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4話

 シイカたちと街を移動し、俺はとある場所にやってきた。

 海岸から近くにある工業地帯だ。

 紫色に染まった夜景のなか、黒い塔が何本も立ち並び、さまざまな色の光が点々とともっている。

 幻想的だがどこか不気味な景色だ。


「はぁ……はぁ……。

 い、イビルメアが……ここに?」


 運動不足の俺は、ふたりについてくるだけですでにへばっていた。

 

「ええ。幸い、ほかの魔法少女はまだ来ていませんわ。

 ワタクシたちが一番乗りですわね」


 絵理栖はすでにやる気満々だった。

 ゴスロリ服に巨大なハンマー。

 シイカも最初に出会ったときと同じ魔法少女の姿だ。


「ち、ちなみに人に見られたら大騒ぎになるんじゃ……」

「それは大丈夫」

「ど、どうして?」

「私たち魔法少女は、変身した瞬間から、現実世界とはずれた位相に存在する」

「……?」

「つまり、普通の人からは認識されなくなる。それはイビルメアも同じ。……たぶん、あなたも」

「はぁん。なるほどね(よくわからん)」


 詳しいことは俺の頭では理解できなさそうだが、とりあえず一般人の目を気にする必要はないらしい。


「はぁ……なんか緊張してきたなぁ。

 ほんとに現れるのかな?」


 俺はシイカに聞いた。

 シイカはこくりとうなずく。


「イビルメアが出現するのは、決まって日が落ちてから。だから私たち魔法少女は基本的に夜に活動する。この皇御市を巡回して、イビルメアを探索する。

 イビルメアを倒すのは早いもの勝ち。……でも、リスクはあるの」

「リスク?」

「倒せるかどうかはわからない、ということですわ」


 絵理栖の言葉には、緊張が満ちていた。

 頭の悪い俺でも、さすがにわかった。


 つまり、逆に命を落とす危険があるということだ。


 場合によっては、戦わないという選択肢もあるのだろう。

 それでも、魔法少女たちはイビルメアを倒してそのコアを手に入れて吸収しなければ、生き続けることはできない。


「そういえば、出会ったとき絵理栖はシイカを襲ってたけど……」

「それが、なにか?」

「もしかして、力が枯渇してるの?」


 ぴくり、と絵理栖が肩を震わせた。


「ワタクシは……まだ平気です!」

「でも……」

「ワタクシの心配より、貴方は自分の――」


 絵理栖が突然、俺に飛びかかった。


 いくら体重の軽い女子中学生でも、不意打ちをくらった俺はそのままアスファルトの地面に押し倒される。


「なななっ……!?」


 胸に押し当てられた暖かくやわらかい感触と、顔をくすぐるふわふわの髪に、俺は年甲斐もなく激しく動揺する。

 まさか俺の人生で、女子中学生に押し倒される経験をすることになるとは。

 

 いや、問題はそこではない。


 激しい銃声がした。


 目を向けると、シイカがアサルトライフルを構えていた。

 その銃口の先には――



「なぁに? アンタら手を組んだの? 超意外なんですけど」



 そこに、パーカーを羽織った女の子がひとり立っていた。

 フードからはオレンジ色の髪が覗いている。

 ちなみにかぶったフードは、猫耳付きだ。


 だがそれより、その子が担いだものに目を見張る。

 巨大な鎌。


 サイズは絵理栖のハンマーにも引けを取らない。

 まるで死神のような異形のいでたちだ。


阿左美(あざみ)……カレン!」


 シイカが叫ぶ。

 どうやらそれがこの子の名前らしい。


「まーあんたらうちらアルカナの魔法少女のなかじゃ、ジミめな面子だったもんね。

 ってか、そいつ誰?」


 カレンという少女がようやく俺に目を向ける。

 俺はあわてて立ち上がった。


「お、俺は……」


 なんと言ったらいいだろうか。

 だが、やはり俺の伝えたいことは、ひとつだ。



「俺は、きみたち全員を、幸せにしたい男だ……!」



 気まずい沈黙が広がる。

 大真面目に言ったのだが、だいぶ唐突すぎたらしい。


 だがやがて、カレンはくつくつと身体を震わせた。


「アハハッ!! アンタ、面白いじゃん!」

「そ、それはどうも……」


 褒められてつい照れてしまう。

 だが、どうやらそれは皮肉だったらしい。


 目の雨で火花が散った。


「え?」


 いつの間にか、絵理栖が俺の前に立ちはだかって、ハンマーを構えていた。

 それとカレンの大鎌が、激しくつばぜり合いをしている。


 目にも止まらぬ速さだ。

 まったく反応できなかった。


「邪魔すんなよ、ゴスロリ女!」

「いいえしますわ! 貴女のような人に……まだやらせるわけにはいきませんの!」

「え、あんたいつからそんなマジメキャラになったわけ?」


 カレンが鎌を振り払って後退。いったん距離をとる。


「まあ、いいけどさどーでも。

 あんたたちみたいな雑魚相手が集まっても、アタシには勝てないし」


 カレンが鎌を構え直す。

 シイカも絵理栖もやる気だ。


 俺は動揺のなか、思い出す。

 そうだ。俺が全員を止めれば。

 

 あのときのように、制止の言葉を発しようとしたときだった。



 突然、カレンの身体が空中に浮きあがった。



「はぁ!? な、なによこれ!?」


 カレンはじたばたしながらも、身動きが取れない。 

 なにか、巨大な手につかまれているようだった。

 

 あまりの出来事に、俺たちは全員、身動きひとつも取れない。

 はるか上空まで持ち上がったカレンは、やがてかすむような速度で地面へと放り投げられた。

 遠くの工場付近で激しい激突音が生じた。


「いったい、なにが……」


 カレンを放り投げた犯人が姿を現す。

 工場地帯のど真ん中に、ドス黒い巨人の姿が、ゆっくりと浮き上がる。



「イビル、メア……」



 シイカが絶望的な声でつぶやいた。



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