【一話】 佐藤尊
「んあ…」
朝起きた直後の微睡みから抜け出そうとする男
彼の名は佐藤尊
彼は普通の高校生になるはずだった男だ
あの謎の事件さえなければ
「集団睡眠事件」 それは彼の故郷 広島を4年前に襲った事件だ
大阪に「在住」する者のみ無差別的に昏睡状態に陥った
しかし尊のみ 昏睡状態に陥らなかった 国は総力を上げて彼を調べた
―しかし…何も見つからなかった
「またか…」 彼は寝ている時に伝った涙を拭き 諦めや悲しみ 様々なものが混ざり絡み合ったため息を吐く
「俺は… やっぱり悲しいのだろうか」
そして彼の脳裏には広島での生活を 大切な友人や家族のことを思い出
「ここ数週間からだ…あっちでのことが夢でずっと流れるのは」
彼は少し思い詰めていたようだが意味のないものだと直感的に感じやめた
そして身支度を整え家を出る準備を終わらせこの家の持ち主 尊を育てている叔父に声をかけた
「じゃあおじさん いってくるから…ってまだ寝てるか…」
特に気をかけずに出ていった
(今日は妙に静かだな…) 『妙』 その感覚を捨てようとしたが捨てられなかった
気持ち悪さと共にバスの停留所についた 違和感の一つの理由に気がついた
「車が通っていない…車どころが一人も周りにいない…」
妙な焦りを感じ大通りまで走る 捕食されそうになったシカのように怖がりながら走る
「はぁ…っはぁ…っ…なんで…」
大通りについた彼の目に入ったのは倒れている というよりかは睡眠している人々だった
「なんで…なんでまた…」 広島の事件を思い出す
そして吐き気と目眩を覚える
「ぐっ…遠くへ…」
本能的に遠くへ逃げなくてはならないと察知し走る
「遠くへ…遠くへ…」
走っている尊 そして何かを感じ後ろを振り向く
「ッん…やっと会えましたねぇ…た け る さぁん…」
ねっとりとした口調の気持ち悪い男が話しかける
「全く…どうなるかとぉん思いましたよぉ…まっぁ覚えてなかったのでいいとしますが…」
「お前…がやったのか…」
「えぇ…んっですがもうさよならですよ…怒られてしまいますからねぇ…」
額になにかが置かれる
俺はどこに居るのだろうか 目が開けられない
「あ…」
「おお?起きたか 小僧」
今の日本とは思えない格好をした男が挨拶をする
「俺の名はエンバリュー・コージ! 体の方は大丈夫かぁ?
森のなかで倒れていたけどよぉ?」
俺は今一体どこに居るのだろうか