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神鳥使いと呼ばれた男  作者: TUN
第七章 悠久の想い ~忘れられた者への鎮魂歌~
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478話 セルベルティアの英傑①

遅くなってすみません。

 

 ◇◇◇




「ハァアアアアッ!」

「っ……!」


 さっきまでと違って完全に余裕ではいられない、か……! 

 この華奢な身体でこの馬鹿力とか一体どうなってんだっつーの。


 まだ幼い風貌を残した彼……少年と何度か剣戟を繰り広げ、数撃目でまたお互いに剣を押し付けて睨み合う。

 少年の足元は踏み込んだ足が庭の土を盛り返しており、半分程は陥没していた。その深さから相当な力で踏み込んできていることが分かるように、対抗する俺も似たような状態になりつつあった。両手を使って押し返す大剣を握る指先に血が少し溜まっていくのが分かる。


「えっと……君? 貴方?」

「どっちでもいいのでは?」


 俺が顔を覆い隠しているせいか、声で女性だという可能性はなくなったのだろう。力比べの最中で若者が俺の呼称について突然聞いてきた。

 正直この場においては正体を晒す気はさらさらないので非常にどうでもいい質問だった。そのため曖昧なままにしておくことにして俺も適当に返しておく。


「……まぁいいや。それより、一体ここで何をしているんだ? 何の目的があってここに来たんだ!」


 元々穏やかとは言い難い表情をしていた少年の顔が、ここでスイッチが入ったかの如く厳しくこわばり、眉間に皺が若干震えるように寄っていた。

 激しいとまではいかないが俺に対して怒りの感情が突き刺さってくるようであり、言葉による説得などまるで効果がないように思える程だ。あまり怒るような印象を受けない顔立ちをしていることもあるのか、雰囲気の変わりようが大きく感じた。


 なんにせよこの少年が誰なのか知らんけど軍の関係者っぽいのは確かだろう。

 もっと俺の印象を植え付けるためにもここいらで外道な悪役を演じるには丁度良いか。失礼だけど非常に相手としては好都合だ。


「ここには生贄を捕まえに来ただけさ。丁度おたくが匿ってた(・・・・)人物に適任の人材がいましてね。利用させてもらったまでです」

「生贄!? まさか……人の命を使って何かをしようとしてたのか……!?」


 声色はこれまでの演技をそのままに、思考回路はできるだけアイズさんを意識して少年へと俺は伝えた。

 不気味がってくれるなら儲けもの程度に考えていたものの、俺の予想とは違って少年は早くも察したのかみるみるうちに俺の眼前で表情を変えていく。

 今の状態をエスカレートさせる形で。


 ……これはこれでアリか? ヘイトを集めるってんなら間違ってはないし……。

 考えてみりゃ怒っているなら無理に不気味がらせる必要もないわ。そのままもっと怒らせる方向で行った方が楽じゃん。うん、そうしよう。


「ええ、彼女は実に最高の素体だった。今頃は天寿を全う出来て良かったと、あの世で喜んでいることでしょう」


 俺は少年から視線を外して天を仰ぎ、今はもういないその彼女を見るような態度で呟いてみた。

 さも当然のように人を犠牲にしておきながら罪悪感も感じていない。只のキチガイを演じてみたのである。

 すると――。


「っ……お前……!」


 ……チョロイな。いや、若さゆえにか? 俺が言うのも変だけど。

 俺の呼び方は『お前』ですか、そうですか。結構良い感じにヘイトが高まっているようでなによりです。どうかずっとそのままの君でいてくだされ。


 俺の口振りで誰が犠牲になったのか……この人がそれを知っているのか知らないのかは分からない。しかし、人が犠牲になったという点に過敏に反応したらしい。条件反射のように高まる敵対心が俺にも伝わってくる。


 ただ、思いのほか敵対心だけでビリビリと圧を感じるのは意外だった。近距離ということもあるのかもしれないが、やはりそれだけこの少年が持つ力が大きいことを示してもいるようで、これまでにない力を持った人物であることを確かにさせている。


「っ……! 人の、命を……! なんだと思っているんだっ!」

「おっと?」


 ここで、少年が早すぎる激昂を見せた。その瞬間大剣への負荷も一瞬強まって変化を見せるも、まだまだ耐えるには問題ない。態勢を崩さぬよう対応し、俺も力を上げるだけである。

