51話 事態終結
「カミシロ先生! 大丈夫ですか!?」
ヴィンセントが見えなくなった後、クレアさんが俺に声を掛けてくる。
どうやら心配してくれているようだ。
見ての通り、俺はもち平気。
「俺は見ての通り大丈夫。それより皆は怪我ない?」
「はい。私は平気です」
「俺も平気です。…ただ正直何が起こったか分からないですけど…」
「僕も問題ありません。ほぼ無傷です」
「そっか…。ゴメン! 俺が遅かったばっかりに!」
自分の失態を謝罪。
マジゴメン…。
先ほども目視で確認はしたが、本当に怪我がなかったことに再度安堵する。
それで…アンリさんは?
「………」
「アンリ? どこか怪我でもしたんですか!?」
クレアさんが床にへたり込んでいるアンリさんの肩を揺さぶる。
そして…
「…へっ? ああ! アタシは大丈夫だよ?」
「良かったぁ~。心配させないでくださいよ…」
ボ~ッとしていたみたいだが、どうやらこちらも大丈夫そうだ。
まぁ、そうだよな…すげぇ怖い思いさせたもんな…。
アンリさんは立ち上がり…
「あの…先生…。助けてくれて、ありがとうございました…!!」
「遅れましたが私も…(ペコリ)」
「俺も…ありがとうございます」
「僕も、先生がいなかったら大怪我をするところでした」
4人からお礼を言われる。
…怪我をさせたんだから言われる資格なんてないのに…。
ただ、とりあえず俺はその厚意を受け取っておくことにした。今は他にやることがある。
「…まぁ、それが俺の役目だし…。っと、他の生徒達は…?」
他に巻き込まれた生徒たちがどうなっているかを俺は確認する。
見てみるとほとんどの生徒はかすり傷程度の様だが、一部の生徒は頭から血を流していたり、どこか流血していたりする。
周りの方が被害が酷かったか…。
「…。怪我してる人が何人かいるな…。…やるか(ボソッ)」
大失態だな…。
…スマン、皆。今治すよ。
「『オール・ヒーリング』」
学食を淡い光が包む。
魔法の発動により、皆の傷がたちまち治っていく。
「傷が…!」
「あれ? 痛くない…」
「嘘…」
血を流していた生徒も血が止まり、皆自分の傷がなくなったことに目を丸くしている。
「ケホッ! ケホッ!」
……ん? 咳き込んでいる人がいるな…。
煙を多く吸っちゃったのか? ちょっと怖いし…掛けとくか。
「『オール・リフレッシュ』」
異常回復の魔法を掛ける。
これで問題ないだろう…。
もし駄目だったらお医者さん行ってください。これ以上のことはできないから…。
「す、すげぇ…」
生徒の誰かが呟く。
そしてそれをきっかけにしたのか、生徒がザワザワと騒ぎ始める。
…元気になったっぽいね。なら良かった。
「また…詠唱なし…。カミシロ先生…先生は何者なんですか?」
「…ただ魔法が得意な冒険者だけど?」
「ただ得意なだけじゃ、無詠唱だなんて超高等技術をあんな平然と使える人はいませんよ? それに魔力切れも起こしてないですし…」
クレアさんが聞いてくる。
同じ考えなのかエリック君とメイスン君も頷いている。
魔力量については特に問題もないくらいには余裕だ。
上級魔法でもこの程度…単発で発動する分には気にすることなんて必要ない。
同時発動しない限りはね。
それにしても無詠唱って超がつくほどの高等技術なのか? 知らんかった…。
流石にそこまでとは思いもしてなかった。
あと、アンリさんは…またボーっとしているようだ。
…ほんとにだいじょうぶか? 心配なんだが…。
というより、なんだかジッと見られてる気がする…。気のせいか?
「無詠唱もすごいですが、…先生は適性をいくつ持っているんですか? さっき分かっただけでも、光・闇・無の3つは持っていると分かりましたけど…」
とメイスン君。
「…よく見えてたなあの状況で」
「『障壁』、『バインド』、『オール・ヒーリング』、『オール・リフレッシュ』の4つの魔法を使ってました。確かに3つです」
「どうなんですか?」
「えっと、全部…だけど…」
隠してもしょうがないので正直に話す。
…というかあの状況でよく見てたね…メイスン君。そこに驚くんだが…。
「…冗談ですよね?」
「いや、ホントだけど…」
「いや、だって全適性を持っているのって世界でも極わずかですよ?」
「うん。その内の1人みたい」
「…証明してもらえます?」
「うん…。はい」
証明しろと言われたので、俺は各属性の『ボール』を出す。
初めて使った時とは違って今回は小さめだ。手のひらで各属性の色をした玉がフヨフヨと浮かんでいる。
ちなみに、土は『ソイルボール』、闇は『ダークボール』。それで無は『ロストボール』っていう名前がある。
…個人的に土以外はカッコイイと思ってます。
どうでもいいけど。
「おおぉぉっ!!」
「マジだマジッ!!」
「み、皆に知らせなきゃ!」
いつの間にやら他の生徒も集まってきていて、驚きの声をあげている。
中には学食から元気よく飛び出していく生徒も何人かいた。
「ほ、本当にすごい人が今回は来たんですね…」
「ああ、本物だこの人は」
「…そんなことないって」
…すごくはないんだよなぁ。
ズルしてるようなもんだし…。まぁ有効利用させてもらってますけども…。
てか皆さん。今学食酷いことになってるけどそれはどうでもいいの?
さっきの先生もヴィンセントを連れてったっきりで、他の先生とか呼びに行ったのか分からんし…。
学食のこの状況を他所に騒ぐ生徒達を見て、俺がおかしいのかと疑問を抱く。
…まぁ結局、そのうち誰か来るだろうっていう結論になったわけだが。
このまま放置してもあまり良いとは思えなかったし。
「アンリさん。本当に大丈夫? どこかまだ悪いの?」
「…そういやまだ顔赤いな…。どうした?」
俺とエリック君はアンリさんに問いかける。
どうもさっきから顔赤いし、やっぱりどこか怪我したんじゃ…。
一番危なかったはずだし…。
「い、いえっ! そんなことないですっ!! 大丈夫ですっ!」
「…なんかそうには見えないんだけど、顔もちょっと赤いし…」
アンリさんをジッと見つめる。
「ホントに大丈夫ですからっ!」
「う~ん、そう? ならいいんだけど、無理はしないでね?」
俺は真面目な顔をしながらアンリさんに言う。
が…
「っ~~~~~~~~!!!」
突如アンリさんが顔を真っ赤にする。
…何かボフッていう音が聞こえた気がするが…。
「…ああ、そういうことか…」
「なるほど…」
「アンリ…」
三人はなんか原因を分かっているっぽい。
あの~、俺を除け者にしないで欲しいんですけど…。
そしてアンリさんは走って学食を出て行ってしまった。
「ちょっ…アンリさん!?」
「先生。あの子は多分大丈夫ですから少し放っておいてあげてください」
「だな」
「ですね」
「今追いかけたらもっと大変そうですから…」
「え? そ、そうなの? …大丈夫かなぁ…」
追いかけようとしたがクレアさんに止められる。
う~ん。これってまさかとは思うけど、そのまさかじゃないよな?
もしそうだったら…どうすりゃいいの?
ある1つの可能性が、俺の頭をよぎった。




