5話 適性検査
「それにしても、ツカサさんは運がいいですね」
いきなり、そんなことを言われた。
ん? どゆこと?
「新人の冒険者って登録したらすぐに絡まれるのが普通なんですよ。今ギルドにいる人たちは比較的温厚な人たちなんですけど。今日は人が出払ってますからそんなこともなかったみたいですね。…まぁ冒険者の通過儀礼みたいなものなんですけど」
「へ、へぇ~。それは、ホントに運が良かった、です(汗)」
あっぶねぇ~~~! やっぱりそうだったんかいっ!
なら絡まれても大丈夫なように早く強くならないとなぁ。
「あっ、ギルドカードの発行が完了したみたいです。ではコチラをどうぞ。」
俺がそんなことを考えているとギルドカードの発行が終わり、手渡される。
「ありがとうございます」
ギルドカードを受け取る。
「ギルドカードを紛失した場合、再発行に金貨5枚をいただきます。ですので大事に持っていてください」
金貨5枚…、高いな。今の俺の手持ちはあと銀貨9枚だけだ。
神様はどうやら銀貨を10枚ポケットに入れておいてくれたらしい。それでも足りないが…。
大事にしよう。
「分かりました。あと魔法の使い方などが記載された本などはありますか? 貸し出せるのならお借りしたいのですが…」
「ええ、ありますよ。文字は読めるのですか?」
「はい、文字は読めますね」
「そうでしたか、魔法の適正がおありで?」
「それは分からないのですが、使えればいいなと思いまして…」
「ギルドで適正は調べられますよ? やってみますか」
「あ、ぜひお願いします!」
「はい、では少々お待ちを」
なにやらゴソゴソとカウンターの下から取り出している。
水晶玉か?
「はい、ではコチラの水晶玉に手を触れてください」
水晶玉を受付のカウンターに置き、俺に触れるように促してくる。
俺は水晶玉に手を触れた。
すると色んな色が浮かんできた。
赤、水色、緑、茶色、黄色、黒、灰色…。
きれいだな…。
「ッ!!」
何やら驚愕の顔をしている。
どったの?
「火・水・風・土・光・闇・無…ですか。まさか全属性に適性があるとは驚きましたっ! 初めてみましたよっ!!」
「えっと、珍しいんですか…?」
俺は基準がよく分からないから何とも言えない。
でも小説だと大抵チートとか言われてったっけ…。
「そうですよっ!!」
「うおぁっ!?」
「すっ、すみません…。取り乱しました。そういえばツカサさんは田舎から出てきたんでしたよね、でしたら知らないかもしれませんが、一応リベルアークには全属性に適性がある人というのはいることにはいますが本当にごくわずかなのですよ。リベルアークの人口は30億と言われていますが、その中でも私が知っているのはたった20名だけです。…というか複数使える人自体が少ないですし」
Oh、その話だと私どうやら稀少生物みたいですヨ。
チートじゃん。アハハハハ。
「そもそも魔法は使えない人もいますからね。とっても稀少ですよ。いやぁ、まさか生きているうちにお目にかかれるとは! 全属性に適性を持つ人に直接会うのは私初めてなんですよ」
なんか興奮してるんですけどこの人…。筋肉が踊っているぞ、オイ。
なんか騒ぎを聞きつけて他の職員も集まってきてるし、てか男率高ぇよ! ムサイわっ!
比率で言えば9:1くらいか? それにしても女性が少なすぎる…。あ、そこのお姉さん俺に癒しをっ!
…でも魔法が使えない人がいるって言ってたけどそれはどういうことだ?
聞いてみるか。
「魔法が使えない人もいるんですか?」
「? ええ、いますよ? 魔力を扱えても魔法を扱えるかは別物ですしね」
「そうなんですか…。努力すれば誰でも使えるかと思っていたんですが…」
「適正がない人はほぼ使うことはできないですね。一応過去に突然使えるようになったという人の例はありましたけど、一般的には使えないとされていますよ」
へぇ、そうですか。
魔法は努力で扱えるようになるものではなく才能ってことになるんですね。
変なもんだなぁ。深くは考えなくてもいい…のかな?
俺の場合神様が何かしたんだろうな…。
「爺さん呼んでくるぜ!」
集まってきていた職員の一人がそう言って走っていく。
爺さんって誰だ?