 俺らの足元の地面だけ大きく抉れていき、遂には地割れが起き始める始末だ。それでも高まる負荷は増していくばかりだった。


 まだ力が上がるのか……。ガチの化物かこの人。

 しかし俺の言葉だけでここまで反応するなんて随分と直情的な人なようで……。良く言えば素直。悪く言えば単純な人みたいだ。

 こういうのを純粋って言うのかね? 普段は御しやすそうな分、何かの拍子にタガが外れると制御が効かなくなるタイプっていうか……。


「――ただの道具。それ以外に何があるというのだね?」


 今はその性分に感謝だな。お蔭で事が簡単に進む。


 俺のその返しが決め手となったのだろう。少年がもう後には引けなくなったようだ。


「人の命は道具にされていいものなんかじゃない! 少なくても、お前みたいな得体の知れない奴の犠牲にされる道理なんてない! 人の命は皆平等だっ!」

「……」


 ……へぇ?


 少年の激怒に俺の身体は打たれた……が、心は全く打たれなかった。

 今更すぎるうえに、そんな当たり前のことを説教のように語られても困るだけである。


 大体何様だってのかね……お宅ら……!

 軍だって天使を使って馬鹿馬鹿しいことしようとしてただろうが!

 まぁアンタは知らないだけなのかもしれないけど、そのとち狂った発想への怒りは俺にじゃなく身内に向けて欲しいもんだ。


 最初、セシリィが磔にされていた光景が脳裏をよぎる。初めての記憶がいきなりあんな衝撃的だった分、どうしても鮮明に思い返せてしまう。


「……そうかい。なら精々守ってあげることだ……! ここにいる兵士達の中にも程々に良い輝きを放つ者がいるようだしな?」


 不覚にも俺もこの少年の言葉がきっかけで、世界に対して怒りを覚える羽目になってしまった。軍関係者が相手というのも原因にあったのかもしれない。


「なっ!? ここにいる人達に手は出させないっ!」

「ハッ……。遅れてきて間に合わなかった人如きに果たして守れんですか? 口先じゃなくそれを実際に示してもらっていいか?」

「くっ……!? うぷっ!?」


 向こうからの一方的な圧に対し、俺もいつの間にか仕返しをしてしまったらしい。少年の剣を押し返して仰け反らせ、バランスを崩したところに蹴りを腹部に叩き込むと、後ろへと追いやっていたようだ。


 隙だらけにも程がある。


「俺にはお前らの語るものなんて興味がない。耳を傾けたところで意味もないし、残酷なだけだ」


 聞いているのかは知らないが、少年に向かって意図せずに煽りと一緒にストレスを吐き出してしまう。

 ここら辺の会話に関しては俺の私怨が入っていたのは否めない。しかし、ごく限られた人にしか言えない話を抱え過ぎて俺もストレスは溜まっていたのかもしれない。この時は崩壊とまではいかないが抑えが利かなかった。


「『英雄』様! 「っ!?」お怪我はありませんか!?」

「う、うん。平気だから安心して……!」


 腹を抑えてしゃがむ少年に、恰好から部隊長と思しき一人が駆け寄り、そう言ったのが聞こえてきた。その瞬間から少年の顔に俺は目を離せなくなる。

 見る目を変えたというのが正しいかもしれない。少し頭に昇っていた血が急に、一気に引いていくようだった。


 コイツがあの話に聞いてた『英雄』!? 


「あ、アイツは一体何者なの?」

「分かりません。急に現れ、急に騒ぎを起こし始めましたので。贄がどうのと喋ってはいましたが、どれも要領を得ないところです」

「そっか……! 僕らに仇名す頭のおかしい奴ってことだね。了解」


 部隊長と少年の会話を聞きながら、正直驚いていた。何故ならこんなに若いとは思ってもいなかったから。少なくてもまだ大人と呼べないいで立ちで振る舞う彼が、最も警戒すべき相手の一人であるとは思いもしていなかった。


 こんなに若いのか……俺はもう少し、最低でも俺くらいなものかと思ってたんだが……。

 なんにせよ成程な……それであの馬鹿力とこの強さってわけだ。納得した。あと頭のおかしい奴ってのは心外だな。


「っ……」

「『英雄』様?」


 ん?


