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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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482話 セルベルティアの英傑⑤

 

 やることは決まった。というか、やれることがそれしかなかったというのが正しい。


 まずは舞台を上に移し、余計な被害拡大を防ぐ。

 隙を突くには骨が折れそうな相手だが――。


「『適応変形』」

「二刀流!? っつ……!」


 自分で考えておきながら呆れたくなる作戦が固まったので、こちらから仕掛けるために視線を戻すと、先手を取る予定が『英雄』に奪われてしまっていたようだ。幻影を映し出すように剣を分裂させると、両手に漆黒の剣を握った『英雄』が二刀の構えを取って突っ込んできていた。

 出鼻を挫く早すぎた動き出しは最早殺戮マシンかと思いたくもなる。おかげでこちらの思考はすぐに攻めの姿勢から守りの姿勢へと余儀なく変更されてしまった。


「っ……なんつー切れ味だっつの……!」

「……」


 これが片手の威力かよ……!? 冗談じゃねぇ。


 一振り目は右手で弾くことができた。しかし二振り目を弾くのは間に合わなかった。辛うじて身体を掠める程度にできたのは正直運が良く、まともに当たっていれば確実に傷を負っていたのは明白だった。


「『羽針』!」


 この至近距離での相対はマズいと咄嗟に判断し、俺は後方に飛んだ。

 追い打ちを防ぐために牽制を加えるのは忘れず、両手の指に挟みこんだ『羽針』を一斉に放って足止めすると、『英雄』が腰を落として迎撃する。


「『螺旋』」

「ちっ! やっぱ【剣術】スキルは持ってんのか!」


 俺が地面に足を付けて体勢を整えると、同時に回転して放った剣技が『羽針』をまとめて叩き落し、針としての力を失った羽が地面に散らばる光景が飛び込んできた。

 見たことのない技や力を駆使してきていたため半信半疑になりつつあったが、どうやら純粋な【剣術】スキルは身に着けているようだ。二刀の構えも見せてきた以上、多分【二刀流】スキルも扱えるのだろう。

 スキルが豊富なのは厄介だ。単純に技の引き出しが多いことになるし、その分こちらが逐一その対応に追われる羽目になる。思わぬ反撃を食らう可能性も高まることになるはずだ。


「……これじゃ素手でももう無理か……」


 だがそれだけならまだしも……ったく、どんな性能してんだあの剣は。いや、あの波動の方か? 

 元々纏っていた神気を更に波動で増強してやがんのか。威力そのままに攻撃頻度も倍とかズルすぎんだろ……!


 剣を弾いてみせた右手により一層強く痛みが走る。意識すると手が焼けそうに熱いのが分かる。

 浅くではあるが更に傷口が増えており、血が手の甲から指にかけて広がり滲んでいる始末だ。指を擦ると若干ぬめって気持ち悪く、違和感を酷く感じてしまう。


 素手での対応策はもう使えない。『英雄』の攻撃は集中して発動した『鉄身硬』でようやく弾けるような切れ味だ。仮に一太刀目は防げても追撃はとても防ぎきれない。

 今の、好き放題攻撃されてしまっている状態では防戦一方になるばかりである。


「上手く使えるか分からんけど――!」


 多少小ぶりにはなるが――仕方ない。

 慣れない得物だが魔法も使えない今じゃこれしかまともな武器がない。

 集中しろ――!


「『翼剣(ウィングブレード)』!」


 生み出した『羽針』を右手に集中して纏わりつかせ、決して折れぬ頑丈さと鋭さをイメージして手の先へと引き延ばす。

 根本を手首で強く固着して刃状に伸びる薄い一刀を形成させると、淡い黄緑色の輝きを放った刀身が俺の姿を反射して映し出した。


「っ……オラァッ!」

「……」


 片手で『羽針』を放ちながら『英雄』に接近し、足の止まったところに向かって右腕を叩きつける要領で俺は振り下ろす。

 やることはさっきまでと大して変わらない。手刀のリーチが伸びたようなものだ。


 よし! これなら弾ける! 