「? 一体誰のことです?」
「ああ。ギルドマスターのことですよ。これは報告しておいた方がいいでしょうからね」
うそん。いきなりトップのお出ましかよ。なんか大事になってきちゃったな~。
それにしても爺さんって…。
トップにその呼び方でいいなんてフレンドリーな職場なのね。羨ましい限りですわ。
「アイツ、後でシメるか。口の利き方から叩き直してやる…」
そんなことありませんでした。
あの人死ぬかも…。
それから少しして中年のナイスガイ。おそらくギルドマスターであろう人がやってきた。
隣にはさっき走っていた人も一緒にいる。…ご愁傷様。
ギルドマスターは俺の目の前まで来たんだが、なんていうか俺は全く動けなかった。
見えたわけではないがオーラのようなもの? を感じて気圧されていたからだ。
ギルドマスターはただ俺をじっとみていた。
その瞳は俺の心までも見透かしているのではないかと感じさせるほどで、俺もギルドマスターの眼から視線を外すことができなかった。
俺が息がつまりかけていたとき、ギルドマスターは一言、俺に言葉を掛けた。
「…精進しろ」
それだけ言うとギルドマスターは踵を返し、何処かへと言ってしまった。
オーラのようなものが感じられなくなり、俺は体が解放されたことで大きく息を吐く。
少しして落ち着き、口を開く。
「なんていうか、とんでもない人ですね」
「ハハハ、なんといっても我々のギルドマスターですからね」
豪快に笑う筋肉さん。そういえば名前聞いてないや、後で聞こう。
「それにしてもツカサさん、随分と気に入られましたね! よかったじゃないですか」
「えぇ~、あれ気に入られてたんですか?」
マジか。全然わからんかった。
だって、「精進せよ」の一言だけじゃん。気づけるわけないよ。
「そうですよ。ギルドマスターのお墨付きだし、我々のギルドもこれで安泰ですかね」
「そんな大げさな…」
「まぁまぁ。よしっ! それでは皆さん職務に戻りましょうか!」
筋肉さんがそう告げると、集まっていた職員は各々の作業へと戻っていく。
さて、こっちも色々驚いたがさっきの続きをしますかね。
「えっと、さっきの続きをしてもいいですかね?」
「そうでしたね。お手間をお掛けしました。それではこの子たちの適正も確認しますか?」
「はい、お願いします」
俺のことは終わったから今度はコイツらだ。
恐らく魔法は使えるだろうな。
「それではポポさんからいきましょうか」
◆◆◆
「ポポさんは火・風で、ナナちゃんが水・土の適正があるみたいです」
「適正検査ありがとうございました」
だそうだ。
お互いが扱えない魔法を使えるためどうやら随分と相性がいいっぽい。
さて、適正は分かったしもう冒険者ギルドでやることはないかな。
宿屋がどこにあるか聞いてそろそろ行こう。野宿は流石に嫌だ。
「それであの、ここらへんで安い宿屋ってありませんか? できれば食事付きがいいんですけど」
「それでしたら『安心の園』っていう宿屋がありますね。一泊銀貨1枚で朝・夕食付ですよ。ギルドの裏手にあります。緑色の屋根ですからすぐに分かるかと思います」
よし、寝床はとりあえずそこで決まりだな。
「分かりました。あと武器・防具屋さんって近くにありますかね? 装備何もないんですよ」
冒険者になった以上武器・防具は必要になるだろうし早めに準備をしておきたい。
異世界の定番ではモンスターもだが人間も脅威に含まれる。危険はそこら中にあるのだ。
日本で平和に育った俺だが、ここでは死が身近にあると見ておいた方がいい。警戒するに越したことはないだろう。
油断はできない。早く準備しておかねば…。
…ん? そういえば神様が服は高性能にしておいたとかって言ってなかったっけ?
やべ、すっかり忘れてた。後で確認しなきゃ。
「そういえば丸腰ですね。気づきませんでした。武器・防具を扱っているお店はこのギルドを出て目の前のお店がそうですよ」
「そうですか…。早速行ってみます!」
「ええ、これから頑張ってくださいね、あとこれをどうぞ。魔法の解説本です」
「あ、どうも。っとと、その前に」
本を受け取ってすぐにでも行こうかと思ったが、そこで思い留まる。
まずは依頼を確認しておこう。
装備を整えてから来るんじゃ二度手間だしね。
ボードの前に立ち、依頼を確認する。
☆≪薬草の採取≫
難易度:F
目的:薬草の採取(本数に上限なし)
報酬:一本銅貨1枚
☆≪スライムの討伐≫
難易度:F
目的:スライムの討伐(討伐数に上限なし)
報酬:1体につき銅貨3枚
☆≪住民のお手伝い≫
難易度:G
目的:住民の手助け
報酬:依頼主に要確認
≪コボルトの討伐≫
難易度:E
目的:コボルトの討伐
報酬:一体につき銅貨15枚
低いランクのものだとこんな感じだな。
☆の依頼は常時受け付けている依頼のことらしい。
また、モンスターを倒したらそれを証明できなければ報酬は貰えないそうだ。
魔核や部位を持ち帰れってことか、狩りすぎたらそれはそれで大変なんだろうなぁ。
せめてアイテムボックス的なものがあれば随分楽になるんだろうけど…。
それと薬草がどういうやつかは絵を見て確認した。
とりあえず初めてだし、無難に薬草の採取でもしようかねぇ。スライムが出てきたらついでに狩る感じでさ。
…大丈夫だよな? スライムなら勝てるよね?
初戦闘がスライムで負けたら結構ヘこむかもしれん。最弱らしいし…。
とりあえずやってみるか。ステータスは平均より高くても実際に戦ったことがあるわけではないし、イマイチ実感が湧かない。
とりあえず明日は頑張ってみますか。
「「…」」
…なんか2つの視線を感じる。
気づけば…ポポとナナの二匹が俺をジッと見つめている。
いや…だってさ、初めてのことだらけで俺疲れたよ?
もうお布団潜りたいでしゅ(うるうる)。だからゆるちて?
「「…」」
…。
よし、武器屋行って宿屋に直行だ。異論は認めん!
…ポポとナナがジト目してやがるけど…俺は気にしないもんねっ!!
そして俺は冒険者ギルドから飛び出す。
あ、筋肉さんの名前聞くの忘れてた。
…ん? あのギルドマスターを呼びに言ったやつがどうなったかって?
さっき俺が冒険者ギルドから出たら外で口をパクパクさせて伸びてたぞ。
いつの間にやったんだか…。筋肉さん恐るべし。