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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第一章 グランドルの新米冒険者
77/531

75話 殲滅

 ◆◆◆




 やがて、味方を全員一か所に固め準備が整う。


 ナナは『結晶(クリスタル)氷壁(ロック)』を展開して味方全員を囲み、ポポがナナの隣で守りに入っている。


 よし、もう解いて良さそうだな。辛いだろうし…。


 流石に死ぬなんてことはないが、魔力を当てられて失神寸前になっている人がチラホラだが確認できる。


 …それくらいはご了承くださいまし。助かるなら安いもんでしょ?


 そんなことを思いながら放出していた魔力を抑えた。

 すると、皆が息を思い切り吐き出し、激しく呼吸を繰り返す。


 …大丈夫そうだな。

 もう少し良い方法でもあればいいんだが…。


「じゃあ…やろうか?」


 俺はモンスター集団を見据える。

 魔力を抑えたことでモンスター達の方も体の自由が効くようになり、それぞれ動き始める。

 ゴブリンやオークなどといった危険度がそれほど高くないモンスターはまだ動きが鈍いが、ドラゴンや上位個体のモンスターは動けるようで、原因である俺を見ている。


「オイてめーら…覚悟はいいか?」

「グルルゥ…!!」


 ドラゴンは恐怖心よりも対抗心の方が芽生えているようで、今にも飛びかかってきそうだ。

 知能の高さは何処へ行ったのやら…。

 魔滅の山の奴らはもっと冷静だった気がするんだが…これは個体差なのか?


 …まぁいいや。


「そうかいそうかい…俺のことも殺すってか…」

「グルアァッ!!」


 そしてドラゴンが翼をはためかせながら、俺に向かって咆哮をあげて飛びかかってきた。そして他のモンスター達も…。

 地上と上空から、同時に攻めてくる。


 それが戦闘開始の合図となった。


「なら遠慮はいらないな!!! 『ギガグラビティ』!」


 名称呼びでの魔法の発動だ! 重力に押しつぶされろ!


 両手を合わせて魔法を発動すると、紫色の丸い球体がモンスター集団の中心部分に出現。それと同時に球体の周囲の重力が大きく増し、ドラゴンはそれに抗えず地に落ち、他のモンスターも地べたに体を張り付けた。


 ぐちゃっと…既に重力で潰れて絶命しているモンスターも多くいるみたいだが。


 そして…


「『グランドスパイク・ウェーブ』!」


 地面にヘバリ着いたところで、『ギガグラビティ』を解除し次の魔法を発動。

 両手を地面につけて、地面一帯から固めた土の刺を大量に生やして、モンスターを串刺しにする。

 突如として地面から出現したことで辺り一面が刺で埋め尽くされ、巻き込まれたモンスターが絶命、もしくは致命傷を受けていく。


 この魔法のコンボだと、天地両方の相手に対応できるから結構良いんだよな。

 相手の数が多いほど効果も大きくなるし、今回みたいな状況だと使わない手はない。


 一面刺だらけとなった平原を見回しながら魔法を解除すると、生えていた刺は崩れて土へと戻っていく。


「ん? …しぶといな。流石はドラゴンってところか」


 こちらに向かってきていた3体のドラゴンだが、2匹は絶命している。手、足、胴体、翼など様々な所を貫かれたようで、そこからはおびただしいほどの血が噴き出しているのがよく分かる。

