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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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496話 VSアスカ①

 




「「ッ……!」」


 俺とアスカさんの剣が交わり、火花が散る。反発した刃が仰け反り合い、その刹那アスカさんと目が合うと、俺と似たような印象の目をしていた。


 やっぱりだ。とんでもねぇ人だよ、本当に……!

 太刀筋が丸っきり別人じゃないか。


「シッ!」

「……!」


 お互いにすぐに態勢を整えると剣戟の応酬が始まった。

 一歩も譲らずに斬っては受け止め、受け流しては反撃し、その回避を繰り返す。小手調べとしては激しい展開に身体が温まり始め、すぐに本格的な戦いに向けて準備が進められていくのが分かる。


 最初の手応えから感じるのは、やはりアスカさんは前回手を抜いていたということだった。

 それは向こうも同じなのだろうが、一つ一つの所作から生じる攻撃には明らかな威力と鋭さの違いを感じ、アスカさんの凄さを俺は再認識させられる。


「涼しい顔をしているね……! やっぱり余裕かい?」

「何言ってんですか。余裕だったらそもそも相手にすらしてませんよ……!」


 得物の刃が擦れあう鍔迫り合いの中でアスカさんの問いに俺も返す。

 恐らくこの無駄に頑丈な俺の身体であっても、アスカさんの一撃を無防備で食らえば傷を負うだろう。それだけのキレがあるのは確定的だ。

 そんな相手とこれまで殆ど出くわしてこなかったことを考えればこの人は格が違うとしか言えない。歯牙にもかけないというのは無理がある。




 ――だが、どう足掻いてもアスカさんでは俺に勝つことはできない……とも思っていた。

 完全な不意打ちで急所に全力の一撃でももらわない限り、正直な話負けの目はない。

 やはり直近の強敵と比べてしまうと見劣りしてしまうし、身体の奥底から来るあの命の危機に伴う警鐘はどうにも鳴りそうにはないのだ。

 その感覚だけが、俺とアスカさんの差の全てを語っている。


 ただ、今は勝ち負けなどはどうでもいい。この立ち合いの目的はそこじゃない。


「『獅子喰らい』!」

「っ!?」


 防戦一方でもいいがそれではアスカさんの本領は発揮されない。冥華はまだ理解に疎いが、絶華の神髄は攻撃に対する反撃にある。本来は自ら攻めに行くような流派ではないのだ。

 俺がこの立ち合いで最も意識するのはアスカさんの全力を限界まで引き上げること。それが俺の『気』の正体の判明に繋がるし、アスカさんから今後受ける指導にも影響する。

 ただぶつかり合うだけなのはNGだ。


 こちらも攻撃を仕掛けることで反撃を誘発すべく、次は俺も攻めへと転じていく。

 アスカさん相手なら俺も常人には使わないような色々な手段を使えるだろうし、戦い方を追求するにはもってこいの相手だ。利用させてもらわない手はない。


「くっ!?」


 俺の出方に大方予想がつかなかったのか、目を見張るような反応をアスカさんが示す。


 自分から近づいたならまだしも、接近されたなら一度仕切り直すべく引き剥がすしかない。俺の身体から生やし出現させた四つの牙を目の前のアスカさん目掛けてそのまま放ると、即座に跳躍でアスカさんが後退する。


 判断が早い……! 『獅子喰らい』は一度食らいついたら中々ひっぺ返せないからな。

 だがまだ終わらせない!


「そら!」


 アスカさんが着地して足腰に力を入れるよりも前の瞬間を見計らい、指を弾いて同時に四属性のランス系統を同時に発動する。

 四色の各属性の魔力がそれぞれ形を成して槍に変わると、槍に包囲されたアスカさんの視線が一瞬の間に目まぐるしく動くのが分かった。


 さあ、どう捌く……?


「――まずは一発!」


 状況判断に費やして硬直した隙は絶好の好機。視線の移動は必要だが気にしなければいけない振る舞いの一つだ。この一瞬に命を落とした強者はさぞ多いことだろう。


 最初に選んだ『ファイアランス』をアスカさんへと差し向けると――。


「ふっ!」


 目線を外して視界外にあったにも関わらず、見えずとも把握していたのかアスカさんが振り向きざまに刀を振り上げてランスを両断する。


 まるで背中に目でもあるみたいだな。これも『気』による把握力なんだろう。

 だけど綺麗に槍の正中線をぶった斬るのを普通にやってのけんのは狂ってるのでは? 一太刀の精度高すぎんだろ。


「咲け! 『百華繚乱』!」


 一発程度で効果がないと分かり、そこへ畳み掛けるように残りの三つのランスを放つと、斬り上げた勢いを利用しそのままアスカさんは身体を回転させる。そのまま周囲に斬撃の嵐を巻き起こすと、突風が地面を削りながら駆けて砂塵を巻き上げた。

 離れているため攻撃自体は俺に届かないが、周囲のランス達は無事では済まされず、何度も両断されては霧散していく。


 これがアスカさんの剣技か。

【剣術】の『螺旋』みたいとか思ったけど全然違うのな。『螺旋』は自分の周囲を一度斬りつけるだけだし。

 ここまでのものだと最早絶技と言われた方がしっくりくるんですが。


「咲き魅せ踊れ――!」

「うん?」

「『秘技・絶華繚乱』!」


 早速アスカさんの技に興味を持ったところで、アスカさんの動きがまだ続いていることに気が付く。その時には既にアスカさんの技が放たれ、一つの斬撃が俺に向かって放たれていた後であった。


