1話 救ってくれたのは勇者ですか?ーーいいえ、魔王でした
「いやっ!もう無理です。勘弁してっ!」
「GYAAAAAAAA!!」
異世界に来ましたが早速死にそうです。全力疾走しながら、俺は諸行無常の悟りを開く。つまり……
「これ、詰みゲーじゃねえか!?おい女神、どーなってんだよ!?」
響き渡るその声は、残念ながら誰にも届かなかった。
「魔法のやり方知らねえし!?武器も持ってないこの状況でって、うお!」
尻尾を叩きつけられるが、なんとか回避。そのまま逃げ出そうとするも、足で蹴り飛ばされる。
「ぐおっ!痛っつ……。ぐふっ」
かなり吹き飛ばさされ、口から唾液が漏れる。逃げようと試みるが、足に力が入らない。そうしているうちにも奴は近づいて来ている。
終わったな……。くそっ!あの駄女神め!どっかに勇者とかいねーかな。
奴は口を開ける。そしてそのまま……
「助けて欲しいか?」
上から声がする。勇者様来たんじゃね?選択の余地はない。
「助けてください。お願いします!」
「だが、助けたら一つなんでもいうことを聞いてもらうぞ。」
「いや、ちょっと待て!?」
勇者じゃねーの?見返り求めんの?いや当たり前だけどさ。
「なんじゃ。助けて欲しくなかったのか」
「いや嘘です!助けて!」
「じゃあ行くぞ〜。『氷の剣山』」
ドドドドドッ!!
のんきな声でそう言ったかと思えば、奴の下の地面から、大量の氷の刃が飛び出す。それは、硬そうな皮膚を貫き、絶命させた。
「魔法ってすげーな……。で、お前何者だよ?」
容姿がどうみても幼女なのだ。髪は金髪のロングで、黒いドレスを着ている。こう言う時はやばい奴だ。いざとなったら、逃げなければいけない。
「自己紹介は自分からではないか?」
「……俺はカイト。転生者だ。」
「うんうん!やはり面白そうな奴じゃのう。私は氷獄の魔王、レティシア・アルナフォールドだ。よろしく」
「魔王!?」
思ったよりもやばそうでした。本気で逃げないとまずいかもしれない。
「さて約束はまもってもらうぞ?」
「…………」
「お前、私のものになれ!」
おおう。なんとも微妙な……。まあ、答えは決まってるんだが。もちろんーーー
「ーーーー断る!」
「っ!?約束を破る気か!?」
そう思うだろう?だが違う。俺は約束を破ったりしていない。なぜなら、
「言うことを聞くと約束はしたが、それを叶えるとは言ってねえぞ。」
誰がこんなやばい奴について行くか。
「………ほう?いい度胸じゃないか。それは私と戦争する、と言うことでいいんだな?」
さっきの獣とは比べ物にならない威圧感が辺りに充満する。
あ、これはヤベェ。
「さて、どう殺してやろうか……」
「すんませんでしたぁぁぁぁぁ!!言うこときくから許してぇぇぇ!」
とりあえず土下座しました。……………グスン。
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「おい!これどーなってんだよ!?」
「空を飛んどるだけじゃろうが。おとなしくせい!」
そう、俺は今空を飛んでいた。しかも、幼女に持ち上げられて。恥ずかしさと恐怖が入り混じり、パニックを起こしそうになる。
「こ、怖え。お、落ちねーだろうな!」
「そんなに言うなら落とすぞ?」
「……グスン」
しばらく、空を飛んでいるとでかい城が見えてきた。
「おい、見えたぞ。あれが私の家だ」
「家じゃなくて城だろ……。」
そのまま城門の前にふわりと着地する。すると防具をつけた厳ついおっさんが出てきた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。そちらの方は……?」
「こいつはすぐそこで拾ってきた………ペット?」
「誰がペットだ!俺は人間だ!」
あれ?おっさんの雰囲気が……
「人間!?何をお考えられておられるのですか!今は戦争中ですぞ!」
「大丈夫じゃ。こいつは転生者だからな」
「しかし……」
なんか込み入った事情があるらしい。だからと言って、泊まるあてもないので、引き下がるわけにもいかない。
「どういう事か知らねぇが、泊まらせてくんない?行くあてもないんだ」
「な?大丈夫だろ?」
「はあ。どうせダメだと言っても聞かないでしょうからいいですよ」
ため息をつきながら、おっさんが言った。どうやらオッケーのようだ。
「レティシア、ありがとな」
「うむうむ。感謝するがいい」
やっぱウゼェ。何はともあれ今日は疲れたな。早く風呂に入って寝たい。
「私はケインと申します。えーと」
「ああ、俺はカイトだ」
「ではカイト殿こちらへ」
城内の中にケインが招き入れる。雰囲気は、吸血鬼の城って感じだな。
案内されている間、ケインが城内について色々と話してくれた。
「広さはかなりあります。魔法の練習などもできますからね。他にも城の中には、メイドや執事、研究者など様々な魔人が住んでいます」
「へえ。レティシアの兄弟とかもいるのか?」
「いえ、兄弟はいませんが……」
「チッ!おいおい、なんで劣等種がここに居るんだよ」
ケインの説明は人を聞くだけで不快にさせそうな声で中断させられた。
見ると太った体に、お世辞にもかっこいいとは言えない顔。その顔の表情からずる賢い印象を受ける。前世でも見た、俺の一番嫌いタイプだ。
「……あいつは誰だ……?」
「あのお方は……」
ケインが奥歯を噛みしめ、声を震わせながら小声で言った。
「ーーーレティシアお嬢様の婚約者、グルド・ガーバイン様でございます」