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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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488話 力の欠点

 

 あー既にもう申し訳なさで一杯ですごめんなさいごめんなさい。

 しこたま心配させちゃってほんっとーに申し訳ない! 自分がゴミ糞ナメクジでほんっとーに不甲斐ないと思っております!

 あれだけ心配は要らない(キリッ)とかほざいてこの体たらくは弁解の余地もないというか現実を舐め過ぎと言うか俺の慢心が招いた結果です面目ない。

 これで頑張ったんですとかマジで言い訳にしかなりませんよね分かってるんですよその点につきましては。それはもう宇宙の創生レベル、この世の心理と悟りの境地に至る勢いで理解しております。このスカスカの脳みそでも分かるくらい簡単なことでございました。

 ああセシリィさん、否セシリィ様。この度は私のような下賤者めが出しゃばったせいで貴女様に心休まる一時すら与えられていないという事実を痛感致しました。重ね重ね誠心誠意謝罪させていただきとうございます。

 ただしどうかこれだけは信じて頂きたいのです。今も貴女様の前に立つことが断腸の思いですらあるということだけは……!


 頭の中で土下座し、セシリィの前で何度も平たくなる自分を繰り返す。

 実際これまでの自分の言動を顧みると頭が上がらなくなって当然だった。


「セシリィも問題なかったか? 翼出してるってことはもしかしてアスカさん達の怪我を診ててくれたのか……。いや、それともどこか怪我してたり? それならすぐ治すから言ってくれよ?」


 だというのに……。

 馬鹿か俺は!? 何を流暢にんな呑気なこと言ってんだ!? 違わないけど違うでしょーが!

 それセシリィの求めてる第一声の言葉違うがな。丸っきり立場逆側の台詞ですって。


「お、お兄ちゃんの方が大変でしょ!? まだ血だって……! 早く手当てしないと!?」


 ホレ見ろー俺。なんでこういう時思ってることと違うこと言っちゃうかなぁ……!

 それが俺クオリティと言えばそれまでだけども、そんなの俺しか求めてねーっつの! 


 セシリィが糾弾するように俺に詰め寄り、困惑した顔が近くなる。

 出来ればこんな血生臭い傷を間近で見て欲しくはないが、心優しいセシリィには放っておけないことだということは分かっているので無理な話である。


 だからこそ敢えてもう一度言おう。俺のばかん。


「こんな怪我してきたのは謝る。本当にごめん。でも平気だから」

「平気なわけない! 待ってて、すぐ法術で――!」

「セシリィ、止しなって」


 自分を律しつつ、セシリィが翼を広げ、淡い光を帯びて向けてくる手を俺は首を振りながらサッと制す。

 無駄とも言える行為をさせるわけにはいかなかったからだ。

 実際、完全に平気というわけではないが問題がないことは本当だ。いつもセシリィには心配させまいと嘘をつくこともあるし、セシリィもそんな俺の嘘には気が付いていたと思う。その積み重なった前科があるため信じてもらうのは難しいのかもしれないが、これは本当のことだった。


「なんで止めるの?」


 俺が止めると、セシリィはビクッと身体を震わせて一瞬驚いた様子を見せていた。その次にはやや非難するような目で俺を見つめると、俺の次の言葉を待っているようだった。


 まだ、知らないもんなぁ……。特に話す必要も機会もないと思ってたことだし。


「駄目なんだよセシリィ。多分、今の俺には意味がない」

「意味がない……? それって、どういうことなの?」


 まだセシリィに話していないことでもあったため、俺は短く簡単に説明することにした。


 俺が殆ど傷を負わない強さを発揮できることの代償とでも言うのか……。この力の使用中の俺の難点であり欠点でもある要素なんだよなぁコレ。


「別にセシリィの法術を頼ってないわけじゃないんだ。毎日欠かさず努力してたのは知ってるし、成果も徐々に出てきてたのは知ってる。――だけど前に少し話したと思うんだけど、この力は否定する力だってことは知ってるだろ?」

「うん。この前話してくれたから知ってる。色んなものを防げる状態だって」

「そう。でさ、今はまだその力を解放したままなんだ。この時の俺は周りから受ける力をなんでも拒絶しちまう。拒絶するものの種類を選べないし、それは俺にとって良いことであってもなんだ」

「え?」


 この否定の力は俺の意思に関係なく無差別に働く。俺が攻撃の際対象を否定しようと力を加えることは任意に行えても、俺が受けるもの全般に関して言えば無意識に全てに作用してしまうのである。まるで防護膜が全身に張られているかのように。

 だから当然、魔法や術式による施し、スキル等の異能も受け付けることができない。その効果は身体の内部にまで及び、例え服薬したとしても回復薬でさえ効果が打ち消される始末だ。

