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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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524話 行商人④

 ◆◆◆




「そっか……。こっちはこの二年くらいの間に大分動きがあったんだね。元々目覚ましい発展をしてるところではあったけど、二年前は聞く限りじゃそこまでではなかったはずだからさ~」

「ここ最近で大分発展したそうだからね。日常生活に魔道具が使用されたり技術革新が凄まじい時代に入ったって知り合いが言っていたよ」


 俺とアスカさんで重大なことは伏せて伝えられることを全て伝え、今しがたそれが終わった。

 シェーバスさんは相槌やオーバーリアクションがやたらと多く、こちらの話の腰を折られたりといった進行ではあったものの特に問題はなかった。

 話を疑問に思われたりするなんてこともなく……まあ、大した嘘など付いてはいないのだが。

 そこで話せる限りの情報を伝えると過去との変化に少し驚きを覚えている様子だった。


 聞けば二人は東の地を中継地点に去年も立ち寄っていたそうだがセルベルティア方面には足を運んでいなかったらしい。

 今年は足を運ぶつもりのようで二年ぶりの再訪となるようだ。比較的ヒュマスは冬を過ごすのに然程苦労しないとのことで今回は内陸の方で春を待つ算段とのこと。

 行商のタイミング等もあるので毎年冬を越す大陸は異なるようだ。


「――となると暫くはヒュマスを中心に色々とお金が動く匂いがするねぇ。忙しくなりそうだよテトラ君や」

「っス。オイラはいつも通り護衛するだけなんで。お好きにどうぞ」


 不敵な笑みを浮かべて目を光らせるシェーバスさんとこれまた冷めた態度のテトラさん。


 それ、お守りの間違いじゃね? 無粋だから言わんけども。


「ふっふっふ……来年は懐事情が激アツになりそうだ。きっと僕らを見守る勝利の女神も今から爆笑してること間違いなしだよ」

「いや、そんな女神見たくないっス」


 同感である。


 女神が爆笑ってすんごい絵面な気がするんですが……。そこは微笑むじゃないのか。

 てか散財して金欠なのか金銀ザクザクのどっちの意味だろうか……? 前者なら馬鹿にされてるから爆笑で合ってる気がする。

 どっちにせよどうか素寒貧にならない未来を願います。……南無。


 テンションの落差に随分と差のある二人を見ながら内心でそんなことを思う。一応は自分でも失礼な思考回路はしてる自覚はある。


「――んじゃ、こっちも色々と聞かせてもらってもいいですかね?」

「ん? ああどうぞどうぞ。なんでも聞いてくれたまえよ」


 なんか社長みたいな口ぶりだなぁ。……あ、個人事業だろうし一応は似たようなモンか。実際テトラさん雇ってるような状態だし。


 聞けばなんでも答えてくれそうな雰囲気のシェーバスさんに今度は俺から質問を投げかけた。


「お二人は最近までどちらに? ヒュマスにはいつ頃から来てるんでしょうか」


 聞けるなら過去の古い情報よりも直近の情報が欲しいところだ。地域ごとの特徴や経済傾向……商人ならそういうものの機微には鋭いはず。

 勿論種族、大陸、土地……種類を問わず長年にわたって続くしきたりやら風潮や噂的なのも大歓迎だ。


 渡り歩く全ての土地で俺達の持つ当たり前が通じるとは限らない。魔大陸に行ったこともなければ未だに魔族に出会った経験さえ一度もないのだ。

 一体魔族とはどんな風貌をしているのか、気質をしているのか。……その辺の事情すらも不明である。


「ヒュマスに来たのは結構最近なんだ。2カ月くらい前まで僕達魔大陸に居てさ、そこから船に乗ってこっちに来たんだ。暫く休養がてら港町周辺を観光してそれから山を越えてこの地域に来たってわけ」

「魔大陸から来たんですか?」

「うん。ってあれ? もしかして魔大陸に興味ある感じ?」

「ええ、まあ……ちょっと行く予定があって」


 どうやら顔に出てしまっていたらしい。シェーバスさんが目を丸くして意外そうに俺を見ていた。


 だってまさかピンポイントでそのワードが出てくるとは思わなかったから。


「この時期イーリスとかマムスならともかく……物好きだなー。魔大陸ってこう言っちゃなんだけど環境が超過酷だよ? 毎日何かしら不便被るって感じだもん。――あ、吸っても平気?」

