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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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487話 合流

 

 ◇◇◇




「っ! いた――!?」


 東に向けて一直線に向かっていると、いつの間にか先日の地下から這い出た位置にまでやってこれたらしい。上空から隆起した地下への入口が見えた途端近くに四つの人影が確認でき、それが俺の見知った人達であることはすぐに分かった。


「皆……!」

「あ! お兄ちゃ――え……!?」


 急降下して帰還を伝えるために声を張ると、俺の声にいち早くセシリィが気が付いたらしい。

 ただ、横たわっている人影が二つあった時点で嫌な予感はしていたが、それは近づけば近づく程に理解へと直結した。

 皆の傍へと飛び込むように下りると、状況は芳しくない雰囲気に包まれているようであり……空気が重い。


「アスカさんどうしたんですか……!? なんでこんなボロボロに……!」

「フリード君か……! 君こそ、一体何があった……!?」


 予想とは違う出迎えには驚きしかなかった。俺はてっきり万全の状態で皆が待ってくれているものとばかり思っていたからだ。


 別れた時の身なりが嘘のように和装が乱れ、不測の事態に巻き込まれたことを悟っていた。

 傷つき横たわるアスカさんに声を掛けながらすぐに駆け寄ると、同じく俺を心配した様子を見せている。

 ただ、傷は多いようだが致命傷にまでは至っていないのか、アスカさんの表情にはやや余裕が見える。その点には少し安堵できたがそれでも辛いであろうことは聞くまでもなく、俺の真っ先にやるべきことは一つしかなかった。


「ちょっとヘマしました。それより今手当します……! 『ヒーリング』!」


 兎にも角にもまずは傷を治してからだ……!

 超級は無理だがまだ魔力には余力がある。


 短く返答してから魔法を発動し、アスカさんの全身の治癒を行った。

 切り裂かれた服と滲んだ血で分かりづらいが、魔力の浸透具合から着実に傷が塞がり完治へと近づいていくのが感覚で伝わってくる。そして、負っていた傷の深さも。


「……外傷は塞ぎました。まだどこか異常は?」

「僕はもう平気だ。すまない……助かったよ」


 魔法の発動を止めて聞いてみると、アスカさんが上半身を起こして身体の具合を確認し、異常のなくなった旨を俺に告げた。

 体力までは戻らないので万全とは言わないが、重症から脱したことは確かなはずだ。もうこれ以上ここで出来ることはないと思われる。


「それよりも何があったんですか? そっちの倒れてる人は……?」


 アスカさんの心配が要らなくなったのであれば次の問題に取り掛かるまで。

 何故かここにいるはずのない見慣れない人がいるのが気になり、そちらの対応を迫る。


 こちらの方はというと、アスカさんとは比べ物にならない程の重症だ。今にも命の気配が絶たれそうになっている。


「それなんだけど、そっちの人の手当ても頼めないかい? 助けたいんだ……!」

「……アスカさんがそう言うのであれば。すぐ治します……!」


 身体に鞭を打って俺はすぐに行動に出る。人の生き死にが懸かっているのが分かっていて判断を躊躇してはいられない。


 だから何故この人が瀕死であるのか? その理由は敢えて聞かなかった。理由なんて後からいくらでも聞ける。


「『ヒーリング』!」


 同じ要領で魔法を発動し、その間に見て分かる範囲の考えを頭の中でまとめ上げる。


 渋い男性が身に着けた鎧に走る無数の線のような傷。これは恐らく鋭い刃物によってできたものだ。多分アスカさんの刀によるものだろう。背中に回っている青いマントも所々に切り裂かれた跡があるようだ。


 察するにアスカさんはこの人と戦ったと見える。でもそうなるとアスカさんをここまで追い詰めるなんてこの人は一体何者だ……?

 ――それに、この人から感じるこの気配って……。


「――これで傷は塞げたはずです。時間は掛かるでしょうけど体力が回復すれば後はもう心配要らないかと」

「ありがとう。恩に着るよ……!」


 この人の放っている僅かな気配から脳裏に引っかかる点はあったものの、アスカさんの要望通りの治癒を施し終えた。


 アスカさんに比べると魔力の消費量が随分大きかった。これはそれだけ負っている傷に差があったということか……。

 確かに出血量が尋常じゃないもんな。草原に血溜まりを残す程の出血量は後少しでも遅ければそれだけで命を落としていた可能性があるだろうし、なにより周りに緑しかないこの場所で、草の匂いを塗り替えて鉄の匂いがかなり充満してるってのがもうヤバい。


