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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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526話 『気』と『魔力』

「フリード殿、集中されよ。今この瞬間を無駄にしてはなりませんぞ」

「……はい……!」


 リンドウさんに言われるまま従い、乱れかけた『気』を再度練り直し持ち直した。

 師範であるリンドウさんがわざわざこちらに注目してくれているのだ。当然周りが先程よりも一層静まり返っているのが分かり内心緊張が走る。


 でも確かに今良いところなんだ。このままやり通したい。

 ……まあ声を掛けられたことに集中が途切れかけたのは内緒だけども。


「……」


 きっとできるはずだ。魔法がイメージならば『気』も同様。

 そう……俺にできないなんてことはないに決まってる(・・・・・・・・)


 強く思い込むんだ。意識を張り替えろ――!


「き、消えた!?」

「ほぅ……?」


 身体の僅かな脱力を感じつつ意思を明確にさせると突如周りからどよめきが湧いた。そして傍らからは感心してくれているようなリンドウさんの反応が聞こえる。


 よし! これでいい(・・・・・)。 周りから見ても姿を隠せてるみたいだ。やっぱり俺の思い込みは間違っていない。

『気』でもちゃんと『インビジブル』が使えてるのは間違いないだろう。


「いや、よく見てみろ。溶け込んでいるが目を凝らせばちゃんといる。でもあれは……」

「この前師範代が使ってたものと同じ……?」

「『歩法』……なのか?」


 物珍しいものを見るかのように周囲で憶測が飛び交い正解を探っているようだ。

 やはり絶華流の門下生にとっては非常に類似している技術である『歩法』が真っ先に浮かんだらしい。


「うむ。皆良く視えているようだな。しかし皆も知っての通り『歩法』とは世に流れる『気』と自身を自然な形で馴染ませることで一体化を図り、景色に溶け込む『動』の技術。だが今のフリード殿のこれは止まっている」

「つまり……『動』ではなく『静』?」

「左様。似て非なるものであるがむしろさらに難易度の高い部類であろうな」

「なんと……!」

「我々は疎く馴染みがないが、恐らく術式に近しいものがあるのだろう。それを疑似的に、それも『気』で真似たというところでしょうか。――違いますかな?」


 門下生と受け答えをしていたリンドウさんが俺に返答を求めた。

 リンドウさんも術式には精通していないため自分なりの憶測もあったのだろう。この場で術式について良く知るのは俺だけだから無理もない。


「ハハ、分かっちゃいますか……。流石のご慧眼、ですね……!」


 流石師範、と言う他ない。

 そう。これは似て非なるものであって『歩法』では決してない。

 魔力の代わりに『気』で発動した『インビジブル』そのものであり、要は純粋な魔法なのだ。『気』を活用したとしても性質は変わっていないし、少しでも動いたら周りから姿が見えてしまう特性もそのままだ。


