6話 異世界のジャンパー
ギルドから出た俺は、出てすぐ目の前の建物の中へと入った。
武器・防具屋である。
キィ、と音がなって開いた扉をくぐると、そこには剣やナイフをはじめ、俺が知っているであろう武器の品々が陳列していた。
店内は綺麗な作りをしており、武器の物騒さを感じさせない雰囲気だ。ハッキリ言ってオシャンティーです。
奥のカウンターには少々屈強な男性が立っており、こちらに気付いたのか声を掛けてくる。
歳は30くらいかな?
「おう、いらっしゃい。何をお求めなんだ?」
豪快な声でそう言ってくる。声デカいな…。
俺はカウンターまで近づき…
「あの、武器が欲しくて。初心者の冒険者が使うような武器を見繕ってはいただけないでしょうか?」
「うん? 今日冒険者になったのか?」
「はい、つい先ほど」
「そうかそうか! じゃあこの店を利用するのも初めてだよな? 俺はベルクってんだ。よろしくな! あんちゃん」
「よろしくお願いします。俺は司と言います」
「ツカサか…。よし、じゃあちょっと待ってな。すぐ用意するからよ」
そう言って店の奥に言ってしまった。
「ふむ。なかなか人柄の良さそうな人でしたね。主人を見ても子供扱いをしているような感じはしませんでした」
「そうだな」
「ご主人は大人だよ~、見た目は子供っぽいけど」
久しぶりにコイツら口を開いたな。…そういえばギルドでは一度も喋ってなかった。
…忘れてたわけじゃないぞ?
というよりナナ、そこは否定してくれよ。案外毒舌なのかい君は?
「待たせたな。初心者が使う武器っていうと大体このあたりになるぜ」
気づくと武器屋のおっちゃんは奥から戻ってきていた。
そしてカウンターに武器を置き始める。
「ショートソード、ナイフ、斧ってところだな。ショートソードは比較的誰でも使えるからオススメだ。ナイフは切れ味はいいが、変な力の入れ方をすると摩耗しやすいぜ。ちょいと扱いが難しいかもな。最後に斧だが、これは力に自信のあるやつにオススメだ。手数は少なくなるが一撃の威力には期待できるぜ。ただあんちゃんは斧はちと厳しそうか? 俺的には最初の二つをお勧めするが…。ちなみに値段はどれも銀貨5枚だ」
お金は何とかなりそうだ。
ふむ。どうしたものか…。
斧は確かに難しそうだ。重そうだし。
俺がそう考えていると…
「(ショートソードがいいと思うよ~。ご主人には一番合ってると思うなー)」
ナナが声を潜めて話しかけてくる。
正直意外だ。ナナはおっとりしてる感じだから、てっきりあんまりこういうのには口を出さないと思っていたんだが…。まぁコイツらのことはまだよく分かってないし、これから分かっていこうとは思ってるんだけど。
あ、ポポの奴寝てやがる。この野郎、いつの間に寝やがった。
俺だって寝たいくらいだよ! くそぅ。
…まぁいいや。
ナナになんでなのか理由でも聞いてみよ。
「(どうしてそう思うんだ?)」
俺も声を潜めて言葉を返す。
「(えっとね~、ご主人は背が低いから斧は流石に難しそうだし、移動だけで疲れそうだよね~。ナイフはおじさん扱いが難しいって言ってたからだよ~。ご主人素人だろうし、そうなると消去法で、比較的扱いやすいらしいショートソードが無難なんじゃないかなと思ったんだ~)」
どうやら本当に頭がいいみたいだ。インコなのに…。
神様ありがとう。客観的な意見をくれるやつができましたよ。
「(なるほど。ならショートソードにしておこうか。俺もコレがいいと思うし)」
俺たちがヒソヒソ話していると
「ん? 誰と話してんだ? ああそこの肩に乗ってる鳥…従魔か?」
一瞬ヤベッ!? と思ったが、この様子だと喋るのは普通なのか?
間違いの可能性もあるが…、思い切って言ってみるか。
「…ええ、そうですよ」
「お~、喋る従魔がいるのは聞いてはいたが、実際に見るのは初めてだな。名前は何ていうんだよ? ツカサ」
ありゃ?
どうやら珍しいものの、従魔が喋るのは問題なさそうだ。
喋るの解禁して良さそうな感じかこれは…?