「アイツは僕がどうにかするよ。多分、皆じゃ相手にならないだろうから」

「……情けないですが、そうですね……!」


『英雄』がゆっくりと立ち上がりながら、傍らの部隊長へと告げる。

 一見戦力外通告に等しい無慈悲な言葉に兵士は言葉が出そうになっていたが、実際事実だったのか頷くだけだったようだ。その顔は苦汁に塗れていた。


 ここにいるのは精鋭だったけ。ならプライドもさぞ高いだろう。

 俺がなぎ倒した人達も皆自身満々だったし、そういう人達の集まりなんだろうな。

 けどもう少し慰めある言い方できないもんかね? 嘘ついたところでしょうがないかもしれんけども。


「だけど、今のを見て分かったと思うけど……僕一人じゃ多分アイツに勝つのは難しい」

「……」


 へぇ? 今の蹴りで少し冷静になったのか? ちゃんと判断できてるじゃないか。

 それと、部隊長の人絶望したような顔になっとるぞ。あ、俺終わったわ的な感じで。


「それでも一人では駄目でも、皆の力があればきっと勝てる。アイツを倒すために、皆の力を貸して欲しいんだ。これ以上アイツの好きにさせないためにも、僕と一緒に戦ってくれない?」

「っ! 当然です! 邪悪なる奴めの好きにさせたくない気持ちは我らも同じです! 奴を屠るためならば、我らの力も是非お使いください!」

「ありがとう! 急にこんなこと言ってゴメン。必ず勝つよ……!」

「頼みます『英雄』様!」


 部隊長がいきなり顔をシャキッとさせ、元々あった活力を取り戻す。その様は希望ある人が見せるような気力に溢れ、前向きな気持ちを感じさせるものであった。


 何か策でもあるんだろうか? 流れ変わったな……。


「全員聞こえたかぁ! これより『英雄』様が奴と一戦交える!」

「「「っ!?」」」


 部隊長が人の声量とは思えない大声で叫び、中庭をその声を轟かせる。そのあまりの大声に静観していた他の兵達が一斉に部隊長に向けられ、時が止まった。俺も同様である。


「微力ながら我らの力も使ってくださるそうだ! 一丸となって奴を屠るぞ! そのためにはこの場の全員の意思を一つにせねばならん! ――命令だ! 全員『英雄』様の勝利を信じよ!」

「「「ハッ!」」」


 部隊長が言葉を進めるうちに周りの兵士達の士気が変わっていき、皆一様に変化を遂げ始める。


「奴にどうか無慈悲な鉄槌を!」

「我らが『英雄』殿に栄光あれ!」

「お願いします! 勝ってください『英雄』様!」


『英雄』を崇め、勝利を願い、鼓舞する声がそこらから歓声という形で送られ始めたのである。

 波紋はすぐに広がり、部隊長の轟よりもやかましい騒ぎは耳を塞ぎたくなる程だ。この巻き起こった声援の嵐は全て俺の否定そのもの。聞いていていい気はしない。


「……?」


 そこからだった。辺りの空気や気配が少し変わった気がしたのは。

 辺りの気配に集中してみると、兵士達から『英雄』に向かって何かが流れ込んでいるようだった。一人一人からは大した量ではないようだが、数が数だ。尋常ではない量の何かが『英雄』へと入り込んでいく。


「――これで終わりだ。覚悟してもらうよ」

「まさか全員から力でも分けてもらったのか? とんだチート能力だな……!」


『英雄』が剣を振りかざし、切先を俺へと向けてそう言った。

 全身から迸る魔力の質が変わり、『英雄』の身体からは白い靄がかかったように濃密かつ淀みのない力が纏わりついているようだ。恐らく、触れるだけで常人なら卒倒するだろう。


「あれは神気か……」


 俺はその姿に何故か見覚えがあった。これは魔力じゃなく神気だと。


※4/2追記

PC壊れてゴタゴタしてました。

次回更新はもう少しお待ちくだされ。


※4/18追記

次回更新は火曜日です。

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