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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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490話 かの存在

 


「――しかしだ。其方らと違い、私は……軍に籍を置き集団を率いる側だ。集団組織を前に個人は圧殺され、自由ある行動は出来ぬ。そのことについて……理解はしているのか?」

「……」


 当然だ。あくまでもこれは個人としての理解。それは組織や世が抱く理解とは全くの別物だ。

 立場一つで同意、擁護できるはずの理解は受け入れてすらもらえず、それも軍の中という条件では厳しいものがある。ロアノーツさんがそのような状況にあるのは俺も理解しているつもりだ。


「敵に情けを与えていいのか……? そんな甘い考えがいずれ、命取りとなるぞ。信用や信頼とは別に、不幸とはどこからともなく降りかかるものだ……。これは予測もできず、避けることも叶わぬ」


 ロアノーツさんが目を細め、咎めるように俺を見る。

 一瞬たじろぎそうな鋭い目つきは何も考えていなければ萎縮していただろう。


 だからこれは、彼からの俺に対しての忠告なのだろうと受け取るべきだ。甘さを捨て、非情になれと。他には呆れも感じていたのかもしれない。

 ロアノーツさんは自分の状況を省みず、俺達の都合が良いことを敢えて言ってくれているのだ。


「避けられない不幸なら振り払う。振り払えないなら立ち向かう。……この娘を守ると決めた日からそう決めてある」

「ッ……!」

「今のこの世の在り方が不幸そのものなんだ。その見えている不幸の前に、貴方達が率いてやってくる不幸の軍勢なんて相手じゃない」


 その気遣いに感謝し、相応の答えを俺も出す。

 同じく目を細め、既に向けられていた視線を押し返して主張を塗り替えて。


 ロアノーツさんが身を省みないなら、俺もその土俵に乗って対等に伝えよう。




 俺がこの世界において、どういう奴なのかを――!




「そっちこそ分かってるんですか? 俺らに手を出したらどうなるのか……!」

「「「「っ!?」」」」


 魔力と否定の力。この抑えていた二つの力を少しだけ解放する。勿論【隠密】の効果はそのままに。

 滲み出す魔力が周囲を歪ませ、俺の身体を覆うように透き通る金色の光が羽を連れて共に出現する。


 こんな間近で【隠密】を発動させてなかったら、アスカさんはともかく他の三人は感じる圧に耐えられるかすら分からない。

 神気という極まった力に対して真っ向からぶつかれる程なのだ。手負いや衰弱している人、そして未熟な子どもがコレに当たるには少々厳しいものがある。


 全員が驚いた挙動で俺に注目したのを確認し、俺はそのままの状態を維持して続ける。


「こんなボロボロじゃ説得力なんてものはないって思われるのは仕方ない。だけど、それでも手負いの俺とあんたら軍でそもそも戦いになるとでも?」

「……!?」


 ロアノーツさんへと問いかけすると、呼吸も忘れて魅入っているのが分かる。

 少なくとも俺の言葉をしっかり聞いているのは確かで、重く受け止めているのだということは伝わってくる。


「ただの弱い者イジメにしかならないんですよ。こっちは後世に語り継がれてきた神獣よりも遥かに強いお墨付きをもらってる身だ。――さっき『英雄』と戦り合って十分分かった。あの程度の人なら幾らでも瞬殺できるし、相手にもならない。あの程度の強さで軍上位なら力の底は知れたも同然……。どっちかっていうと軍で恐れるべきは質じゃなく数だし、その数相手にもそれなりにやりようはある」


 俺は更に力を捻出し、右腕に炎を纏わせ渦の様に巻きつける。

 しなやかに動く炎は意思を持つかのように柔軟に回転し、まるで生き物が踊っているかのようである。


「ほ、炎……?」


 セシリィが俺の右腕を疑問に見ながら呟く。

 恐らく何なのかを連想はすることはできても、このような色をした炎とは無縁だからだろうか。確証のないまま、セシリィはこの炎を炎だと(・・・・・・)言い当てた。


「そうだ。ちょいと変わった色はしてるけどな」


 セシリィに正解を伝えつつ、目に映える色合いの炎を俺は腕に走らせる。


 というのも、俺が出した炎は世間一般の知る赤色ではなく黄緑色だったのだ。

 勿論これは只の炎ではなく、触れれば燃え盛る間もなく一瞬で焼き消える程の高温を秘めている特別性であり、【隠密】がなければ付近の草原など瞬時に熱気に晒され干からびてしまうのが目に浮かぶ程、一般の炎とはかけ離れたものである。


「魔力がもうあまりないから超級魔法も使えないし、最高位のスキルもポンポン使える状態じゃない。けどさ、それでもあの化物以外相手になら手段はいくらでもあるんですわ。この炎が一度俺の制御を離れたら……どうなると思います?」