「えっと、黄色のがポポで白いのがナナって言います。まだ生後1ヶ月ですけど」
「1ヶ月!? それなのに喋れんのか、すげぇんだな」
「ハハハ、何でですかね? よく言われます」
とりあえず軽くはぐらかしておく。
「そういうもんか…。ま、よろしくな! ポポにナナ! ポポは寝てるみたいだけどよ…」
寝ているポポを見て、ベルクさんは苦笑している。
「ナナ。もういいぞ」
「分かった~。ベルクさんよろしくね~」
「ハハハ、可愛いじゃねぇか。それにしてもどうして隠してたんだ? 別に変なことでもねぇだろうに…」
ですよねー。
まぁ予想はしてた答えだけど。
「田舎からでてきたもので…。常識に疎いのでつい。もしかしたら喋るのが変なことかと思っていましたから、喋るのを禁止させてたんですよ」
「そうだったのか、まぁそんな心配はしなくてもいいと思うぜ?」
「はい。ベルクさんを見てそう思いましたよ」
「なら良かったな。喋るのを我慢するのは結構辛いしな。それは従魔も一緒だろう」
「そうですね。これからは普通に話しますよ」
「ご主人とお話する~」
俺たちはそんな他愛のない会話をしていた。
ポポはずっと寝てたが…。
さて、そろそろ武器を購入しようか。これ以上は営業の邪魔になりそうだ。
「ベルクさん。俺はこのショートソードを使おうかと思います」
「おうそうか、なら銀貨5枚だな。面白いもんも見れたし剥ぎ取りようのナイフもサービスでつけてやるよ」
それは助かる。てっきり別口で販売してるかと思ってたからな。
ベルクさん、男前っス。
いや、こんなことがなくても見た目だけで超男前な感じだけども。
「ありがとうございます!」
そう言って俺は銀貨を5枚渡す。
これで残りはあと4枚だ。結構痛い出費だがこれは必要経費だろう。
「まいどありっ!! ほれ、ショートソードと剥ぎ取り用のナイフだ。大事に扱ってくれよ?」
俺は品々を受け取る。
これでやっと駆け出しの冒険者らしくなったな。
まさか剣を持ち歩く日がくるとは…。日本じゃ…いや、地球じゃ考えられんな。
俺が感慨に浸っているとベルクさんが口を開く。
「あと砥石もだ。これは武器を買ったやつには無料で提供してるやつなんだけどな。手入れのやり方は分かるか?」
砥石…。まるでモン○ンみたいだ。
見るのも初めてだし、もちろんやり方なんて分からない。
「いえ、分かりません」
そう答えておく。
「ありゃ? 知らなかったか。なら教えてやるよ。なに簡単さ、繊細な武器はしっかりと職人にやらせた方がいいがショートソードなら素人でも十分できるぜ。えっとだなぁ…」
というわけでベルクさんの砥石講習が始まった。
◆◆◆
~30分後~
「よし上出来だ! それで手入れは十分だぜ」
「あ、ありがとうございます」
ベルクさんの教え方が上手かったのか俺はなんとか覚えることができていた。
どうやらベルクさんの合格ラインにも達したみたいだ。
ただ、力加減とか角度とか繊細な作業をしていたんだけど、俺ってこんな器用だったっけ? いつも家族からは不器用って言われて俺もそれを自覚していたんだが…。
まぁいいか。ここまでしてもらったんだ、大事に扱おう。
…それにしても随分長居してしまったようだ。そろそろ行かないと本当に邪魔になっちゃうな。
「わざわざありがとうございました。営業の邪魔をしてしまって申し訳ありません。そろそろ行こうかと思います」
「おう気をつけてな! …あと聞かなかったんだが防具はいいのか?」
「あ…」
言われてハッとする。
さっきも確認しなきゃって思ってたじゃん俺。
忘れっぽいなぁ。まだボケたくはないが…。
そんなことを考えつつ俺は自分の防具のステータスを念じてみる。
【異世界のジャンパー(固有防具)】
☆説明
神が作ったジャンパーだよ~。大事にしてね~。一生使っても問題ないかも!
By 神様
【効力】
防御力上昇(特大)
魔力量上昇(特大)
素早さ上昇(特大)
【付与スキル】
HP自動回復(特大)
衝撃耐性(特大)
忍耐力 レベルMax
…。
言葉も出ないな…。
うん。その…予想はしてた。だって神様が作ったわけだしね。
メチャクチャ性能良いって言ってたしさ、うん。
それにしても性能が異常すぎる。
てかこれならモンスターに襲われても死ななかったんじゃね?
ありがたく使わせてもらおう。
「あ~、大丈夫です。武器だけでいいです…。間に合ってますんで…」
「ん? そうか? 必要になったらいつでも来いよ?」
「はい。ありがとうございます」
防具に関しては一生必要ないかも…。
この世界のことをまだよく知らない俺だけど、恐らくこれはとんでもない性能を誇ってると思う。てか絶対そうだろ。
とりあえず簡単には死なないだろうから、それは助かるんだけどねー。
色々考えつつ、俺は外に出た。