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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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528話 新たな次代へ①

 ◆◆◆




「――来たか」


 土を踏みしめる音が歩みを止めた。静寂を切り裂いてリンドウさんが呟き、約束の場所に来たアスカさんへと小さく呟く。


「いや来たかって……。そっちより僕の方が先に来てるんだけど?」

「「……」」


 ホントそれな。何言ってんだこの人って俺も思う。


 呆れた様子のアスカさんの視線が痛い。横目でリンドウさんを見てみると何食わぬ顔で目を閉じており意にも介していない態度のようであった。


 待たせてゴメンとかもう少しあるでしょうに。


「気にするな。格好つけただけだ」

「はあ?」


 アスカさんが俺の方を見て理由を目で聞いてくる。しかし俺にも分からないから両手を軽く持ち上げる所作で分からない意思を伝える他なかった。


 俺とリンドウさんはあれからすぐ道場から移動を始め村のはずれまでやってきた。しかし少々早めに来たつもりではあったがそこは流石アスカさんというべきか。この人もこれまた真面目だからかなり早く指定した場所まで来てくれていたらしい。

 おかげでリンドウさんが心を落ち着かせる猶予時間すら与えられずいきなりボスバトル開始ってな具合でございます。


 てかファーストコンタクトがこれで本当に大丈夫か?

 これリンドウさんかなり緊張してるんじゃ……。


 リンドウさんの顔色を窺っても異常は見受けられない。ただ、やけに固いということだけは分かる。要は作っているのだと。


 うーん、初動ミスってる気がしてならないんですが? 既に瀕死のライン入ってないですかね。


「それでリンドウさん、僕に用事ってなんだい? 刀を持ってこいだなんて。しかもまたこんな場所を指定までしてさ」


 内心不安がよぎりまくりの俺を他所にアスカさんが本題へと入った。

 アスカさんの言うことはご尤もだろう。村の外れまで呼び出されて勘繰らない方がおかしいのだ。しかも今回は刀まで持参しろと言われて警戒しない方が無理がある。


「今日はお前に二つの説得をしに参った」

「説得? 何の?」

「まあそう急くな。慌てることはない」


 キョトンとした様子でアスカさんが首を傾げている。当然ながら心当たりがないのだろう。

 俺は慌てるなと抑えるリンドウさんが落ち着いた余裕ある態度で嗜めているのを見て、内心小言の一つでも言いたくなっているのが本音だ。

 一番急いて慌ててんのはアンタだろと。この状況を作り出すに至るまでの所要時間が精々一時間程だってことを俺は知ってるぞ。まさに突貫工事だったってな。


「ふふ、懐かしいな。情景は先日のこともあり大分変わってしまったが、この場所の『気』の在り方は変わらぬままだ」


 周囲を見渡すリンドウさんがやや苦笑いながらに『気』を探る。景色は変わっても本質は変わっていないと、一般には分からない感想を述べて。


 その節は誠にすんませんでした。元通りにしたとはいえ皆さんにとって所縁のある場所に大穴開けて滅茶苦茶にしたのは反省しております。

 でも元凶のルキフグスは今も『アイテムボックス』の中に厳重に封印してるんでどうかご勘弁を。


「覚えているかアスカ? ここで野外指導としてレンカにカリンと共に剣を交わした時のことを」

「随分昔のことだなぁ。まだ僕らが本当に小さい頃の話じゃないか」

「そうだったな。まだ二人共あどけない顔をして愛らしかったものだ。お前はよくカリンに負かされて悔しがっていたな」

「やめてくれよ、フリード君もいるのにさ。あの頃の僕はカリンに負かされてばっかりだったから、ちょっと泣いたこともあっただけだよ」


 少し言い辛そうにしながらもアスカさんが目を逸らしながら過去を語る。


 へぇ。アスカさんにも可愛い時期があったんですねぇ。


「だが今はまるで別人のようだ。あの頃のお前はもうおらず、この村の皆から認められる程にお前は強くなった。――レンカも喜んでいるであろう」

「ハハハ、そうだといいけどね。父さんならもっと精進しろって背中を叩いてきそうな気もするなぁ」

「……そうだな、間違いない。アイツならそう言うか」


 俺は知らない今は亡き二人の大切な人の話。アスカさんとリンドウさんが思い出に浸っている。


「お前がメキメキと腕を上げ始めたのはアイツが死んだその頃だったか。そこから見違えるように腕を上げ始め、瞬く間に絶華の上伝を修めたのだ。あの時のカリンの驚いた顔は忘れられんなぁ」

「僕もよく覚えてるよ。ようやく一泡吹かせられたんだって内心じゃちょっと嬉しかったからね。今までの悔しさが嬉しさに変わった瞬間だったよ」

「ああ。お前にしては珍しくはしゃいでいたな」

「ずっと追っていた背中にようやく追いつけたんだ。当然だよ」


 アスカさんが珍しく得意げに見栄を張っていた。

 信じられない話だが最初アスカさんはカリンさんには全く敵わなかったという。恐らくその力関係が逆転し始めた頃の話なのだろう。

 まあ俺はまだまだカリンさんの本気を見たことがないわけだが、現在はもう明確にアスカさんの方が腕は立つと両者が認識しているのは紛う事なき事実である。


 アスカさんの姿が俺には少し子どもっぽく見えた気がしたが、それだけアスカさんとリンドウさんが親しい間柄ということでもあるのだろう。遠慮なくなんでも言えるのは素直に良いことである。 


