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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
525/531

523話 行商人③

 ◆◆◆




「――では改めて自己紹介させてもらうよ。僕はシェーバス・ホルク。各地を転々としながら行商で食い繋いでるお調子者さ。よろしくー」


 その後、俺達に追い付いたアスカさんの提案で家に来ればという話になったので一旦アスカ邸に引き返した。

 机を囲ってお互いに畳に腰を据えると、小人である名をシェーバスさんからの挨拶から始まった。


 因みにさっきまで一緒にいた少年には退屈だろうからと言って家に帰してある。


「ほら、テトラ君も自己紹介して」


 シェーバスさんに促されおずおずといった様子で狼の耳と尻尾をした獣人さんが口を開く。


「……オイラはテトラ・ハウリアっス。シェーバスさんの護衛をしてるっス」

「ハイ、よくできましたー」


 手短に挨拶を済ませると隣でパチパチと拍手をもらいテトラさんなる青年が会釈する。

 その様子からどうやら会話はそこまで得意ではないようだ。


 鋭い目つきとは裏腹にテトラさん声は柔らかいものであった。既に刺すような視線は消えており、俺も変に気にするようなこともない。


 視線に意識が向いていたけど少し幼さの残る風貌をしてるようにも見えるな。

 もしかして結構若いのかも? 俺よりも年下だったり?


「ごめんね? テトラ君あんまり口数が多くないんだ。でも腕っぷしは確かなんだよ。いざという時は本当に頼りになるしいつも危ない局面では助けてもらってるんだ。僕の頼れる生命線です」


 えっへんと鼻を鳴らしながら豪語するシェーバスさん。

 テトラさんが喋らずともシェーバスさんが説明しているのを見るに、こういうコンビなんだなと納得してしまった。


 お喋りと寡黙……案外組み合わせとしては良い気がするし。

 だがしかし生命線って……。いなきゃ死ぬんかアンタ。


「粗茶ですが……」


 カリンさんが慣れた手つきでおぼんに乗せた茶碗を全員に配る。

 湯気から薫る和の匂いにつられ俺は意識が茶に傾くのが分かった。


「ありがとうお姉さん。……ほんっとに美人さんだね? どう? 僕と一緒に果てなき行商の人生を歩んでみない?」


 だというのに、目の前のこの人はカリンさんに心が傾いてるときたか。初対面相手にすげーなオイ。

 カリンさんビックリするくらい美人だから分からなくはないが……ここでナンパするかね普通。


 でもやめときシェーバスさん。その人『剣聖』やで。ついでに俺の隣にいる人は更に化物やで。

 今はまだ抑えてるけど度が過ぎたら流石にアスカさんが怖いことになるぞ。


「素敵な申し出ですが遠慮させていただきます。私この土地からどうしても離れたくないので」

「あちゃー、それは残念だ。僕歩みを止めると死んじゃう病だからさー。なら来世に期待するね」


 俺は軽薄だなあと思いながらカリンさんの上手い対応を見守った。

 アスカさんはというとその一幕を大して気にもせずに茶を啜っており、この絶対感というか貫禄に最早言うことはなかった。


 この二人の仲はどうやっても切り崩せんだろ。鉄壁の布陣が敷かれているようなもんだ。


「「「ふぅ……」」」


 茶を一杯啜って和みに和む。


 やはりカリンさんの淹れてくれる茶は美味い。淹れる人が変わるだけでこうも違うってくらい違う。まず同じ茶葉なのに匂いからして別物だもんな。

 俺がやっても何の感想も抱かれないただの茶が淹れられるだけである。これぞ技というものだ。


「その……さっきはすんませんした」

「ん?」


 二口目を味わっているとテトラさんが俺に向かって話しかけてきたらしい。口に広がった味をすぐに奥へと流し込み俺も反応する。


「アンタすっごく得体のしれない気配がしたから。思わず必要以上に警戒しちゃって」

「っ……」


 ……思わず吹きかけちゃったじゃないか。まったくもー。


 獣人さんの方は警戒心が強めかなと思っていたのだがそれは初見だったからのようだ。

 でもその警戒は全部間違ってないんだよなぁ。テトラさん、自分の感覚に自信を持っていいと思うよ。


「実際得体は知れなかったんじゃないですか? いきなり空中で止まるような奴ですよ俺」

「そうそうそれだよそれ。あれどうやってるの? どういう仕組み?」


 俺が得体の知れないという部分を無視してシェーバスさんが割り込んでくる。

 得体の知れない云々の話題を逸らすつもりはなかったのだが仕方なくまずはこちらを優先した。


「術式使って足場作っただけですよ。風属性の術式に『エアブロック』ってあるでしょ? アレに乗ってただけです」

「乗ってただけって……。でもパイル起動しているようには見えなかったよ? 詠唱もなかったみたいだし」


 術式って連合軍以外にはまだそこまで普及しきってないって聞いてたんだけど知ってるんだな。流石に各地に赴いてるだけあるか。


「俺、パイルも詠唱も要らないんですよ。なくても術式使える特異体質なもんで」

「そうなの!? いいなぁ、ズルい!」

「んなこと言われましても」


 ズルいって子どもか! 見た目も相まってセシリィより子どもに見えるぞアンタ。


 ――とまあ、別に俺の術式使用については変に隠すようなことでもない。俺の特殊能力とでもいえばどうとでも説明ができる。(アイズさん談)

