真っ赤な背撃
「あー参った参った。降参だよ降参!」
バレット・クロームが両手の拳銃を地表に捨てて、ホールドアップした。
赤くて切り立った大岩に囲まれた、砂嵐の吹きすさぶ山間だった。
バレットの部下は、スティンガー・スコルプの早撃ちで、4人全員あたまに風穴を開けて地面に転がっている。
銃を抜く間もなくあの世に旅立ったのだ。
「観念したかバレット。ブツの在処を言いな! この星のどっかに隠したんだろ?」
スコルプはバレットを睨みつけながら、ケプラー186星人特有の金属音みたいな甲高い声でそう叫んだ。
キチン質の甲殻に覆われたスコルプの右手の銃の照準は、ピッタリとバレットの額に定められていた。
かかげた両手の指先一本動かしただけで、バレットも部下の後を追うことになるだろう。
だが、スコルプは気付いていないようだった。
バレットが、背中に隠した三本目の腕を自分の尻のあたりのガンホルダーに静かに伸ばして行くのを。
バレットは確か……トラピス1E星人のミュータントだったな。
奴の二つ名、三丁拳銃の由来を知っていれば、スコルプもこんなヘマはしなかったかも知れないが。
「さーて。なんの話ですかね……っと!」
バレットがとぼけた声を上げながら、赤金色をした三丁目の拳銃を抜いて、スコルプに撃ち放とうとした。
だがその時だった。
「ガアアアアア!」
悲鳴を上げたのはバレットの方だった。
胸に風穴を開けて、地表に膝を屈していたのは、バレット・クロームの方だった!
「な……なんでだ……!」
「フン。マヌケな野郎だ。『スティンガー』……俺の二つ名の意味を知らなかったのか?」
地表に倒れて苦しげに呻くバレットを見下ろして、スコルプは鼻を鳴らした。
バレットの胸を貫いていたのはスコルプの尻尾だった。
全身をキチン質の甲殻に覆われたサソリのような姿のケプラー186星人。
奴がバレットに気付かれない角度で、地面に潜らせ伸ばした自分の尻尾。
バレットの背中まで回り込ませた伸縮自在の真っ赤な尻尾が、三本腕のトラピス1E星人の胸を刺し貫いていたのだ!
「くたばったか。しゃーねーな。ブツは自分で探すしかねーか」
息絶えたバレットを足蹴にしながら、スコルプは地表に唾を吐いた。
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ひと様の地表をほじくり返したり唾を吐いたり、好き放題しやがって。
もういい余興は終わりだ。
俺はスコルプのあたりの地殻に、意識を集中させた。
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ドガン!
スコルプの背後10キロの地表から、真っ赤なマグマが噴き出した。
「な……なんだ!」
奴が振り返って慌てて逃げ出そうとするが、もう遅い。
俺の血液……煮えたぎったマグマで作った俺の手が、あっという間にスコルプの背中に回り込んだ。
真っ赤に燃える俺の手が、死んだバレットともどもスコルプを燃やし尽くして蒸発させた。
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「『バレット・クローム』と『スティンガー・スコルプ』……えー確かに『S級犯罪者』二人の生命反応途絶を確認しました……」
俺の地表に降り立った銀河連邦の警官が、戸惑い顔で上にそう報告している。
「超短波のフェイクによる犯罪者の誘導と捕獲……というか削除というか。毎度のご協力、感謝いたします。しかしテラさん……」
警官が不思議そうな顔で、俺にそう呼びかけた。
「恒星ソル系第三存在。この銀河でも数少ない『知的惑星』であるアナタが、なぜバウンティハンターなんかに? 犯罪者二人を始末するのに、地殻まで変動させて……」
「ああ。子供の頃から憧れだったんだ」
俺は電離層から適当な電波を反射させて、唖然とする警官にそう答える。
「今では想像も出来ないだろうがね? 俺が知性体として『ものごころ』がついた頃、この地表には、いろんな生き物が溢れかえっていたんだ。そいつらの一種がやりとりする電波で『放映』されていた『お話』が大好きでね。ずーっと、こういう仕事を探していたのさ!」