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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第一章 グランドルの新米冒険者
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83話 クレアの憂鬱(別視点)

 ◇◇◇



 こんにちは。委員長を務めています、クレア・ハーモニアです。


 時刻は昼過ぎ…。今現在、授業を受けている最中なのですが、私の席よりも前に座っているアンリが、ちょっとおかしいです。

 顔はあまり確認できませんが、それでも後ろから見ても分かるほどに肩を落とし、何やら気落ちしているような雰囲気が漂っています。

 授業の内容なんて上の空といったところでしょうか? 


 正直なところ、見ているこちらも見るに耐えない状態です。

 周りに座っている人も、何やらそちらが気になるのか、チラチラとアンリを確認したりしてますが、恐らく私と同じ気持ちなのでしょうね。

 これはきっと、昨日のあの出来事が原因でしょう。


 …そう。先生がヴィンセントから私たちを助けてくれた後、知らぬ間にグランドルの戦場へと行ってしまったことです。

 それ以外考えられません。




 少し…時間を戻しましょう。




 ◆◆◆




「アンリ! クレア! どこに行ってたんだオイ!?」


 あの後フロムさんと一緒に私たちは学院の講堂へと避難しましたが、そこには既に避難していた大勢の生徒がいました。

 もちろん…エリック、メイスン、アレクもいます。私たちを見つけるなり、すぐさま声をかけながら近づいてきました。


 警報が発令した場合はこの講堂に避難することになっているのですが、どうやらほとんどの生徒がここに集まっているようでした。

 このような事態は入学してから初めてでしたが、皆分かっていたようです。


「エリック、それに2人も…。心配を掛けました。ですが、私たちは平気です。ただアイザさんが…」


 私は、取りあえず自分らは怪我をしていないということを、そしてアイザさんが怪我をしていることを皆に伝えました。


「傷はもう塞がっているみたいだが、血を流しすぎてる。どこか…横になれる所ってねぇかな?」

「うわっ!? すげぇ血まみれ…。大丈夫なんですか!?」


 私とアンリの後ろにいた、アイザさんを背負ったフロムさんを見て、エリックが声をあげます。

 事の一部始終を見ていた私たちはもう傷が塞がっているのは知っていますが、他の人は知らないですからね。

 血が大量に付着した服を見れば、大怪我をしていると思っても仕方ないでしょう。


「傷はもう塞がってんだ、ツカサが回復魔法かけてくれたからな」

「先生が? って、先生が居ませんけど…どこに?」

「悪いが先にコイツを横にならせたい。詳しい話は後だ」

「あ、すいません! …確か奥に休憩スペースがあるので、そこにならベッドがあったと思います。取りあえずそこへ…」

「よし、じゃあそこに行くぞ。…悪いっ! 道開けてくれ!」


 周りに何事かと近寄ってきていた生徒に対してフロムさんが言います。

 周りもアイザさんの状態を見るとすぐさま道を開けていってくれたので、移動にはさほど苦労はしないで済みました。


 途中…医療担当の先生であるサラ先生が一緒についていったので、アイザさんは恐らくもう大丈夫でしょう。

 一安心です。




 それから…フロムさんと一緒に休憩スペースまで行ったエリックが、私たちの元へと帰ってきます。


 …ただ、そこにはフロムさんの姿はありませんでした。


「フロムさんは?」

「アイザさんのとこにいるってさ。サラ先生の手伝いをしてる」


 どうやらサラ先生と共にいるようです。きっとアイザさんのことが心配なのでしょう。

 あの二人…仲が悪そうに見えて、実は仲がいいですしね。


「それで…クレア達はどこに行ってたんですか? …もしかして、今回の騒ぎに巻き込まれたんですか?」

「はい。実は……」


 そして私は、アンリと一緒に先ほどの一部始終を皆に説明します。

 いつの間にか…私たちの周りには多くの人が集まっていました。




「そんなことがあったのかよ…。ったく! ヴィンセントの奴何してやがんだ…」

「全くですね…理解に苦しみます」

「何がアイツをそこまで突き動かしてんだろうな…」


 話を聞いた3人が思い思いの言葉を口にしています。周りにいて話を聞いていた他の人も頷いたりしている人がほとんどです。

 まぁ無理もないでしょう。私もそう思いましたから。

 ただ…


「何でだよ…前はこんな奴じゃなかったのに…。どうしちまったんだよ…アイツ…」

「エリック…」


 エリックは最初は怒りの顔を浮かべていましたが、次第に落ち込んでいるような…悲しんでいるような顔になっていました。

 …でも、それは仕方のないことかもしれません。


 なぜなら、入学した当初…2人は非常に気の合う間柄でしたから。


 貴族と平民という見えない壁なんてものはなく、お互いに気を許し合うほどの姿に、あれが親友の理想などとさえ周りからは言われていましたからね。

 …今では毛ほどもそんなことは感じられませんが。

 それでも、エリックには思うところがあるのでしょう。




「じゃあ…先生は今ヴィンセントと対峙しているということですか?」

「ええ。ただ、こちらに逃げている最中、学院長とすれ違いましたから…応援はもう平気だと思います」

「…先生、大丈夫かな?」


 アンリが心配そうに呟きますが…


「師匠なら心配いらねぇよ」


 アレクが真剣な眼差しでポツリと零します。


 どういうことでしょうか? 

