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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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499話 時の狭間で

 

 ◇◇◇




 また、白い空間を俺は漂っていた。

 悠久と思えるような長く果てしない時間感覚、その錯覚が全身を支配する。

 一瞬と思えば緩やかに引き延ばされ、時間の概念が崩壊した世界……ここはそのような空間なのだと。


 俺は直感的にだが、何故かそれを悟り……そして知っていた。


『や、元気してる? 随分久しぶりになっちゃったね』


 不意に誰かの声が聞こえる。

 声色から分かる明るい声は無邪気な顔を浮かべていると思わせる。元気のある少女という印象か。


 その声を聞いた瞬間、身体の奥底が疼くように反応した気がした。


『私の方は超元気かな。なんたって君にようやく声が届いたからね!』


 その誰かの語りは俺の中に一瞬にして流れ込む。

 聞くというよりも、受け取るというもののような感覚に近いだろうか。受け答えをせずとも話を真に理解でき、一方的に与えられるのみだった。


『随分愉しそうなことしてるみたいじゃない。これは忠臣の彼の影響なのかな……命のやり取りじゃない戦いは君的には良い運動みたいに思ってたり?』


 忠臣……?


『あーごめんごめん、封じられてるから分かんないよね。それは今別にいいかぁ。……さて、君も大変だよね。記憶がないのにそれでも前に進もうとして……。記憶を失う前もそう。何度死に掛けても挫けず、死ぬことよりも遥かに怖いことをずっと恐れている』


『やっぱり……その部分は変わらないんだね』


 少女はどんどん声に明るさが消え、声量もか細くなっていく。

 その暗さがどうしようもなく似合わないと俺が感じていると、まるでこの気持ちを払拭する勢いで声に明るさが再び灯り、続けるのだった。


『まず最初に言っておくね。君はこの一瞬をすぐに忘れることになる。けどね? それでいいし、何も問題なんてない』


『例え記憶を封じられても、この邂逅そのものがなくなるわけじゃない。思い出せず誰も知らなかったとしても、世界にはちゃんと刻みこまれるしきちんと蓄積されてるから』


『少し順序はズレるけど、今回の(・・・)私と君の邂逅はココに置き換えさせてもらうね。悪いけど勝手にそう判断させてもらう』


 明るいが、その中にとびきり強い意思を感じる。

 言葉に乗った意思が熱気となり、俺の中に直に伝わってくるようだった。


 そうだ……これは束の間の邂逅だ。それも一時的な。


『私にとってもさ、この軸が唯一の頼みの綱なんだ。……もう二度目はない。だからちょっと無理してでも介入させてもらっちゃったんだ。君の構想と少し違う流れになっちゃったらごめんね?』


 一見、言葉の節からは罪悪感を感じているように聞こえてくるが俺には分かる。

 多分、これは悪びれている様子ではないと。むしろ舌を出して茶化している。そんな光景が目に浮かぶ。

 所謂テヘペロというやつだ。しかし、想い浮かんだそのあどけない顔がその仕草とよくマッチしており、その姿を見ると反感の意思も湧かなかった。


『君には必ずある程度同じ時を歩んでもらう。これは絶対。その上で、あの時とは違う状態へと君を昇華させないといけない。そのためにはリスクを承知で実行する必要があるからこれくらいは許して欲しいな。だって君の注文難しいんだもん』


 少女の当然とも言いたげな文句に思わず苦笑してしまった。

 ――そりゃそうだろう、と。

 我ながら自分の注文は無理を言っていたように思う。


『全ては変えずに、君だけを変える。――なら、未来を変えるならまずはここからだ。君はここで変わらないといけない……私はそう判断するよ』


 相槌を打つように俺は頷く。

 いつの間にかこの邂逅の理由を自然と理解していたようだ。

 知らなくとも俺は知っているのだ。この時間を(・・・・・)


『以前の君は彼からしっかり教わらなかったのがもったいなかった。なんせ彼は最も才ある者の一人としてこの星に記録された唯一無二の存在。その彼から『気』を教わる以上の経験はない』


 ああ、俺もそう思う。


『――学び培い、そしていずれ戻った暁に、その才を遥か先まで受け継いで生まれたあの娘へ繋ぐんだ。君は引き継ぐことになる誓約の影響には決して逆らえない。それを考えれば今後に必ず響くはずだよ』