 ここはこのまま押しきる!


「お返しだ。『剛翼衝波』!」

「……!」


 俺の渾身の一振りは『英雄』の二刀によって防がれてしまった。ただ、『英雄』も身体を震わせていたので力は五分五分ではあるようだ。

 この二刀を無理矢理抉じ開けるためにゴリ押しで衝撃波を至近距離から風の刃にして浴びせると、斬裂音と共に『英雄』の身体があちこち裂けながら吹き飛んでいく。


 やはり剣には剣ということだろうかね? 気兼ねなく攻撃できて防御もできるのは気持ち的にも楽だ。

 この状態なら【剣術】スキルも使えて応用が利くし、この力と【体術】も組み込んで戦える。

 防戦一方なだけになることはこれで防げるな。


「このまま――っ!?」

「『空時雨』」


 この勢いに乗って前へと出ようとしたものの、待ったをかけるように身体が止まった。

『英雄』もただ吹き飛ばされるだけに終わるようなことはなかったらしい。体勢は整うとまではいかなくとも、俺と同じく空中で牽制を仕掛けてきたのである。

 周囲に漂わせた波動を小分けにして俺に剣を差し向けると、黒い小さな球が今にもこちらに射出されそうに浮かび上がっていた。


「させるか! 『衝破弾』!」


 当然だが素直にその反撃を許すわけにはいかない。ならばその反撃を挫いてやろうと、俺も反撃の邪魔を試みる。

 空いた左手を瞬時に突き出し、拳圧を『英雄』の剣の切先に向けて俺は放った。


 速射するなら『羽針』よりも断然こちらの方が速い。

 その挙動と切先の剥く先が技の発動と方向の指定になっているなら無理矢理逸らしちまえばいい。

 それで僅かに稼いだ時間の間に俺が突っ込む。それが出来れば上出来だ。


 だが――。


「『亜空開門』」

「っ!? なんだよそりゃ……!?」


 僅かな時間を稼ぐこと……それさえも難しい。

 思い通りの展開へ運ぶことができず、尽く一から考え直す羽目になるのが嫌になる。


『英雄』がポツリと呟くと、俺の『衝破弾』が空間にできた亀裂の隙間へと吸い込まれ……消えていった。

 亀裂はその後何事もなかったかのように跡形もなく閉じて元の空間に戻ると、待機させていた黒球が遠慮なく反撃を開始した。


 くそっ! 驚く隙も与えてくれないな……!


「『千薙』!」


 黒い尾を引いてこちらに伸びる無数の黒球が、まるでこちらを射抜く矢のように見えた。

 軽く俺の身体全体を覆う規模の範囲、そして数だ。数えるのも馬鹿らしい。

 物量には同じく物量にものを言わせ、俺も相応の手段で全てを落としにかかるため右手を振るう。


 ただの『千薙』じゃ火力で劣っていただろう。だが、今はこの力がある。

 斬撃をベースに『羽針』一緒に放てば一気に火力は跳ね上がる!


 針と矢の大軍が衝突してせめぎ合い、双方無残にも共倒れになって霧散していく。

 そして残った本陣の俺らもまた、後を追うようにぶつかり合った。


「『レイディアントブレード』」

「次から次へと……!」


『英雄』が二刀を一刀へと戻し、両手で振り回すように大きく剣を薙ぐ。

 剣筋をなぞって黒き巨大な一閃が夥しい波動を振りまきながら襲い掛かり、併せて放つ強烈な黒い輝きが陽光みたくこちらの目を突き刺した。

 暗いはずなのに眩しさを覚えさせる光景は、不吉、或いは不安の形の顕れを連想させる。


 なにがレイディアントだ。そんな神聖さ要素皆無じゃねぇか!

 これを街の方に飛ばさせるわけにはいかない! 

 ホンット容赦ねぇなコイツ!


