13.片想い
【安田菜々】
いつも通りの時間に教室の席に着いた私は、朝のホームルームが始まるまでの時間、読書で暇を潰そうとしていた。
教室のドアが勢いよく開いたので担任が入って来たと思い本を閉じ、ドアの方を向いて見たらそこには担任ではなく教頭先生が立っていた。なにやらひどく慌てている様子だった。
どうしたのだろうと思っていたら教頭が口を開いた。
『安田、落ち着いて聞いてくれ』
『はい。なんでしょう』
全く心当たりがなかったのは事実。その時の私の顔はおそらくポカンとしていただろう。
『君のお父さんが...』
教頭は一度そこで口を止め、とても言いづらそうに次の一言を私に放った。
『お父さんが亡くなられた』
【城山春香】
今日は珍しく寝坊をした。
『昨日あんなに夜更かししたからだ!走れば間に合う!』
そう自分に言い聞かせながらいつもの通学路をひたすらに走っていた。
学校が見えてきたが、まだチャイムは鳴ってないみたいだ。まだ校門には複数の生徒たちがいることから間に合ったみたいだ。
『はぁ。疲れたー』
教室に入り、自分の席に着くなりため息を漏らした。
『珍しく遅刻しそうになったな』
そう後ろから声をかけてきたのはやはり一樹だった。
『起きたらいつも家出る時間なんだもん。ほんとに焦ったよー』
『夜更かしでもしたのか?』
『少し楽しいことがあってね。だから気付いたら2時だったの』
『そりゃ寝坊しても仕方ないな。まぁ俺はいつも寝るのそんくらいの時間だけどな!』
『あんたはおかしいから起きられるのよ』
『なんかショックだな』
そんな軽口を言いあってたら一樹が真剣な顔つきに変わった。
『安田さんのこと聞いたか?』
『ん?なんかあったの?』
『それが、安田さんのお父さんが亡くなったらしい』
『どうして?病気とかじゃなかったよね?警察署の署長だったじゃん!』
『事故とかだと思ってさっき携帯でニュースの記事を読んでたんだ。そしたらこんな記事が、』
そう言って一樹が差し出してきた携帯の画面にはニュースの一部分が映し出されてた。
「今日の早朝、コンテナボックスの中で両足、左手首を切断された男性の死体が見つかった」と、書いてあった。
『これ、多分安田さんのお父さんなんじゃないかと思って.,って春香?』
『あ、ごめん少しぼーっとしてた』
『いやいいんだ。それにこの話は終わりにしよう。今日はお前の愛し蒼太君が来る日だからな』
『な、なに言ってるのよ!べ、べ、別にそんなんじゃないし!』
『バレバレだよ。蒼太関連の時、いつも張り切ってるもんな』
『もううるさい!』
『もうすぐ来る頃だと思うぜ。ちょうど1時間目は自習になったから会いに行こうぜ!』
『そうね。行きましょ!』
『ほら、やっぱり張り切ってる』
『うるさいっ!行くよ!』
一樹がニュースを見せてくれた時、鳥肌が立ったのは内緒にしておこうと思った。
【朝比奈蒼太】
課題を出し終え、また新しい課題をもらい帰ろうとしたところで、
『蒼太!』
そう呼び止められたので振り向くとそこには一樹と春香が当然のようにいた。
『またお前らか。授業はどうしたんだよ?』
『1時間目は事情により自習になったの』
『良かった。2人のことだからまたサボってるのかと』
『またってなによ!サボったことなんてないもん!』
『失礼な奴だなぁ。こう見えてもお前より成績いいんだぞ?』
もう反論を食らったところで明日の妹の引退試合について尋ねてみる。
『明日妹の引退試合なんだ。お前ら2人も一緒に来るか?』
『お、行く行く!お前の妹の最後の試合だろ?行くしかない!』
『私も行く!』
『じゃあ3人で時間合わせていこう!2人も来るってなったら蒼蘭も喜ぶだろうな』
蒼蘭の最後の試合だ。2人にも是非見てもらいたい。
『じゃあまた明日な。また学校には顔出すよ』
『おう!』
『ばいばい』
そう2人に別れを告げ俺は自宅に戻った。
『今朝の蒼蘭は緊張してたから変だったのかな?今日はカツ丼作って気合い入れてやろ!』
俺が帰る時、春香がずっと俺のことを見つめていたのに俺は気づかなかった。