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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第一章 グランドルの新米冒険者
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62話 満たされる者、憤激する者

「それじゃ、また明日ね。お弁当ありがとう、ごちそう様」

「お粗末様です。ありがとうございました!」

「…あれ? お礼は俺が言う台詞じゃない?」

「あ…そうかもしれないですね」


 そう言って二人で笑い合う。


 非常に楽しい時間だったよ…。ありがとうアンリさん。

 …心臓バックバクでしたけども。外に聞こえるんじゃないかと思ったよ…。


「それじゃあ…また明日…」

「うん」


 アンリさんはそう言って、女子寮の方へとパタパタと走っていく。

 寮まで送るくらいはするべきだと思って提案したのだが、学院内でわざわざそんなことはする必要がないと言われてしまったので、ここで別れることになった。


 …ここでそれを押し切って見送れる奴が、できた男なんだろうな…。

 俺はもう正真正銘のヘタレだ。なんとでも言ってくだせぇ。

 学食の時のことも中々切り出せなかったし…キング・オブ・ヘタリストだ。


 はぁ…情けない。




 アンリさんを見送った後、俺も寮へと戻ることにした。

 今日はもう調べものしなくていいや…。


 熱がまだ冷めてないし…。




 ◆◆◆




「あっ! ご主人お帰り~」


 寮の自室に戻ると、ナナに出迎えられる。


 …戻るの早いな。


「…何がお帰り~、だよ。お前ずっと見てただろうが」

「あ…気づいてたんだ?」

「当たり前だろ。バレバレだ…」


 お前の居場所が分かるんだからそりゃ当然だろ…。

 ずっと見られてたからすっげー恥ずかしかったんだからな? 特にアンリさんに食べさせて貰った時なんか、マジで焦ったわ。


「…まぁ、そうだとは思ってたけどねー。でも見ちゃった☆」

「人で遊ぶんじゃありません!」

「アハハ、ゴメンゴメン~。でも2人とも顔真っ赤にしちゃってさ~、可愛かったよ?」

「…うるせー。ああいうのには慣れてないんだから仕方ないだろ。てかお前、クレアさんと何やってんだよ?」

「んっとね~、昨日クレアから今日のことについて相談を受けたから、ちょっとアドバイスしたんだ~。その流れで…って感じかな?」

「…どんなアドバイスしたんだお前…」

「チッチッチ! それを乙女に聞くのはNGですぜ? ご・しゅ・じ・ん☆」

「…へーへー」


 ナナが翼で指を作って横に振っている。


 ホント調子いいなコイツ…。ちょっとウゼェと思っちまった…。

 てかお前は乙女というよりもオヤジの方が似合ってると思うぞ? 外見は度外視してだけど。


 まぁとりあえず、そういうことにしておいてやるけどさ。


「…さてさて、それで…感想は~?」

「楽しかったし…お弁当はおいしかったよ…。それと…アンリさん可愛かった」


 …やべ、また体が熱くなってきた。

 思ってた以上に強烈だなコレ。


「ほうほう…それはなによりだね~。いや~、その顔見るだけでお腹一杯だよ~。それで!? それで!? デザートはまだなの? 別腹だからまだ入るよ?」