 確かに、先生の実力はここにいるほとんどの生徒は知っています。それは…一番先生といる時間が多い私たちならよく分かっていることです。


 ですが…さっき見たヴィンセントは明らかに異常でした。

 無詠唱、格上の魔法の使用、異常な回復力…。あの短い間でさえ、それくらいあり得ないことをヴィンセントはしました。

 先生がいくら凄腕の冒険者とはいえ、安心するには少し不十分です。

 まだ何か…予測できないことが起こってもおかしくはありません。


「でも、アイツおかしかったし、何が起こるか分からないよ?」

「平気だ」

「で…でも!」

「大丈夫だっつってんだろ。師匠の強さを…俺はこの学院の中で最も知ってんだよ」


 アンリが取り乱しかけますが、アレクは淡々とアンリの言葉を返していきます。


 …そうでした。

 アレクは先生が来てからというもの、放課後ほぼ毎日稽古をしてもらっていました。私たち以上に先生とは手合わせをしています。

 アレクにしか分からないことがあっても不思議ではありません。


「アレク、どういうことだ?」


 エリックがアレクに聞きます。

 すると…


「あ? 特に意味なんてねぇよ、そのまんまの意味だ。師匠なら平気…心配する必要なんて全くねぇ」

「説明になってないんだが…」

「説明ねぇ…。んなもんをする必要性すら感じさせないからな…師匠は…」


 アレクが言葉を続けます。


「師匠がいれば、その時点で戦いは終了を告げる。師匠が現れた時点で、もう相手は詰んでんだよ」

「アレク…一体何を…」

「師匠と知り合えて本当に良かったぜ。まさか…俺たちに見せていたあの実力が、あの人にとってはほんの一部だったんだなって分かったからな…」


 皆…アレクの言葉に耳を傾けています。

 それくらい、アレクの言葉には本気な雰囲気が込められていました。


「無敵だ…師匠は。…あの人に勝てる奴なんて、俺は過去の歴史からみても想像もつかねぇな。だから…信じて待て」

「アレク……うん、分かった。私…先生を信じるよ」


 アレクの言葉を信じたのか、アンリは心配する顔をやめました。


 …アレクは、偶にですが妙に説得力のあるような話し方をします。

 見た目と態度は不良みたいですが、中身は至って真面目なんですよね。そういうのに魅力を感じている子も結構いるとかなんとか…。

 その瞬間を垣間見ることができたところでしょうか。




 その後随分と時間が経ったかと思うと、講堂に学院長が来てヴィンセントを無力化したという知らせを聞きました。


 一通りの説明のあと、今回の騒ぎがヴィンセントだったということに、講堂にいた生徒達はザワつきます。

 つい先日騒ぎを起こしたばかりでしたし、今は家に閉じ込められているという話が回っていたからでしょう。


 ただ、一番驚いたのはグランドルにモンスターが迫っているという知らせでしたね。その突然の知らせには、多くの生徒がまた軽くパニックを起こしました。

 王都から随分と離れているとはいえ脅威なことには変わりはありませんし、何よりも…ドラゴンが数体確認されているというのが問題でしょう。

 ドラゴンの危険性は、誰でも知っているくらいに常識のことですから…。


 しかし、そこは流石学院長。

 持ち前のカリスマ性もさることながら、王都に『鉄壁』の二つ名を持つSランク冒険者がいることを知らせることで、騒ぎを鎮めることに成功します。


 私も聞いていて不安でしたが、これを聞いて安心しました。

 Sランクの冒険者は、それくらい影響力を与えるような人ですから。




 取りあえずその日は、もう安全だということで講堂から解散しましたが…


「あの! 学院長。先生は…どこに…?」


 アンリが、学院長に尋ねます。


 これは、皆が思っていた疑問でした。

 なぜか、先生の姿だけがありません。一体どこにいるのでしょうか?


「ツカサ君は…グランドルに向かったよ。モンスターの進行を止めるためにね…」

「……え…?」


 学院長の言葉に、アンリは意味の分からないという顔をしていました。




 ◆◆◆




 と、こんなことがあったんです。


 その時のアンリは、なんといいますか…大変でしたね。顔を青ざめて無言になってました。

 アレクがせっかく落ち着かせてくれたというのに、結局は意味のないものとなってしまいました。


 アンリの心境は皆分かっていたので、励ましの言葉を皆で掛けましたが…


「(はぁ………)」


 こんな状態が、今日一日続いています。


 勿論学院長もアンリの状態を察して言葉を掛けてはくれたのですが、その言葉は耳に届いていない感じでした。




 やがてチャイムが鳴り、授業が終わったのを見て私は…


「アンリ…いつまで心配してるんですか。先生ならきっと平気ですよ」


 アンリの席まで移動します。


「……うん…」

「学院長とアレクが言ったことを信じましょうよ」


 学院長もですが…ドラゴンという単語が出ても全く表情を変えないアレクを見て、私はアレクが言ったことを信じることにしました。

 本当に…何かその訳があると思ったからです。


「…はぁ……」


 が、私の声はどうやら届いていないようです。

 …ここまでくると、先生が無事に帰ってこない限りもうダメな気がします。

 正直な所…お手上げ状態です。


「…アンリ、取りあえず寮に帰りましょう。アンリの好きなもの作りますから…それ食べて少しでも元気だしてください」


 アンリの手を引っ張り、立ち上がらせます。

 そして少々強引ですが…引きずるようにして寮までアンリを連れていきます。

 …このまま放置したら、ずっと教室に残ってそうですし。




 はぁ…。先生、早く帰ってきてください。

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