『歩法』のように動きながら姿を消す、或いは認識を誤認させるような真似はできない。


「フリードさん、そこにいるんスよね?」

「……はい。テトラさん、どう見えてますか?」

「どうって……。いきなり見えなくなってビックリしてるっスよ。声しか聞こえないから不思議な感じっスね」

「……良かった。かなり再現、出来てるみたいだ」


 獣人であり武芸についても腕の立つテトラさんから言ってもらえると信憑性が増すな。素直な感想に一先ずは安堵しておこうか。


「『気』を習得するのみならず、既に『気』を別の形へ応用されるとは……。全くもって末恐ろしいですな。開祖として新たな流派でも開いては如何かな?」

「ハハ……遠慮しときます」


 続いてリンドウさんも変なことを言い出してくる始末。俺は『気』に集中力が割かれていてすぐに言葉が返せないなか、絞り出した言葉で辞退はしておいた。


 いやいや、「お酒一杯如何?」みたいな感覚で言われてましても。

 俺にはそんな才能も器量もない。


「……ふぅ」


 ギャラリーの雑音はまだあったが『インビジブル』を解除し脱力する。張っていた集中力が急に途切れたことでやや身体が鈍るのを感じた。

 再現はできたとはいっても実用段階にはまだほど遠い。維持するだけでもこんなに意識が割かれるようじゃ話にならない、というのが現状だろうか。


 だが一番重要な事実と操作のコツについてはこれで確信が持てた。

 そしてこれは俺の中で革命を起こすとも。


 俺の目論見が正しければになるが、これまで以上に無茶と荒業をしてもリスクが激減するはずだ。それだけの可能性が『気』にはある。


「いやはや素晴らしい! たった数日でここまで精進なされたというのか! 実に見事ですな!」


 俺が姿を見せるや否や拍手と声高らかに話すリンドウさんに意識が持っていかれる。


「その『気』の流れ……実に整っている。周りの『気』とも上手く同調できておりますな。初めてお会いした時と比べれば雲泥の差でしょう。成長速度が凄まじい」

「そう言ってもらえると励みになります。これでも結構頑張ったつもりだったんで」


 お世辞のようには聞こえなかった賛辞にはちょっとした納得感もあったので素直に受け止められたように思う。

 それに最近アスカさんにも『気』の流れが見違えたと言われたし、実際成果は出ているのだろう。結果が出ていることにはちょっと自信がつくってもんだ。


 毎日転んでぶつかって生傷増やして……。醜態晒しまくった時間は無駄じゃなかった。


「もう十分に『気』を扱えています。より明確に為したいことを発揮しようとしているのが分かりますな」

「ええ。ここ最近自分でも不思議に思ってるくらいなんですよ。余りにも感覚を掴みやすいというか。なんでこれまでちっとも出来なかったのかが分からないくらい、上手くいくというか」

「それはそれは。恐らくフリード殿の中で何かが当て嵌まったのでしょうな。これまで何人もの門下生を指導してきましたが、何をきっかけにしたのか突然コツを掴む者はおりました。流石にフリード殿程激変した者はいませんでしたが」

「そうなんですかね……。そういうもんなのかな……?」


 だが若干疑問に思っていることもある。何やらうまく出来すぎていやしないか? と。


 コツを掴んだと言えばそれまでの話だとは思う。でも本当にそれだけなのだろうか?

 アスカさんにカリンさん。そして師範を務めるリンドウさんという『気』の達人達から見ても急激な変化。それが俺の身体に起こったのは果たして純粋な鍛錬の結果か?


 自身のことながら根拠のない違和感が少し不気味に身体を蝕んでいる気がした。


「……まぁ今更って話か」


 身体の内側に『否定』と『肯定』の力。更に今はナリを潜めてこそいるが得体の知れない化物をもう一つ飼ってるんだから影響があってもおかしくない。

 俺の身に何が起ころうとも、起こってもおかしくないだけの影響力を持った何かしらが常に存在しているのだから考えるだけ時間の無駄だ。俺の身体は既に俺だけの身体じゃないみたいなものなのだから。


 もしも影響の結果だっていうならこの状態をとことん利用してやるまでだ。

 もっと力を身に着けたい。結局根底にあるのはやっぱりこれに尽きる。




 ◆◆◆




「――時にフリード殿。この後少々お時間はおありですかな?」

「へ?」

「一つ私のたってのお願いを聞いていただきたく……」


 その後正午となり、門下生達の午後の指導まで暫しの時間が空くこととなった。

 俺とテトラさんもシェーバスさんを担いで道場を引き上げようとしたところで、リンドウさんの待ったの声に一時足を止められる。

 俺の素っ頓狂な返事も気にせず改まった様子に対し、俺はここからのなんとなく避けられない展開を雰囲気から予想してしまった。


 あ、コレは何かやる流れだなと。


「既にかなりこの村にご尽力していただいているのは承知しております。娘とアスカの件も然り……。先日はこの地に呪いとして残った災厄まで振り払っていただいてしまった。感謝の念は一生潰えませぬ」

「はぁ……?」


 どれもこれも結果的にそうなったってだけでそこまで掘り返して感謝されるもんじゃないっスよ?

 でもこの改まった様子……。俺の歴戦のセンサーが過敏に反応しやがる。

 こいつぁイベントの予感がビンビンしてるぜ。頼みごとの際まず相手をおだてるのは常套手段だからな。俺には分かる。


「ただ最後に、良い機会でしたので恥を忍んでどうか一つご協力をお願いしたいのです」

「な、なんでしょう?」


 お父様ためるねぇ。焦らすねぇ。

 良い機会ってことはお約束展開をご希望なのか? 流石に門下生の相手とかだったら勘弁ですよ。

 だって手加減とか難しいし、それにこれから俺達出立の準備とかで忙しいし~――。


「私からあの二人への最後の一押し、どうか見届けてもらえないでしょうか?」

「お任せください」


 フッ、これで心置きなくこの地を後にできそうだ。出会って一カ月程度の俺ですらずっと待ってたんだ。

 パパンのお気持ちは大変よく分かりますとも。喜んでお付き合いさせていただきましょうぞ。


 全て察した俺は即答した。


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