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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第一章 グランドルの新米冒険者
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88話 一連の黒幕

 突然のナナの声。

 それを聞いた者全員がナナに驚き、そしてナナが見つめる方向を見る。


「見えてなくてもいるのは分かってるよ。出てこないなら…」


 ナナがいくつもの特大の水の塊を周囲に展開する。


『メテオバブル』…。ナナは本気のようだ。


 ナナが真剣な表情をすることはあまりない。

 だが、今のナナの表情は真剣そのもの…。それを見て俺も警戒態勢に入るが、俺の目には何も見えなかった。


 そう思ったのも束の間…


「ふぅ…。全く大した人達ですねぇ。主人もバカげた力を持っていて、なおかつ従魔まで高性能ときましたか。まさか気づかれるとは思いもしませんでしたよ」


 スゥ…と、何もない空間から体の透けた謎の人物が姿を現した。


 声からして恐らく男性だ。


 その人物は白い仮面をつけていたため顔は確認できなかったが、華奢な体つきをしているのだけは見て分かった。


 というより、コイツは俺たちのことを知っている? なんで…。


「む!? お主、一体どこから!?」

「どこって…そんなものどうだっていいでしょう? ですが言わせてもらうなら、さっきからいましたよ? ずっとね」

「何じゃと!?」

「…それにしても、貴方の推測はほぼ正しいですよ。見ていて感心しましたねぇ。いや~流石『呪解士(ディスペラー)』と言われていただけのことはありますねぇ。今は老いたからかただの研究者みたいですが…」

「!? なぜその名を知っている!?」

「フフフ…秘密です。…まぁいいモノ見せて貰いましたしねぇ。それは片鱗かもしれませんが、私も色々と参考にさせてもらいますね」

「クッ!」


 笑いながら謎の人物が言うと、ヨルムさんがなにやら少々焦った顔つきになっている。


 どうしたんだ?

 てか『呪解士(ディスペラー)』? 何だそれは?


 俺が内心疑問に感じていると…


「キミがなぜその名を知っているのかはこれから聞かせてもらおう。どうやってここに入ったのかもね…。というより…ここは学院だ。部外者は敷地に入れない決まりなんだが?」


 学院長が真面目な顔つきで話しかける。


「えっと~、ごめんなさい? …これで許してくれませんかね?」

「何を馬鹿なことを。とりあえずお縄にはついてもらおうかな」

「あれま、やっぱり駄目ですか。これは手厳しい…」


 ペコリと謝るが、学院長がそれを許すはずもない。即座に言葉を重ねる。


 自分の要求が叶わないと知るや、今度は俺に標的を定めたのか俺と視線が合う。…といっても仮面越しだが。

 それでもなんとなくこちらを見ているということは感じ取れた。


「どうも…昨日の貴方たちの戦いぶりは見させてもらいましたよ。素晴らしい力をお持ちのようで」

「何…?」


 仮面の人物が俺たちに対して喋りかけてくる。

 発言からして俺たちのことをやはり知っているようだ。しかも昨日ということは…あの戦いのことを言っているのだろう。


「驚きましたよ…グランドルにいたはずの貴方が、この学院のこの場所に現れたんですからね。ま、恐らくその従魔に乗って来たんでしょうけど…こうも鉢合わせるとは思いもしませんでした」


 やれやれと言った感じにそいつは肩を落としている。

 そして…


「雑魚モンスターとはいえあの数を一瞬で全滅させたのも凄かったですが、ドラゴン4体も軽くあしらうとかふざけてるんですか? あれ…結構準備するのに時間掛かったんですよ? その苦労を一瞬で泡にしちゃってくれてまぁ…」


 準備? …ってことはコイツがあの災厄の元凶か!?


 俺が発覚した事実に驚いていると…


「あなた…一体何者なんです? 私、貴方のような存在を全く聞いてないんですけど」

「知るかよ。それよりもそれはこっちの台詞だ。こっちのこと聞く前に自分のこと話したらどうだ?」

「それは秘密ですねぇ」


 何だコイツ…ふざけてんのか? 


「まぁ彼の様子を見に来たんですが…かろうじて生きながらえたみたいですねぇ。フフ…しぶといお方ですこと…。暴れて死んでもらう予定だったんですが…なるほど。貴方が彼をやったわけですか、納得です」