 ……そうだな。

 きっとその時の俺はもう、かなり制限を食らってるだろうからな。

 時間を遡った代償はデカい。誓約を課せられるのは免れないだろう。


『あの娘に宿った魂を芽吹かせられるのは君だけ。私は過去と未来の橋渡しをしてもらった方がソラリスとの勝率は上がると考えてる。それが理由ってことで今回は勘弁して』


 ……アンタがそう考えたんなら、俺も異論はない。

 そもそも俺とアンタじゃ見ている世界観が違うんだ。結果を優先してくれたまでの話ってだけだろうに。


『よし、なら決まりね! それじゃ本題に戻ろっか!』


 おう。アドバイス頼む。


『『気』への耐性ならあらゆるものを否定できちゃうポポ君の力が有効だけど、感受性に関してはナナちゃんは天才的な才能を持ってる。あの子の力を使って感覚を掴むのが手っ取り早いよ』


 確かに……。

 アイツ最初っから魔力も勘でマスターしてたしな。『気』も例外じゃないのか。


『うん。彼は今君の『気』を理解して自分も同質のものにすることで自身を強化している状態だ。だったらどんなものなのかその目で確かめてみるといい。ナナちゃんの力を取り込めばそれが分かるはずだよ』


 なるほど。……だが貴重な力をここで浪費していいものなのか? 

 ナナの力はポポと同様唯一無二だ。今後は否定と合わせて頼る機会にも出くわすと思うんだが……。


 有限で限りのある力。それをホイホイと使うわけにもいかない。

 然るべき場所で成すために、必要とする人のために使うのが有用な気がしなくもない。


『ほらぁ、またそうやって保守に走ろうとするんだから……』


 と、俺がそう思っていると、窘めるような口調で少女は盛大な溜息を吐くのだった。


『気づく機会がなさすぎたから知らないんだろうけど、君の力もちゃんと成長してるんだよ? 一回目はポポちゃん達の力を使い潰して失ったみたいだけど、その経験は君に蓄積されている。二回目もそうなっちゃうって思い込んでるでしょ? だから使うのを渋ってるんだ。なくなるのが怖いから』


 図星だった。

 俺は自分に残ったこの力を使うのが勿体なかったんじゃない。なくなって欲しくなかったのだ。

 あの二匹が培ったものがあっさりと消えて無になってしまう。それが二匹を軽視しているようで、嫌で……。


『……違う?』


 まぁ……そりゃな。

 そういうものだって思い込んでたけど……違うのか?


『違いまーす、ぶっぶぅ~』


『間違った認識の君に朗報でーす。君の【従魔師】の力はこの世にありふれたものとは似て非なるもので別物なの。だって君達仕様の固有の能力を最初からあげたんだから』


 え、何それ。初耳なんスけど。


『知る機会なかっただろうからね。使い潰すも残すも君次第、もっと言えば、元に戻すのも可能な特別仕様。流石に元以上の力は戻せないけどね。それはまた別物』


 なんだそれ……。今までの心配はなんだったんだ。


『知る機会がなければ仕方のないことだよ。君は知る機会を逃すくらいに君事体が強くなってしまったから……。正直これは誤算だったんだよねぇ』


 ここで俺の抱えていた懸念は思いもよらない形で覆される。

 地力がついてしまっていた分、ここまで判明が遅くなったのは結局は自分が原因だったというオチだ。恥ずかしい。


 じゃあ俺が奪ったこの力は……!


『使い潰さない限りなくならないよ。ずっと君に残り続ける。時間をかければ回復するし、どんどん君に馴染んでいく。……そう、『同調』していけるんだ』


 そう、だったのか……。


『……君は今まで自分の本当の力を殆ど使ってないんだよ。だから宝の持ち腐れは良くない。この星に最後に蓄積された唯一無二の才、それが無駄になってしまう』


 俺が……? 


『説明するには長くなるし、どうせいずれ分かるから説明は省くよ。まぁ使い切ったとしても決して君から皆いなくなんてならないから。安心してその力をもっとその身に染みつかせなよ』


『そうすれば、暴走なんてしなくなる。完全な『同調』を……いずれは『融合(・・)』を果たせる。ちゃんとその力は君の中で成長を続けてくれる』


 ……。


『――そーだよご主人。なに寂しいからって遠慮しちゃってんのさ? 最初修業してた時みたいに滅茶苦茶やっちゃいなって』


 っ!? その声……!?


 この場であっても俺の理解し得ない内容に頭を熱くさせていると、そこにすり替わる様に頭に電流の如き衝撃が走った。

 久しぶりに聞く声色は記憶と変わらない。かけがえのない相棒の片割れの方であった。


『くっは~! やっと届いたぁ~……! 今までずぅ~っとご主人に声掛けてたんだからね?』


 ナナ……! お前なのか……!