「あーもうこの話はもう終わり! これ以上言わせんな! 恥ずかしい!! …何がデザートだ!! 普通に続きって言えよ!」

「ぶー」

「ぶー、じゃねぇっ!」


 ニヤニヤした顔でナナは問い詰めてくるが、そんなもんにいちいち答える義理はない。


「…そんで話は変わるんだけどさ、今日の午前中で分かったことを話しとくわ」

「ちぇっ…それで、何が分かったの~?」


 納得いかない顔をしていたが、俺は今日得た情報をナナに伝えたのだった。




 ◆◆◆




 俺は調べた内容をナナに伝える。


「ふ~ん…そうだったんだ~」

「うん。今度、東の方に遠出してみないか? 色々分かるかもしれん」

「いいんじゃない? ご主人の行くところについていくだけだよ~」


 嬉しいことを言ってくれるなぁ。俺もお前らがいると落ち着くぞ。


「ハハ…サンキューな。そう言ってくれると助かるよ。…じゃあ、ちょっと休むわ。夕方前の放送が鳴ったら起こしてくれ」


 そう言ってベッドにダイブする。


「今日もアレクの稽古?」

「…おうよ」

「はいはい、りょーかい。おやす~ん」


 夕方にはアレク君の稽古があるし無視はできない。

 正直俺の教えが彼に役立っているのかは分からないが、彼は満足そうだし問題ないだろう。


 むしろ、俺の方が色々教えてもらっている気がするくらいだ。

 ステータス、魔法、スキル、スキル技などなど。細かな疑問点とか解決したし、俺も非常に満足している。




 そう思いながら…俺の意識は落ちていった。




 その後、凶報が届くとも知らずに…。




 ◇◇◇




 丁度司が眠りについたころ…



「クソ! クソ! クソッ!!! この僕をコケにしやがってっ! あの冒険者風情がっ!」


 大きな屋敷のとある部屋で、ヴィンセント・アルファリアは暴れていた。

 部屋の中には焼け焦げた机や椅子、そして割れたガラスや破れたシーツが散乱しており、相当暴れていたことが伺える。


 4日前、学食で問題を起こしたことが原因で現在は学院を停学中となっており、ヴィクター・アルファリア…ヴィンセントの父親により、監禁状態となっている。


「なんで僕がこんな惨めな思いをしなくちゃいけないんだっ!!!」


 部屋の扉は魔法と錠の2重ロックによって閉ざされており、簡単には出ることはできないようになっている。また、どちらか一方でも不正に解除されれば警報がなる仕組みになっているため、セキュリティに関しては万全といえる。

 頭の中が怒りで満たされているヴィンセントでも、何度も脱走を試みてそれが不可能なことに気づいたのか、今は悪態をつくことしかできないようだ。そこに反省の色は見えない。


「もう4日だぞ…! このまま開放日を待っていたらアイツがいなくなってしまう…! このままでは僕の気が済まない!」


 ヴィンセントが監禁され始めてから既に4日が経過している。

 最低限の食事はしているようだが、監禁生活に対するストレスと司に対する憎悪で、目元はやつれてきている。司がイケメンと評価した顔は、見る影もなくなっている。


 ヴィンセントの監禁開放日は監禁された日から1週間後…。そして監禁されたのは問題を起こした日だ。司の依頼期間は1週間であるため、ヴィンセントが解放されるころには既にグランドルに戻っていることになる。

