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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第一章 グランドルの新米冒険者
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78話 Sランクの打診

 ◆◆◆




「昨日の今日で済まないな、お主に伝えておくことがあってな…」

「そうですか。まぁ俺もギルドマスターには聞きたいことありましたからお気になさらず」


 ギルドマスターの部屋に入って対面すると、いつもと変わらぬ表情でギルドマスターは俺に対応する。

 …が、目元には隈が出来ており、やはり寝ていなかったのだとすぐに分かった。

 それほどに後始末等に追われているのだろう。ギルドマスターにしか処理できないものも多いだろうし。


 ギルドマスターが誰かをこの部屋へと呼ぶ時は、何かしらあった時がほとんどだ。

 ちゃんと身構えるように耳を傾けなければ…。


「だろうな…そうだと思っていた。…まずこちらから用件を言ってもいいか?」

「どうぞ」

「済まぬ。まず始めにだが…改めて礼を言いたい。此度の戦い、恩に着る」


 ズルッ…またそれかーい!

 もうそれはいいって昨日散々言ってんじゃねーかよ。何回聞いたと思ってんだ!

 十分に分かっとるわ! 


「いや…あの、ホントそれもういいんで、次の要件…どぞ」


 突っ込む気力も湧かねーわ。

 はよ頭あげてくれ。


「そ、そうか。…では次の要件なのだが、今回の件でお主の名は世界中に知れ渡ることになることについてだ」

「……はぁ。やっぱしそうなりますか…」


 …だよなぁ。懸念していたことではあるが。


「まず、今回のこの『ラグナの災厄』だが、これはハッキリ言って異常な事態だ。活性化の兆候が出ていたとはいえ、突然ここまでの規模の事が起こるなどあり得ない」


 ほうほう。

 そういえばギルドの職員を派遣して記録取ってたとか言ってたよな…。

 それでも対応しきれないほど急だったわけだから、確かに異常だわな。


「恐らく、全大陸の過去の災厄の事例と比較しても、今回の『ラグナの災厄』は危険度でも極めて上位、異常性で言えば間違いなくトップになることだろう」

「うわ~、結構すごい災厄だったんだね~」

「…ナナ、それのほほんとして言うことじゃないから」


 ナナがヘラッとした顔で言っている反面、俺は頭を抱えていた。


 そりゃあ知れ渡ることになるだろうよ…。

 ギルドマスターの言っていることは、恐らく本当のことなんだろう。わざわざここで嘘をつくとも思えない。


「それをほぼお主が1人で終結させてしまったのだ。多くの人間がそれを実際に見ておるし、広まるのも時間の問題だろう。近いうちに国も動き出すぞ」

「ええぇ…」


 国っていうのは、大陸全体のことでもあり、王都のことを言っている場合もある。

 まぁ、国=大陸・王都とか思っておけばいい。

 ちょいとややこしいが。


 …なんにせよ、面倒なことになってきたな。


「これから色々と大変そうですね、ご主人」

「ホントな、こんなん望んでないのに…」


 俺の思い描くものと違う状況にため息しか出てこない。

 人生ってホント難しいね。俺は帰る手段見つけられりゃそれでいいのに…。


「で、次で最後なんだが、これはすぐにというわけではないが…お主には恐らく、Sランク昇格への打診が来ると思われる」

「はぁ!?」


 ギルドマスターから突拍子もないことを言われ、思わず失礼な言葉が出てしまった。


 な、なんでやねん?

 Sランクは実力だけじゃ到達できない領域って聞いてるんですけど!?


「おぉーー! 流石ですねご主人」

「ブラボ~ブラボ~、ヒューヒュー♪」

「黙れお前ら!」


 変なタイミングで茶化すんじゃねーよ。俺からしたら嬉しくねー!