 更に力を加える際についても、どちらかと言えば無理矢理押し付けるような感覚のため制御できていると言えるかは不明な程だ。


 俺がその状態で何故あの化物の攻撃を打ち消しきれなかったかと言えば、単純にそれだけ奴の力が強すぎたからということになる。

 可能な限り奴の力を削いだ上でここまで追い込まれたのだ。この力がなければとうに俺は死んでいただろう。それだけ奴の持つ力が常軌を逸していたということの証明である。


 結局どんな力を持とうが大きすぎる力には勝てないのだ。だからゴリ押しという言葉は存在する。


「それじゃあ、お兄ちゃんは怪我したらどうやって治すの!? それだと治す方法なんてないんじゃ……!」


 一見俺には回復の手立てがないように聞こえたのかもしれないが、力を解けばその問題は解決する。問題なく周りの力を受け付けられるようになるし、素の俺には否定する力は存在しない。

 ただ、この力にもデメリットが際立つ分救済措置みたいな要素があるのだ。ある意味恩恵とも言う。俺が今力を完全に解いていないのもそれが一番の理由になる。


「安心しろって。力を解けばその問題は解決するし、なにもずっと受け付けないってわけじゃない。それでもまだ解いてないのは、その分自然治癒能力が滅茶苦茶高まるからなんだ」

「自然治癒?」

「そう。これでも大分傷は塞がってきてるんだぞ? もう暫く休んでりゃ大部分は完治するからさ、あんま心配要らんて」


 重い雰囲気から解放されたくて苦笑を浮かべなら俺は言った。ついでに手首も落ち着けと言うように軽く振って。


 先程よりも幾分か身体も楽になった。ここに来るまでの移動だけでも痛みが大分引いているし、額から流れる血も実はもう止まっている。血が乾いていないだけで肌に張り付いているだけである。

 流石に折れた骨の部分と身体の内側はまだかなり痛いが……これは他の傷が塞がり次第、後で回復薬を服薬すればいい。多少はマシになるはずだ。

 いくら力を抑えた状態でも飲んだところで効果が打ち消されるのがオチだ。記憶を失って回復薬の製法や入手方法を知らない今、貴重なこれらの無駄遣いはできない。


「じゃあ……もっと傷って酷かったの……?」

「え? あー……そのー? ……ハイ」

「っ……!」


 これで不安は解消されるだろうという思い込みからの、セシリィの予想外の読みに対し動揺してしまった。


「いやでもでも!? 普通に動き回れるくらいには大丈夫だからな!?」

「これだけでも酷いのに……これ以上……?」


 セシリィの青ざめていた顔は非難の声で多少は怒りの色を見せていたが、ここにきてその色が青ざめに戻ってしまったようだ。そこへ絶句までもが追加され、顔は俺に向いているのにその姿がまるで見えていないかのような振る舞いになっていた。俺の苦し紛れの補足もまるで効果はない。


 うわーそう捉えちゃったかー……どうしましょ。

 セシリィのことだから絶対俺以上に俺の傷のことで今心痛めてるよなぁ。『剣聖』さん同様に優しすぎるのが仇になったか……。

 セシリィのこんな表情は俺も見たことないんですけど。……でもあれだな。俺の今の見た目、普通に良い子は見ちゃいけないくらい悲惨だし否定もできんのよなぁ……。


 身体中に走る痛みに意識を向けると、より一層痛みが増すようだった。

 俺が辛いことを自分のように思ってくれているセシリィに愛情を覚えると同時に、罪悪感が心の底から込み上げてくるのが分かる。

 セシリィは他人の痛みが分かる娘なのだ。苦しんでいる人がいれば自分も傷つき、それは俺も対象に入ってしまう。


 こんなこと分かってたはずなのに……頭では理解してたつもりだけどその気になってただけだ。今まで怪我することなんて全くなかったし、することも考えたことがなかったから盲点だったな……。

 セシリィの不安を取り除くために一緒にいたのに、その俺が一番セシリィに不安を与えてどうするんだ。


「ごめんな。俺は自分が思ってる程強くはなかったみたいだ。けどもう平気だから……そんな辛そうにしないでくれよ」


 セシリィに返す言葉が見当たらなかったが、それでも声を掛けずにはいられなかった。その言葉に説得力がないことは重々承知の上で。

 だがこれ以外に俺がセシリィに言える言葉はなかったも同然だ。俺が弱音を吐いたところでより不安にさせるだけである。


 セシリィと親密になれているからこそ、俺は俺の身を自分で守らなくてはならない。

 ある意味この俺の怪我はセシリィの怪我と同等なのかもしれない。それくらいの気持ちでいなくてはこの娘を心配にさせるだけだ。


 俺も自分の力に慢心しすぎていたのは否めない。それをあの化物と戦って心底思い知らされた。

 俺はもっと……もっともっと強くなる必要がある。ならなくちゃいけないんだ。あの化物相手でも苦戦しないように、そうなれるように。

 なにより、これ以上この娘を不安にさせるような真似だけは絶対に……!




 だから俺は――。




「ぅ……!」

「っ!?」


 俺が強くなりたいと……自分を見つめ返して決意を改め、その脳裏でふと言いかけた言葉に疑問を持った時だった。

 横たわっていたロアノーツさんが意識を取り戻した。


※8/16追記

次回更新は木曜予定です。

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