 実際世の中にはユニークスキルっていう無二の力を持つ人達がチラホラとだがいるわけだ。その一人として考えたらおかしくはないだろう。


「もう一回見せて」

「……ハイ。どうぞ」

「おおー……! これすごく特殊な能力なんじゃないの? どこでも引く手数多の才能だと思うな」

「宝の持ち腐れしてる自覚はありますね」


 シェーバスさんと他皆の前に小さな『エアブロック』を展開し、指で示唆して湯飲みを置かせてみる。

 テトラさんも驚いていたがシェバースさん程ではなく意外と落ち着いていた。当のシェーバスさんに至っては目を輝かせていろんな角度から見えない『エアブロック』を観察しており動きがせわしない。


 終いには湯飲みを退けて手刀を繰り出したりなんかしている始末だ。

 一体なにしとんねん。チェストじゃないよまったく。


「ぐあぁあああっ……!」


 ほれ自爆しとるし……。この人見てて飽きないなー。


 流石に補助魔法の『エアブロック』と言えど数人を支えるだけの耐久性はあるのだ。中途半端な力では壊せるはずもない。

 しかも小人という種族は体躯の影響で確か腕力でかなり他種族で劣る。


「……すんません。シェーバスさん珍しいもの見るといつもアホになるんで。放っておいて平気っスから」

「あぁ……ハイ。なんかそちらも大変そうですね、色々」


 全員が苦笑いしてシェーバスさんの奇行を見届ける中テトラさんの擁護? が入った。


「それでシェーバスさんの方は? 術式にあんな漂うような浮き方ができるものはなかった気がしますけど」

「れ、れっきとした術式だよ。風属性なら一番ありふれたやつさ。『ブリーズ』ってあるでしょ?」


 砕かれた手刀に悶絶するシェーバスさんを無視して今度はこちらから聞いてみる。すると隠すつもりはちっともないようですんなりと種明かしがされるのだった。


「『ブリーズ』で? でもあれ空気の流れとか少し操れるだけじゃないですか」

「それはそう。だからパイルをそれのみに限定特化して作ることでそれを可能にしたんだって。それで僕は小人だから身体も小さくて軽いでしょ? だからなんとか浮くくらいはできるってわけさ」


 ほう? じゃあ種族特性も合わさっての実現ってことか。

 面白い使い方と発見だなこれ。『ブリーズ』程度で人を浮かせるって考えはなかったな。

 アイズさんいたら食いつきそうな案件だ。


「浮いてると人目を引いて商売が結構上手くいくんだよね。――因みにパイルはこれね」

「わ、綺麗……」


 と、震えた手を抑えながらゆっくりと服の中から紐に括られた装飾品を取り出す。セシリィが小さく感嘆の声を上げる程の一品だ。

 それはとてもパイルとは思えない繊細さを秘めた金属製の輝きを放っており、職人の拘りが感じられると素人目の俺にも分かる気がした。


「ふっふっふ。お嬢さんお目が高いね? 実際女性受けはいいんだよねこれ。……でもこれはあげられません! 残念でしたー」

「あ、ハイ。私術式使えないので別に要らないですけど?」

「……」


 多少意地悪気味に言ったつもりなのだろう。しかしセシリィのキョトンとした顔で言い放つ真っ当でド直球な返答は予想外だったらしい。

 シェーバスさんが鳩が豆鉄砲食らったような目になって数秒放心すると、子犬のようにしゅんと項垂れているのは流石に気の毒に思ってしまった。


 元気出せよシェーバスさん。アンタは凄いよ、俺なら即死してるから。

 いやしかし茶が旨い旨い。


「とまあ、綺麗なのもそうですがこんな小型のなんて中々ないんじゃ……。一体どこで手に入れたんです? パイルなんて一般人が持ってるようなものじゃないですよね?」


 用途にもよるがマナの消費量が大きいほどパイルも比例してサイズが上昇するとアイズさんは言っていた。

 実際連合軍の精鋭達を相手にした際はどの兵も持っているパイルは目に見えて分かる大きさだった。少なくとも片手では収まるサイズではなかったはず。


 まあアイズさんの場合軍には敢えて技術を秘匿して小型化に成功していたため大抵のパイルは小さかったが……それと比べるとシェーバスさんの持つパイルは小さい部類に入るだろう。

 まずポケットや衣服の内側に収納して携行できるサイズは相当技術が凝縮されている証だ。


 ……そう考えるとアイズさんってやっぱとんでもねぇわ。ポケットまさぐればなにかしらパイルが出てくるんだもんなああの人。

 一人だけ技術力が数世代は先を行ってるよあれ。


「うん。連合軍にすっごく気の合う知り合いがいてね。その人を経由して軍から横流ししてもらったのをすこーし使わせてもらってるんだよね」

「え、横流し……?」

「おっと口が滑った。――こほんっ! 今の発言は忘れて? ちゃんと双方合意した上での正式な取引だったからさ。断じて違法性はないよ?」

「はぁ……?」


 後付けで言われても困るんですけど。


 慌てて訂正を入れてきたが聞き流せる発言ではなかった。それに加えて忘れてくれという発言がより一層忘れなくさせる一因となった。


「……」


 おいおい目を逸らさないでくれよテトラさんやーい。


 相方はどうなってるんだと目で訴えるが、そんなこと知りませんと目を泳がせるテトラさんに演技が下手だなとツッコミたくなる。


 大体双方の合意ってだけじゃ違法性かどうかは別だと思うんですけど。しかもやたら強調するあたり普通に違法なんだろうな、パイル持ってるのは。

 テトラさんはともかくシェーバスさんは真っ白な人柄ってわけではなさそうだな。もっとヤベー人を知ってるからそこまで抵抗はないけども。


 うん。今のは聞かなかったことにしよう。見なかったことにしよう。それが多分全員が幸せになれる唯一の道だ。

 そもそも俺そんなこと追及できる立場じゃないし。これは深入りしたら駄目なやつだわ多分。


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