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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第一章 グランドルの新米冒険者
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69話 完全捕縛

 俺は修業期間中に一度、本当に偶然だが…魔物に遭遇したことがある。

 その時は十分に力が付いていたから大事には至らず無事に討伐することができたが、なければ危なかっただろう…。それほどに魔物は危険な存在だ。下手をすれば村などは簡単に蹂躙される。

 魔物化したモンスターは、程度はあれど元の相当ランクよりも2段階ほどランクが上がると考えていい。

 過去にAランク相当とされるモンスターが魔物化した時などは、大陸が危機に陥るほどの被害だったそうだ。

 今までに様々なモンスターの魔物化は確認されているそうだが、人間が魔物化するなどという話はまだ耳にしたことがない。


 だが…。今、俺の目の前にいる存在はなんだ? 


「オオオォォォォッッッ!!!」


 雄たけびを上げている目の前のアイツは一体何なんだ? 人間なのか? 魔物なのか?

 分からない…。


 とりあえず俺は先ほどなぜか解除された『バインド』を発動し、ヴィンセントの拘束を再度試みる。


 しかし、『バインド』の帯はヴィンセントに触れた所で、先ほどと同じように塵となって消えていく。

 …理由はよく分からないが、どうやらヴィンセントには魔法が効かないようだ。


 先ほどまでは確かに効いていたんだが…。


「チッ! 学院長…ヴィンセントにはどうやら魔法は効かないみたいです。…というより、あの姿…何か分かりますか?」

「…魔力だけで見たら、間違いなくアレは魔物そのものだ。だが…人間が魔物になるなど…聞いたこともない…!」


 学院長に聞いてみたが、どうやら分からないとのこと。

 ただ、ヴィンセントから出ている魔力については俺と同様で、魔物のものと感じているようだ。


 すると…


「とりあえずだ…! ここは我々に任せて2人は下がれ!! 2人には荷が重い!!」


 学院長がついてきた2人の職員にそう言った。

 後ろを振り返ってみると、どうやらどちらともヴィンセントから発せられている魔力に当てられ、萎縮してしまっている。

 それを見て俺も、学院長の発言に賛同した。


 魔力に当てられて鈍った体では、危険は格段に向上するからな…。下がってくれていた方が良い。

 先生と言えども全員が戦闘に特化しているわけではないし、こればっかりは仕方ない。


「し、しかし!」

「いいから言うとおりにしたまえっ!」

「はっ、はい!」

「下がったら、ここには誰も近づかせないようにしてくれ! 私が許可するまで近づくことは許さん!!」

「りょっ、了解しました!」


 学院長が勇ましい声で職員に言うと、職員2人は退いていく。


 さて…これでこの場には俺と学院長、…そしてアイツだけだ。

 学院長の様子を見る限り平気そうだし、この人については多分心配はいらないだろう。

 …こっからどうしようか? 


 俺がこれからどうするかを考えていると、学院長が俺に声を掛けてくる。


「ツカサ君。魔法がアイツ…ヴィンセントには効かないと言っていたな、物理は駄目か?」

「…物理は効くには効くみたいです。学院長が来る前に腹を蹴ったり、歯を折ったりしましたし。ただ、見る限りだとそれが治っているみたいなので、あまり意味はないかもしれないですけど…」


 ヴィンセントを見てみると、先ほど折れた歯が再生しているのが確認できた。

 これを見るに、最初腹を蹴り飛ばした時の怪我も治っていると考えていいだろう。



「治っただと…? 回復魔法でも使っていたのかい?」

「いや…恐らく使っていないですね。俺の見落としの可能性もありますが…。あとアイツ、無詠唱で魔法が使えるみたいですから気を付けてください。加えて触れると魔力も吸収するっぽいです」

「何だと!?」


 学院長が驚きの声を上げている。

 無詠唱での魔法の発動は、俺を見ているからまだ落ち着いていられるかもしれないが、魔力を吸収するとなると驚いても無理はない。


 モンスターでもそんな性質を持ったやつの話なんて聞いたことないしな…。


「ガアアァァァッッッ!!!」

「っ!?」

「…フッ!」

「ゴァッ!?」


 叫び声がもう人間だとは思えないほどだが、俺たちが会話をしているのを見て何を思ったのか、ヴィンセントが突進してこようとしていたので、取りあえず脳天を回し蹴りしてダウンさせる。


 体術スキルが高いこともあり動きは随分と洗練されているし、これくらいのことは自然と体が勝手に動くかのようにできるから造作もない。

 ちょっとばかし魔力もまた吸われたが、特に気にする量ではなかった。


 最初は突然のことでビックリしたが、今アイツが人間か魔物かなんてのはどうでもいい。

 取りあえず拘束して、それからだろう。


「…まぁ、せっかく来てくれたとこ悪いですが、学院長の出る幕はないですよ。何もさせるつもりないですしね…。………この程度余裕です」


 と、うつ伏せに倒れたヴィンセントを見たまま話す。


「…ほとんど見えなかったな…」


 学院長の言葉を背に、『アイテムボックス』からベルクさんの店で買った安物の剣を4つ出しながら、ヴィンセントの元に移動。地面に張り付けるように、両手両足に剣を刺す。


「ガアアァァァァッッッ!!!???」


 ほぼ一瞬でぶっ刺したので、痛みはきっと相当なものだろう。ヴィンセントが悲痛な声を上げている。


 無詠唱ができるみたいだけど、コイツ自身の身体能力はそれほど高くないし…これで動きは拘束できんだろ。

 直接触れられないから結構荒いやり方ではあるが…しょうがない。これ以上の策が思い浮かばんし…。


 ただ…


「うへぇ…やっぱり嫌な感じだなぁ…」


 ヴィンセントに剣を刺して、そんな言葉が口から零れる。


 モンスターは何度か剣で斬ったこともあるし、刺したこともある。

 だが、何度やってもこの感触に馴れることはなかった…。


 なんていうか…背筋がゾワッとするような感覚が体に走るんだよな。肉をズブズブと突き抜けていくあの音と溢れる血。そして柄から伝わってくる感触…。

 今回は一瞬でやったから幾分かマシだけど、それでもなぁ…。

 あー気持ち悪い…。


 気持ち悪いのを我慢しつつ、ヴィンセントに刺した剣を確認する。


「ウガアッ!! グオオアッッ!!??」


 手足を貫かれながらも必死に抵抗しているせいか、少しグラついている…。


 このままじゃそのうち抜けそうだし…


「…ほい「ガッ!?」ほい「グッ!?」ほい「グアッ!?」ほいっと「アグッ!?」


 地面に刺さる刀身部分が半分ほど残っていたので、剣を鍔の部分まで足で地面に押し込む。


 これで抜けることはないだろ。すごいグロイけど…。


 更なる激痛によるものかヴィンセントが悲痛な声をまた上げるが、まぁ取りあえず聞き流しておく。


 ………。


 ふむ…念には念を重ねておこうか。


「カッ……!?」


『アイテムボックス』から大きめの岩を取り出し、ヴィンセントの背中に乗せる。


 修業期間中にどれくらい『アイテムボックス』に物が入るのか検証してたときのものだが…使い道があって良かった。


 …ちょっと変な声が聞こえたけど、まぁ死んではいないだろうし別にいいか。

 すぐ回復するだろうし…。


「学院長。こんなんで取りあえずいいですかね? 動けないようにしてみたんですが…」

「あ…ああ。…良くやってくれた」




 学院長は先ほど見た焦っているような顔ではなく、呆けたような顔で俺にそう返した。

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