「『無靱空閃』!」


 これまでの『英雄』の攻撃の中でも、群を抜いた格の違いを俺は感じた。

 それは絶対にこの攻撃を通してはならないという確信。躱せばこの黒い斬撃は闇と共にこの街の大部分を呑み込むだろうという、直感めいたビジョン故のものだ。

 躊躇なく俺も【剣術】最上位の技を繰り出す。出し惜しみはしていられなかった。


 巨大な斬撃同士がぶつかると、俺の斬撃を黒い斬撃は呑み込もうと闇を浸食させてくる。対するこちらの斬撃は浸食などお構いなしに斬撃に深く抉り込み、そのまま押し通ると言わんばかりにひたすらに突き進む。

 先に喰われるか先に突き破るか。どちらの方が早いかで勝敗が分かれると察せられる光景である。


 しかし、その結果は別の形で収束した。

 お互いに力を貪り尽くされ、また削り尽くされたのだろう。斬撃が形を崩して勢いを失くすと、融合してそのまま無に帰したのだ。


「『無靱空閃』でようやく相殺かよ!? さっきからこんなもん躊躇なくぶっ放してきやがって……!」


『英雄』が繰り出す技の威力には恐れ半分呆れ半分もいいところだった。この威力の技を湯水のように使える無尽蔵さ。疲れを感じ始めた俺とは違い、疲労を未だに見せない様子から持久戦に持ち込んだとしたらかなり分が悪い。

 俺のこの力もまだ余力があるとはいえ、着実に残量がゼロに近づいているのは間違いないのだ。まだこんな場所で大量消費するわけにはいかないという懸念もある。


「……?」

「『適応変形』」


 と、ここで『英雄』がこれまでとはまた違った構えを取っているのに俺は気が付いた。そして一刀を二刀に分裂させて戻すのかと思いきや、元の一刀をそのまま削って細長い形状へと変化させたのだ。


 あの形状は――。


「『レインソード』」

「おわっ!?」


 その形状に見覚えがあって思い出そうとした時だった。俺へ思考させることも許さない勢いで『英雄』がすぐ目の前に瞬間移動してくる。


 ヤベ油断した……!? そういやコイツ『縮地』使えるんだった!?


 驚きの連続で俺は『縮地』のことにすら頭が回っていなかったらしい。反射的に身体が動いていなかったら今頃身体に風穴が空いていたことだろう。

 そんな俺へと『英雄』は腰を据えた万全の状態で、何度も突きの嵐を繰り出した。


 この剣技……次はレイピアか!

 それにしてもなんなんだこの速さは!? 【二刀流】以上の速さだと!?


「くっ!?」


 その一突きはあまりにも早く、残像と実像の区別がつかなくなりそうだ。繰り返し行われ瞬きする間すら与えてくれない。


 攻撃速度に特化しやがったのか!? 俺に合わせて攻撃手段を変えてきてやがる!


 『英雄』の多彩な戦闘方法を羨むと同時に、今の状態が芳しくないことに悪態をつきたい気持ちで一杯になる。


 基本は右手の『翼剣』で軌道の大部分を逸らしつつ、身体の軸を中心にした捻りと身躱しで突きを躱す。それでも対処しきれない分に関しては『鉄身硬』で固めた左手で後始末を行い、とにかく全身をフルに使って対処を試みる。

 身体と思考が全力で稼働し、少しでも噛み合わなくなってしまえば即座に絡まってしまいそうだ。そうなってしまえば即蜂の巣になってしまう未来が視えた。


「ガ゛ッ!? ヤベッ!?」

「『適応変形』。『ダブルスラッシュ』」


 そして――その未来は半分当たっていた。


 どうにかかすり傷で抑え続けていた俺であるが、一発だけ突きが肩を直撃して大きく抉られた。そこで俺が脚をもつれさせ、身体を不自然に傾かせた瞬間を『英雄』は見逃さなかったのだ。

 長ったらしい突きの嵐を即座に中断すると、再び二刀流の構えが俺の視界に飛び込んだ。


 ここで【二刀流】スキル……!? 

 狙いは俺の体勢を崩すことか――!?


『英雄』の考えに気が付いた時にはもう、既に遅かった。


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