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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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479話 セルベルティアの英傑②

大変更新遅くなり申し訳ありませんでした。

作者はなんとか生きてます。けどパソコンは死にました。

 

 神気――それは洗練され、高密度に凝縮された魔力が見せる別の姿。

 原初の力とも呼ばれた余りにも強大な力は扱う事すら危うく、古来の人々は神気の上澄みのみを利用して様々な超現象を操ったとされている。


 ――それが術式であり、魔法だ。




「オォオオオオオ――!」

「……」


 自身の力の高まりに身体が打ち震えているのか、『英雄』が唸るような声を出した。俺はその身に覚えのある様相をただジッと見つめ、同時にふと思い出した情報の理解に追われていた。


「僕がこの状態になっても動揺の一つも見せないのか……! この力について何か知っているのか?」

「……殆どな。こんなタイミングで思い出すとは思わなかったよ」


『英雄』の問いかけに返しつつ、内心では自分の厄介な記憶喪失に対して舌打ちする。

 アイズさんと話した時、こんな神気なんて存在のことは頭の中によぎりもしなかったし思い出せもしなかった。でも神気を目の当たりにして自然に思い出せたらしく、その行き当たりばったりな事実がどうにも面倒に思えて仕方なかったのだ。


 急に思い出すってのはまだいい。でもさ、こんなことまで俺は知ってんのかよ……。

 いよいよオルディス達が関わってきた理由に近づいてきた気がしてくるってもんだわな。分かっていたとはいえこりゃそういう規模の話だわ。


「『神速』!」

「っ!?」


 雑念に気が削がれたために対応が僅かに遅れた。気づけば『英雄』が姿勢を僅かに崩したその瞬間、俺のすぐ目の前まで迫ってきていた。


 ちっ! 当たり前のように『縮地』を使ってくるかよ……!


 俺は薙ぐように振られる剣を身を翻して躱すも、勢いをつけた『英雄』の攻撃は止まらない。『縮地』を織り交ぜた死角を突く怒涛の連撃に見舞われ、忙しなく身体と大剣捌きを駆使して防戦する。


「ふんっ! せいっ!」

「っ……なんなんだこの馬鹿力は……!」


『英雄』が剣を振り回すと、その度に大きく風が衝撃波をついで起こすように唸った。こちらが大剣で受け止める手にも骨が軋むように重みがのしかかるのが分かる。

 しかし、一つ一つの動作は拙い印象だ。動きも単調でいやらしい搦め手もなく、次に何をしようとするのかはすぐに分かる。視線も分かりやすいくらいに次に攻撃したい部分を見てくるので見切りやすいにも程があると言える程度だ。

 多分、これはまだ怒りで思考が単純化しているせいだと思われる。開幕はこんな太刀筋じゃなかったし、キレもあった。


 相手が冷静さに少し欠けてるのが幸いしてるか。そうじゃなかったらちょっと面倒だったかもしれない。


「ハァアアアッ!」

「うわ……これは無防備で当たったらとんでもないな……!」


 ――こんな、一撃の重さが最初とは雲泥の差だったらなぁ……。


『英雄』の振りかぶりを後方に大きく下がって回避すると、地面に叩きつけられた刀身が地中深くまで抉り……大きく断裂していた。まるで地割れのように。

 断裂部を左右に掻き分けるように走っていく衝撃波は突風へと変わり、周囲に展開している兵達はその場に立つ姿勢を保つのがやっとな程だった。たった一撃がそれ程までに強烈な威力へと変化を遂げていたようだ。


 躱して正解だった。一々こんなのまともに受けられる人は早々いないぞ……。流石に神気を纏っているだけはあるか。

 ヒョロガリを装った重戦士か何かかな? 舐めてかかったら即病院行きだわ。いやあの世行か。


「クソッ! ちょこまかと……!」

「ハァ……その台詞そのまま返させてもらおうか」


『縮地』を使って俺に有効打がなかったことがどうやら癪だったようだ。『英雄』が苛立つ様子を見せていたが、その発言が人のことを全く言えない内容のため空笑いが出てしまう。


 しかし『縮地』が使えるとなるとちょい面倒だな。アレって『転移』レベルで反則級なんだもんなぁ……。


 世の中には移動手段が数多く存在するが、『転移』や『転送』のように魔力を使った空間移動以外でもそれに近い効果を発揮できるものがある。――それが『縮地』である。

 高速移動であって最早そうではない……。呼び名こそそれぞれ違うが、共通点として魔力を使わずに自前の身体能力のみで発揮するものを漠然とそう呼んでいる。

 その殆どが超限定的かつ一瞬の身体能力の爆発的な上昇による肉体の酷使によって成り立ち、かなりの高等な技術であることから扱えること自体が極めて稀である。


「これならどうだ!」

「っ!?」


 うへぇ!? はっえーなオイ!?


