生前世界の観測者・四話「生前世界の観測者」
「奏…奏……………!奏ぇぇぇぇぇ!!!!!」
奔る私。迫ってくる、歪んだゲート。
ゲートを超えた。迫ってくる、教室の扉。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
大した強度じゃない。剣を突き立て、そのまま突っ込む。突き刺さった剣。勢いは止めず、全重心を込めて、扉を突き破る。
日本刀を振りかぶった紅美。動き出そうとする奏。ようやっと、扉を突き破った音に気がつく紅美。
「は───」
「遅ぉいっ!!!!!」
床を、思い切り蹴り出し、剣を右肩に担いで、滑空する。狙うは上段に構えることでガラ空きになった、紅美の左手───
「───はぁぁっ!」
!!!反射───嘘っ!?私を認識して振り向きながらの咄嗟の一撃なのに、頭を完全に捉えられてる───!!!このまま突っ込んだら当たる───ならっ!!!
両足で着地して床を滑りつつ、担いでいた剣を頭上に振りかぶり、剣の根本で紅美の攻撃を受け止める。受け止めたままいると、紅美は再び振りかぶろうと、上向きに力をいれる。
それを見計らっい、素早く一本下がる。そして───紅美が左手で振りかぶり、右手を添える直前。
剣を左手だけで持ち、腰を右に思い切り捻る。そのまま、紅美の左手首を───
「たぁぁぁっ!!!!!」
───貫いた。
「う───あぁぁぁぁっ!!!」
そりゃあ、身体の一部を貫通されたんだから、悲鳴くらい出る。当然、力だって入るはずもなく───今まさに振りかぶろうとしていた日本刀は、ガシャリと音を立てて紅美の背後に落ちた。
………でも、なんだろう。
「ん………ぁ………ぁぁぁ……………!!!」
本気で痛がっている紅美を見てると………違和感がある。剣で手首を貫通されてるんだから、泣き喚くのは当然のはずなのに───紅美ならもっと、余裕な表情のままだと思ってた。
とにかく、私は紅美の手首に突き刺した剣を引き抜く。───手首は深いところに頸動脈が通っていて、そこを貫通した剣を引き抜くってことは………
「あああああああああああああああ!!!!!」
「ぅ……………」
───ちょっと、見たくないレベルの出血量。下手したら、お母さんを斬った時以上。紅美は、立っていた足の力が抜け、後に尻もちをつく。幸い、刀の上ではなかったみたい。
………ま、まぁ………相手が紅美とはいえ、流石にこんな悲痛な声を聞いたら………助けざるを得ない、かな………頸動脈破ってるってことは、ほっといたら死んじゃうもん。
………本当は、奏に何かあったときの為に術式を覚えて来たんだけど───
「………〈天よ、愛以て傷を癒やしたまえ。ヒール〉」
「───ぁ………え……………?何、これ………」
初級白魔法、ヒール。中級以上じゃなければ、今後黒魔法を覚えるのにも困らないはず。それにしても………ホントに、生前世界で魔法使えるんだ………
「う……………うい、か……………?」
奏は、いまいち状況が呑み込めてないご様子。………ホントは、もっとカッコよく登場して、いかにも決闘みたいな感じで紅美と相対するつもりだったんだけどね………
「紅美………その日本刀、どこで手に入れたの?」
「………っ、祖父に、もらっ、た………………」
「あぁ………確か、鍛冶屋の家系だっけ、紅美って」
いつかは覚えてないけど、そんなことを言ってた気がする。
「なんで、奏を殺そうとしてたの?」
「………奏ちゃんに、私の情報をSNSにばら撒かれたの」
奏………いつもの奏なら、友達にばら撒くくらいなら想像つくけど、SNSはダメだって………
でも………なら、ちょうどいいかも。
「そうなんだ?じゃあ………『もう、この学校じゃやってけないよね』」
「初香………?」
私は、その後無言で回復魔法をかけ続ける。そして、だいたい一分くらいたって紅美の手首を見ると、傷跡もすっかり消えていた。
「……………ほら。だいたい治療できたよ。ごめんね、流石にやり過ぎたかも」
「………突き技」
「え?」
「初香は高校剣道やってないから、突き技は禁じ手。狙う場所も喉元じゃなかった」
「ふふっ………変なの。こんな状況で、真っ先に剣道のアドバイスをするなんて。別に、さっきのは試合をしてたわけじゃないのに」
紅美が、剣道で習得した上段の構えを使ってただけ。そもそも、私が全力で走って飛び込んだりした地点で、それは剣道じゃない。
「だいたい………聞きたいことが多いのはこっちだよ。何で、死んだはずの初香がここにいるの?さっきの治療、何?なんでそんなに剣の腕を上げてるの?」
「………全部、話す。でも、その前に───奏?」
「な、何………?」
遠くで、カッターナイフをぐっと握っていた奏が、おずおずと返事をする。
「………おいで?」
「………うん」
奏は、カッターナイフをその場に落とすと、そのままゆっくりとこっちに歩いて来た。まるで、私が本物だと信じられないように、おそるおそる距離を縮めてくる。
───私との距離が、だいたい一歩分くらいになった今なら───届くっ!