 造血剤でもあれば即座に使うべきところなんだろうけど、俺は医療は魔法以外は専門外だ。んな便利なものの持ち合わせはない。


 さて、いきなり驚かされて焦ったけどこれで目下の取り急ぎの問題は片付いたかね。

 ようやく少し落ち着けそうだ。何があったのか聞かないと……。


「色々聞きたいんですけど……戦闘があったんですか?」

「ああ。そこの彼と地下で少しね……」

「少し……? まぁ細かいことは言いませんけど、随分と派手にやり合ったみたいですね?」

「ハハ……」


 俺の皮肉に目を逸らして軽く笑うアスカさんだったが、これが仕方のないことであるのは分かるので別に咎めるつもりはない。


 ただ、少しどころじゃないだろうに。笑いごとじゃないよ全く。


「でも、なんだって戦闘に? どうしてあの地下にこの人が……?」


 地下の存在を知る人は俺ら以外にはまだいないとアイズさんは言ってたはずだ。仮に侵入しても地下はアイズさんの仕掛けた罠が大量にあるし、部外者が立ち入っても撃退できるようになっている。

 恰好からして軍の人なのは間違いないのだろうけど、一体どうやって地下に……?


「未来を読まれてたんだ。彼は僕らが地下を通って脱出するのが分かってた」

「未来を!? そんなことが!?」


 あまりに飛び抜けた回答が飛び出し、思わず倒れているこの男性を二度見してしまう。


 なんだその最強すぎる能力!? とんでもなさすぎて笑えないんだけど!?


「『未来予知』、というらしい。かなり部分的なものだそうだけど、それで僕らがあの地下を使ってここに出るのが分かっていたらしくてね、それで待ち伏せされたんだ。だから戦闘はどうしても避けられなかった……」


 察するに固有スキルか。アイズさんの能力も飛び抜けていたが、また一人発覚かよ……。

 セルベルティアの軍は超人の集まりか何かなのか? さっきの『英雄』のことといい驚きの連続だ。


「……アスカさん、この人ってまさか……」

「そうだよ。この人がこの軍の総司令官、エルヴィオン・ロアノーツだ」

「やっぱり……」


 聞いておきながらアスカさんが告げる人物の名を、俺も既に思い浮かべていた。

『未来予知』と聞いた瞬間、何故だかその名が真っ先に浮かぶ程度には合致する何かがあったためだ。


 勘の良さなどではなく、それが予知したものであれば勘として言い分を通すこともできなくはない。運が良かったでも通じるだろう。

 彼は勘が鋭いのではなく、起こり得る未来を予知していて動いていたのだ。

 アイズさんの評判振りから自頭の良さやカリスマ性もあるようだが、それが合わされば……後は語るまでもない。


「変だとは思ってたんですよ。大騒ぎしても一向に現れなかったから……。地上の騒ぎに姿を現さないのはこっちの方を察していたからだったのか!」


『未来予知』なんて属性過多のアイズさんにも備わってないぞ……。

 もし対峙したのがアスカさんではなく、生半可な力量の人だったらと考えるとゾッとする。

 間違いなく陽の光は拝めていなかったのは明白だ。


 だけどアスカさんそんな人に勝ったの? これはこれでこの人もとんでもなさすぎるもんだが。

 いや、逆に『未来予知』が使い勝手の良いモノではないことを語っていることの証明にもなるのか?