 四方八方から繰り出される剣戟を弾き返していると、『英雄』が再度俺に接近を迫った。『縮地』を使ってこちらの死角を突くだけの動きだった『英雄』であるが、今度は一度の接敵に複数回『縮地』を使っているらしく、分身したかのように姿が周囲に分散していると勘違いする程であった。危うく首を刎ねられていた剣の軌道を目で追いながら内心肝を冷やした。


 流石に視認だけでは対処が厳しくなりつつあった。俺も先日からできるようになった気配察知を使い、『英雄』の無茶な動きに対処することに決める。


「よし! このまま――なっ!?」

「さっきから暴れすぎだぞ少年……!」


 手応えを感じた『英雄』が一瞬だけ表情に喜びを見せたのが見えたがそうはさせない。

 感覚を全開にしてこちらもギアを一段階上げて順応し、『英雄』の行動の上を行く早さを見せつけてやると、早くもこちらの攻勢へと逆転する。


 こんな無茶な『縮地』の使い方をされたら対策は限られてくるしやむを得ない。ルゥリアには悪いけどこっちもせめて気配察知だけでもフルに使わせてもらわんと流石にキツイ。

 世界に気付かれるだか知らんが、ここで俺が死ぬ方がよっぽどマズイだろ? てかマズいと言ってくださいこのままじゃ死んでしまいます。

 こんなとこでこんな格好して死ぬとか絶対に嫌だから! しかも多分前代未聞の事件として後世に語り継がれちゃうやつだから尚更嫌や!


「嘘だろ……まだ追いつけないのか!?」

「神気有りとはいえよくこんな無茶ができるもんだなオイ……! 相当疲れるだろうにそれ……!」


『英雄』が驚きつつ応戦してくる一方で、今まで眼のみで追っていた『英雄』に苦労していたはずが、俺は気配を掴むだけで一段と楽になり余裕さも感じれる程になっていた。

 一から姿を探し直すのと、いると分かっている方向を確認するのとでは苦労さがまるで違う。思考一つの切り替えがなくなるだけでも大きく、確認の作業の工程が一部省かれているのだから当然である。


 手心を加えながら大剣と体術の組み合わせで『英雄』を翻弄し、着実に一手を王手へと近づけていく。

 徐々に受け身の姿勢が崩れていく様子から陥落も時間の問題だ。ここからは『英雄』があとどれだけ俺の攻撃から粘れるかどうかである。


 例えこっちのカードの切り出しが後出しになってもまだ俺の方が速い。最早見てからでも十分対処可能だし余裕さが違いすぎる。

 この程度じゃまだまだ俺は殺されてやらねーよ。


 ――その時だった。


「『英雄』様に更なる力を捧げろ!」

「「「ウォオオオオオオオ――!」」」

「祈りこそ我らが『英雄』の力! そして糧となるのだ! 我らの忠義を示すならばここである! 全員声を張り上げよっ!」


 吹き荒れる突風にも負けずに聞こえてくる外野の声援が増し、煩わしいと思った時だった。相対していた『英雄』の元に再び何かの力が伸びていくように入り込んでいき、元々秘められていた力の大きさを増していく気配を俺は感じ取った。

 これは恐らくは神気を纏い、また保つための力だろう。やはりこの沸き立った感情こそが源になっているようだ。


「っ……!」


 一度離れた方がいい気がするな……様子見も含めて。


『英雄』との距離を詰めて後は攻めるのみであったが、危機感というか嫌な気配を覚えて一時後退する。

 大剣を構えたまま姿勢は低く保ち、一瞬たりとも気配察知は抑えない。『英雄』を視界に捉えたまま油断をできる限り取り除いたはいいが、『英雄』が発する異常なまでの魔力濃度の高さにいつもとは五感が狂わされるような感覚も感じていた。


「皆……! うん、ありがとう! 僕はまだまだ強くなれる……まだ、戦える――!」


『英雄』に纏わりついていた神気が一度消えるように剥がれ、即座に新たな神気が纏い直される。今度は更に強力な力を宿しているのか『英雄』の身体から稲妻のように小さな光の筋が瞬いており、今にも暴発しそうになっていた。