 司への復讐を考えているヴィンセントにとって、これ以上絶望的な状況はない。


「おい! いるんだろうっ!! いい加減出てこいよ!!」


 ヴィンセントが叫ぶ。


 すると…


「まったくうるさい人ですねぇ…。ちったぁ静かにしてくださいよ、うるさいです」

「っ! いるんならさっさと出てこい!!! 待たせやがって!!!」

「いやいや、来たの今さっきですから。ちょっと他にもいくつか野暮用がありましてねぇ…」


 突如部屋に黒い空間が出現し、中から白い仮面を被った人物が現れる。

 その人物は出てきてすぐにヴィンセントから罵声を浴びるも飄々としており、特に気にした様子でもないといった感じだ。


 黒い空間はというと、未来の司が現れたときのモノと少し似ている。



「お前がいないからここで4日も過ごす羽目になったんだぞっ!!!」

「いや、んなこと言われましてもねぇ…。ワタクシだって忙しいんで貴方に付きっきりというわけにはいきませんから。…でも、中々面白い展開みたいですねぇ」

「うるさい!! 口答えするな!!」

「はぁ…。やれやれ…難しい人ですねぇ」


 ヴィンセントは怒りをさらに増し、謎の人物は呆れているといった感じだ。


「それで…ワタクシがいない間に何があったんです? 説明して欲しいんですけど」

「4日前に臨時講師として来たグランドルの冒険者が原因でこうなったんだ!!! 絶対に奴を殺してやる!!!」

「…ああ、例の学院の依頼ですか。具体的に言って頂きたいんですけど」

「ちっ! この馬鹿が! そんなものすぐに察しろ!」

「そりゃ無茶ぶりが過ぎるってもんでしょうに…」


 ヴィンセントの説明不足に異議を唱えるもすぐに罵倒されてしまい、謎の人物は重ねて呆れを感じているようだ。


「…まぁいいです。なんとなくですけど分かりますし。…で? どうしたいんです?」

「ここから出せ! 今すぐにだ!」

「はいはい。だと思いましたよ。…でも、いいんですか? 父上殿からお許しが出ていないのでは?」

「関係ない!」

「…貴方がそう言うなら、構いませんがねぇ。…ま、あの『ゲート』を潜れば外に出れますよ。王都に通じてますけど…人気のない場所なんで、問題ないかと…」


 そう言ってから、先ほど出てきた黒い空間を指さす。

 あの黒い空間はどうやら『ゲート』というようだ。


「ふんっ! それと、指輪を寄越せ! この前使ったやつだ!」

「…え、あれを使うんですか? その冒険者の方って…貴方ほどの人でも歯が立たないんですか?」

「油断しただけだ! 僕が冒険者風情に負けるはずがないだろうっ!!」


 ヴィンセントの実力は、魔法だけなら冒険者Bランクの人間と同程度だ。大陸トップの魔法学院に通っていることもあり、その実力は本物である。学院内で見ても上位に食い込めるほどの実力があるため、学院内では結構恐れられていた。


「ふむ…。まぁいいでしょう。もう…それは貴方に差し上げます。…どうせあと少ししか使えないでしょうし(ボソッ)」


 謎の人物は少し考えたのち、どうやら了承したようだ。

 ヴィンセントに指輪を投げ渡す。


「っ! …ハハッ!! これさえあれば…! 僕は無敵だ!!!」


 ヴィンセントは指輪を受け取ると、そう言って『ゲート』へと飛び込んでいき、見えなくなってしまった。

 部屋には『ゲート』と、謎の人物だけが取り残される。


「(…彼でも勝てない冒険者。学院に招かれるのは…確かCランク以上の冒険者だったはず。グランドルには今Aランク1名、Bランク5名、Cランク13名が先々月の調査で出てましたから…)」


 謎の人物が口元に手を当てて思案する。


「(Aランクは今遠征中であり得ない。…Bランクもこの依頼をわざわざ受けるとは考えづらいですし、となるとCランクの誰かでしょうか? …ですが彼に匹敵するような人は該当しないですねぇ…。どういうことでしょうか?)」


 謎の人物はどうやらグランドルの冒険者データを知っており、そこからヴィンセントに匹敵する冒険者に当たりをつけようとしているみたいだが、該当者がいないことに疑問を感じているようだ。


「少々調べる必要がありそうですね…。ま、調べる前に彼に殺されなきゃいいんですけど。それにしても…『アレ』は随分と効いているようですねぇ。あとで報告しときましょう」


 クスクスと笑いながら嬉しそうに言う。

 仮面で表情は分からないが、恐らくそんな顔をしていると思われる。


「予定外のことではありますが、まぁ特に影響はないでしょう。上手くいけばこちらとあちら、両方の地で事が進みそうですし…。いや~、面倒な人でしたが彼は本当に良い駒としての素質がありましたね。『アレ』のデータも取らせてもらいましたし…」


 そして…



「ここで死んでもらいましょう」



 冷たく…そう言い放つ。

 先ほどとは打って変わって、まるで別人かと思わせるほど…それほど冷たい声だった。



「…さて、ラグナの仕上げをしなくては。…いよいよ大詰めですねぇ」


 謎の人物はそう言うと、『ゲート』の中に入っていく。やがて姿が見えなくなり、『ゲート』は消滅。




 部屋には誰もいなくなった。

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