「───わぶっ!?」
「奏ぇぇーーーーーーーーーーっ!!!」
思い切り抱きつく。抱き寄せる。抱きしめる。奏の名を呼ぶ声は、出したつもりはない。勝手に出た。
「初香うるさい!!!耳痛い!!!」
私、だって………っ!もう、抑えきれないよ!!!
『アイリスコネクト』で奏の危機を視てた時………ホントに辛かった。そして、それで思い知った。私は奏の為に奏を護ろうとしたわけじゃなくて───たぶん、奏を護っていないと、私が壊れちゃうんだっていうこと。
あ、あれ…?私、今泣いてる?いや………いつから、泣いてたの!?もう、服…びっしょびしょ………!?
「奏…奏っ!奏ぇー!もう、放さないよ!!!私の腕を潜り抜けようとしたって、ぶっきらぼうに『初香、邪魔』って言われたって、絶対に放さない!!!」
「ああもうウザい!じゃ、邪魔なんて言うわけないじゃん!ちょっとは落ち着いて!!!」
「つ、ツンデレ!?奏、高度な技を身につけたね!?お姉ちゃん感激!もう、やっぱり大好き!!!」
「……………私も、好き」
「か〜〜〜な〜〜〜で〜〜〜〜〜!!!!!」
すごい、抵抗されない!ひねくれかわいい妹は、ひねくれと素直のギャップがかわいすぎる妹に進化を遂げたっ!!!
「……………いつまでイチャイチャしてる気?斬るよ?」
「わぁぁ紅美待って!待って!!!今私奏から手を放せないから闘えない!」
いつの間にさっきの日本刀拾って上段に構えてる紅美に驚いて、つい思い切り後ずさる。もちろん奏は抱っこしたまま。
「え、ちょ、うわぁぁぁっ!?」
「落ち着けぇぇぇっ!?」
そして、奏を抱えたまま私は後に倒れる。
「う、初香………大丈夫?全体重かかっちゃったんだけど………」
「ぜんぜん平気だよ♪奏、もっといっぱい食べた方がいいよ?ちょっと心配になっちゃうくらい軽いから!」
………ホント、軽い。あなたが赤ちゃんのときから、変わってないんじゃないかって思えちゃうくらい。
「ぷっ………初香、面白い」
私がおののく様子に満足したのか、紅美は日本刀を腰につけた鞘にゆっくりと納めた。
「………初香。さっきから初香は紅美と普通に話してるけど、紅美に対して怒ってはないの?」
「………もちろん、怒ってるよ。奏に手を上げるなんて、許すわけない」
「も、もう!そういうことじゃなくて………!その、初香を自殺に追いやったの、紅美だと思ったんだけど………違った?」
「………ううん、違うよ。別に、紅美のせいじゃない」
「は、はぁっ!?初香、何のつもり………?」
紅美は、当然驚く。でも………別に、私は紅美を庇ってるわけじゃない。
「最初は私も、紅美のせいにしてた。でも………紅美が触れ回った、『私がみんなを見下してる』っていうのは、事実だったもん。だから、別に紅美が何もしてなくても、いずれは同じ道を辿ってた」
「………随分、達観視してるね?」
「きっと私って、紅美と似ているの。そりゃあ私はあなたほど凶暴で冷酷無慈悲なサイコパスじゃないけど………周囲のみんながくだらなく見えて、つい見下しちゃうところとか、そっくり」
「……………変なの」
『凶暴で冷酷無慈悲なサイコパス』は流石に言い過ぎたかとは思ったけど、意外にも紅美は反論してこなかった。
そして、さっきの私の言葉、そのまま返されちゃった。やっぱり、私達………変なところも含めて、似たもの同士なんだと思う。
「それで、なんで死んじゃったはずの初香がここにいるわけ?」
はっ………すっかり、本題を忘れてた。
「ふふふ………奏もお待ちかね、お姉ちゃんの冒険譚、はじまりはじまり〜〜〜♪」
「………待ってない」
これは、ツンデレとかではなく本心みたい。紅美が、私がここにいるという超常現象が何なのか気になってるのに対して、奏は───私がここにいるだけで良いって思ってるみたい♪
私の胸元に顔をうずめた奏を、くるりと回して───私が、後から奏に抱きつく形にする。私の腕に奏の顔がすっぽりと収まる感覚が………すごく、幸せ。それに───奏が私の袖を、ぎゅっ♪てしてくるのがもうたまらなくかわいい…っ!ダメ………にやけが止まらない………♪