「恐ろしく強かった……。判断を一歩間違っていれば僕は命を落としていたよ。今もこうして生きているのが不思議なくらいだ……!」


 アスカさんは自分の震える掌を見つめて呟き、その当時を思い返しているようだった。

 身体中の至るところに傷があって意識が逸れがちだが、首から胸部にかけて、更に腹部まで。下手をすれば致命傷寸前の部分も大きく服が裂けている。

 二人がどんな攻防を繰り広げたのかは知らないが、お互いの傷の深さからかなり戦いは拮抗していたはずだ。それだけ命のやり取りが幾つもあったということになる。


「激戦だったのは見て分かります。災難でしたね」

「運が良かったよ。自分の未熟さをただただ実感した限りだ。それに、あんな戦い方もあるってことを知れたのは大きい」


 ……本気で言ってそうで怖いな。これだから武人さんってやつは。

 慢心を知らないから困る。


 勝ったとはいえ、死に直面したのならそこで味わった恐怖がないわけではない。精神的負荷を心配しそうになったが、アスカさんにはその心配は全く要らなそうであった。

 それどころか自分の今後の方向性が定まったように語っており、少し呆れそうになるくらいだった。


「――それよりもだ。フリード君の方こそ何があった? さっき街の方の空が暗くなったり爆発してるのが見えたけど……。それに君の傷の方がよっぽど……目の色だって……」


 俺が溜息混じりに安堵していると、聞きたいことが沢山あるのかアスカさんが一気に口にした。


 皆の不安事がなくなりゃ、次は俺の番になるのは当然か。

 う~む……詳しく話すとなると中々大変なんだよなぁ……。


「面倒な乱入がありまして。兵士達はどうとでもなったんですが、遠征に出てたっていう『英雄』と一戦交えることになっちゃって。この目も傷も、それが原因です」


 セシリィの話通りなら、この否定の力を使っている間は俺の目は金色に変化しているらしい。

 まだ理由があって力の解放を止めてはいなかったのだが、今のアスカさんの言質で極力抑えた状態でも目の変化は恐らく健在であるようだ。


 一応視力が良くなったままだからそんな気はしてましたけども。


「『英雄』だって!? でもまだ帰還は先になるって話じゃ……」

「俺もそう思ってたし、アイズさんもそう予想してたはずです。……でも外れたみたいですわ」


 もし『英雄』が現れてなければ俺がこんな怪我を負う羽目になることもなかっただろう。結果論だがそれまで無傷だったのは事実だ。

 身体を見回すと乱れた衣装にべったりとなまめかしく付着した血の跡が未だ広がりを続けている。まだ水気を含んだ衣装は疲労と重なって重く、元は自分の身体の一部だったとはいえそうではないもののように思える。


 徐々に傷が塞がり始めているとはいっても失った血までは戻せないし、魔力の大量消費も身体の負担に拍車を掛けている。

 絶対今夜は爆睡コース確定だわ。数日は沢山飯食って安静必須だな。


「現れた時にやたらと疲弊して肩で息をしていましたし、急かしてる感じもしたので帰還を急いだんじゃないですか? てかそれくらいしか現状想像もつかないわけですが」

「そう、か……。まさかそっちもそんな事態に見舞われてたなんて……」

「お互い様でしょう? 男二人、ここまでボコボコにされてるんですから。生きてたことをひとまずは喜びましょうよ」

「ああ。そうだね……」


 アスカさんと二人で自分の安否を噛みしめるように目を瞑った。


 本来なら事前の打ち合わせ通り何事もなく作戦を終えられれば良かったけど、全くどうして世の中って上手くいかないように出来てるんですねぇ。

 世界が向けてくる仕打ちが酷くて(ぼか)ぁ自分が可哀想ですよ、シクシク。

 この救えないけど救って欲しい迷える羊はここですよ神様。手を差し伸べてくれるならいつだってウェルカムですとも。どうせならその手を無理矢理掴んで差し上げます。

 ――あ? 世界の意思? テメーは帰れ。ケッ。


「しかし『英雄』って随分ととんでもない強さなんだな……。フリード君相手にここまでやるなんて……」


 大半が自分の身熟さ故の原因を棚に置き、この悲惨振りを世界に責任転嫁していると、アスカさんが険しい顔つきをしながら言った。


「あー……正確には『英雄』は別にそこまで脅威じゃなかったというか……」

「ん? それは……どういうことだい?」

「ちょーっとややこしくなるんで、その話はもう少し腰を据えて話したいので今晩にでも」


 別に隠し立てするつもりはないが、簡単に一言二言でまとめられるようなものじゃない。話すのなら腰を据えて話したいと思い、俺はその話を一旦保留する。


 一見あの化物の存在自体、『英雄』が持っていた隠していた力のように思われてしまっても面倒だしな。というかそう言われた方がしっくりこなくもないって俺自身思っちゃってるくらいだ。

 それなら順を追って説明した方が理解はしやすいはずだし、ぶっちゃけ疲れて今はそんな気になれないのも本音なところだ。俺自身まだまだ情報の整理に追いついてないからな……。

 



「お兄ちゃん……」


 ――と、そこで会話から遠ざかっていたセシリィが俺らの会話に入り込んできたようだ。


 どうやら会話に入り込む機会を窺っていたらしく、俺とアスカさんの会話に切れ目が出来たタイミングを見計らっていたらしい。

 青ざめ、それでいて不安を隠せていないセシリィの表情に俺は心情を察する他ない。直視を避けて横目で見てはいたが、この心配に対して俺は向き合わなければならないようだった。


「……」


 こ、これは……言い訳できないですよねー……アハハ、ハハ……。

 俺自体もだけど、セシリィのそんな顔は見るに耐えねぇんですけど。

 折角吐血止まったのにまた再発しそうやわ……。


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