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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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503話 共闘戦③

 

「悪いね。君の術式の『気』も利用しちゃって」

「別にそれくらい構いませんよ。それにしても何度見ても流石ですね。絶華に冥華の特性まで組み込めるなんて」


 アスカさんが為してみせたことについて、俺はその違いに驚きを隠せなかった。

 一見『バインドクロス』ごと巻き込んだように見えた技だが、実際は魔力を技に取り込んでいるのは俺も感覚で理解できたからだ。


 つまり、狼達が魔力によって回復するはずだった分を『気』に変換しているため、完全な有効打のみを相手に与えたということである。

 俺の発動した魔法が奴よりも早く『気』に利用されるなら回復されてしまう心配は要らない。気にせずに魔法を使えば使う程アスカさんの力が増すと考えれば有効活用が極まっていると言えるだろう。


「いやいや、それができるのも君のおかげだぞ? 『神化黎明』で『気』の操作力が向上してるし、まだ僕一人じゃできない芸当……到達できない領域だ」

「へぇー、そういうもんですか」

「うん。初めて試したけど上手くいったみたいで良かった」

「……へぇー」


 アスカさんは謙遜しているようだが、内心ではこの天才めとお褒めの小言を言いたくなるお気持ちを是非とも表明させていただきたい。


 初めてだったとか嘘でしょ? なんで出来るのこの人……。

 やっぱ頼もしい人だわー。もう全部この人で良いんじゃないかって気がするもん。

 絶華と冥界を別々に使うんじゃなく、併せても使えるのはちょっと俺と似てるかもしれないな。俺も肯定と否定の組み合わせができるし。


「よし。後はアレだけだね」

「ええ。丁度向こうも勝負がついたみたいです。『土神兵(どしんへー)』には悪いことしましたね……」


 巨狼と『土神兵(どしんへー)』の勝敗。それは予想通り巨狼の勝利に終わっていた。

土神兵(どしんへー)』は無残にも身体を粉砕されて分離し、土の塊と馴れ果てていた。

 そしてそれを一心不乱に食らう巨狼はなんともおぞましく、ただの魔法で生み出した兵と言えど気の毒さを感じずにはいられなかった。


「奴はこっちに目もくれてないみたいですね。この隙にたたみかけましょう。俺が先行しますからアスカさんは後に続いてください!」

「ああ! 頼りにしてるよ!」


 俺達は巨狼がこちらの動向に気付くよりも前に行動へ移る。

 『縮地』ばりの機動力で一気に高速へと至り、風を切って肉薄する。


「ガァウッ――!」

「こっちに気がついた! 正面から来るぞ!」

「いい! このまま突っ込む! ――『銀翼の盾』!」


 食事の邪魔をするなと言わんばかりに巨狼がこちらに牙を剥き、咆哮する。

 吹き飛ばされそうになる重圧に加え目の前から地面を深く抉る程の衝撃波が迫ったため、俺は対抗策として正面に横に大きく銀色の光を放つ不可視のシールドを張った。


 咆哮だけで災害クラスの一撃とは恐れ入る。

 だが――!


「コレはそう簡単に崩せねぇぞ――!」


 ただ耐えるのではなく相手の攻撃特性に合わせて弱体化を図りつつ、受け流せる構築をした防御壁。それが『銀翼の盾』である。

 少ない魔力消費で極めて大きな効果を発揮できるので費用対効果が大きく、またこの魔法自体が独立しているため一度発動すれば俺が意識して魔力を変化させる必要すらない。

 完全に防御の意識を捨てられるので思い切った行動に踏み切れる革命的なものである。


「これはまた凄い『気』の絡み合いだな……! まるで幾つもの術式を同時に組み込んだみたいだ……!」

「あながち間違ってないですよ。これ一つに防御と補助の魔法が何個も入ってるようなもんですから」

 

