72話 戦地の猛者(別視点)
ったく、何でこうも問題ばかり起こるんだよ…ヴィンセントといいモンスターといい。
これは偶然か? 今までずっと平和に過ごせてたのにな…。
と、ナナにしがみつきながらそんなことを思う。
どうにも今回の騒動はどれもタイミングが良すぎる気がしてならなかった。
…まぁいい。その考察は全てが終わってからにしよう。
…皆に力がバレるが、ここまでか。
まぁこのままじゃ大勢の人が死ぬんだ。それが俺なら救えるというなら答えは決まってる。
遠慮なく振るってやるさ。
力がバレるのはもういい。こんなもん、俺のただの我がままだしな…。
今、王都の城壁を越えた。
この調子ならすぐに戻れそうだな…。
◇◇◇
司達との通信から約20分後、グランドルから南西に位置する所で、アルガントとポポは一点を見つめて立ち尽くす。
ポポはというと、アルガントの肩に止まっているようだ。
近くには戦う意思のある冒険者と兵士も共におり、中々の光景だ。
「見えてきたな…」
「ええ、波みたいに押し寄せてきてますね…」
彼らの遥か彼方…目の前に広がるのは、数え切れないほどのモンスター達。ゴブリン、オーク、オーガ、コボルト、獣に分類する各種の生物、大型の昆虫、…そしてドラゴン。
これほど多岐に渡る種類のモンスターや獣が、互いに争うこともなく、こちらに向かってきている。これだけでも異常なことだ。
「…活性化の時は、モンスターはあのように結託するような行動を取るのでしょうか?」
「いや、そんなことは聞いたことがない。ゴブリンとオークは時に結託することはあるとはいえ、あのような多岐に渡るモンスターが群れを作るというのはあり得ないはずだ」
「そうですか…」
ポポの問いにアルガントはそう返す。
過去に例がない事態にアルガントも困惑しているようで、険しい顔つきをしながらあれこれ考えているのが伺える。
「オイ…来たぜ…」
「…や、やっぱ逃げようかな…」
「ドラゴンとか…初めて見たぜ…。俺もここまでか…彼女欲しかったなぁ…」
後ろでは実際にその光景を目の当たりにして、すっかり怖気づいている者も何人かいる。
ただ…それでもこの場まで来ることが出来ている者たちである。勇気は人並み以上にあるのは確かだ。
くるりと後ろを振り向き、その者達を見たアルガントは…
「皆の者よく聞けええぇぇいっっっ!!!」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
突然大きな声で語り始めた。
「奴らを見て、逃げたいと感じた者は好きに逃げるが良い! だが!! 自分の生涯の人生は全て失うと思え! どのみち何処に逃げようが安全な場所などない! ここで死ぬか、それとも生きる可能性のある未来を選ぶか…自分で決めろ!!!」
アルガントが、大きな声で警告…もしくは忠告ともいえるように声を散らす。
「覚悟を決めた者だけ私と共についてこい!!! 行くぞ! ポポよ!」
「了解!!」
アルガントとポポが、前へと進んでいく。
「俺ぁ行くぜ! 武者修行中の身だからな。これくらいの経験をしてこそ意味がある!」
「ん、私も…。悲しい思いはもう勘弁…」
続くかのようにシュトルムとセシルも前に出ていく。
すると…
「シュトルム…セシル嬢ちゃん…。…ちっ、こうなりゃヤケだ! っしゃあやってやるぜ!」
「家族が待ってくれてんだ…俺も行くぜ」
「私も。生まれ故郷を捨てる訳にはいかないわ」
シュトルム、セシルが名乗りを上げると、他の冒険者に対する鼓舞になったようで、波紋のように士気が高まっていく。
元より、この場にいる者は戦う意思のある者だけだ。戦う意思の無いものは既に逃げ出している。ただ、最後の後押しとなるものがなかっただけなのだ。
誰かが鼓舞を掛ければそれが起爆剤となって広まるのは当然といえる。
「我々は奴らに蹂躙されるためにここにいるのではない! 逆に奴らを蹂躙するためにここにいるのだ!! たとえ屍になろうともその意思を忘れるな!!!」
「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!」」」」」
アルガントの言葉に皆が同意するかのように咆哮を上げる。
「行くぞ! 私についてこい!!!」
アルガントがそう叫ぶと、背負っていた2本の剣を抜き、走り出す。
そしてそれを見たポポも、臨戦態勢へと入り巨大化した。
「おお!? お前さん…大きくなれんのか? こいつは頼もしいな!」
「俺たちも負けてらんねぇな!」
「ポポちゃん…逞しいわね!」
ポポは巨大化した姿をあまり他人に見せたことはない。そのため、初めてそれを見た冒険者達が驚きの声を上げているが、それもどうやら鼓舞になったようだ。
皆がやる気に満ちた顔をしている。
「お主ら!! あと少しである人物が助太刀に入る手はずとなっておる!! この状況を打開できる…そんな奴だ!! 絶望は捨てろ! 希望だけを持って戦いに臨め!!」
「「「「「了解!!!」」」」」
アルガントの言っていること…。これは恐らく司のことを言っているのであろう。一応王都のギルドにも連絡は入れているが、まず間に合うことはない。
この場に助太刀に入れる人物と言えば、長距離を高速で移動できる手段を持つ司以外に該当者はいないからだ。
「ドラゴンの相手は私とポポに任せろ!! お主らは他のモンスターを叩け!!」
「(ご主人が来るまであと少し…。なんとか持ちこたえないと…!)」
アルガントも内心は司をあてにし、時間を稼ぐことを考えていたことは想像に難くない。だが、他の者たちのことを考えるとそう告げるのはマズイと思ったのだろう。
士気の低下は、この状況においては最も避けねばならないことだからだ。
ポポもそれを理解していたからこそ、何も言わなかった。
ただ、口には出さないだけで、時間をこれからどう稼ぐかという考えは捨てられなったらしい。
「(まぁ…犠牲者がなるべく出ないように立ち回らないといけませんね…)」
こうして…グランドルの命運を掛けた迎撃戦が始まった。