 神気の強さは単純に考えて戦闘力の高さに直結する。これは……なんか触れた瞬間にこっちがバニッシュしそうな感じになってますねぇ……ヒェ……。

 本気じゃなかったのはそっちもだったってか? 湯水の如く力を得られるとか冗談にも程がある。

 歓声と応援でここまで強くなられたらたまったもんじゃねーわ。まだこの規模だからいいものの、これコロシアムとかの大勢がいる中とかでだったらどれだけ手が付けられなくなるんかね? まぁそれ以前に持ち前の身体のポテンシャルがないと確実に自壊してそうな気もするけど。


 アスカさんの強さも大概だったが『英雄』は別の意味で大概だ。こうなると多分比べるような次元の話じゃなくなってくるというものである。


「ハァアアアアッ! 『聖光剣』!」


 っ!? アレはマズい――!?


 最早力の塊である『英雄』が一瞬だけ剣を両手に構えて集中すると、剣先から光の粒子が現れてその刀身を引き延ばしていった。

 出来上がった光の刀身は眩く美しい。元々の造形もさることながら聖剣と言っても差し支えなく思える程であり、身を迸らせながら神気を帯び、触れる者全てを拒絶する力が悲しくも俺へと向けられた。


「っ!?」

「甘ぇ!」


 それを見た瞬間、俺は姿勢を低くさせて『英雄』の懐まで最速で潜り込んだ。そして『英雄』の反応も許さぬままに足払いで『英雄』の両脚を一気に横から掻っ攫い、身体の自由を奪った。

 放置すればとんでもない一撃が繰り出されるのが目に見えていたからだ。となれば繰り出される前に潰そうと身体が動いていた。


 だが――。


「――まだまだぁっ!」

「なっ!?」


 足払いで『英雄』の動きそのものを封じようと試み、それは成功したかと思われた。しかし『英雄』の予想以上の対応力には思わず驚きの声が出そうになってしまった。


 綺麗に決まった足払いに肩から地面に落ちそうになった『英雄』だが、咄嗟に受け身で片手を地面に付いた瞬間、その姿が搔き消えたのだ。気がついた時には背後に回り込み、引いた腕がこちらへ振られようとしていた。


「取った――!」

「『斬破』……っ!」


 気配を全開にしていて助かった。じゃなかったら一撃食らってたな今……!


 猶予はあまりなかった。振り向きざまに『斬破』を発動させて『英雄』の剣にぶつけると、眼前で視界を塞ぐ爆発が巻き起こって身体が宙に浮いたのが分かった。全身に満遍なく走った衝撃が身体を襲い、足に感覚を感じた時には蹈鞴を踏んでようやくその勢いが止まる程であった。俺の一撃だけでなく『英雄』の一撃も相当なものであったのは明白だ。


 少々傷む身体に不快さを感じつつ、吹き飛んできた前方の煙に目を向ける。すると視界の晴れた中に俺と似たような態勢のシルエットが浮かび上がり、咳き込んでいるのが聞こえてくる。


「ゲホッ! ゲホッ! ――流石に【剣術】スキル持ちだったか。なんて威力だ……!」


 キッと俺を睨む目は険しく、神気も相まって殺意が増して感じられるようだった。

『英雄』も俺同様に大した怪我はないようだ。さっきまでの神気程度であればまともな怪我の一つでもしていたのだろうが、やはり先程と今とでは神気の質が段違いになっているらしい。

 神気によって生身の防御能力も当然上昇していることもあるが、神気自体が強固な鎧の役目も果たすのだから厄介この上ない。


「あの体勢からでも『縮地』ができるのには驚いたよ……! こりゃ末恐ろしい……」

「くっ……なんでだ……! これでもまだ、力が足りないって言うのか……!?」


『英雄』が理解できないことに直面したかのような声を上げ、驚愕を露わにしていた。


 まぁ驚きたいのはこっちもなんですがね……。なんなんだこの傑物は。

 時間さえ稼いでトンズラすればいいと思ってたがそういうわけにもいかなくなっちゃったし……コイツはここでなんとかしておかないと必ず俺を追って来るだろう。

 ここまで強いと俺も下手に加減ができないから難しいぞ。最悪動けなくなるまで痛めつける必要も出てくるかもしれないから参ったな……。好き好んで人なんて痛めつけたくないっての。


『英雄』の持つ力がまだまだ未知数なことには変わりない。力の受け入れに際限がなければ俺の手に負えなくなる可能性も生まれてくるし、ここからの判断は重要になってきそうだ。

 特に必要以上に手を上げる懸念に対し、危機感とは別に俺は嫌な感情が芽生え、憂鬱になりそうだった。


※5/14追記

次回更新は火曜日です。

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