 俺の後ろでアスカさんの感心したような声が飛んでくる。その間、シールドにぶつかった衝撃は全て形に沿って俺らを避けるように逃げていく。


 「ッ――!」


 俺達が咆哮でも止まらないことに焦ったのか、巨狼がここで大きな挙動を取り始める。

 その巨体から想像もできない速さで横に飛び跳ねると、黒い瘴気を纏った爪の一撃を繰り出して飛ばし始めたのである。

『千薙』のように視界一杯に広がる黒一色が俺らを呑み込もうとするが、そんなことはお構いなしに俺らはただ突き進む。


「んなもん効くか……! 一瞬の攻撃程度で喰い尽くせるかよ……!」


 本来なら厄介な攻撃なのだろうが『銀翼の盾』の前には無意味だ。元々魔法を用途に合わせて展開するのが面倒だからといって考案された魔法なのだから。

 この力の持ち主曰くそれなら一つで殆どに対応できるようにすればいいとか言ってた気がするが……正直簡単に言う内容ではないのは確かだ。

 そもそも魔法そのものが個々で完成されているようなものであるし、それをただ改変するならともかく複数同時に組み込んで誤作動もしない構築にするのは極めて困難というレベルじゃない。ハッキリ言って常識を超えていると言っても差し支えないだろう。


 だと言うのに……それをこうも簡単に実現しているんだから笑っちゃうよなぁ。

 俺も魔法を使う身としての意見を言わせてもらうけど、この所業は天才すぎて引くわ。

 まるで自分こそがルールって言っている気がするんだもの。大いに使わせてもらっといてなんだけど。


「食らえ! 『極楽瘴土(ヘルヘヴン)』!」

「ッ!?」


 記憶に断片として点在するイメージを掘り起こし、一時的に俺に刻み込まれた構築式を頼りに魔力を練る。

 イメージと魔力に呼応して前方に大規模な泥沼が出現し、土の濁った色合いが視界を埋め尽くした。


「今だ! 畳み掛けるんでアスカさんも続いて――!」

「分かった!」


 短い伝達の後、俺は『銀翼の盾』を解除して一気に前へと踏み込んだ。

 巨体すぎて完全に沈みこそしなかったが、巨狼は両足が完全に泥に浸かって動きが一瞬止まっていた。

 それと同時に猛威を振るう爪も明後日の方角に跳んだのを最後に止んだようで、俺は『アイテムボックス』から愛用している欠けた大剣を即座に引っ張り出す。


 このデカさなら加減は要らない。その両目もらった――!


「『無靱空閃』!」


 俺は真っ赤な奴の瞳を焼き付け、その両目に向かって水平に斬撃を勢いよく叩き込む。

 眼球を抉って溢れ噴き出す血はやはり黒で、大粒の血の雨は弾けて宙を舞い飛散する。


「開け! 『鳳仙華』!」


 俺が返り血を避けるために即座に身を退いたと同時だった。奴が痛みに苦しむ間も与えずアスカさんがそれに合わせて技を巨狼の胸部に叩き込み、火炎の紋華を大きく刻んだ。

 威力、火力共に申し分ない技をその身に受け、胸部に生えていた毛が燻り焦げ臭さが辺りに漂う。そして巨狼は一瞬の痙攣の後屈服するように泥沼に身体の大半を鎮めると、もがきはするものの抵抗を失いつつあるように項垂れた。


アスカさんの『気』の一撃が完璧に決まった……! これだけタフでも流石に堪えたみたいだな。 

それに『極楽瘴土(ヘルヘヴン)』には微生物が発生させる毒も含まれてるからな。多少はそれも効いてるのかもしれない。


「――ん? どういうことだ……一体……!?」

「へ? ――って、おおぅっ!?」

「フリード君!?」


 攻撃を終えて一度退いてアスカさんの前に壁として出ていた俺だが、思わせぶりなアスカさんの呟きに振り返ろうとしたところで――殺気に気付いて咄嗟に大剣を盾にする。


「あっぶな……! でもどういうことだ……? アイツ、あれでまだ目が見えてるのか……?」


 重い一撃により身体が押され重心が狂わされたものの、立て直すのにそう時間は掛からなかったのは幸いか。


 決定打は与えたつもりだった。しかし状況からしてそうではなかったらしい。

 両目は抉れ黒い血が溢れているというのに、何故か巨狼は俺が見えているかのようにこちらを見ていたのだ。なんとなくだが目と目も合っている気がした。


「それに……なんだこれ?」


 盾にした大剣からは黒い瘴気が燻っており、正確に俺に向かって何かを放ってきているというのが見て取れる。

 受け止めたのは黒い塊であったため一体何を放ってきたかまでは分からなかったが、蒸発するように立ち昇っている瘴気を見るに当たればマズイものであったのは確かなはずだ。弊害は不明だが嫌な気配を感じた。