「えっと……縁側で頼めるかい?」

「はーい」


 シェーバスさんが懐から葉巻を取り出しアスカさんに確認を取ると、縁側の方にゆっくりと歩いて腰かける。

 一瞬見た目が子どもっぽいギャップということもあってギョッとさせられたが、この中で一番年上という事実を知らされていたため止めさせるという行動には至らない。


 やがて葉巻から煙が立ち昇り始め、再びシェーバスさんの口が煙と共に続きを紡ぐ。


「それでなんだってまた魔大陸なんかに? わざわざあんな開拓地と変わらない僻地に行こうだなんて。僕らみたいに行商とかならともかく、目的もなく行くようなところじゃないよ?」


 見た目がもう、なんというかアレだ。完全にグレた子どもである。

 小人族は寿命はそんなに長くないがあまり老けないから仕方ないけど。感覚おかしくなるわこんなの。


 それに無駄にハードボイルドな雰囲気あるのなんなの。


「アニムが獣達の弱肉強食の世界なら魔大陸はモンスターと自然環境との対立の世界さ。乾燥地帯の水もない場所じゃ魔族とモンスターが水を巡って常日頃ドンパチやってるし、より良い生活圏を求めて魔族間での紛争も絶えない。大陸中央に向かう程その傾向は顕著になるけど……まあどの地域も似たようなものだね」

「噂程度に聞いてはいましたがやっぱり過酷なんですね。治安も大分悪そうだ」


 生きるためならば人はどこまでも業をその身に刻む。

 多分俺達とは違って日々を生き抜く感覚自体が違うのだろう。生死に関わるからこそ理屈や感情ではなく、本能や衝動に突き動かされている印象だろうか?


「全大陸中で最も劣悪だろうし、過酷と思えるならまだマシじゃない? 僕らは仕事と付き合いがあったから渋々行ったって理由があるけどさ、他の種族の人は大抵馴染めずにすぐ逃げ帰るらしいよ。特に食べ物が舌に合わないし乾物ばかりなのが辛いってよく聞くね。実際僕らもそうだった口さ」

「そんなに不味いのかい?」

「……思い出したくないっス。オイラ二度と行きたくないっスよ」

「僕もそう思う。仲間達には悪いけど金輪際勘弁かな~」


 苦笑いで思い出し笑いを浮かべる二人には懲り懲りという感情が滲み出ている。

 当時食べた味の記憶はどうやら想像以上のもののようだ。明らかに不快感を露わにしていた。


「乾物ばかりは……キツイかなぁ。干物系とか数えるくらいしか食べてない気がする」

「私達あんまりそういうのは食べてないもんね」


 セシリィとこれまでの食事風景を思い返す。そしてあまり乾物のお世話になった記憶がないことに気が付き雲行きが怪しくなった。


 俺には『アイテムボックス』があるため長期保存が可能なものは基本的に意味がない。収納している間は時間が止まっているため食材は痛んだりしないのだ。

 絞めた獲物もほぼ当時の状態を維持できるので常に新鮮な状態を保つことができる関係上、いつも瑞々しいものを食べていた記憶しかない。

 自由の身ではないものの大分贅沢な食事情はしていたと思う。


「お兄ちゃん、食料の管理はちゃんと計画立てよ?」

「そうしよう。もし向こうの飯がガチで合わないとしたら命に関わるもんな。そこら辺は入念に準備しようか」


 セシリィを見て本心では行きたくないという感情がお互いに抑えられないのが通じた気がした。

 しかし行かないという選択肢はない。ならば協力して乗り切るしかないのである。


 でもそういう人が寄り付かなそうな環境には……探している人達ってのは居そうな気はするんだよな。

 魔族以外が殆ど寄り付かず人に適していない環境。人の目が少なくなればそれだけ自由度は増すのだから敢えてそこを選ぶ理由が生まれるというもの。


 そう。天使の生き残りが。

 彼ら彼女らはその魔族達以上に極限の環境を生き抜いているはずなのだから。


「へぇ……今の聞いて行こうと思えるなんてよっぽどだね。けど食の事情は理由の一つに過ぎない。それ以外にもとにかくあちこちにこちらと合わない部分や危険が潜んでいるのが魔大陸だよ」

「というと?」

「う~ん……近づいたら石化して死ぬ湖とか?」


 ファッ!?


