表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第二章 堅華なる鉄の守り 
95/531

93話 『鉄壁』の二つ名を持つ者

「ああ。毎回しがみつかれて大変だけどな」

「…懲りないねぇヒナギちゃんも」

「っしょっと…で、どこまで進んだんだ?」


 やれやれと言った感じで座っているシュトルムの隣に、俺も一緒に座り込む。


「こっからこの辺りまでだ。お前が知りたがってる歴史と魔法関連は別に省いてあるぜ。…つってもそんなにあったわけじゃないが、…ホイ」

「おう、サンキュー」


 シュトルムはそう言うと、俺の方へと書類やら本やらを寄せてくる。


 …思ったよりもあるな。こりゃ助かる。


 寄せられたものを見てみると、それなりの分厚さの本が2つ。数枚の紙でまとめられている書類が5つほどあった。


 今俺がここでやっていることは、異世界人についてを記した書物を読むことだ。

 あとは、個人で書いたであろう日記のようなものの確認。


 こちらの世界の言語ではなく日本語で書かれているため、見分けるのにそれほど時間はかからなかった。


 意外なことに、シュトルムは異世界語…まぁ日本語なんだが、それを部分的に読めるらしい。

 シュトルムが見聞を広めるためとか以前言ってたが、あながち間違いではないらしく、知識は結構ある模様。

 これで馬鹿じゃなかったら好印象なんだがな…。まぁそれはどうでもいいか。




 シュトルムが選別してくれた書物を開き、俺は夜まで読むことに没頭したのだった。




 ◆◆◆




「……ま、今日はこんなもんか。…ツカs…って、大丈夫か? お前…」


 手に持っていた本をパタンと閉じて置き、シュトルムがこちらを向くが…そんなのは気にしていられなかった。


 今…俺の口からは、魂がフヨフヨと出かかっている。

 魂は…「うっひょおぉぉっ! シャバに出るぜー!」と言わんばかりに、俺の口から伸びている命綱を揺らしている。


「なんか見えるんだが……また満足のいくもんはなかったのか」

「…(コク)」


 シュトルムの言葉に、首を縦に振ることで反応する。


 声を出す気力もなかったからだ。


「ったく、昨日もそんな状態だったけどよ、んな落ち込むなよ。まだこんなにあるんだぜ? 落ち込むにゃ早いだろう」


 と、シュトルムがため息を吐きながら指を指す。


 目だけをキョロキョロと動かし、それを確認する。

 周りを見てみれば、大きめの本棚分くらいの分量が残っている。


 確かに諦めるにはまだ早すぎるかもしれないな…。


「………そうだな」


 飛び出していた魂を口に無理やり戻し、なんとか声を振り絞る。


 途中、「ヤメテー!」なんて声が聞こえたが、やめねーよ。

 自分の魂をあるべき所に戻して何が悪い。


「じゃ、戻るか」

「だな。セシル嬢ちゃんも飯作って待ってくれてんだろ」

「…残りはまた明日だ」


 今日の作業に区切りをつけ、俺とシュトルムは皆の待つ場所へと向かったのだった。




 ◆◆◆




「ふ~ん、何も収穫なしか~」

「私たちも特に気になる記述は見てないですね…。まぁ地道に探すしかないでしょう」


 ヒナギさんの実家で夕食を囲みながら、ポポとナナと成果について話す。


 ココに来てからは俺たちはヒナギさんの家でお世話になっており、寝泊りはここでしている。

 ヒナギさんの実家は実に広い敷地を持ち、至る所に日本の文化が垣間見える。

 掛け軸、縁側の作り、盆栽、燈篭等々…。現代ではあまり見なくなってきてはいるが、昔の名残が見えることに、少々親近感が湧いた。


 掛け軸なんかには『堅忍持久』と筆で書かれており、それを見てヒナギさんそのものだなぁとか思ったり…。

 あ、もちろんこちらの世界の言葉で書かれてるんだけどね…。

 四字熟語まで伝わってるのを見て、ちょっとポカンとしてしまった。


 広さに至っては、大所帯の家族が暮らしてもまだ余裕と言えるほどだ。中くらいの公園くらいの広さはある。


 羨ましい。




 取りあえず…まだ有益な情報はないみたいだ。


「…一応ここにあるのは、異世界人が実際に記したと言われているモノばかりですから、これ以上のものはあまりないと思います」

「…う~ん。ここで何も分からなかったら困るなぁ」


 ヒナギさんの言葉に、俺は眉を潜めて唸る。


 本気で世界中を旅する羽目になるのか? 