 血は噴水のように噴き出しているので、見ているのはとても気分のいいものではないが…。


 残りの1匹はまだ息があるようで、息も絶え絶えにこちらを見ていた。


 2体は絶命させたとはいえ、やはり見た目通り生命力は高いらしい。

 急所を避けただけかもしれんが…。


 俺はそのドラゴンの近くへと移動する。


「グル…ゥゥ…」


 俺が近づくとドラゴンは憎々しげにこちらを見ているため、俺と目が合った。

 随分と鋭い眼光をしており、並の人間、またはモンスターではそれだけで震えあがっても仕方ないと思わせるほどだった。


 …私には全く関係ありませんがね。


 内心でそんなことを思う。


 まぁなんにせよ、そっちから仕掛けてきたんだから文句はねぇだろ。

 これは正当防衛だ。


「せめて楽に逝かせてやる」


 そして…頭を踏み砕き、絶命させる。

 またそれのせいで俺は返り血を浴びるが、魔法を使わなくても屠れるんなら使わないに越したことはないので、甘んじて受け入れる。

 …嫌なことには変わりないが。


「さて…残りもやらないとな」


 歩くたびに、『異世界のジャンパー』から血がしたたり落ちる。


 今の俺、すげぇヤバい奴なんだろうな…。血だらけだし。

 殺人鬼でもこんな奴ほとんどいねぇだろうな。


 頭でそんなことを思いつつ、俺はまだ残っているモンスターを駆逐すべく動き出した。




 ◇◇◇




「うわ~壮観だね~」

「全くです。こんなに多くのモンスターを相手にしたことはないですからね」


 司がモンスターを駆逐していく様を、ポポとナナがやれやれといった表情で見つめ呟いている。

 …といっても、『覚醒状態』となった2匹のステータスは、先ほどとは比べ物にならないほどに上昇しているため、人のことをいえるわけではないが…。

 十分にポポとナナも今は規格外である。


「おっと危ない」


 今司のいる方向から大きな爆発がしたかと思えば、それの影響で空へと投げ出されたモンスターがこちらに向かって降ってきていたので、ポポはそれを空中であしらい、『結晶(クリスタル)氷壁(ロック)』の直撃を防ぐ。

 別に当たった所で危なくなど微塵もないのだが…。


 ただ、あしらうはずがモンスターは空中で霧散しており、血しぶきすら出なかった。それを見ていた者は唖然とした顔をさらに強めた。


「今、消えたよな…?」

「何が何だか…」


 塵のように消えたモンスターを見て、味方連中は首を傾げている。

 ポポがただの蹴りをしただけにしか見えなかったからだ。


 まぁ実際にはただ本当に蹴っただけなのだが、これは『覚醒状態』になったことによってポポの能力が飛躍的に上昇。そしてポポ自身に火と風の『属性付与』がされていることで、触れた瞬間に一瞬で対象を燃やし尽くし、風で燃えカスを吹き飛ばしているためである。

 塵のように消えたのはそういうことだ。それに気づいた者はこの場にはいないようだが。

 それほどに異常な力を、『覚醒状態』のポポは持っている。そしてナナの方も…。




「…ねぇ、本当に…ポポとナナなの?」


 そんな中、セシルが2匹に声を掛ける。


「セシルさん。ハイ、そうですよ」

「私ナナだよ~」

「…本当にポポとナナなんだね。驚いた」


 あまり驚いている顔には見えないが、実際には驚いているのだろう。

 普段とかけ離れた姿に別の生き物ではないかと疑っていたようだが、いつも聞いていた声で受け答えをしてくれる2匹を見て、信じたようだ。


「まぁこの姿は他人に見せたことありませんしね」

「うんうん。使う機会ないし…」

「ったく…ツカサもヤベェけどよ、お前らもかよ」


 と、話に入り込んできたシュトルム。


「シュトルムさん…無事だったんですか」

「おうよ! こんなとこでやられてたまるかってんだ」

「ふむ……それは残念です」

「オイオイ!? そりゃ酷くねぇか!?」


 ポポが残念そうに言うと、シュトルムが自分の言われように驚きの声を上げている。


「…イヤダナー、ジョウダンニキマッテルジャナイデスカー」

「冗談に聞こえねーよ! 何で片言なんだ!」


 ポポのシュトルムに対する印象は、非常によろしくない。まぁそれは出会いが酷かったから仕方ないことではあるのだが…。

 だが本気で言っているわけではなく、あくまで冗談半分ではある。




 そんな話をしている後ろで、同じく『結晶(クリスタル・)氷壁(ロック)』に入っていたアルガントは、会話に混じることもなく、外の様子をジッと見つめていた。


「(分かってはいたがなんという強さだ…! 『超越者』どころではないぞコレは!?)」


 まるで赤子の手を捻るかのようにドラゴンを含むモンスターを蹂躙していく司を見て、アルガントは驚愕していた。

『超越者』は確かに凄まじい力を持っている。アルガントもそれに一歩足りないというくらいの強さを持っているが、それでもここまでの大規模な魔法の行使、そして先ほどドラゴンの頭を軽く爆砕した司は、最早『超越者』の範疇には収まらないといえるほどだと感じていた。

 以前ステータスを『聖眼』で覗見して知ってはいたが、桁違いの数値をしていたため、実際に目の当たりにしたことで実感が湧いたのだろう。


「(まるで、伝承に残っている異世界人のようではないか!)」




 ◇◇◇




「カッ!?」

「コイツでおしまい…っと!」


 最後に残った一匹のコボルトの体を『ファイアランス』で貫き、この戦場にいたモンスターの駆逐が完了する。

 モンスターの死骸だらけとなった戦場には、立っているのはもう俺だけとなっていた。


「ああ~、流石に疲れたなぁ…」


 体は別に怪我とかないんだが、魔力を結構使ってしまったからさっきよりも怠さが酷くなっている。

 まぁ『才能暴走(アビリティバースト)』の発動に魔力めちゃくちゃ使ったからなんだけどさ…。




 とりあえず、皆の所に戻ろう…。

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