74話 救世主
「ご主人! グランドルが見えてきたよ!」
風圧が強烈だったので顔を下に向けていたが、ナナの言葉に顔をハッとあげる。
「そうか! 何か分かるか!?」
「町には被害はないみたい…でも、何か鐘の音が聞こえるよー」
俺には特に何も聞こえないんだが…避難警報みたいなもんかな?
でもまぁ…大事には至っていないのなら幸いだ。
「進行はまだ抑えられてると見ていいな…よし! ここからラグナ方面へ飛んでくれ!」
「りょーかい!」
ラグナ方面へ進路変更するよう、ナナに言う。
進行がまだ抑えられている以上、グランドルに今危険はない。前線の方が優先だ。
もう既にポポの気配は感じられる距離まで来ている。まだ感じられはするが…無事かどうかまでは分からない…。
急がないと…。
それから少しして…
「見えた! ドラゴンだよご主人! あと…たくさんモンスターがいる!」
俺たちが戦場の端っこに到着すると、ナナがモンスターの集団を発見したようだ。
もちろん俺には見えない。鳥と人間では、視力が違うだろうし…。
「どこだ!? 状況は分かるか?」
「あっち!! あと…なんか目まぐるしく動いてる。…あれ…ポポだ! ポポが戦ってる! ギルドマスターも!」
なにっ!? 無事か!?
「状態は!?」
「血だらけだよ!?」
そう聞いて、一瞬で焦りが俺の体に押し寄せる。
こうしちゃいられない!
「クソッ! スマン先行くわ!」
「え? わわっ!?」
ナナの背中から勢いよくポポがいる方向へと飛び出す。
その勢いが強すぎたためナナはバランスを崩し、空中でフラフラとしていたが、そんなのは平気だろうと割り切って気にしなかった。
すると、俺の目にも見える所まで来たようで、ポポの姿が確認できた。
ポポ!! 来たぞ!!
「ご主人…間に合ったみたいですね…」
ポポがズタボロになりながら、こちらを見ている。
もう大丈夫だぞ…! よくやってくれた!
しかし…ポポの後ろからドラゴンが接近し、大きな口でポポをかみ砕こうとしている姿を見て俺は…
「邪魔だトカゲがっ!!!」
ポポに噛みつこうとしていたので、本気の蹴りでドラゴンの頭を迎え撃った。
ドラゴンの頭は爆砕して辺りに飛び散り、残った胴体だけが地面へと落下していった。
そのため、俺の体はドラゴンの返り血や肉片でビチャビチャになったが…まぁ仕方ない。
辺りにドラゴンの肉片が雨のようにボタボタと降る。
「…来てくれたか…!!」
「ツ、ツカサ!?」
「今の…何…」
「何が起こったんだ…?」
ギルドマスターを始めとした今この場にいる戦場の冒険者と兵士がそれぞれの反応を示すが、取りあえず放置。
ギルドマスターに多少の傷はあるが、致命傷はどうやらない模様。傷はすぐ治してあげたいが今はポポの方が優先だ。
そのまま地面へと降り立ち、ポポまで駆け寄る。
「ポポ! すぐに治してやるからな!」
「うぅ…」
ポポの体を見るとほぼ全身から血を流しているようで、黄色い羽は赤く染まっている部分が大半だった。血がぽたぽたと垂れては、地面を汚していく。
「『ヒーリング』!! …『ヒーリング』!!」
込める魔力は最大。傷が残るとかは絶対に勘弁だ。
俺が魔法を掛けると、少しずつ傷は癒えているようで、ポポの表情も険しいものではなくなってきた。
「ポポ…傷はどうだ!?」
「ほぼ塞がりました…。あとは自然に回復できる範疇の傷ですので、もう平気です」
「そうか…」
「はい、ご主人…ありがとうございます。九死に一生を得ました」
「間に合って良かった…もう平気か!?」
「ええ、問題ありません」
「ふぇ~、ご主人酷いよ~! …で、ポポー! 大丈夫なの!?」
ポポの傷を治したところでナナもこちらに合流した。
怒っているが…まぁ許せ。急いでたんだからしゃーないだろ。
「ナナ…。ええ、死にかけてましたが、もう平気ですよ。というよりその姿…」
「うん。コレ使わないと間に合わなかったからさ~」
「そうですか…ナナも、ありがとうございました」
「いいのいいのー。家族でしょ~?」
「フフフ、そうですね」
ポポとナナがほっこりするような雰囲気を出しているが、周りはそんな状況でもないので意識を外に向けて欲しいと思う。
「オイオイ…和やかな所悪いが問題は解決しちゃいないぞ。取りあえず…」
辺りを見回し、そして…
「『オールヒーリング』!!!」
回復魔法を周囲に掛ける。モンスターも回復してしまうが…どうせこの後は俺が葬るつもりだし、意味はないがな…。
味方の傷を癒せればそれでいい。
「もういっちょ!」
1回じゃ足りなさそうな人が何人もいるので、もう一度『ヒーリング』を発動する。
ただ、広範囲に味方が散らばっているため、魔法が届かない人が結構いる。
全然足りねぇ…! 自分の魔力範囲の狭さが恨めしい!