 謎の人物…いや、仮面でいいか。

 仮面がヴィンセントをチラッと見てから俺に視線を戻す。


「だったらなんだってんだよ」

「いや別に何も…。ただ、要注意リストに乗せないといけないなと思いまして…。いや、抹殺対象ですかね?」


 抹殺…。何か不穏な空気になってきたな。まぁ、殺されるつもりなんて毛頭ないがな。


「そうかい…まぁ今はそれはいい。もう一度聞くがお前は何者だ?」

「さて何者でしょうねぇ?」


 再度質問をするが、また適当に返される。


 チッ! またそれかよ。

 だがお前がよからぬことを考えているのは十分分かった。


「ヴィンセントが持っていたあの指輪…まさかお前が?」

「そうです、私が彼に差し上げました。…とはいっても、差し上げたと言えるかは分かりませんがね…」

「…お前が…」


「フフフ…先ほどの私が何者かって質問ですけど、それは言いません。ただ、主の許可も下りましたし、忠告ってことで少しはお伝えしておきますよ」

「…何をだ?」

「もう計画は着々と進んでいます。止めることのできない結末に向かって…ね。貴方以外にもネズミが一匹ちょろちょろとしていますが、まぁ問題ないでしょう」

「何を言っている…」


 計画? 結末? あとネズミってなんだ?


「フフ…こちらの話です。グランドルは失敗に終わりましたが、まぁそれでも計画に大きな変更はないですから。…じゃ、私はここらで失礼しますね」

「逃がすと思ってんのか? 指輪のことも含めて色々吐いてもらうぞ」


 手を振ってサヨナラと言わんばかりの挙動をするが、そんなのを見逃すはずもない。この場にいる全員が仮面に対して警戒を強める。


 出入口は俺たちが入って来たところだけ…。逃がしゃしねぇよ。


 俺が動き出そうとする寸前、ナナが、展開していた『メテオバブル』を仮面に向かって放つ。

 超圧縮された水の塊は、岩と変わらない硬度で仮面のいた一帯を覆い尽くし、大きな音が部屋を支配した。勢いで床はめくれ、小さな破片がこちらにも少し飛んできた。


「さっきから何ヘラヘラしてるかなぁ。自分のしてること分かってるの?」


 ナナが普段は見せない苛立ちの表情を見せながら、仮面のいたであろう場所に向かって吐き捨てる。今まで見たことのない表情に、俺は一瞬目が釘付けになった。


 …でもまぁ、そりゃそうか。ナナは、グランドルで戦死した人を直に見ているしな。そんな事態を招いた奴がヘラヘラしてるのは見るに耐えないか…。

 俺も同様の気持ちだ。


 が…


「何…!?」

「残念でしたね…。ここにいる私は魔力だけです。実体は別の所にありますので」


 めくれた床をものともせず、仮面は先ほどと変わらぬ位置に立っており、腕組みしながらこちらを見つめている。

 外見に特に変化はなく、何もなかったかのようだ。


「あ、無駄ですよ?」

「…物理も効果なしですか」


 それを見たポポが一瞬の間に仮面に肉薄し『翼剣(ウィングブレード)』を当てるが、特に効果はなく健在。見ている限り手ごたえもなさそうに見えたので、奴の言葉に嘘がないことがわかった。


「クソッ!」

「残念でしたね。…というよりいきなりですね? もうちっと穏便に出来ないですか?」

「貴方にそれが必要だとでも?」

「ありゃ、こちらも手厳しいですねぇ…」


 ポポもナナと同様に苛立ちの声で返答する。


 ポポはナナ以上に感じているはずだ。最初から最後まで戦場にいて、実際に人が死ぬ瞬間を見てきたからな…。

 昨日、助けられなかったと嘆いているのを見て、俺も胸が痛んだ。


「貴方とはいずれまた会うことになるでしょう。その時、貴方のその魂を頂戴しに参ります。それでは…束の間の日常をお楽しみくださいませ」


 そう言うと、薄かった奴の体がさらに薄くなっていく。


 それ見ているだけしかできないのが、俺たちにさらに苛立ちを覚えさせる。


「あと、彼を悪く思うのはやめてあげてくださいね? 彼は我々の手ごまとして動いてもらっただけですので。ま、もう解けちゃっているみたいですがね…。『呪解者(ディスペラー)』は予想外でしたししょうがないですが」

「…つまり、お主があ奴を洗脳していたんじゃな?」

「その通りです」


 やはり洗脳だったか。

 …あと、我々ってことは他にも仲間がいるのか?


「我々ってことはお前には仲間がいるんだな?」

「仲間というよりかは同志ですかねぇ? ま、どっちでも私はいいですが…。それじゃ、今度こそサヨナラです」


 もう少し情報を聞き出したかったところだが、今度こそ奴の体は完全に消え去ってしまった。


 静寂が、この部屋を支配する。

 そして…


「…ナナ、どうだ?」

「いないね。本当に魔力だけだったみたい」


 ナナに本当に消えたのかを確認するが、どうやら本当に消えたようだ。


 …魔力だけであのように実体を離れて動けるのは初めて見たし聞いた。あんなヘラヘラしてたが、どんな実力と技術を持ってるかは分からんな。


 ただ、分かったことが一つだけある。




 よからぬ考えを持った組織が、どうやらいるみたいだ。

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