「そんな物騒な湖があるのかい?」


 アスカさんも驚きを隠せない様子で聞き返している。

 これまでに聞いた危険な場所とは比較にならないくらい恐ろしい情報であった。


「地元の住人に絶対に行くなって忠告はされたんだけどね? 行くなって言われたら行きたくなるのが人でしょ?」


 ならねーよ。てか悪戯っ子みたいに言うんじゃないよ。

 それはアカンやつや。外部の人なら住民の忠告を素直に聞くべきだろうに。


「興味本位で見に行ったけどあれは凄いねー。湖に近づけば近づく程地面と景色がどんどん白くなっていくんだ。それと同時に生き物もどんどん見かけなくなっていく。石ころを蹴っ飛ばしたかと思えばそれは石化した鳥の頭だったのに気づいた時はビックリしちゃったよもう」


 とても笑える要素などなかったのだがシェーバスさんはケラケラ笑いながら当時を語る。


 なんでそんな危険丸分かりの状況を見て進もうと思えるんだ。

 シェーバスさんの管理どうなってんのテトラさんや。


「流石に止めたっスよ? でもシェーバスさん行くのやめないから」


 俺が冷やかな目でテトラさんを見てみると若干戸惑ってはいたがテトラさんが弁明した。そしてやっぱりなとも思ってしまった。


 だが仕方なく付いていったんか……。テトラさんも度胸パねぇな。

 そしてなんという苦労人なんだろうか。護衛根性とんでもねぇ。


「流石に手荷物が一部白く変色し始めた時は焦ったよ。これ以上は流石にヤバい! ってね」

「いやいや、最初から危険な信号は出ていただろうに」


 人体にいつ影響が出てもおかしくないのにその判断は遅すぎるんでは? 

 気づいた時には手遅れって可能性は高い気がするんですがそれは。


「アハハ。まあ残念ながら湖を目前にしてそれ以上は進めなくてね。近くの高台にあった岩山から遠目越しに眺めることしか出来なかったよ。テトラ君は目が良いから色々見えたみたいだけどね」


 僕は見れなかったと肩をすくめるシェーバスさんは残念そうに言ったが、テトラさんの方にはちゃんとその光景が記憶にあるようだ。

 途端にテトラさんに興味の視線が集中してしまうのは仕方なかった。


「湖周りってどうなってたんです? というか石化してるのに湖自体は無事なんですか?」


 本来の話からは逸れてる気がするが聞いてしまった以上は気になるというもの。それは他の皆も同様だろう。

 なのでテトラさんに状況だけ聞いてみることにした。


「……湖は想像してた青とかじゃなくて、気持ち悪いくらい緑色をしてたっス。草木の緑とかじゃなく……鮮やかな色? って具合っス。そんでその周りを真っ白な色が埋め尽くしてる感じだったっス」

「うわ……鮮やかな緑色の湖なんて聞いたことがないですよ。毒々しいというか」

「実際毒みたいなもんなんじゃないスか? 湖周りは特に白い物体が多かったんで」

「それって……」

「まあ……何かの(・・・)死骸だろうねぇ。僕は実際に見てないから憶測になるけど」


 人……とは言わなかった。敢えて言わなかっただけのように思う。

 生物という話なら人も例外ではない。近づいたものが例外なく石化してしまうならば可能性は低いどころか十分高い。

 この石化の効力の確認に向かった者。たまたまそこを何も知らずに訪れてしまった者。或いは異変の発生時に近くにいた者。可能性を挙げたらキリがない。


 自分が石化する状況を想像し、気が付けば生唾を飲み込んでいた。

 意識があったまま石化するのかや苦痛と共に死を迎えるのか。考える程恐れは尽きない。


「ゾッとしますね。そんなものが実際にあるなんて」

「うん。これは極端な例だけど、そういうのが他にもあるのが魔大陸ってことさ。間違いなく他の大陸の危険とは一線を画すよ。異常すぎるよあそこは」

「異常……」


 ルゥリアが言ったのはフォンに出会えということのみ。魔大陸がこんなに危険な場所だという話は聞かされていなかった。


 つまるところあれか。この程度の障害は気にならないでしょう的な感じに思われてるのか俺は。最早扱われていると言っても差し支えない気もするが。

 ふざけるのも大概にしやがってくださいよ神獣畜生め。


 それとも? もしかしてその問題に関われって言われてる? あわよくば解決しろ的な?


 神獣達世界側の事情で伝えられず、俺自身の記憶のためにも関われという含みがあるならば頭では理解はするし納得もする。……まあ、しゃーないかってなるさ。

 ――でもなあ……俺、なんでも屋さんじゃないんスよ。


 神獣達の無茶ぶりも異常だと内心俺は嘆くしかなかった。

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