 今はもうこの世界に来た当初と比べて、あまり行きたいとは思わないんだが…。


 …だってこの2ヵ月で、面倒なことが頻繁に起こってるし。なんか不吉な予感がプンプンしてんだよねー。


 以前ポポとナナが俺のことを不幸体質などと言っていたが、あながち否定しきれないかもしれない。


 あんまり乗り気にはなれんなぁ。仮面野郎もこの1ヵ月には何もなかったものの、今後は何かしてくるかもしれないし…。


「……ねぇ、何でツカサはそんなこと調べてるの?」

「え?」


 そんな考え事をしていると、セシルさんがいつもと変わらない眠たそうな顔をしながら俺を見て言ってくる。


「いや、ちょっと気になって…」

「それなんだけどね…」


 セシルさんの質問はごもっともだ。

 だってまだ調べてる理由とか話したことないし…。


「空間系の魔法にちょっと興味があってさ…。自由に移動できたりしたらなぁ…って思って。異世界人の人たちって、別の世界から来たって話だし、もしかしたらそんな方法とかあるのかなと思ったんだよね」


 俺の思っていることをありのまま話し、この場を乗り切る。


 別に嘘でもなんでもないし、この内容なら言ったところで変に思われることもないだろう。


「…ん。そうなんだ」

「移動って…お前にはコイツらがいるだろ。贅沢な奴だな」

「カミシロ様にはあまり必要ないように思われますが…」

「…アハハ……」


 必要です。多分、あなたたちが考えている移動とは規模が違います。

 世界を移動する手段ですからね?


「…でも、異世界人が元の世界に帰ったとかは聞いたことねぇけどな」

「ないですね…。こちらの世界で天寿を全うしたと伝わっています」

「あ、そうなんだ…」


 むぅ、お前らどんだけ地球に未練がないんだよ。普通の感性してないんじゃないの? 

 わたしゃあホームシックですよ…。


 内心で異世界人に対して意味のない愚痴をする。


 …まぁ、やっぱし学院で知った情報と一緒か…。

 ヒナギさんが言うんだからそうなんだろうな。




 ヒナギさんと出会った経緯なんだが……




 Sランク昇格の際に、ちょうど王都にいた『鉄壁』の人と…俺は出会った。

 良い機会だし、実際に実力を示せやとのことだったので模擬戦をやる羽目になったが、…そのぅ…圧勝でした。


 いやさ、『鉄壁』さんの実力はすんごい高かったんだよ? 土・光の2属性持ちで、防御魔法を利用してのタンク型。強固な結界と持ち前の防御力を利用してのカウンター主体での戦闘スタイル。

 強さで言ったら、災厄前だが…覚醒状態のポポとナナといい勝負かもしれない。


 それでも…だ。

 何も考えなくても平気なことを途中で悟った。


 あ、こりゃ負けるわけがないと…。




 強固な結界?   …叩いたら壊れます。

 持ち前の防御力? …俺の攻撃力はそれを遥かに上回ってます。

 カウンター?   …あってないようなものです。食らっても影響はないです。




 ………どうしろと?




 レベル1800は伊達じゃなかった。




 で、この『鉄壁』という人が、実はヒナギさんだったのだ。男かと思ってたんだが違った。

 ヒナギさんの稽古に今付き合ってるのも、それが関係している。

 なんでも…周りに自分以上の実力者がいなくて、最近伸び悩んでいたとのこと。


 そんな時に現れたのが俺だ。

 俺なら自分の実力の更なる向上を望めると判断したようで、一緒に付いて行ってもいいかと懇願された。もちろんさっき足に飛びついてきたみたいにヘッドスライディングで…。

 今までの稽古の時とさっきしがみつかれたのを見るに、ガチだありゃ…。




 ヒナギさんは東の出身で、俺がそちらに用があると言うと、ならばちょうど良いと言って、寝床の提供とヒナギさんの家で保有している異世界人関係の書物の閲覧の許可を対価に、稽古をつけて欲しいと言ってきた。

 俺はそれをもちろん了承。願ってもないことだったから…。


 普通はお目にかかれないのだが、俺たちがこうして書物を読むことが出来ているのは、一重にヒナギさんのおかげだ。

 少々稽古のこととなると頑固な人だが、知り合うことができて良かったと思う。そのことだけを除いたら文句なしの人柄をしてるし。


「…また明日も籠りっぱなしだな、こりゃ」




 夕食を食べ終え、明日も今日と同じことをするだろうと俺は思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