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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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518話 裏の意思⑥(別視点)

「――うん。普通に行けそうだ」


 音もなく自然にフリードの身体に二つの力が混ざり合う。

 この一連の動作において不気味なまでの静けさのままでいるのは人々が呆気に取られて硬直する様子とかなり近く、フリードの身体の奥底で主張する力に世界の認識はまだ追いつけずにいた。


 だが静けさの後には遅かれ早かれ嵐がやってくるものだ。今回もその例に漏れない。




 ドクン――!




「「ッ――!? ハアッ……ハッ……!?」」


 世界が胎動する。

 大半の者は気づけずにいる変化は強者であるマクシム達も機敏に感じ取ったようだ。強烈で致命的とも言える事象を前に、二人は過度な反応を強制的に引き起こし大混乱へと陥った。


「本気を出してないのはこっちもなんだよ。お前等と違って都合の良いモンじゃなくてさ」


 一度、閉じていた両目をフリードが開眼する。金一色だった両目の片方だけが鈍く光る銀色へと変化を遂げており、金と銀に込められた力が無意識にマクシム達に向けられる。

 相反する力の前に身が引き裂かれる錯覚を覚え、二人はありもしない痛みに見舞われた。


「(何なのだコイツは……!? ま、まだ上があるというのか……!?)」

「(ア、有リ得ネェ……!? 人族風情ノ力ジャ……!?)」


 呼吸は大きく乱れ吹き出す汗も止まらず、本能的に二人の身体は戦闘行為そのものを避けようと必死に命令を発しているようだった。

 遅れて世界は事態を認識して落ち着きを見せていたが、今度は二人の理解が追い付かなかったのだ。


「ホラ構えろよ。――死ぬぞ」

「な――!?」


 フリードの忠告が入った直後にマクシムとセオドアの間で光が収束した。二人の反応を待たずに臨界を迎えた光は視界を埋め尽くす規模の爆発を引き起こし、瞬く間に二人を包み込む。


「ガハッ!?」


 巨大な火柱の中から煙を纏ってマクシムの身体が勢いよく上空へと飛び出す。その顔は何が起こったのかも分からず、その身に受けた痛みでしか事を把握することすらできていない顔である。


「最早全身アルテマイトだな。硬すぎだろ」

「ッ――!?」


 爆風を叩きつけられ身動きも取れない中、マクシムが唯一動かせたのは視線くらいのものだった。

 ギョッとして声がする方に目を向ければそこには自分と並走するフリードがいた。


「でも痛ぶるには丁度いいかもなぁ!」

「ぐっ!? ――カッ!?」


 マクシムの向上した防御力を好都合と嗤い叫ぶフリードは胸倉を掴みあげると、ゴミを捨てるかのように地面へと投げつける。マクシムは臓物が全て引き寄せられて千切れそうになる感覚の後、全身に爆発と変わらぬ激痛が走って一瞬白目を剥いたがフリードは少しも意に介さなかった。


「なまじ硬すぎるってのも大変だな。――その頑丈さを恨め」


 地面を跳ねた身体が勢いを殺せず何度も大岩へとぶつかり粉々に粉砕していく。今のマクシムはまさに砲弾そのものと言えよう。

 苦痛に続く苦痛の連続で壊れかけた精神と薄らぐ意識、思考もままならない程目まぐるしく変化する状況にマクシムの心身は極限状態へ近づいていく。


「……っ!?」

「ほー、よく反応したもんだ」

「ぐ、ぬぅうああああっ……!」


 だからこれは反射ですらなく運が良かっただけだ。

 とにかく急所である頭部を守ろうと両腕を交差させたことが偶然にも功を成し、『転移』で先回りしたフリードの追撃を防いだのだ。焼け爛れた鋼のような皮膚がフリードの手刀を食い止め、僅かに皮膚を裂く程度に留めていた。


「(押し返せぬ……! マズイ……!)」

「じゃあその腕ごともらうわ」

「は――? ッ!? う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!?」


 致命打にならずに済み安堵したのも束の間。二人の頭上に尾を引いた何かが弾け飛ぶ。

 フリードが手刀に金色のオーラを滲ませた瞬間の出来事である。まるで腕をすり抜けるようにフリードの手刀がストンと振り落ち、マクシムの肩の肉ごと斬り裂いた。


「防げるわけねーだろ。防御すること自体おこがましいわ」


 弾け飛んだのはマクシムの腕であった。右腕の肘から先は斬り飛ばされて血が噴き出しており、膝から崩れ落ちたマクシムの返り血を浴びながらフリードは嘲笑し、ゴミのように吐き捨てる。


「フーッ、フーッ――ッ!?」

「防御なんてできるかよ。幾ら硬かろうがそんなもん全部『否定』してやるさ。お前らは全部それをただ『肯定』してればいい」


 失った腕の出血を止める術もなく、声にならない痛みに血走った目をしながら耐えるマクシムに対しフリードは図が高いと見下すような侮蔑の眼差しで言う。


「要約すると『死ね』ってことだ」

「(ッ、死ん――!?)」


 まるで淡々と作業をこなす感覚でフリードが手刀を掲げたのを見てマクシムは自らの死を一瞬悟った。走馬灯のようにこれまでの過ぎ去っていった人生を凝縮して思い返し、身体が硬直して死を受け入れた時のことだった。


