームだったらしいよ? でも、内容が神過ぎで、なんだってできたらしい』
ああ、やっぱりあのときのゲームな気がする。
気がするというのは、評価を見て底知れぬヤバさを感じ、手を付けなかったため詳細を全く知らないからだ。
しかし、何でもときたか……。
『何でもって例えば?』
『んー、今俺も昔の攻略ページ見てるけど……、なんか初心者は人肉食べながら売春してお金を稼ぐのがオススメらしいよ?』
ぶっ。
俺はついつい吹き出してしまった。何を言っているんだコイツは。そんなゲームが存在してたまるか。
『自由通り越して世紀末じゃねーか。他には何できるん? てか世界観は?』
『食いついてきたな!? 世界観は一応中世っぽいね、画像的に。他にぶっ飛んでる内容としては、スライムと結婚して子作りとか、重要NPCを殺害して回るとか……』
『え、何それ? R18? エロゲー?』
『一応直接的な表現は無いそうだから全年齢だそうだったそうだよ。あ、一応はダンジョンに潜って宝探しとか戦闘がメインだそうだ』
『それ、VRで出せるのか?』
そこまで内容が過激なゲームを世に出すことが出来るのだろうか? しかもVRとなるとそれなりにリアルなゲームになるだろう。倫理的な問題が……。
『出るって。今掲示板見に行ったら祭りになってた』
無いらしい、表現の自由さいこー。
俺はパソコンを起動して某掲示板にアクセスする。
おお……。
出てきたスレッドの殆どに『リリア』という文字がはいっている。
昔調べた時は頭が痛くなるような評判しか出て来なかったはずだが、昔のファンが未だに盛り上がれる程には、名作だったようだ。
『言い忘れたけどβ版の動画ネットに上がってたよ』
『β版あったんかい。それを早く言えよ、相変わらず無能なんだから。お前ってやつは……』
『相変わらずお前、オレに対して辛辣ね』
そんな感じで友人と一通り戯れたあと、動画サイトをパソコンに表示させ、教えられたゲームの題名『Blessing of Lilia』と打ち込み検索をかける。
すると出て来る出て来る、
この動画は削除されましたと表示された画面が。
……うん、まぁそういうときもあるだろう。
権利者が消すよう動画サイトに呼び掛けたらそうなるわな。
……ん?
仕方ないと諦めていたが、二つだけ動画が残っていた。
どうやら開発陣が作ったPVのようだ。
一つはプレイ中のプレイヤーの目線の動画で、最先端技術をフルに使った映像なのだろう。
俺にはその光景が、ゲームの中の光景とは思えなかった。
風に揺れる草原も、照らされる光も、町を歩く人間も……素晴らしいリアリティだ。
これは期待できるぞ!
そう息巻いた俺はもう一つの動画のも再生させようとポインタを動かした。
題名は『Blessing of Lilia ~リセニングの女神達~』。
恐らく『リセニング』というのはゲームの舞台のことなのだろう。
色々と考えを巡らせながら動画を開く。
簡単に言うと、それはゲームに出て来る女神達の紹介動画だった。
まず天運のフェルシー。
運命の女神として紹介された彼女は、猫耳と尻尾、そしてバニーガールの様な服を着ているナイスバディなおねえさんだった。
いきなり、これ神様かよと突っ込んでしまったが、好きな人には堪らないキャラな気がした。
あと、申し訳程度の神様要素で天使のような羽が生えていた。
いきなりとんでもないものを紹介されて頭を抱えながら画面を見ていると、ローブに身を包んだ、いかにもファンタジーの賢者です、みたいなキャラが映る。
魔神のグレーシー。
魔法の神で、こちらは落ち着いた美人という感じだった。
長い銀髪と冷たい目付きが……グッド。肌の色は青っぽい感じで、頭に丸まった角が生えているのが、人外って感じだ。
うんうん、こういうのでいいんだよ。
次の女神は自由のパスファ。
旅と商売の神だそうだ。
見た目は大きな帽子とマントを付けた旅人のようだが、ちらりと綺麗な虫の羽が見え、人間がモデルではないのだろうと思った。
妖精とかかな? でかいけど。どこがとは言わん、でかいけど。
四番目は無双のキキョウ。
戦いと侵略の神。
戦いの神とあるだけに、その姿は片手に大剣を構え、もう片方にショットガンを構えた、羽を生やした女騎士だった。
端整な顔には斜めに大きな傷が走っている。その雄々しいデザインはロマンを感じざるを得ない。
これが暴れまわってたらカッコいいだろうなぁ……。
というか、中世舞台のファンタジーなのに銃火器が存在するのか、何でもありは伊達じゃないな。
そして五番目、輪廻のカルリラ。
輪廻転生、農業等人々の生活に関わる神様だそうだ。
その姿を見て、俺はPVを止め、直ぐ様ゲームとその本体の予約購入をネットで行った。
輪廻のカルリラ、いや、カルリラ様。
めっちゃ可愛い。
PVで流れたのは、大鎌を持った少女が畑に種を蒔いているシーンだった。
見た目は、黒い髪のショートカットで、あまり背は高くない、天使の羽が生えた村娘のような女性だ。
その表情は何か憂いを帯びているような感じで、何処と無く守ってあげたいと思ってしまう。
まぁ、簡単に言えば俺の好みだっただけなんだけども。
とにかく俺は誓った。
俺はカルリラ様の信者となり、『Blessing of Lilia』で農民として生きるのだ!
後、タイトルにもなってた聖母のリリアは神官っぽい、やっぱり羽の生えた、ロリっ子だった。
うん、かわいいかわいい、ちっぱいちっぱい。
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