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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第二章 堅華なる鉄の守り 
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90話 東の地

 ◆◆◆




 ヒュマス大陸東部、とある集落の某所。


「カミシロ様。もう一本お願いします!」

「え~まだやるんですか? 俺、もう調べものしたいんですけど。シュトルムが待ってますし…」

「そこをなんとか!」


 俺の目の前には、黒い和服のような服を着た女性がいる。

 俺と同様に黒色の髪をしていて、腰にまで届きそうなほどの長さを持っている髪は…とても美しい。艶々した輝きを放っているのもそう感じてしまう原因ではあるが、それ以上にスラッとした体に整った顔立ち、この2つが合わさっていることで非常に絵になるような異彩を放つこの女性は…類稀なる美女だと思う。

 あとは優し気な瞳と物腰、母性溢れる雰囲気が印象的だろうか…。


 今は額には汗が滲み、息を少し切らしているためか肩が少々上下しているが、それがある意味色っぽさを醸し出していると言っても過言ではないような人。


 …つまり、超絶美女だ。何やっても綺麗に見えてしまうほどのレベルの。


 手には紫色の刀を持っており、これがこの人の得物である。


「いや、だって昨日もこんなやり取りしてるじゃないですか…。今日はもう勘弁してくださいよ」

「駄目です!」


 なんでやねん。

 俺…貴女の稽古に付き合ってる側なはずなんだがな。そこは妥協してよ。


「あっ! ちょっ…離れてくださいって! この…!」

「くぅぅぅっ! 離れませんよぉっ!」


 俺の足に、ズサーっと地面を滑りながらしがみついてくる。

 和服が汚れるぞと思ったが、なんとも不思議なことに汚れは一切ない。

 これがギャグ補正ってやつなんだろうか。


 くっ! この駄々っ子め。毎回こんな感じだから慣れたけど、やめてくんないかな…。

 超絶美人なのに、こうしてある一面でしつこいのは少々勿体ない気がするぞ…。


 ま、いつもみたいに対処しますけども…。


「あっ!? ポポ様! 何をするんですか!?」


 ここで、『覚醒状態』のポポが俺からその女性をクチバシで引き離す。


「ヒナギさん。ここから先は私とナナがお相手しますので。…ご主人! 行ってください」

「おう。頼むな」


 ポポが引き受けてくれたことを確認し、俺はある調べもののためこの場を離れるべく、背中を向けた。


「ああぁぁっ! 待って下さい、カミシロ様ぁぁっ!」


 それを見た女性が大声で俺を呼び留めるが、無視する。


 んな大げさな。今日はもう終わりってだけじゃないですか…。

 また明日がありますって。


 この人はヒナギ・マーライト。

 この前ギルドで知り合って、ちょいと今手合わせをしてたところだ。


 ちなみに俺よりも1歳年上である。




 …仮面と遭遇してから1ヵ月後。

 俺たちは今、東の地域へと訪れていた。

 季節は春へとなりつつあり、冬の寒さは和らぎを見せ始めた。




 あの後、どうしたらいいのかも分からず、俺たちはその場に立ち尽くした。

 何もできず事を見ているだけだった俺たちと学院長。自身の恐らくタブーに触れられたヨルムさん…。

 様々な感情を各々抱え、その思いをどこにぶつけてもいいか分からなかった。


 …色々と、急な出来事が多すぎた。

 分かったことは、仮面が今回の全ての元凶であるということだけ…。それ以外は、謎のままだ。


 それでも、ずっとあの場にいるわけにはいかず、取りあえず今後どうするかについて話したが、俺ができるようなことが特になかったことも今の悶々とした気持ちに繋がっているんだろう。


 …できることがないってんなら仕方ないことではあるんだがね。適材適所っていうし。



 まぁ、学院長は学院に奴が入り込んだということに対し、学院のセキュリティの見直し。ウルルさんを始めとした職人と共に対策を練るとのこと。

 そしてヴィンセントの今後についての思案に追われると言っていた。


 セキュリティに関してはなんとも言えんな…。

 魔力だけで別の場所に行けるような奴だし、魔力を正確に感知することができない限りは防ぐことは難しいんじゃないかというのが、専門外の俺が感じた感想だ。

 というよりも、学院以外にもアイツはアレを使えるんだろうし、どこにいたって不思議じゃない。

 俺はナナがいるから近くにいればすぐに分かるからいいが…。

 少々気を張ってストレスが溜まるかもしれんな。


 ヴィンセントは、あの場所が知られてしまった以上別の場所に移ることになった。

 どこに移すかは聞かされなかったが、ヴィンセント自体が既に極秘事項であるし、情報がどこで漏えいするか分かったもんじゃないから気持ちは分かる。

 ヴィンセントに起こったことをヴィクター様に伝えるかどうか学院長は随分と悩んでいたが、結局は伝えることにしたらしい。


 その後はどうなったのかは俺は知らない。…だって情報が来ないんだもん。

 …まぁ、色々覚悟している節はあったし、事実はしっかり受け入れてはいると思うが、どうなったことやら…。

 分家やらにうるさく言われてなきゃいいんだが、多分言われてるだろうな…。

 取りあえず、頑張ってくださいねヴィクター様や。


 ちなみにあの部屋についてだが、どうやら学院ができた頃からあるらしく、その存在は歴代の学院長に引き継がれてきたそうだ。

 部屋の用途と作られた理由は不明。ただ、部屋に加護のようなものが掛けられているらしく、どこに連れていけばいいのかが分からなかったヴィンセントの隔離場所には最適だと判断した模様。

 加護は悪い加護ではないそうで、これがヴィンセントに良い効果をもたらしてくれればとの考えもあったらしい。



 ヨルムさんについては…よく分からん。



 あれから口数が減って顔も険しくなってたし、声が掛けづらかったのだ。

 取りあえず何も言わないのが一番良いのではないかと判断した。


呪解士(ディスペラー)』…ね。


 一応気になることだが、あまり深くは関わらない方がいいのかもしれない。

 他人の領域に遠慮なしに入るのは気が引ける。ましてやそれが本人にとって知られたくないようなことなら尚更だ。


 昔姉ちゃんの部屋に無断で入って、顔を殴られたことがそれを証明している。

 あの時の痛み、絶対忘れない。


 まぁ俺だって、自分のベッドに他人が無断で入り込んで来たら嫌だし、多分それと一緒だろう。

 エロ本がバレたらどうしようみたいな。…まぁ持ってないけど。

 だって俺はデジタル派でしたから。


 …おっとゲフンゲフンッ! 口が滑りました。


『一緒にすんなアホ』

『もっとマシな考えはないのか?』

『そんな軽い内容じゃねぇよ』


 なんか言われてる気がするが、これは気のせいですね。自分にとって分かりやすい例えしただけですって。

 取りあえず、こういうのは相手が切り出すまで待つのが得策ってもんでしょう。


『うん。アタシ…待ってるね?』


 って感じに、プロポーズを待ってる女の子の状態になってりゃいいんだ。うん。




 ま、そんな感じです。



 んで、残りの一日は取りあえず仕事をこなした感じだ。

 集中して過ごすことはできなかったが、その中で特に問題もなかったのは助かった。

 まぁ、結構内容の濃い出来事がありましたがね…。そん時はめっちゃ集中しましたけど…。


 えっとぉ~、アンリさんのこととか、アンリさんのこととか…。


 あと、アンリさんのこととか? 印象として残ってるのはそれかな。


 …ツッコミ要素満載ですけど、色々あったんですよ。

 一応…他にもちゃんとね。




 そう、あれは…ほんの1ヵ月前……。

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