さて………そろそろ、話そうかな。まず、私の冒険の壮大なプロローグ───
「───まず死んだ私は、綺麗なお姉さんのひざまくらで目を覚まします。太ももひんやり気持ちいい」
「のっけから意味不明ね」
「………浮気」
「奏!?あ、あれはその、不可抗力でっ!!!」
腕にすっぽり収まってた奏が、振り返って睨んでくる。その様子がかわいくて………私は、ちょっと意地悪をしたくなる。
「それで、そのお姉さんは『テール』っていう異世界を創りだした女神様だったのです。そして彼女は、私をそこに転生させると言うのです。しぶしぶ了解した私は、女神様にアツーいキスと、優しいハグをされ───」
「紅美さん、ちょっとその日本刀貸してください」
「はいどうぞ、奏ちゃん。初香もこう言ってるし、遠慮せず綺麗で太ももがひんやりする女神様のところに送っちゃって」
「待って待って殺そうとしないで!!!キスは固有魔法を付与する為に左眼にされただけ、ハグは転生させる魔法を使う為に仕方なくなの!!!」
焦って弁明すると、奏はちょっと不満げに紅美に日本刀を返す。ええ………もしかして私、謝らなければホントに刺されてた………?
「………ここからが真面目な話。その固有魔法っていうのが………私が意識を喪ってる間、この世界の奏の様子が視えるっていうものだったの。それで奏の危機を知って、色々やって今に至る」
「は?」
「え?」
あれ?二人とも、一文字だけ口にして固まっちゃった。説明、足りなかったかなぁ………?
「そういうわけで私、何があったかだいたい知ってます。奏が義理で私の死因さがしに行ったりつもりが、紅美に襲われた後で私を大好きになっちゃったこととか。で、奏が私に会いたくなっちゃったから、会いに来ちゃいました」
あ、これ斬られるんじゃ………ちょっと焦って、右から奏の顔を覗く。
「奏ー?」
「………」
すると、奏は左を向いた。逆に私は、左から奏の顔を覗く。
「かーなーでー?」
「……………っ」
奏は右を向いた。
恥ずかしがって顔を見せようとしないとかもう………かわいすぎる……………♪
………でも、私がわざわざこんな話をしてるのには理由がある。それには───紅美への復讐が、兼ねられてる。
「………そして、この物語には続きがあるのです。愛する奏の為に生前世界に禁忌の帰還を果たした後、私は───紅美と奏を、テールへと攫って行くのです。それは、奏と一緒にいたいから。それは、紅美に人の温かさを知ってほしいから」
「………へぇ。『初香を殺した』私を、異世界に連れて行く………と?」
違うって言ってるのにわざわざ自分が殺したなんて………ホント、変なの。紅美自身、簡単に許されていいのか戸惑ってるみたい。
「………まぁ、悪いけど私のパーティには奏しか入れないよ。でも、保証する。あの世界には必ず、『心から紅美の為に』手を貸してくれる人がいるはず」
「あの………初香?私、異世界行くの?まだ新曲創ってる途中なんだけど………」
奏は、昔からよくへんてこな即興歌を歌ってた。高校生になった今年、パソコンで曲を作り始めたらしい。
「もう、奏ったら………そんなこと気にして───」
「───そんなこと?」
「ごめんなさい」
あ、これ逆鱗に触れた。
「よろしい。………初香、昔は私の曲気に入ってなかった?」
「………奏の曲だから、だよ」
夜、満天の星空の下。ベランダで並んで座って歌ったことがある。「普通の曲」にならないように全力で捻った結果、へなちょこな雰囲気の歌になってたのをよく覚えてる。
………今度、もっとちゃんと聴いてあげようかな。それで………また、一緒に歌うのも、楽しそう。
さて………そろそろ、テールに帰ろうかな。私は───あの魔法陣を、投影する。そして、絶対に気を喪わないように、マナストーンを強く握る。
「………〈我ガ魔力ヲ屠レ、故ニ汝ヲ下僕トスル………端正ナル幻想ノ硝子ハ融解シ、軸ナル世界ノ門ヲ開ケ───秩序ヲ破壊シ、結合セヨ!!!ターンゲート・アクセル!!!〉」
光を放つ魔法陣。門を開く場所は───ネルとハルネのところ!!!