「……」


 俺は右腕をロアノーツさんに向けながら言った。

 俺のこの行動が意味するものが何なのかは、俺が皆まで言うまでもないことである。


 多勢に無勢と言うなら、対処はこの炎を解き放ち、『黄金(こがね)』による焼き払いが手っ取り早い。実行すればこの街の生物全てを灰にすることくらいは可能だし、一瞬で焼け野原が出来上がる。……まぁ絶対やらんけど。

 もしくは、この炎を収束させて放つ『灼熱砲(イグニヴァルカン)』による照射などもある。着弾すれば爆風と衝撃波による破壊でそこにある全てを失くすことは造作もないことであるし、ここら一帯を一瞬で盆地に早変わりさせられる。……まぁ絶対やれんけど。


 何故こんな技を使えてしまえるのかは不明だが、このように魔力以外でも放てる技を俺は身に着けている。

 どれも予備動作はあるものの俺の防御能力を以てすれば邪魔されたところで問題はないも同然である。


 俺とそれ以外とじゃ埋めようのない差があるわけだからな。それは超人の域にあるアスカさんとロアノーツさんとて例外じゃない。

 あの化物以外に、俺は殺せないし殺されない。


「俺のことが視えたなら分かるはずです。……手を出したら返り討ちで済むと思わないことだ。今貴方の目の前にいるのは、一人で世界を敵に回せる存在だ」

「……ああ……」

「――理解してもらえて助かりますよ」


 これでいい。

 この人がどんな未来を視たのかは知らないが、ストレートに見てもらった方が早い。


 ロアノーツさんが恐れる様に一拍置いた後ゆっくり頷いたのが分かり、満足した俺は炎を右腕から消し去った。それと同時に身体の痛みがほぼ引いた気がしたので、完全に否定の力を抑えて本来のありのままの状態へと戻す。


 判断を誤る人じゃないのは分かっているし、そんな馬鹿な真似に出るなんて俺も思ってもいないことではあるのだけども、要は念押しだ。

 俺にそのつもりがなくても、多少誇張でも何でもいい。俺がそれくらい造作もない力を持っているのが伝わればそれだけで抑止力になる。

 既に俺らのことについては理解されているつもりだからこそ、これがよりこの人の理解に……それが或いは今後俺らの正体が露見した時の軍の追手の抑止へと繋がるはずだ。


 手を出せば間違いなく歯が立たない。そんな相手にわざわざ手を出すのは得策でもなく、ただの無謀だ。そう思わせて放置してくれるのがベストと言える。


 アイズさんの計らいで今回折角変装を施してみたはいいけど、『英雄』と戦っている最中に仮面を壊されたりしちまってるからな……。

 戦いに巻き込まれて兵士の人達がいくらパニックになっていたとはいえ、顔が誰かに見られてしまっている可能性は十二分にある。『英雄』も意識が残されていたらがっつり俺の顔を記憶してしまったはずだ。顔バレは避けられないだろう。


 この先のことを考えてみると、幸先は予想していた結果よりも明るくはない。

 最低限為すべきことはこなした上で収穫より支出の方が勝ってしまった感の方が強く、自分の行動に対する後悔もあった。


 でもまぁ、ここで打ちひしがれるよりも今回得た糧を今後にどう生かすかを気にしないとな。

 だって俺らの旅の目的は必ずしも軍を相手にすることではないのだから。


「ん? でもフリード君。さっきも気になってたんだけど、君は『英雄』を相手にしてきたんじゃないのか?」


 と、ここでアスカさんの横やりが入る。

 恐らく戻っていると思われた俺の目の色の変化に何かしら気付いた様子だったが、特に言及してくることもなく別の興味を優先して切り出すのだった。


 ……うん。疑問は当然だわな。

 ですのでこちらにもお答えしていきましょうぞ。後回しにしようと思ってたけど言っておかないと説明にならなさそうだし。


「戦った相手は『英雄』ではありましたけど、正確には『英雄』自身じゃなかった。もっと次元の違う化物に身体を乗っ取られてたって言えばいいですかね……」

「乗っ取られてた……? どういうことだいそれは……?」


 アスカさんが眉を曲げ、意味の分からないような顔をしていたのでその補足をしておく。


『英雄』を相手にしてきた奴が、何故かボロボロにされてきた上であろうことか自信満々にそれでも相手にならないと豪語してやがるのだ。

 俺がアスカさんの立場だったら「何言ってんだコイツ、クソワロ乙」とでも思っていただろう。実際、今俺はアスカさんについに馬鹿が極まったのかと言われても文句の一つも言えない自信がある。

 理由? それは俺が本当に馬鹿だからです。以上。


 とまぁ、言ってて悲しくなる真実の自虐は程々に……。

 今の口振りでは俺の虚勢にしか思われなくて当然である。が、実際のところ俺の主張は一切間違ってなどいない。


 この俺の主張に信憑性を持たせるためにも、あの化物について裏を取っておく必要がある。




 あの化物の存在を、果たして連合軍側の人達は知っているのか? ということを。


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