「グギャギャ!!」
「グルルル」
自分の魔力範囲の狭さを悔やんでいた俺だが、傷の治った冒険者達よりも早く、モンスターの方が動き始めるのを見て…
「動かすかよ!!」
「「「「!?」」」」
その考えを一旦放棄し、本気で魔力を解放して、嫌でもこちらに意識を向かせる。
俺を中心に、戦場の視界がグラついているような、もしくは揺らめいているような感じになって広まっていき、モンスター達がこちらを一斉に見ては硬直する。
味方の人たちにも影響は及ぶだろうけど…今はそれしか動きを止める方法がない。
魔力範囲が広ければ『バインド』で、全て拘束するんだけど…。
「ポポ…疲れてるとこ悪いんだが、まだ動けるか?」
その状態を維持しながら、ポポに聞く。
「…平気ですよ」
「『才能暴走』は?」
まだドラゴンが残っているし、万が一を考えてポポにも発動しておいて損はない。
…まぁ、その万が一も起こさせる気はないけどな。
「問題ないです。…怪我の回復も早まりますし、むしろお願いしたいです」
「了解。『才能暴走』!」
ポポに『才能暴走』を発動する。
ポポから金色のオーラが溢れ出して全身を覆い、色は金色だがナナのように体が変化した。
ナナとポポ。『覚醒状態』となった2匹が並び立つ光景はやはり圧巻だ。
どちらも体から光を零し、神々しさに溢れている。
だが、流石にちょいとくるな…コレ。
『才能暴走』を発動したことによる反動で、体が少々怠い。
まぁ…我慢すればどってことないくらいだけど…怠いもんはやっぱり怠い。
「カミシロ…」
そんなことを思っていると、ギルドマスターがこちらに近づいてきており話しかけてきた。
足取りが随分と重そうだが…これは俺の魔力のせいっぽいな。すみません。
てかよく動けたな…。学院長が言ってた通り、凄いよアンタ。
「ギルドマスター、遅くなってすみません。傷…今治しますね」
「いや、私には構うな。ポポが身を挺して庇ってくれたのでな、大した傷は負っていない」
「…そうですか」
「それよりも…よく来てくれた。…それで、こ奴らの姿は一体…?」
「あー…まぁ終わったら話しますんで。…俺も貴方に色々聞きたいことありますしね」
「…うむ。了解した」
アンタには聞きたいことが色々とあるしな…。
「じゃあ…すぐ片付けますんで。…ギルドマスターも協力してくれます?」
「私にできることであればな…」
取りあえず事態終息のために動くとしよう。
「ポポとナナとギルドマスターは動けない人と…亡くなった人を運んでください。んで冒険者達を一か所に集めてナナは『結晶氷壁』で囲って守っててくれ」
「あいさー!」
「ポポはナナを守ってやってくれ」
「はい!」
周りを見てそう指示を出す。
やはり…犠牲者は何人も出ているようだ。分かってはいたことだが…。
ポポの傷を見た限り、恐らく何人もの冒険者を庇っていたことは容易に想像できる。
速さだけだったら、ドラゴンなんかには引けをとらないからな。攻撃なんて当たらないはず。それでも怪我をしているということは、そういうことなんだろう。
…むしろ、これくらいの被害で済んで良かったと言ってもいいのかもしれない。
ポポ、良くやってくれた。
「私はどうする?」
「えっと、一緒に『結晶氷壁』の中に入ってて下さい。いないと思いますけど、中で暴れる輩がいたら、叩きのめしてくれると助かります…」
「『結晶氷壁』? …よく分からんが、了解した」
『結晶氷壁』はナナのオリジナルの魔法だ。元々あった『アイスシールド』の魔法を真似て作ったそうだ。
結晶のような氷の壁を作り出すことで攻撃から身を守ることもでき、また対象を閉じ込めることもできたりする。
氷でできているため火に弱いが、そこは流石ナナというべきか、ちゃんと土属性の魔力を魔法に組み込むことで、その威力を半減できるようになっている。
外からの攻撃にめっぽう強い反面、中からの攻撃には弱いという欠点があるため一応ギルドマスターにはお願いしたが…まぁ変なことを起こす奴はいないだろう。
万が一のためだ。
「じゃあ、行動開始!」