ゲートは開き、そこにはネルとハルネの姿が見える。場所は───え!?さっき私がゲートを開いた、あの洞穴のところ!?二人とも、私を待ってたの!?いつまでかかるか見当もつかなかったのに………
「………なんか、行きたくなくなってきた」
「え!?紅美、この流れでそういうこと言う!?」
「呪文が、中二病もいいところだよね………」
紅美が呆れちゃってるのに対して、奏は───
「───かっこいい……………っ!!!」
やっぱり!絶対、奏は気に入ると思ってた!!!
「それで、初香………この奥のピンクの娘と紺色の娘は?」
「私がここに来る為に協力してくれた、仲間だよ。あと、今から奏の仲間になる」
「え、もう話つけてあるってこと?」
「もちろん!だから───」
行こう、と言おうとした。でも………面白いこと考えついちゃった♪
「………紅美」
「な、何?うい───」
「ドーン!!!」
「うわっ!?!?」
私は、紅美を後から思い切り突き飛ばした。
『!!!ウイカ、お帰───誰!?』
『ウイカさん、お───どなたですっ!?』
『───あー!!!お前、さっきウイカの妹を狙ってた………!』
『!!!姉さま、迎え討ちましょう!!!』
『え、ちょっ………初香ぁぁぁぁぁっ!!!せめて、日本刀も渡せぇぇぇぇぇっ!!!』
「ぶ………っ!!!紅美のあんな顔、初めて見た………♪」
「………初香、意外と紅美さんを気に入ってる?」
「うーん………案外、そうなのかも。全く好きじゃなかったのに、なんやかんや幼馴染として一緒にいられたのは………『稀に見せる表情』が面白かったから、かも。まぁ、奏に手を上げたことは絶対に許さないけど」
「別に、私に手を上げたことは───うわぁっ!?」
私は、次に奏をゲートに通す。さっきみたいに思い切り突き飛ばしたりはしない。すっぽりとはまっていた奏を、ふわっと押し出す。
『ん!?今度はさっき襲われてた妹さん!?カナデって言ってたっけ!?』
『だ、大丈夫ですかカナデさん!怪我はないですか?くっ………許しません』
このゲートの、向こうからこっちは見えないっていう特性、面白いなぁ………♪
さて、そろそろ行こう。あ、紅美の日本刀………折角だし持ってってあげようかな───
『………初香、放さないって言ったじゃん』
───あぁぁぁそうだった!!!ごめんね奏!!!今すぐ抱っこするから、許してっ!!!
私は、焦ってゲートに駆け込む。でも───ちゃんと状況を見てから行くべきだった。
「今度は誰ですか!───あ」
「次は誰が────あ」
二人連続で知らない人が出てきたゲートから、忘れた頃に私が出てくる。このネタ性、ご理解頂けただろうか。
「あ………えっとー、そのー……………ただいま♪」
───うん、なんか、微妙な空気になって………普通に、三人同時に帰ってくれば良かったと後悔したのでした。
「………カナデを連れてくるのは聞いてたけど、クミってカナデの敵じゃなかった?ウイカ、連れてきてよかったの?」
とりあえず奏を腕に収めてから紅美と奏について最低限の紹介だけすると、ネルは気にしていたことを口にする。
「大丈夫だよ。なんていうか、そのー………紅美、この世界好きそうだから………」
趣味は剣、特技は剣。剣の話する時だけなんか活き活きしてるような危ない人だったけど………この世界なら剣の話してても自然だし。まぁ…魔導学校で剣士クラスにでも入っておけば、素敵な仲間と出会って紅美も百合っ娘の仲間入りを果たすんじゃないかな。
「はい紅美、さっきの日本刀。言うまでもなくこの世界には無いものだから修理もできるようにしときなよ?」
「妙に優しいね?初香」
私は、左手に持っていた日本刀を、紅美に手渡した。もちろん奏は右腕でしっかり抱っこしたまま。
「そりゃあ、紅美は未来の百合っ娘だもの。紅美はどんな女の子と結ばれるのかなぁ………♪」
「………ごめん、何言ってるかわかんない」
「あ、あの、カナデさん、クミさん!」
紅美と話していると、ハルネが声を上げた。
「私は、白魔導士のハルネ=ワンドリアといいます。よろしくお願いします!」
「あ、私は黒魔導士のネル=ワンドリアね」
そういえば、それぞれ自己紹介はしてなかったね。
「私は………クミ=ハコザキ、でいいのかな?よろしくね。それにしても、白魔導士とか黒魔導士とかがあるんだ。ちなみに、初香は?」
「私は、魔剣士。剣も魔法も使える万能職だよ」
「どっちつかずってことね」
「ぐぅっ!?!?」
ち、ちが───私はそうだけどもっ!魔剣士クラス自体はウェルト先生みたいにとんでもなく強い人もいるんだよ!?剣術だけでも剣士クラスの実技指導担任に勝るらしいし!