『うん、私私。あ、なんかこれだと詐欺っぽいね? ちゃんとご主人の大好きなナナちゃんで合ってるからね?』


 おっとりと冗談をかましながら声を掛けるナナの言葉が身に染みていく。


 間違うわけないだろ……。ずっと一緒にいたんだからな。


『うん、私もずっと一緒にいたよ。だからさ、そろそろ私の方の力も使ってくれないと不公平だと思いまーす。だって最近ポポの力ばっかりで私影薄くない? 私使ってた方がもっと楽な場面いっぱいあったんだよ?』


 そ、そうか……? 


『海渡ってる時もだし、この前のセルベルティアの脱走だって苦労しなかったよ』


 それは、そうだな……ハイ。


『『英雄』のあのなんちゃらフォース? あれとか私の力使えばいつでも魔法使えたでしょ。あんなちんけな魔力封じ私にかかれば意味ないのに』


 ……なんかすんません。結構やらかしててごめんなさい。


『――ええ。私の力はナナ程の器用さはありませんからね。随分とゴリ押しが目立ってましたよ?』


 っ、その声、ポポか……?


『ご無沙汰してますご主人。お変わりないとは思いませんが、元気そうで安心しました』


 お前の方も変わってないみたいで安心したよ。

 この紳士なイケボ。相変わらずか。


 次なる片割れの声には先のナナの衝撃もあり、若干驚きは薄かった。元々ポポの力を率先して使っていた分、その存在を感じていた影響は否めない。

 それでも、ナナと同じくらい声を交わせることに喜びがあった。


『ナナと一緒で語りたいことは山ほどありますが、もう残り間もないので手短に。リエルさんから大体聞いたのでご主人の経緯は把握しています。ですからこちらはなんとか落ち着いていますよ。身体の方は制御を失ってますけど理性は保てているかと。……不服はありますが、現状も受け入れてはいます』


 ポポが伝えてくれているのはこちらに来る前の状況報告だろう。

 元の時間では厄介なことになっているようだ。それもこれも、全部俺が招いたのだから露払いはするつもりだ。


『そーだよ。私怒り狂って大変だったんだからね! ポポが止めてくれなかったらまだ暴れまわってたんだから!』

『ホント大変でしたよ。声すら中々届かなかったんですから……』


 迷惑掛けてスマン……。


 ポポとナナの反応に純粋な謝罪の気持ちが湧いていく。

 誰にも知られず、あんな無茶な真似を決行したのだ。残されたコイツらがどう思うかなんて分かり切っていたことである。


 犯した罪は重大だな。

 もう戻れないし、やり直せない。

 全てを背負うって誓ったんだから。




『――それでいい。その覚悟があるから、君は今ココまで来れた』


 そうか……思い出した。

 アンタ、いや……貴女の名前は……。


『名残惜しいだろうけど時間が来たみたい。もうこの空間を閉じるよ』


 ポポとナナとの会話に割って入り、リエルと呼ばれる少女が告げる。


 次はこんな形じゃなく、現実で認識できるといいな。

 今の俺にそれができるか分からんが……それでも……。


『その気持ちだけで嬉しい。期待しないで待ってるね。一緒に居ても認識されないのって結構辛いから……。――けど、ずっと待ってる』


 ああ、待ってろ。

 だって貴女は――。


『あ、閉じる……! そいじゃ頑張れご主人。私なら力になれる、断言する!』

『私達にできることはご主人にもできるはずです。だってそれが――』




 ◇◇◇




「――俺の力だ……!」


 世界が暗転し、現実に引き戻される。

 まるで何もなかったように時の流れの感覚が戻っていた。目を瞑っていても分かる。

 今、俺は違和感なくこの時間に適応していると。


「……? なんだ、急に『気』の流れが変わった……?」

「――アスカさん。急にこんなこと言うのも変なんですけど、俺の『気』……今見えますか? いや、感じられますか?」


 目の前から感じるアスカさんの存在を捉えながら俺は聞いた。

 それからゆっくりと瞼を開け、新たな瞳にその世界を映す。


「なっ、どうしたんだその目……!? あの時は金色だったのに……今度は銀色……!?」


 一瞬脳裏で何かあったような気がするが、この力を使うことに不思議と抵抗はなかった。

 むしろ使わなければ駄目だという使命感すらあり、その機会がいまここなのだという確信が持てている自分がいる。


 俺の中に宿っていたもう一つの力。この力を例えるなら……それは肯定の力だ。




「ああ……久々の感覚だ。今ならなんでも自由にできそうだ……!」



7/21追記

次回更新は割と早いかもです。

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