 今後の展開的にもね。


「そして今や絶華の『免許皆伝』に至るまでになった……。カリンですら未だ到達できぬ境地へと至ったのはレンカの――いや、私も誇りに思っている。カリンも同様だろう」


 しみじみと吐露するアスカさんへの賛辞は重くも温かみが感じられた。

 まるで自分のことのように捉えている、言わば親心のような親身さが俺にも伝わってくるようだ。


「さっきからどうしたのさ照れくさい……。僕は純粋な剣自体はカリンには到底及ばないし、『気』は上手く扱えただけだよ?」

「謙遜するでない。本当に心からそう思っているのだよ。ここ近年で『免許皆伝』に至った者は他所の地域にもいなかったからな。私やレンカもそれぞれ結局『奥伝』こそ修めたが『免許皆伝』にまでは至れなかった。だからその境地に我が子も同然のお前が至れたのは誇りたくもなるさ」


 へぇ? そうなのか。

 俺てっきり『奥伝』と『免許皆伝』は一緒に授かるものだと思ってたわ。更にもうワンランク上なのか『免許皆伝』って……。

 じゃああの『神化黎明』とかいうとんでも技を使えるのはアスカさんだけと……。更に両方の流派まで使えてとなると……俺が思ってた以上にアスカさんの流派の立場ってとんでもないことなんじゃね?


「――アスカよ。お前、冥華も全て修めたのだろう? 先日のフリード殿との立ち合いの際はまるでレンカを見るようだったぞ」

「父さんの教えの通り一通りの型はずっと修練を重ねてきたからようやく、かな? でも父さんから聞いていたのには程遠いと思う。『神化黎明』の力を借りないとまだ安定して使えない有様だよ」


 首を横に振るアスカさんが肩を落としながら言った。俺はというとあの時見せられた技をぼんやりと思い出し、あれのことか? と記憶を探っていた。


 とにかく驚かされた記憶しかない。あと俺じゃなきゃ命散らされてたってくらい脅威でしたね。


「何を言う。レンカ亡き後よくぞ一人でそこまでこぎ着けた。私がレンカの技術を知っているのだ。あれは紛れもない冥華の技よ」

「そう? リンドウさんに言われると安心できるよ。間違った方向に進んでないか心配だったんだ」

「レンカはお前にしっかりと全てを伝えられていたようだ。そして――『転用』も使えるのだな?」

「それは……」


 アスカさんが言い淀み、そのまま難しい顔で口を噤んでしまう。


 これは恐らく前アスカさんからちょろっと聞いた冥華の『奥伝』のことだ。冥華の力を絶華に混ぜ込むっていうとんでも技術のことである。

 あれはなんというか魔法で例えると属性付与に近い印象か。俺も何度も見たわけじゃないから素人目の感想になるけど、『気』で引き起こせる特性を繰り出す技に更に追加する的な感じか?


 確かこの人初めてとか抜かしてあの狼の群れに対してやってのけましたからねぇ。本人も技も中々のイカレっぷりですよ。

 やっぱりあれって相当凄い技術だったんだな。確かにあらゆる可能性を感じたもんなぁ。


 しかし……黙ってどうしたアスカさん?


「……分からないんだ。聞いていたものをなんとなく形にしただけだからあれは。本物を僕は知らないし」

「『転用』はレンカにも無理だった芸当だ。しかしアイツから耳にタコができるくらいに聞かされていた技術でもある。故にどういったものかは察しが付いている。お前もその聞いていた話を元に実現させたのだろう?」

「でも確証はないんだ。なら本物とは言えないよ」


 ああそういうことか。糞真面目なアスカさんなら言い淀むのも頷ける。

 どうにかこうにか修めた技術が本当に正しく合っているかの確証がない。だから修めたって言いきれないってわけね。


 冥華流がほぼ廃れてしまっている以上は難しい判断になるところだなこれは。

 記録に残ってはいても実演できる人を誰も知らないんだもんなぁ。


「先日の立ち合い……その最中アレを見た時は内心感動していたのだ私は。あれがレンカが私に常々見せると言っていた技術なのかとな。絶華と冥華が何故流派として分かれているのか……元は一つであった意味が分かるというものだ。力は所詮力。『気』も技術もまた最終的には交じり合うのは必然だったのだと」

「……」

「本物の技術かどうかの真偽は確かに不明だ。だが真偽など正直どうでもよく思っている。――私はアレに本物を見た。断言しよう」


 リンドウさんが言うからこそ、この勝手な決めつけにもそれが本物だという可能性が生まれるというもの。


 アスカさんが凄すぎて感覚狂ってるけど一応この人もれっきとした絶華流の師範なんだよな。『気』の扱いについてもほんの一握りの達人級だ。

 そんな人にここまで言わせる程のものだったっていうことか。本当に凄い人だよアスカさんは。


「だからレンカが私に見せられなかったその続きをお前が代わりに見せてくれたと、本気で思っている。あの瞬間の昂ぶりはお前にも分かるまい。アレは――フッ、レンカにも無理だろうな」

「リンドウさん……」


 アスカさん繰り出して見せた技の光景を思い出しているであろうリンドウさんが、破顔してレンカさんを嗤った。だが実のところ決して馬鹿にしているわけではない。

 参った――と言っているようでもあった。


「――アスカよ。冥華流の師範を名乗れ。お前はレンカをとうに超えている。その資格がお前にはある」

「っ……!」


 そしてリンドウさんはアスカさんへと、真正面から本題をしっかり伝えるのだった。


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