「さっきも紹介されたけど………私はカナデ=ミハネ。姉がいつもお世話になってます」
「む………見た目はハルネの方がふわふわして可愛いが………後から抱きつかれてるのに少し嫌な顔しながらもさり気なくウイカの袖掴んでるとことか………」
「ふふふ………どう?この娘が私の妹、奏だよ」
確かにハルネは可愛い。ピンク色のふわふわしたイメージながらも慈悲深く、姉に褒められると真っ赤になるところとか。でも、奏より可愛い娘なんていない!!!
奏の可愛いところは星の数の数倍はあるけど───最大の可愛さは、内面にあるの。奏はかっこつけていつも目を細めてたり、悪い顔したりする。だから一見、周囲より感情の隆起が少ないように見えるけど、その実勝ち誇ってたり、怯えてたり、照れてたり。そういう感情が微妙な表情の変化や声色からすごく伝わってくるの。
その度に私も一緒に喜べて、悲しめて。奏はぶっきらぼうだから私に冷たくしてたつもりらしいけど、関係ない。どんなにつまらない毎日でも奏が居るだけで、奏を見てるだけで楽しくなるの。逆に言えば───他人の感情が解っちゃう私だからこそ、奏が誰よりも可愛くて愛おしい存在だって言い切れるのかも、ね♪
「………初香、昔っからどうしようもない程のシスコンだよね。私にも奏ちゃんの話ばっかりだったし」
紅美は呆れながら言う。………まぁ、紅美に対しては特に………剣道のこと以外何話しても適当に返されるからめんどくさくなって、とことん私が話したいことを話してたから………どうしようもない程のシスコンに変わりはないけどね。
「さて───奏ちゃんが初香達の仲間になることはわかったけど、私はどうすればいいの?」
「あっち」
「は?」
「あっちにね、レウン大図書館っていうとっても大きな施設があるの。そこにはこの世界の常識から社会の仕組み、魔法についてまでのあらゆる本があったんだ♪」
「……………へ、へぇ。初香が好きそうなところだねー?」
ふふ………薄々勘付いてる。気付かないフリしてる紅美、面白い…っ!
「あ、安心して?全部日本語だったから!じゃあ───いってらっしゃい♪」
「───えええええ………」
「………クミさん、諦めてください。ウイカさんも、スピナさんに転生させられたとき───同じように案内を放棄されてるんです」
「しゃーない。これは洗礼みたいなものなのだよ………クミ、ファイト!」
「そりゃあ、やったことがやったことだし、奏ちゃんと同じ待遇しろとは言わないけど………私は剣にまつわる本しか読んだことないんだよ?図書館行ってもどの本読めばいいかすらわかんないんだけど………」
うーん………確かに余程の本好きじゃなければあの図書館から必要な情報を集めるのは厳しいかな?
「………紅美さん、私が一緒に行きましょうか?」
「か、奏っ!?!?」
な、な、何を考えてるの!?!?奏を殺そうとした紅美だよ!?そればっかりは私も許してないんだよ!?
「………初香、平気だから」
───紅美と、話がしたい………みたいだ。それも、二人だけで。仲直りしたいのか、あるいは………復讐でもするつもりなのか。
………念の為、紅美の日本刀を没収してから、ハルネに奏の身体能力を強化、ネルに紅美の身体能力を弱化してもらって、その上で私はクレヴィス・ウィンドの詠唱を済ませて術式を紅美に向けておけば、安全かな。
「………奏ちゃんがそう言ってくれるなら、ついてきてもらおうかな。ありがとう」
でも───ここで紅美の日本刀を没収するのは、奏を裏切る行為のような気がする。
───私は、そっと奏を腕から解放した。
「ん。じゃ、ちょっと行ってくる」
「うん。本当に、本当に気をつけてね」
「……………」
紅美は、何も言わずに図書館に歩きだす。───警戒されてることに、少し傷ついてる………?
「………ネル、ハルネ。私を透明化、消音することってできる?」
「う、ウイカさん………」
「わかる、わかるぞウイカ。姉だもん。心配するよな、そりゃ。よくわかる………!」
生前世界の観測者編はこれでおしまいです。次回から新章に入ります。