 コイツらわざとやってるだろ。


「…まぁ、不思議なことでもあるまい? それだけの実力がお主にはあるだろうに…」

「いやいや! Sランクって実力だけじゃ到達できないって話じゃないですか!? 俺、今回は実力しか見せてないですよ!?」

「一定以上の常識を持っていて、教養も十分ではないか」

「何を根拠に言ってます?」

「いや、学院に派遣できるくらいだろう?」


 Sランクの基準低っ!? そうだったら日本人なら大抵の人が基準満たせることになるわ! 実力は除くけど…。


「…あの、それって拒否できないですかね?」

「難しいだろうな…」

「あ、ハイ…そうですか」


 無理なのか…。


「危機を退けたのは事実だし、放っておけばグランドルのみならず、他の町々にも影響は出ていたのは確実。ギルドと国としてはそれを救った者を把握しておきたいであろうし、何よりも褒美・報酬として何かを与えねばならないと考えているだろう。それがSランクという形になるな」


 名誉あることなんだろうけど、俺からしたらいい迷惑だな。


「褒美はしなければ民衆にも示しがつかないしな。それはグランドルにいる住人が一番思っていることであろう」

「…ギルドマスターはどう思ってるんですか?」

「私は勿論賛成だが…お主の性格を考えるにそれを望んではいないというのは分かっているつもりだ。…今も嫌な顔しておるしな。…お主の意見を尊重するぞ」


 どうやら嫌な表情が出ていたらしい。おっとすいやせん。


 ギルドマスターの言葉で気づくことができた。


 でもSランクはなぁ…。束縛されそうだからちょっと…。


「でも、やっぱり嫌なんですけど…」

「これは私個人の力でどうにかなるものではないからな…。お主がそう言うのであれば協力はするが、最終的に決めるのはギルドの本部。どこまでできるかは分からぬ」

「…じゃあ仮にですけど、俺が冒険者辞めたらどうなりますかね?」

「それは全力で止めさせてもらう」


 なんか急にギルドマスターの目つきが変わる。


 ありゃ…なんですか急に…。


「お主の評判は元々ここの住人からは高いのだ。好き好んで住民の手助けをする冒険者などほとんどいないからな。ギルドとしても仕事が減って助かっておるし、もしお主が辞めるとなったら、私が袋叩きにされてしまう」

「そんな大げさな…」

「事実だ」


 …マジか。

 住人の手助け(お手伝い)は町の人と交流を図るためにやってただけなんだがな…。


「だが、今辞めたところで国は黙ってはいないぞ? Sランク相当の者をみすみす見逃すはずもあるまい、付きまとわれることになると思うが」

「それはそれで嫌ですね…」


 逃げ道ねぇなコレ。

 何かいい案ないか?


「ギルドマスター。これって…いつ頃くるんでしょうか?」


 と、ポポが訪ねる。


「ふむ…。まぁ一週間程度と見ていいだろうな。ギルドの本部に情報が伝わるのにはそう時間が掛かるわけではないが、事実確認、そして審議等も含めるとなると、それくらいが妥当であろう」

「なるほど…」


 ポポがうんうんと相槌をうつ。


 うんうんじゃねーよ。俺は素直に頷けねーわ。


「元気出しなよご主人。…あと一週間あるんだよ?」


 と、困った顔をしている俺にナナが声を掛ける。


「え?」

「大丈夫だって! まだ時間あるし…」


 おお…ナナよ! ポポはもう受け入れちゃってるけど、お前はこの状況を打破するために、あれこれ考えようよと言おうとしてるんだな!? 

 流石ナナちゃんだぜ!


「十分…やりたいことはできるはずだよ」


 違ったあぁぁぁっ!!!? コイツも諦めてるーーーー!!!


 何だよその最後にやり残したことはないか? みたいな言い方。

 ふざけんな。やりたいことしかほとんどねーよ!


 …クソッ、コイツら人のことだと思って簡単にもの言ってやがるな。


「お前もか…」

「? な~に?」


 キョトンとした顔で、ナナが俺を見つめる。


 どうやら本心で思っている様子。この天然ちゃんめ!


「いや、こっちの話だ」




 退路は既に断たれているらしい。


 …もう、諦めるしかなさそうである。

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