「……っ!? そうか、そういうことか! アイツ……これが本体じゃないんだ……!」

「え!? それどういうことですか!?」

 

 俺が巨狼と大剣を交互に見て考察していると、目を凝らしていたアスカさんが合点がいったように声を張った。

 俺は考えてもいなかったその発言に驚かされ、言っていることの意味が分からずに思わず聞き返す。


 本体じゃないとは如何に……? コイツさっき狼の群れを召喚してたはずだけども。


「奴の身体の中心部……そこから飛び抜けて強い別の『気』を感じた。奴事体はさっきの狼達と類似した『気』を持ってたはずなのに、まるで違う『気』だ。……ここまで違うとなると、最早別種……?」

「つまり……狼の姿をした何か。ということですかね?」

「多分……。今はもう『気』が隠れてしまっているから分からないけど、その可能性は高いな」


 アスカさんも自分の発言にどこか自信がないような反応だ。それくらい初めてであり想定外の存在に出くわしたということなのだろう。


 まあ、今更なにがあってももう驚きはしませんがね。コイツ特異すぎるし。


「ここまで高度なことするモンスターもいるもんですね。――でもあれでしょ? 本体がいるならそいつを引きずり出して叩けばいいってことですよね」

「そうなるね。きっとあの中にいるんだ。本物が……!」


 なら、やることは何も変わらない。


「面倒な……。ここまで高度に姿形を変えられるなんてスライムの最上種みたいな真似しやがるなぁ。これはもう明らかな特異個体……討伐対象だ。確実にここで仕留めないとマズいか」


 想像するだけでコイツが今後及ぼす被害は計り知れない。

 魔力を喰う――それだけでも危険だ。何せ世の中の大半のものに魔力は宿っているのだ。『気』と同様に。

 それを食い散らかし糧としてしまう存在は人だけでなく、どの種の天敵にも成り得るはずだ。いや、世界そのものからしても天敵かもしれない。


 それにこの見せつけている巨体が何よりも恐ろしい。本体が実際どれ程の大きさなのかはともかく、ここまで質量を変えることができるのも非常に危険だ。

 仮初の狼の姿であの機動力を発揮でき、真似をした元の形に対する再現性も極めて高い水準と考える他ない。察するに知能も相当なものだろう。


「おい、這い出て来たぞ……!」

「魔力を喰い尽くしたか……。毒は……大して効果なさそうだな」

「……ウ゛ゥ゛ゥゥ……!」


 低い威嚇の声と共に、乾いていく泥をぶちまけながら巨狼が牙を覗かせる。

 恐らく毒は効いていないのだろう。微生物による毒と言えど、魔力によって活性化させて発生させたものだ。微生物ごと食らい尽くされてしまった可能性があった。


 好き嫌いのない悪食とは更にタチの悪いこって……。


「アスカさん。さっき別の『気』を感じたのってどの辺になります?」

「さっき僕が斬りつけた胸の更に奥……丁度心臓がありそうな辺りかな。身体の中心部分だよ」


 巨狼の評価はさておき。俺はアスカさんに聞いておくべき情報をまずは確認する。

 指を指して示唆してみると、これについては大体は予想通りの答えが返ってきた。


「了解です。一応やることは変わらないです。俺が攻撃は防ぐんでアスカさんは引き続き思う存分暴れちゃってください」

「暴れるって……。いや、まあ善処するよ」


 アスカさんの剣技は決して暴れるという表現が似合うものではないだろう。適当と思って言ってみたものの苦笑されてしまった。


 どちらかと言えば暴れているのは俺の方が正しいか。地形まで変えまくってやりたい放題やってるし。


「ただ、俺は攻撃するだけで多分少なからず魔力を吸収されちゃうんで、そこでちょっとできるか聞きたいんですけど――」


 自分の発言に反省しつつ、ふと先程の光景を見て考えた案を俺はアスカさんへと伝える。

 もしそれが当たり前のようにできるなら、今の俺達にしかできない面白い戦い方ができるはずだと思って。

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