「アアアアッ! ヨクモヤリガッタナァアアアッ!!!」

「セオドア……!?」


 手刀が振り下ろされようかという間一髪のところで、フリードの背後から雄たけびと共に極太のマナの塊である『獄式・破邪』の邪魔が入る。それによりマクシムの死への意識が一瞬現実に引き戻され、幾許かの猶予が生まれた。


『破邪』はフリードに唯一傷をつけた最大の一撃である。それを無防備な背後からぶつけたのだ。ほんの少しの期待もしたくなるのも当然だった。


「――あ?」


 しかしそれも無意味に終わった。

 ゆらりと苛立ちのこもった声で振り返ったフリードに『破邪』は届いていなかった。フリードの背には『銀翼の盾』によって築かれた防壁が何の前触れもなく展開され、『破邪』の術式を消失させることなくその場に留めていたのだ。

 その防壁は軽々と『破邪』を受け止めており、『破邪』の方が自壊しそうになる圧力を逆に押し付け返していた。


「防い、だ……? 見もせずに……!?」

「俺ノ『獄式』ダゾ……!? ナンデ効カネェッ!?」

「おいおい今いいところなんだ。邪魔すんなよ……!」

「ッ!? ハ……?」


 二人の驚きを他所にフリードが人差し指を天に向けながら軽く一回転させる。その仕草は荒い言葉遣いをしているフリードに似合わぬ若干愛嬌のある動作であったが、この動作が直後セオドアが取り乱す原因を生んだ。


「へぇ……これが『獄式』ね。随分凝った構成してんだな?」

「ドウナッテル……!? 俺ノ術式ヲ奪ッタ、ノカ……!?」

「この雑でデカい一撃は複雑極まる術式構成の裏返しだったのか。――オイ喜べ。ナナも褒めてるぞ。一部欠点あるけど完成度高いってよ。見直したよ屑。ブラボーだ」


 セオドアの取り乱しも無理はなかった。自分の、それも自分だけが扱っていた独自の術式。その主導権が奪われたのだ。しかもその内部構成まで理解されて。

 血の滲む努力と試行錯誤の果てに編み出した術式がまるで取るに足らんと言わんばかりの余裕さで受け止められ、この一瞬で看破されてしまった事実。セオドアの虚ろだった理性もまた現実に引き戻されていく。


「フ……ッザケルナァアアアアッ!!! コノ一瞬デ俺ノ術式ガ見破ラレルワケガ――!」

「取り合えず返すぞ。ナナ先生が欠点は補っといた」


 到底認められなかった。術式の根底を理解されたことも、そして馬鹿にされたことも。

 セオドアが怒りのままに叫ぶも依然として興味のない声をしたフリードにその声も遮られ、ここで止められていた『破邪』が空間を揺らがせる『神気』を突然纏った。


「これがこの時代の俺の限界(・・・・・・・・・)そして完成形だ(・・・・・・・)。――『獄式・破邪』」

「(馬鹿ナ――)」


『破邪』の凝縮されたマナが黄色を基調としたまま赤黒の稲妻を走らせ、フリードからセオドアへと反射した。

 強烈な更なる『否定』の事実を突きつけられ、セオドアの姿は抵抗する間もなく新たに生まれ変わった『破邪』に呑まれて掻き消える。


「死ぬ前に一つ勉強になるだろ。勉強料のツケは地獄で払え」

「貴っ様ぁあああアアアッ!!!」

「……!」


『破邪』の展開を終えて魔力の残滓が無に帰す間際、セオドアの顛末を見ていたマクシムが怒りのままにフリードに残った片方の腕を真横から叩きつけた。

 筋肉を限界まで膨張し制御も後先をも無視した自傷必死の一撃だ。完全に無視していたフリードが至近距離にいたこともあってか回避されることはなく、砕け割れたような鈍い音にフリードの身体が一瞬だけグラついた。


「は、はは……! ハハハハハッ! 油断したなあ小僧っ!」

「……」


 身動き一つしないフリードの片腕が力なく垂れ下がるのを見てマクシムが醜く嗤った。

 一矢報いたことによる狂気の笑みだ。渇望していた欲が僅かに満たされ気力も一時沸いたのだろう。満身創痍の身体で高らかに嗤い叫ぶと、血と唾液の混ざった歯茎を覗かせ満面の笑みを浮かべていた。


「……はぁ~。ダルいことしやがる」

「っ!?」

「なんだよ、まだ結構余裕あるんだな? 腕折れちったじゃねーかよ」


 心底面倒くさそうにフリードが呟いた。折れた腕を特に気にすることもなく淡々と。

 フリードの変わらぬ様子にマクシムの高揚が一気に冷めていく。

 これまでの経験上、感触からして骨は粉砕している実感はあった。そしてそれは間違ってはいなかった。


 しかしフリードが見せている反応はこれまで手にかけた者達の中では見たことがなかったものである。

 本来なら激痛にのたうち回って悲鳴を上げ、戦意を失って命乞いをする。今まで見てきたものはそんな光景だ。だというのに同じ目に遭っていながら何事もなかったような反応しか見せない姿はあまりに想像と反していたのだ。


「死の確約でもしとけ」

「(何か来る――!?)」

「――『白零浸食(フロストバーン)』」


 フリードの左手の甲に六華を模した魔法陣が浮かび上がり、空を横に一撫でした。


※10/22追記

次回更新は今夜です。

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