 攻撃を弾くために剣を構えた俺だが――。


「っ!? は、はいっ!? どういう原理だよ!?」


 接触まで残り僅か……。しかし、いざ断ち斬ろうとしたところで複数に分裂され、その突拍子のなさには思わずツッコミを入れてしまった。

 取りあえず自分の身体に矛先を向けた斬撃のみをまとめて斬り払い、残った分を左手で弾いて事なきを得たが、頭の中では不可解な光景に考えが集中していた。


 か、カッケー……!? てか何今の技!? これが達人の技ってやつか!? 威力もエグイな。

 確かに魔力も感じないし軌道もあり得へん動きしてるし、こりゃロアノーツさんも呆気に取られただろうな。同情するわホンマに。

 ビックリしたぁ~。


「当然防ぐか……! でも、まだまだ……!」

「飛ばしますねぇ! 体力の管理は計画的に頼みます、よ!」


 俺には大した攻撃など通じないと踏んでいるのか、畳み掛けることで何か攻略の糸口を探っているのかもしれない。

 一転攻勢に出てこようとするアスカさんを追い払うべく、俺は魔力を練りながら地面を踏み砕く。


 開けた場所では結構お気に入りの魔法だったりする。大雑把で楽にぶっ放せるのがポイントだ。


「『タイタニックロア』!」

「な、地面を……!?」


 足裏を伝い、加えられた力によって激震が生まれ、足元が陥没して地面が捲れ上がった。砕けた地面の破片が飛び散り、アスカさんの直進する勢いが限りなく抑えられる。

 すると、揺れて荒ぶる地面に堪らなくなったアスカさんが反射的に空へと跳んだ――。


「その回避、待ってましたぁ! 『エアブロック』――!」

「っ!?」


 空中に逃げるしかなくなりゃその後はまともに動けない。大体の奴がそうだ。


 大きな動きもなく俺の動きを追い続けるアスカさんに構わず、俺は空中に足場を作り左右に飛び回りながら動いて揺さぶりを掛けつつ接近する。

 そしてアスカさんとの距離が迫ってきた直前で正面に軌道を急転換させ最接近。不意を突いた所へ勢いの付いた右手の剣をアスカさんへと俺は振るった。


「『絶華・紅葉――!?」

「ふんっ!」

「くぅっ!?」


 一瞬何かを放とうとしていたようだが、言い切らせるよりも前に俺の剣が甲高い音と共に押し切って黙らせる。

 だが刃は依然届かない。刃を隔てて健在を繋ぐアスカさんは防御に全集中しており、未だに怪我等はしていないようだった。


「流石の反応ですね! こう強いと俺ももう少し本気を出したくなりそうです……!」

「っ……!?」


 息を止めて力を振り絞るアスカさんは答える余裕はなさそうであり、代わりに俺の声には目で訴えかけしっかりと反応を示している様子だった。




 ――うん。もう少しくらいなら上げても良さそうだ。




 空中で踏ん張りも利かず、俺が一方的にぶつける圧力は防ぎようがない。

 それでもアスカさんならば問題ないと判断し、俺は力任せに剣を振り抜いてアスカさんを後方へと投げ出した後、更なる追撃を迫る。


 追い詰めろ……! アスカさんにまだ上の段階があることは知っている。

 それを引き出すためにも、引きたてつつ責め立てるんだ!


「『衝破弾』!」

「ッ――くあっ!?」



 左拳に空気を固めて作り上げた衝撃弾を後追いでアスカさんに向けて放つ。

 威力こそ低いが速度に優れた『衝破弾』は見切るのが困難である。空気を魔力で固めただけであるために大した色もなく、それ故に早ければ早い程に目視が難しくなるためだ。


 そうした考えが念頭にあった手前、大盾のような全身を守れる装備でないと対処が難しいと思ったのだが、そこはやはりアスカさんというべきか。

 目まぐるしい状態に晒されながらも弾道を見切っており、刀で受け流すことで直撃を回避したようだ。刀を空気が叩く音を立て、『衝破弾』は上空へと軌道を変え行方を眩ませる。


「……なんてデタラメな力の使い方だ……! こんなの対策の仕様がないな……!」


 受け身を取って落下の勢いを削いで着地するとアスカさんは汗を垂らしながら苦笑いし、上空の俺を見上げた。


「既知の魔法の――いや術式か。その多才さでなら負けるつもりはありません。超級も取得している今、使えない術式は俺にはないので」

「アイズさんも術式は相当な練度だったけど、こっちは武術もそれ以上か……。ロアノーツさんが可愛く見えるなぁ全く! 事前に立ち合いしといて良かった……! 改めてフリード君がとんでもないのが理解できる」


 苦笑いが次第に笑いに変わり、疲れを感じさせぬ雰囲気をアスカさんが醸し出す。

 実際のところは疲れはあるのだろうが、これは前向きに捉えて良いのだろう。アスカさんがやる気に満ち溢れているのだと。


「どうします? 続けますか?」

「続けさせてくれ。まだ僕は出しきれてない。せめて出しきってから終わらせてくれ……!」

「……そうこなくちゃ!」


 差は歴然だ。俺の思惑はともかく、アスカさんの意思確認をしてみたが良い返事が返って来るだけだった。


 俺もアスカさん相手なら普段ならできないような真似に出られるのが貴重だし、なんだか楽しかった。誰かと切磋琢磨するこの時間を非常に懐かしいように感じられ、気分がどんどんと高揚していくのが自分でも変化として認識できる程に。


『気』とかどうでもよくなりそうで困りそうだわ。

 戦いは嫌いなはずだけど、訓練とかは結構好きだったのかな? 俺って。


 遅れて地面に降り立ちながら、ふと真っ新な記憶の名残りが見えたように思えた。


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